ダイヤモンドを駆け抜けて   作:かりんと。

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第7話 2人の距離

 梅雨も明け気候が安定してくる頃、親切高校の選手は順調な仕上がりを見せている。

 

 相変わらず僕は非力だけどね。

 

 若干守備が弱いところもあるけど、それを補うだけの爆発力のある打線。

 

 それとベンチメンバーが発表されたんだけど、

 

「18番 友沢」

 

 先輩方を差しのき、1年生で唯一ベンチ入りを果たした亮。

 

まぁ打力も半端ないし妥当なところだよね。

 

エース寺河さんと、背番号10をつけた長谷部さん、それに亮。

 

 この3投手の試合での出来で勝負が左右されることになりそうだ。

 

 それより、1年目の夏でベンチ入りする亮って何者…今に始まったことじゃないから僕はまだ納得行くけど、先輩とか妬んでないかな?例えば・・・そう、北乃先輩とか。

 

「くそっ!何で基宗のやつが選ばれて俺が選ばれないんだ!」

 

「き、北乃先輩落ち着いて。」

 

「それに1年の友沢ってやつも!1年目からベンチ入りとか絶対監督の-」

 

 …案の定、暴れたそうだ。

 

 目の下にくまを作った勝利がぼやいてたよ。

 

「ありゃ、相当ひねくれてる」 って。

 

 ベンチ入りメンバーを主とした練習が始まり、練習も熱気を帯びていく。

 

 --そして、高校球児の夢と希望、そして誇りが火花を散らす試合が幕を開ける--

 

 カキィーン!

 

『入ったぁ!4番飯占君の一振り!これで5-1!8回に追加点を入れ稲尾総合高校を突き放します!』

 

「ストライーック!バッターアウトッ!」

 

『空振り三振!最後は1年生友沢君が閉めて親切高校、準々決勝進出を決めました!』

 

「礼ッ!」

 

「「ありがとうございましたっ!」」

 

湊叶

「お疲れ亮。」

 

友沢

「ああ、ありがとう。」

 

 球場から出てきた亮にパワビタを手渡す。

 

 ストッパーとして活躍してるとは言え、仮にもまだ1年生だ。プレッシャーをもろに浴びてるはずだ。 だからこそ、親友である僕がサポートしてあげないと--勿論、皆と協力してね。

 

 僕らが球場を後にし、バスで親切高校に帰る途中、星英高校が準々決勝進出を決めていた。

 

 

寺河

「おー、今日もいい天気だな。絶好の試合日和になりそうだ。」

 

 寮室のカーテンを寺河さんが勢いよく開ける。

 

 良い感じに気合いが入ってるみたいだ。

 

 朝の自主練から戻った亮と話しながら朝食を取りまとめてあった荷物を持って、僕達親切高校野球部は球場に向かった。

 

 --先行 星英 - 後攻 親切で試合が開始された--

 

寺河

「ッらっ!」

 

 寺河さんから放たれたボールはチェックゾーンに入る辺りでフッと下降する。

 

 Vスライダー

 

 所謂“縦のスライダー”のスライダーでジャイロ回転の成分を含んでおり、初速と終速の差が小さい・・・らしい。

 

 因みに球種がわかるのはスタンド最前列に居るからだ。

 

 ギィン っと、金属バットの根本に当たったボールは寺河さんの元へ転がる。

 

 試合は5回。

 

 中盤に入ったものの、この様に打たせて取る投球(ピッチング)で着々と凡打の山を築いている。

 

 一方親切も、星英のエース長岡さんを打ちあぐねている。

 

 のらりくらりと言った投球(ピッチング)スタイルでランナーを出しても要所をキチッと締められている。

 

本庄

「…上手いことやられてるね。絶対的決め球(ウイニングショット)が無い分狙いを絞りきれていない。」

 

 隣に座っている翔が思わず漏らす。

 

湊叶

「そうだね。いつでも打てそうな感じの球を続けて要所では少し球威を上げて打ち取る。正直厄介な投手だね。」

 

 「いや」、と飲んでいたパワビタを置いた信弥が言う。

 

佳月

「確かに湊叶の言う通り厄介な投手や。あんまり痛打されやんし、精度の高い投球を続けてるしな。」

 

 一口パワビタを飲んで信弥が続ける。

 

佳月

「わいやったら狙うんはランナーが居ない時に来るあの抜いたストレートや。なんぼ守備が硬くても関係ない。頭を越していく当たりは誰も取れんやろ?」

 

神谷

「なるほどな。ホームランなら行けるってか。」

 

佳月

「そや。点も入るし、上手いこと行けばあの投手の調子も崩れるかもしれやん。」

 

 ふふん、と得意げに、所謂ドヤ顔を信弥はする。

 

