ダイヤモンドを駆け抜けて   作:かりんと。

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第6話 提案

 5月が終わり、歴は移って6月に入る。

 

 この季節になると、選手の仕上げの時期になってくる。

 

来月に控えた県大会を勝ち抜くために、そして甲子園大会で勝つ為に。

 

 一発勝負の高校野球だが、気を抜かない限りベスト4は固いと見ている。

 

 2年生エース寺河さんも安定しているし、控えの3年生長谷部さんもいい投手だと思うし。

 

 星英との練習試合は敗れたけれど、バス停前高校、赤とんぼ高校、そよ風高校と3校と対戦に勝利を上げている。

 

 極悪久やんきーズで活躍している『阿畑やすし』投手の従兄弟『阿畑きよし』さん率いるそよ風高校にも5-1と勝利を上げた。

 

 でもやっぱり、問題はやっぱり翔馬のいる星英高校。

 

 3年生で主将の大軒さん、内野の要の桐乃さん、扇の要の新谷さんを中心とし纏まっているチーム。

 

 そして、翔馬の存在。

 

 翔馬は恐らくリリーフ、先発が予想される長岡さんも好投手。

 

 こうしてみると隙のない布陣に見える。

 

 でもこちらには情報分析に優れた坂内さんがいる。 坂内さんのことだ、何かしら見つけてる気がする。

 

 てかあの人学業成績もずば抜けていいからね、文武両道を体現している人だよ。

 

 因みに中間の結果は言わずもがな、勝利、越後、岩田の3人が仲良く補習コース。

 

 信弥も数学以外はやばいと言っていたが一応30点はあったのでセーフ。

 

 宗太、僕、亮、翔は安定の成績。

 

 驚いたのが今回も翔の各教科の点数の下が6と言うことだ。 単なる偶然だろうけど。

 

 という訳でお馬鹿トリオは絶賛補習中だ。

 

 これに懲りて、少しは勉強してくれると助かるんだけど。

 

「亮。」

 

 素振りを終え、パワビタを飲んで休憩している亮に呼びかける。

 

「ちょっと僕は練習から離れるよ。」

 

 スパイクを脱ぎ、ランニングシューズに履き替える。

 

「ああ、“あれ”か?」

 

「そう、“あれ”だよ。下手したらボロボロになるけどね。」

 

「無理だけはするなよ。監督に訊かれたらそれとなく誤魔化しておく。」

 

「うん、ありがとう。」

 

 

 

「はぁ、中々着かないな。どっちだったっけなぁ?」

 

 僕は今、森の中を歩いている。

 

 ただ気晴らしに歩いている訳じゃない。

 

 一応理由があって歩いてるんだけど、

 

「…迷った。」

 

 はい、絶賛迷子です。

 

「こんなに遅くなるつもりは無かったんだけどな…亮のやつ、怒ってるだろな…」

 

 森に入って1時間とちょっとが既に経過している。

 

「前行った時は直ぐに着いたのにな。」

 

 そう、僕の目的は女子寮に行くことである。女子に会いたいっていう考えじゃ無くて相談したい案件が有るからね。

 

 まぁ、こじつけと取られたらそれまで何だけど。

 

 それにしても幸いな事にあのドーベルマンたちは姿を表していない。

 

 出来れば今の内にもう帰りたいんだけど、

 

「ここまで来たしな…」

 

 う〜ん、と伸びをし、ふと目線を左にずらすと建物が見えた。

 

 あれ、僕どれだけ視野が狭いんだろ…

 

 まぁ、いいや。とりあえず向かおう。

 

 いや、待てよ。 そもそも居るのか。

 

 前回は偶々だったかもしれない。

 

 今になって、冷や汗が出てきたぞ。

 

 やばい、ヤヴァイぞ、神条が居ないなら話が進まない! それに他の女子生徒に遭遇したら面倒くさいことこの上無し!

 

「突発的過ぎたかな…」

 

 はぁ、と溜息を漏らす。

 

 落ち込んでいても仕方が無い、とりあえず向かうことにしよう。

 

 女子寮に向かって歩みを進めて居ると

 

 「きゃぁぁぁぁ!」

 

 との叫び声が聞こえた。

 

(今のは女子生徒の声、さてはドーベルマンか!)

