ダイヤモンドを駆け抜けて   作:かりんと。

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夢の始まり⑤ 因縁

「--まぁ…そういう訳なんだ」

 

パンジーズとの練習試合の際に、監督が父さんの存在に気付いた。 他のメンバーも会話することが出来るので恐らくあの野球仙人の仕業だろう。 誰だっていきなりボールが話し始めたらそれはもう驚くことだろう。 現に監督は今までに見た事がないような驚きを見せてくれた。

 

「成程ね。和弥はお父さんの命を懸けて頑張っていたのか。通りで伸びるのが早い訳だ」

「まぁ和弥が上手いのはだな、水木と共にプロ入りを競い合ったワシが直々に教えた賜物よ。褒めるならワシだワシ」

「父さん…そりゃ自分で言うもんじゃないぞ」

「あの水木選手と…競い合った?」

 

ポカーンという擬音語が非常似合う場面が目の前に出来上がってしまっている。 監督を初め、みんなが口を開いたまま固まっている。 仕方の無いことか。 俺が水木さんと繋がっているなんて話してもいなかったし、想像もつかないだろうからな。

 

暫くの間目を点にして固まっていた監督だが、顔をハッとさせて言葉を切り出した。

 

「ボール親父さんよ、アンタもしかして…柊虎造さんか?」

「全く気付くのが遅いぞ、福沢。まぁワシも、昨日まではお前のことなんか忘れていたがな」

「え、父さんと監督は知り合いなのか?」

 

これは意外だ。 まさかこの2人が知り合いとは。 世間は狭いものだな。 というかもっと早く気づけよ父さん。

 

「…虎造さんは大学の大先輩だ」

「そうそう、解ってるじゃないか福沢」

「この人、昔酔っ払って俺の家の中で焚き火をしたんだよ。隣の任月さんの家まで燃えてしまって良く人が亡くなら無かったもんだと今でも思うよ」

父さん…昔から酒癖悪かったのか。 そんなことしたっけなぁ、とばつが悪そうに表情を浮かべるが父さんならやりかねない。 否定したいが悲しいことに、無理なものは無理なのだ。

 

「はぁ…アンタなぁ…。まぁそれはともかく、この人は“流しの虎”という二つ名があってな。センスは水木選手以上(・・)だったよ」

 

監督のその言葉にざわめきが起きる。

 

「あの水木選手よりも凄かった何て、和弥君のお父さんは凄い人でやんすね!」

「ははは、まぁ昔の話だがな」

 

とか言いつつ、鼻の下が伸びていることには気づいていないんだろうな。 まぁでも息子として、親が褒められると言うのは気分が悪いもんじゃないけどさ。

 

「ふん、随分と惨めな姿になったものが何を言ってるんだ」

 

当然、グラウンドに聞き覚えの無い大人の声が響いた。 急いで声の主のいる方を向くと、その正体に唖然とした。

 

「にゃひ!お、お父さんがどうしてここに?」

 

目の前に居たのは強豪サイバーキッズを率いる才葉秀人監督--つまり、零人、そしてさくらの父親だった。

 

・・・

 

「どこかで見た顔だと思えば、ウチを逃げ出した者も居るじゃないか。どうだ?ぬるま湯は楽しいか?」

 

蓮、そして芽森さんを横目に才葉監督はガンバーズを貶す。 蓮とわん子さん、さくらさんの拳に力が入るのが分かった。

 

「大切な仲間を、そんな風に貶す言い方をするのは辞めてほしいな--父さんを知っているのか?」

 

才葉監督は父さんを一瞥してから話を始めた。

 

「水木、虎造、そして私。私達は小学校から大学に至るまでいつも一緒だった…。そして、3人で野球を競い合った。やがて、水木はモグラーズに行き、虎造は静香さんと結婚した。不思議だったよ。データでは私の方が上なのに、どうしてお前達ばかりが幸せになるのか?…まさか、お前達が取引をしていたとはな!」

「いったい、何の話だ?」

 

父さんは話がしっくり来ないのか、どういうことかと首を傾げる。 すると才葉監督は物凄い剣幕で怒声を浴びせた。

 