 が…

 

本庄

「でもそのとんでも野球理論は、余程のバッターじゃないと無理じゃない?ミートとパワーに長けた選手。親切(うち)で言うならそれこそ飯占キャプテンくらい、と俺は思うけど。」

 

 あっさりと論破されてしまう。

 

湊叶

「僕もそう思う。信弥が言ってることも間違ってないと思うけど、狙ってホームランが打てる選手は限られてくるからね。やっぱりコツコツしつこく行くのがいいと思うよ。これはあくまで僕の意見だけどね。」

 

佳月

「ふむぅ。確かに狙って打てるならみんな10割打者か。案外良い作戦やと思ったんやけどな。」

 

神谷

「その作戦はもっと重量級の打線じゃないと厳しいな。親切も結構強打のチームだけど、その作戦をするには物足りなさを感じるからな。」

 

湊叶

(あれ、そう言えば勝利が話に入ってこないな。何時もなら食いついて来そうなのに。)

 

 グラウンドに向けていた身体を左に捻り勝利の姿を探す。

 

湊叶

(確か越後らと居るはず。)

 

 あの坊主頭三人衆は実に見つけやすかった。

 

 何故か空を見上げて言い合っている。

 

勝利

「だからあれはグローブで、あれがバットだって!」

 

越後

「いや違うね。あれはミゾットスポーツのバットだ。全くやれやれだぜ。」

 

岩田

「…クリームパン。」

 

荷田

「あれはウダマニュラでやんすよ!で、それの隣がガンダーロボでやんす!」

 

 …荷田君まで参加してるし。

 

 …全く何をやってるんだか。

 

 曇って人に寄ってそんなに見え方違うっけ?

 

 それに無駄に越後は細かい。 雲を見ただけでそのバットのメーカーを、常人は見分けられないぞ。

 

 カキィーン!!

 

 快音が鳴り響き、白球は大空を舞う。

 

 大きく弧を描いた打球はそのまま作を越え、芝生の上で跳ねた。

 

佳月

「わいの作戦的中やな。」

 

 こちらに信弥がサムズアップを向けてくる。

 

本庄

「…その唯一の人が仕留めたね。」

 

湊叶

「まぁ、信弥の作戦は僕らが勝手に言ってただけだから当たったとか無いけど、あー、くそぉ、捉える瞬間を見逃した。」

 

神谷

「インコース低めのストレートだったな。明らかに抜いた球だった。4番相手に気を抜きすぎだあの投手は。」

 

 ちょっと宗太の上から目線が気になるけど、言ってることはごもっともだ。

 

 長岡さんは先程ボールが入っていったレフトスタンドをまだ眺めている。

 

 失投を捉えられたというか、自分の傲りが招いた結果だ。この緊迫した投手戦なら如何に先程の失投が大きな物か野球をしているものなら大抵わかる。

 

 完投を目指しているならどこかで抜くのは大事だけど、流石に4番で抜くのは、ね。

 

 5番の坂内さんが打ち取られて6回が終了する。

 

『親切高校 選手の交代をお知らせします。 ピッチャー 寺河君に代わりまして 長谷部君 背番号 10』

 

 7回に入り、親切は継投に入る。

 

 マウンドに上がったのは3年生の長谷部さん。

 

 左のスリークォーターで、スクリューボールを得意としている投手だ。

 

 マウンドをガッガッと慣らす。

 

 僕も中学の初めの頃は投手をしてたからわかるけど、自分の堀を作るのは本当に大切だ。

 

 ちょっとでもズレると失投に繋がるしね。

 

 …実際僕も経験あるし。

 

 星英はこの回は下位打線から始まる。

 

 ここで調子を整えて次の回、上位打線に備えたいところだ。

 

 長谷部さんの第1球。

 

 星英の7番打者はバントの構えを見せる。

 

長谷部

「!?」

 

 不意を疲れた長谷部さんはマウンドから全力でダッシュする。

 

 が--

 

 バシィっとミットが音を鳴らす。

 

 バントの直前でバットを引いてきた。

 

坂内

(…今のがボールだったからしなかったのか。完全に無警戒だったな。サードに指示をいれておくか。)

 

 サッと坂内さんがブロックサインを出す。

 

 若干三塁手が前に詰める。 先程のバントの警戒だ。

 

 2球目、アウトローにスクリューを投げ込む。

 

 星英の打者はまたもやバットを引く。

 

 3球目、またもやバットを引く。

 

 これは…

 

神谷

「…スタミナを削りに来たな。」

 

 宗太の言葉に僕達は頷く。

 

本庄

「代わったばかりの長谷部さんを一気に攻略するつもりだね。」

 