 

 足元の石を拾って、僕は声のした方に駆け出した。

 

「くっ、一体私が何をしたと言うのだ。」

 

 駆けつけて見ると、女子寮隣の広場に2匹のドーベルマンと、赤毛よりの茶髪ポニーテールの少女の姿があった。

 

「神条!動かないでよ!」

 

 キッ!とこちらを睨んだ向かって左側のドーベルマンに向かって石を思い切り投げつける。

 

 動物虐待に取られてしまうかもしれないけど、この場合は仕方が無い。

 

 前回同様、鼻に目掛けて放った石は見事に当たり、きゃいんきゃいんと泣きながらもう1匹と共に去っていった。

 

(僕のコントロールも捨てたもんじゃないな。)

 

 ふぅ、と一息付くと、大事なことを思い出す。

 

「っと、神条!大丈夫、怪我は?!」

 

 木にもたれ掛かり、呼吸を荒らげている神条の元に駆けつける。

 

「天道か。すまない、一応怪我は無い。」

 

 一息吐き、神条が立ち上がる。

 

「そっか、それなら良かった。でもびっくりしたな、声の主が君だなんて。」

 

「むっ、それはどういう意味だ。」

 

「別に悪い意味じゃないよ。ただ」

 

「ただ何だ?」

 

 しまった、口調が変わってるけどそういうのは普通なんだ何て言えば殺される。

 

「いや、ごめん、何もです。ただほんとに悪い意味じゃないから。」

 

 ま、可愛いと思ったのは本当のことだから嘘は言ってない。

 

「ふむ。」

 

 それだけ言うと神条は顎に手を添え黙り込んでしまった。

 

 少しして、

 

「そういえば何故君はこんな所に居るんだ?わざわざ校則違反を犯してまで。君のことだから何か有るんだろ?」

 

 そういえば用件をまだ伝えてなかったんだ。

 

「あ、そうそう、君に伝えて起きたかったんだ。僕はこのドーベルマンの配置の停止を自治会会議で提案しようと思うんだ。何と言ったって、今回の様な事件が多発するようになったら困るからね。男子はいいかもしれない、懲りて森に入らなくなるかもしれないからね。でも女子はそうはいかない。神条、君は身をもって体感しただろう?これは普通の女子高生には危険過ぎる。最悪の場合生死に関わる-って、ちょっと大げさかな。でも君もそう感じているだろう?」

 

「正直なところな。全く君にはつくづく関心させられるよ。わかった、私も次の自治会会議でこの案件を提出しよう。男女から声が上がれば流石に通る筈だ。」

 

「ありがとう。助かるよ。」

 

「礼は要らない。寧ろ当然のことだからな。」

 

 ニコッと神条が微笑む。

 

 僕もそれにつられふっ、と笑う。

 

「しあーん!どこやー!自治会行かへんのかー!」

 

「あの声はカズか。すまない天道。私は今から自治会の仕事があるのでな、これで失礼する。」

 

「うん。怪我がなくてよかったよ。」

 

「あ、そうだ、これを受け取って欲しい。」

 

 そういうと神条は制服のボタン、それも2段目に手をかけた。

 

 手際よく、指先を動かしボタンをとる。

 

「制服の・・・第2ボタン?」

 

「うむ。責めてもの礼だ。本当は以前からの礼もあるのできちんと返したいのだが。」

 

「あぁ、いいよ。別に見返りが欲しくてやってる訳じゃないし。ほら、友達も呼んでるみたいだし、僕はこれで。」

 

「ああ、今日も助かった。ありがとう、天道。」

 

 うん、と頷いてから僕は森を駆け抜けて行くのであった。

 

「何や紫杏、こんなとこにおったんかいな。朱里が怒ってるで。」

 

「ああ、すまない。今行く。」

 

「なぁ紫杏。さっき誰と話しとったんや?」

 

「ああ、男子生徒だ。」

 

「え?それって…」

 

「ドーベルマンに襲われてな、そこを助けてもらったんだ。」

 

「へぇ、あ、その男子生徒の名前は?」

 

「ああ、天道湊叶と言う。私と同じ監督生だ。」

 