「恍けるな!!お前がモグラーズに入団することを断ったのは水木を入れるためだろう!?それでその見返りにお前は静香さんと結婚した」

「確かに、ワシはプロ入りを断った。しかし、それはプロテストの時に水木が足を怪我していてだな…」

「知っているさ。そうさ知っているとも!あの時水木のスパイクに画鋲を入れたのはこの私だからな!!」

「な、なんじゃと…!」

「うにゅー…お父さんどうして…」

「理由など造作もない。私より下手だった水木がプロ何ておかしいだろ?私はテストを受ける資格すら貰えなかったというのに。それなのにお前は水木を助けた。静香さんと結婚することを条件にな!」

「お前…静香のことを…」

「3人の中で一番優れていた者、それは私だ。それをお前達は妬み、プロの夢も、静香さんも全てを私から奪っていった。そして今はさくらまで奪おうとしている。だから、私は“ガンバーズ”を潰す!水木や、お前の大事なものは全て潰してやる!お前達が私にしたようにな」

 

ハァハァ、と才葉監督は息を荒らげる。 しかし、これはまるで逆恨みだ。 上手くいかなかったのを全て父さんと水木さんの所為にして逃げているだけだ。

 

「…野球で勝てないから、裏工作か。やり方が汚いところは今も変わってねえようだな」

「野球で勝てない?虎造、何を寝ぼけたことを。私はな、お前達に試合を申し込む為に来たんだ」

「…何だと?」

「但し、ただの試合じゃあ面白くも無い。負けた方には解散して貰うぞ。1つの街に、チームは幾つも要らないからな」

「市長の手紙はアンタの差し金か」

 

監督の言葉にみんなが驚く。 誰かが裏で糸を引いているとは思っていたが、まさか零人のお父さんが犯人とは。

 

「ふん、受けてやろうじゃねえか。勝負は--」

「…待った」

「ふん、何だお前は?虎造の息子」

 

流石に今すぐ試合とはいかないからな。 今のウチじゃ勝ち目は正直薄い。なら、ここは延ばすしかない。

 

「2ヶ月後に秋の大会がある。そこで勝負と言うのはどうだ?」

「どうやら目上の者に対しての口の利き方というものを知らないようだな。しかし、良いだろう。その提案に乗ってやる。ただ、初戦で消してしまっても価値が無い。精々足掻いて決勝まで来るんだな」

 

そう言い残すと才葉監督は去って言った。 あの口振りからして、恐らくウチとサイバーキッズが当たるのが決勝になるよう仕組むのであろう。 勿論、俺達が他のチームに勝てたらという前提が付くが。

 

「--負けた方がチームを解散か。これは負けられないな」

 

司が帽子を被り直しながら零す。 期限は伸ばしたものの、正直言って選手層の厚さが違う。 そこを勝負に持ってこられたらウチに勝ち目はない。

 

何か良い策は無いだろうか。 思考に潜り始めたその時、監督が言葉を発した。

 

「そうだ!虎造さん、俺じゃあこのチームを引っ張ることは出来ない。アンタの命がかかっているんだ、どうかチームの監督を引き受けて貰えないか?」

 

予想外の提案。 みんなから(どよ)めきが起こる。

 

「あのなぁ、何寝ぼけたこと言ってんだよ。監督がそんなことでどうする?それに、監督がボールじゃ格好がつかないだろ?--いいか、このチームをここまで引っ張ってきたのはお前だ。今のガンバーズはお前のチーム何だよ」

「しかし…」

「しかしもヘチマもねえんだよ」

 

父さんの反論に監督は顔を伏せてしまう。 父さんは頑固だからな、話が通りにくい。

 

「…わかりました。なら、これはどうですか?虎造さん、コーチをやって欲しい。貴方程の腕を眠らせて置くのは勿体無い。現に和弥という例が居るんだ。他のメンバーも伸ばしてもらいたい」

「ふっふっふっふっ。私からもお願いしたい。是非とも私に稽古をつけて欲しい」

「私も教えて欲しいワン!少しでも見返したいんだワン!」

「僕からもお願いします。こんな素晴らしい人を和弥だけ一人占めってのはちょっとずるいんじゃない?」

「まだまだ足りないところだらけなんだ、俺も教えて欲しい」

「…才葉の野郎に勝つにはまだ力が足りない。俺も鍛えて欲しい。だから、お願いします」

 