 相手が強豪と言うことで少なからず緊張している筈だ。 そこにこのバント戦術と来たら溜まったもんじゃない。

 

 4球目、勢いを殺されたバントは長谷部さんの左方向へ。

 

 捕球して一回転して送球する。

 

 アウトっ!と一塁塁審がゼスチャーをする。

 

 とりあえず1アウトとなったが、

 

佳月

「もう息があがりかけてるんとちゃうか。」

 

 返球を受け取った長谷部さんが汗を拭う。

 

 続く打者にも同じ手で粘られてしまう。

 

坂内

(くそ、しつこいな。バント耐久を逆手に取って甘い球を投げさせたらヒッティングしてきた。…まずいな、絞らせてもらえない。)

 

 5球目、またも先程と同じ所に転がされる。

 

 長谷部さんは一瞬フラけたものの、しっかり処理をする。

 

 これで2アウトだ。

 

 次の打者は投手の長岡さん。

 

 恐らく同じ手で攻めてくると思うけど--

 

『星英高校 選手の交代をお知らせします。 9番 長岡君に代わりまして ピンチヒッター 天道君 背番号11』

 

神谷

「バッティングセンスもある天道をここで起用して来たか。」

 

 ゆっくりと僕の双子の兄である翔馬は左打席に入った。

 

 翔馬に対して初球-

 

 バシィ!っとミットが音を鳴らす。

 

翔馬

「スト●●●じ●●●●な●。●め●●●げて●。」

 

 よく聞き取れなかったけど、翔馬が何かを坂内さんに言ったのがわかった。

 

 バットを長谷部さんに向け、何やら挑発しているようにも見える。

 

 2球目、長谷部さんはロージンバックを乱暴に投げ捨てると投球フォームに入った。

 

 しかしそのモーションはいつものものとは異なり、何処かぎこちない、力んだフォームだった。

 

坂内

(なっ、変化しな-)

 

 刹那、快音が鳴り響く。

 

 それは先程、飯占キャプテンのバットから奏でられたものと同じだった。

 

坂内

「まずは落ち着きましょう。肩に力が入り過ぎです。」

 

長谷部

「…ああ。」

 

 一言呟くと長谷部は左肩を回した。

 

坂内

「とりあえず落ち着きましょう。まだ同点です。切り替えて攻めましょう。」

 

 この時坂内は気づかなかった。

 

 いや、気づかなくてはならなかった。

 

 長谷部の気持ちに。

 

 見え見えのバント戦術に良いように攻められ、挙句の果てには1年生、それも軟式上がりの投手に撃たれた心境を察しなくては行けなかった。

 

 観察眼の鋭い坂内が長谷部の動揺を気付けなかった訳。

 

 --それは、長谷部の3年間の意地(プライド)だった。

 

 まだ2年生にして、扇の要を務めている坂内に気を遣わせたくないという想いもあった。

 

 だからこそ、長谷部は孤独の道に挑んだ。

 

 まだ先程のホームランの整理は付いていない。

 

 それでも長谷部は左腕を振るう。

 

 ファール2本で追い込んで、1球外に外す。

 

 最後は決めている。

 

 自身の決め球であるスクリューと。

 

 --が

 

 先程の疲労は確実に身体に溜まっており、左腕の振りは鈍くなった。

 

 結果--

 

『ワァァァァァ!!』

 

 無情にも打球はライトスタンドへと消えて行った。

 

『両校、礼っ!!』

 

「「ありがとうございました!!」」

 

 試合は3-1と親切の敗北となった。

 

 星英の核弾頭であり、主将の大軒さんに長谷部はスクリューを捉えられ、そこで交代。

 

 代わった亮も2番は抑えるが、3番の桐乃さんに安打を許し、4番の新谷さんに、左中間フェンス直撃のタイムリースリーベースを打たれてしまう。

 

 一方攻撃はというと、リリーフしてきた翔馬に手も足も出ず6者連続三振という快刀乱麻な投球に切り取られてしまった。

 

 仲間(チーム)が敗れる瞬間を僕はスタンドという近いようで遠い場所から傍観することしか出来なかった。

 

 これが今の僕と翔馬の差。

 

 努力しなければ埋まることのないこの距離。

 

 この悔しさを胸に、僕は向上することを誓うのであった。

 




「ストレートじゃ面白くない。決め球を投げてよ。」

これが翔馬が坂内に言った言葉です。

早く2年生編を書きたい、というか話が進まないので次話はだいぶカットされたものになるかと。

早く進めたいが為に試合が雑になってしまいました。 とりあえず湊叶の兄、翔馬との実力の差が表せたので一応満足してます。

2年生編からはしっかりと書いて行きたいと思ってます。

閲覧ありがとうございました。
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