「ほぇ、てことは成績優秀者かいな。」

 

(ほっ、神谷君や無いんか。いやいや、何をウチは考えてんねん!)」

 

「いきなり頭を振るとはおかしな行動をとるなぁ、それは置いておきそういうことになるな。」

 

「ごめんごめん、それにしても何で監督生さんがこんな所に?興味本位で見に来たとか?」

 

「ドーベルマンが放し飼いされているだろう。それの廃止案を提案しに来てくれたんだ。」

 

「ドーベルマン何てウチに掛かればイチコロなんやけど。」

 

「普通の女子高生にとっては脅威だとさ。」

 

「…何かそやったらウチが普通じゃ無いみたいに聞こえる。」

 

「気にするな。人によって、捉え方はそれぞれ違うのだから。」

 

「でもそれをわざわざ紫杏に提案しに来るなんて、」

 

「知らない仲じゃ無いからな。」

 

「そうなんや。あ、そろそろ行こか。これ以上朱里を怒らす何て堪忍やからな。」

 

「ああ、行こうか。」

 

 チラッと湊叶が去っていった方を見、紫杏は自治会室に向かった。

 

「そういえば紫杏、第2ボタンどないしたん?」

 

「ん?ああ、礼として天道に渡したが。」

 

「…さいでっか。」

 

 

 

 部活に戻ると、幸いな事に車坂監督に練習を抜け出したことはバレていなかったようだ。

 

 ありがとな亮、後でパワビタ渡すよ。

 

 帰還してから数分後してノックが始まった。

 

 僕はショートに入りノックを受ける。

 

 車坂監督のノックは今までで経験したことのない初めてのノックだった。

 

 何球か捕球してからは、その選手一人一人の守備範囲ギリギリに打ってくる神業とも言えるこのノック。

 

 厳しく、疲れるが同時にわくわくもした。

 

 やっぱり僕が最初に感じた気持ちは間違っていなかった、そう思えたから。

 

「よぉーし!今日はここまで!」

 

 あれから1時間半ぶっ通しでノックを続け、今ようやく終わった。

 

「つ、疲れた。」

 

 ドサっと崩れる様に座り込む宗太。

 

 外野ノックもわざと頭を超すような当たりばかり打っていたから、当然かもしれない。

 

「や、やれやれだぜ…」

 

 あれ、いつの間にか越後が居る。

 

 よく見たら岩田も三塁に居て、腹減ったって言ってるし、勝利は生き生きとブルペンで翔相手に投げてるし、補習終わったのかな?

 

 軽いクールダウンをし、練習が終わった。

 

「勝利。」

 

 伸びをしている勝利に声をかける。

 

「補習は終わったの?」

 

「ああ、終わったよ。これでこれから練習に参加できる。」

 

「そっか、それはよかった。」

 

「湊叶君、違うでやんす。」

 

 え?っと後ろを向くと荷台君が遠い目をしていた。

 

「普通、補習が一日で終わると思うでやんすか?あれは乾君たちがあまりにも飲み込みが悪いため、善先生を初めとする教員が倒れたでやんす。」

 

「・・・・・・・・・」

 

 驚きの余り、つい言葉に詰まってしまった。

 

「マジですか…」

 

「大マジでやんす。」

 

 これは進級が危ないなと溜息をつく僕であった。

 

 

 

 

 




第6話お読み頂きありがとうございます!
現段階の選手の能力を載せておきたいと思います。

天道湊叶

弾道2ミートC パワーF 走力C 肩力D 守備B 耐エラー B

友沢亮

135km/h コンC スタC スライダー3 カーブ2 シンカー1

寺河梓真

142km/h コンC スタ B スラーブ2 Vスライダー4○○○4

坂内大也

弾道2 ミートC パワーC 走力E 肩力A 守備B 耐エラー B

乾勝利

125km/h コンD スタC スクリュー2 ○○○2 ○○○1

佳月信弥

弾道3 ミートE パワーB 走力E 肩力C 守備D 耐エラー E

神谷宗太

弾道2 ミートD パワーD 走力A 肩力B 守備C 耐エラーF

本庄翔

弾道2 ミートD パワーD 走力D 肩力C 守備C 耐エラーD




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