俺も!私も!とみんなが父さんの前に詰め寄り頭を下げる。 これで父さんに逃げ道は無くなったって訳だ。

 

「俺からも頼む。今までは俺しか声が聞こえないし、家族ということもあって教えて貰ってたけど、正直もうそんなことは関係ない。折角みんなと話が出来るようになったんだ--ならこれを活かすしかないだろ?」

 

父さんは一通り、みんなの顔を見つめ終わるとふーっと、息を吐いた。

 

「そこまで言われたら仕方ねえな。--受けてやるよコーチ。但し、甘くするつもりは無いからな?」

『はい!!』

「良い返事だ。宜しくな」

 

今日ここに新しいコーチが誕生した。 正直自分の親--父さんがガンバーズのコーチに成るなんて今でも少し信じられない部分がある。 でも確実に父さんがコーチをした方がチームにとって大きなプラスだ。 これから宜しく頼むよ父さん。

 

「父さん、そう言えばさ」

「ん?何だ」

「俺のサイバーキッズ入りを拒んだのって、零人のお父さんが原因なのか?」

「その通りじゃ。あんなヘタクソなやつのところで世話になるくらいなら死んだ方がマシじゃ!ワシのプライドが許さん」

「死ぬとか縁起でもないから言うなよ…」

 

父さんのこの物言いに俺は悟ってしまった。

 

--零人のお父さんもおかしくなるわけだ。

 

「水木のやつには静香のことで睨まれるし、ほんとに運が無いったりゃありゃせん」

 

ほんと、良く母さんが結婚してくれたもんだ。

 

・・・

 

「よーし、お前ら集まったか」

 

本来なら今日の練習は休みの筈。 その中呼び出されたってことは何か理由があるのだろう。

 

「この間虎造さんと話しあって決めたんだがな、合宿を行おうと思う」

 

なるほど、夏休みの最後の2週間を利用して集中的に鍛えようという作戦か。

 

「場所はどこでやんすか?」

「それはもう決めてある--八丈島だ」

『は…八丈島!?』

 

みんなの声が綺麗にシンクロした。

 

「ちいとばかし厳しいかもしれんが、それくらいやらないと才葉には勝てねえからな。なぁ、福沢?」

「…はい。みんな、そういう訳で行き先は八丈島。出発は明日だ」

『明日!?』

 

話がぶっ飛びすぎていて思わず固まってしまう。 何を持って八丈島を選んだんだか…。

 

と、それより--

 

「お金の方はどうするんでやんすか?」

 

無田君が質問したように費用の方をどうするのかが気になる。 ここから八丈島まで行こうと思えばかなりのお金がかかることだろう。 何か宛があるのか?

 

「その事だが、この間和弥が変なツボを拾っただろ?」

 

変なツボ…思い出した。 確かランニングの途中で道端に落ちていたやつだ。

 

「拾いましたけど、それがどうかしたんですか?」

「ついこの間警察から電話があってな。どうやら礼金をかなり払ってくれるんだ。だから費用はそれを宛てがおうと思うんだ」

「俺に相談も無しで!?」

「固いこと言うな和弥。お前が見つけたってことはワシが見つけたも同然。ワシの意思も使えるじゃろ?」

 

何てとんでも理論を展開してくるんだ、このくそ親父は。

 

「まさか貰えるとは思ってなかったから用途があるならいいんだけどさ…」

 

それでも相談の1つは欲しかった。 切実にそう思う。

 

 

・・・

 

「うう…飛行機って、オイラちょっぴり苦手でやんす…」

「その酔い様からしてちょっぴりじゃあないな無田君…ここが、八丈島か」

 

南国さながらの陽射しに暑い暑いと、口々に漏らす。

 

「期間は1週間だ。みんな、ビシバシ扱いてやるから着いてこいよ!」

『はい!』

 

大きな車2台に分かれて乗り込み、目的地である島の最北端を目指す。 ここなら観光客もあまり集まらず、しっかりと練習が出来るとのことだ。 水木さんもここを自主トレの地として利用しているらしい。

 

車に揺られること2時間、漸く目的地についた。

 

ホテルに荷物を運び終え、再び目の前のビーチへと足を運ぶ。

 

「みんな長旅ご苦労だったな、では早速」

『ええー!』

「…人の話しは最後まで聞け。まだ日は高いからな、思う存分遊んでこい!」

「監督最高でやんす!」

 

この言葉に先程まで飛行機と車による酔いに苦しめられていた無田君のテンションが一気にハイになる。 他の面々も顔に疲れはあるものの、ウキウキ感がどことなく滲み出ている。

 

「良し!じゃあ、暫く自由時間だ。怪我に気をつけて遊ぶんだぞ。絶対、沖の方には出ていくなよ!覚えても助けられんからな」

「一番乗りだー!」

 

好スタートを見せた逸平を始め、段々と海へ向かっていく。

 

「和弥君は泳がないのですか?」

 

日陰になる様パラソルを設置し、折りたたみの椅子に腰をかけると瑠璃花に声をかけられる。

 

「あぁ、俺はパス」

「どうしてですか?」

 

その言葉に参ったなぁと、頭の裏をかく。

 

「…んだ」

「え?聞こえませんわよ?」

「…カナヅチ何だよ、俺は」

「それは、何だか意外ですね」

 

クスッと、瑠璃花は笑みを零す。

 

そう、俺は何を隠そうカナヅチだ。 銭湯は好きだし、別に水が嫌いとかそういうわけじゃない。 水に顔をつけるのだって平気だし、目を開けることだって少しなら出来る。 でもどうしても、泳げるようにはならなかった。

 

「幾らプールに行っても泳げないんだよな。だからプールに行ってやることと言えば、流水プールで浮き輪に乗って流されるくらいだ」

「ふふふ、普段の和弥君からは想像出来ませんね」

「気にしてるんだから笑うなよ…」

「ふふふ、ごめんなさい、つい、あ、駄目です、我慢できません、ふふふふふ」

「もう勝手にしてくれ…」

 

ひとしきり笑い終わったのか、目尻の涙を拭った後瑠璃花は隣の椅子に腰掛けてきた。

 

「そう言えば、父さんが無理言って連れてきたみたいだけど、大丈夫だったか?」

「誘って貰って嬉しかったですし。何も迷惑だなんて思っていませんよ」

 

本当にこれて良かったです、と瑠璃花は笑って言ってくれた。

 

「明日からは練習ですし、今何もしないのは勿体無いと思いません?」

「まぁ確かに、それは言えてるかもな」

「はい、そういうことでこれをしましょう」

 

そう言って瑠璃花が取り出したのはビーチ遊びに用いるビーチボールだった。 緑と黒の柄は西瓜をモチーフにしているのだろう。

 

「ビーチバレーでもするのか?」

「はい!折角来たのですし、楽しみましょう?」

「やれやれ、仕方ないな」

「ふふ、では空気入れもお願いしますね」

「鬼か!」

「ふっふっふっふっ。何やら面白そうなことをしているな。良し、私も参加しよう!司!お前も一緒だぞ」

「…拒否権無しかよ」

 

こうして4人でビーチバレーをして楽しんだ。 比奈鳥さんは俺達の予想よりも上手く、身長は余り変わらないのに遥か高くからスパイクを打ち込んできた。 成程、足腰がしっかりしているからあれだけ遅い球でもしっかりコントロール出来るというわけだ。

 

その足腰を鍛えるのに砂浜を走るのは効果的だ。 父さん達の狙いはこれって訳か。

 

明日から厳しくなる、そう思うとどこか欝なものも感じる。 それでもその気持ちよりも、乗り越えた先には必ず一回り成長した自分が居ると思うと楽しみな面もある。

 

それじゃあ、サクッと乗り越えさせて貰おうか。

 

 




和弥がカナヅチなのは飛行機事故が関係していたりっていう設定があります。

八丈島の環境については全くの想像で、ハワイのダイヤモンドヘッドをイメージしています。

*1/9 タイトルを後書しました。
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