「明日から2週間冬休みに入る。実家に帰る組は早めに準備しておけよ。申請が遅れると面倒くさいからな。あと宿題だけはしっかりやってくるように。分かってるな、乾、越後。」
ジト目で大河内先生は勝利と越後を見る。
しかし当の本人たちは意識はここにはない。
絶賛夢の中だ。
「…はぁ、まぁいい。他のみんなも忘れるなよ。提出物は評定に意外と響くからな。それでは今日はここまで。各自有意義な長期休暇を過ごしてくれ。」
言い終わると大河内先生は退出して行った。
ふむ、明日から冬休みか。
流石に野球部も正月は部活が無いみたいだしな。
「湊叶、今年の正月はどうするんだ?」
頬杖をついていると、後ろから亮に話しかけられる。
「ん、ああ。あそこに顔を出そうと思っているよ。久しぶりに瀬納さんの入れたコーヒーが飲みたいし。」
「いや、お前コーヒー飲めないだろ。」
う、ちょっとかっこつけたけどだいぶ恥ずかしい。 ビシッと亮に返されてしまった。
「と、とりあえずハムサンド食べに行ってくるよ。亮は?」
「俺か?父さんが帰ってくるだろうし、久しぶりに家族と会えるからな。翔太と朋恵を遊んでやらないと。」
やばい、漢前すぎるぞ亮君よ。
高校に入って、早くも9ヶ月が過ぎようとしている。
今年が初めてとなる“過酷な夏休み”、秋季大会予選が過ぎ、と季節は冬に移っていた。
秋季大会は準決勝で星英高校にまたしても敗北してしまい、苦渋を味わった。
試合的には3-2と接戦だが最終回に逆転負けを喫する等と課題はまだ多い。
一応背番号14としてベンチ入りはしたものの、打撃結果は4の0。 守備固めとしての起用とはいえちょっとこれでは来年のレギュラー争いには食い込めないかも知れない。
坂内さんと一緒に独自の練習メニューを考えている基宗さんも、“何気”に打つし…
と、何気は失礼だね。
でも、重しを着けた状態で自治会が管理しているドーベルマンから逃走しろとか言ってくるし、テニスボールの捕球と打撃を瞬時に見分けて行えとか言ってくるし、練習中に呼ばれてヘッドホンを被せて「俺は野球が上手い」とか流してくるし…
うん、これくらいなら神様も許してくれるだろう。 ささやかな報復として、見逃してくれるはずだ---と思う。
寮に戻ると先輩達が丁度退出していくところだった。
一言言葉を交わし、先輩達を見送る。
少し広くなった部屋を少し見てから、僕らは各自の荷物を纏めた。
「さてと、そろそろ行くか。」
「うん。」
既に先輩達2人が退出している部屋を1度だけ振り返り、共に言葉を発する。
この冬休み、僕らは一皮剥けて、またここに戻ってくるんだ。
目指す場所は---遠前町。
*
『次は遠前町。お降りの方は忘れ物にご注意下さい。』
車掌さんの声のお陰で意識が身体戻ってくる。
実家に帰って、翔馬と少し話し、両親に自分の今を伝え、ここにやって来た。
バス代を払って下車する。
行き先は決まっている、久しぶりのここの風景を見ながら向かおう。
歩き初めて15分。
目的地に到着した。
どうしよう、久しぶりに来てみたら緊張してドアノブが握れない。
あぁ、9回裏の守備の時より緊張するぞ。
(大丈夫、大丈夫だ。だから落ち着け。)
扉の前で深呼吸を繰り返しているとー-カランコロン--と吊り下げベルが音を立て、扉が開いた。
「あっ…」
「いらっしゃいませ。ご主人様♡…っと、これはこれは珍しいお客様ですね。」
ふぅ、と一息付き
「お久しぶりです、准さん。」
頬を掻きながらそう言った。
「うん、ほんとに久しぶり。湊叶君が高校に入る前だから半年以上経ってるね。」
「はい、時間が経つのは早いですよ。」
「特に君たち高校球児は早いだろうね~。立ち話も何だし、入って入って。」
准さんに通され、久しぶりに喫茶店に入る。
中に入ると珈琲の何とも言えない、不思議な気持ちになれる香りがした。
「だいぶ緊張が取れたみたいだね。」
「この珈琲の香りのお陰ですよ。」
准さんが、久しぶりに会った准さんが柔らかく接してくれたからなんて言えない、口が裂けても絶対言わない。 言ったらどうなるか目に見えてるからね。
「そっかそっか、いやぁ、珈琲も飲めない子供が大人なことを言うようになったね~。」
「…あの、それほんと恥ずかしいんで、それに声大きいです。」
このようなことで、この始末なのだ。 耐性が無い僕じゃ太刀打ちが出来ないのは目に見えてる。
「やぁやぁ湊叶君、久しぶりだね。」
「あ、世納さんお久しぶりです。」
准さんと話していると、ここのマスターである世能さんが厨房から出てきたので挨拶をする。
「どうだい、高校生活は?」
「そうですね、楽しいですよ。充実してます。高校野球にはロマンが溢れてますから!」
「…ロマンか、いい言葉だ。君の生活が充実しているならそれでいいんだ。でも軌道に乗ったからといって、あの時みたいに無茶を重ねたら…どうなるかわかってるよね?」
瀬能さんは、先程迄の穏やかな表情から一転して厳しい顔つきになった。
「はい、わかってますよ。もう…無理はしないです。」
そう言って、僕は自身の右肩を抑える。
中学1年の時、速球投手に成りたかった僕は速球を追い求めてどんどん崩れて行っていた。
下へ、下へとフォームの崩れが更に球速落とし、僕の精神を壊していったんだ。
「うん。それならいいんだ。君はもう自分独りでは無いんだ。他の人達が見えなくても、私達は君の、湊叶君の味方だからね。」
ニコッと人の良い笑顔を瀬能さんは浮かべる。
やっぱりこの人は僕の“第2の父親”だ。 感謝してもしきれないな。
「あっ。」
「?どしたの湊叶君。」
「そう言えば維織さんが居ないと思って。」
「あぁ、維織さんなら自宅に居ると思うから今から行ってみると良いんじゃないかな。」
「えっと、今からですか?」
「そうだよ。ねっ、マスター?」
「え、ああ、うん。私もその方がいいと思うよ。」
「そうですか、それじゃ、失礼しますね。」
2人に礼をしてから、僕は維織の家に向かった。
「ところで准君。」
「何でしょうマスター?」
「湊叶君にあのことを教えていないけど、良かったのかな?」
「ふふ、間違いなく湊叶君はパニックになるでしょうね。」
「全く君という人は。」
「でも、そういうマスターもニヤついてますよ?」
「あはは、これは1本取られてしまったね。」
*
喫茶店から20分くらい歩くと、見慣れた小さな家が目に入ってくる。
(全く、仮にも社長令嬢が住むような家じゃないよね。変な言い方だけど。)
その家の家主は野崎維織。
ある会社の社長令嬢だ。
ピンポーン とチャイム音がし、扉が開く。
「どちら様ですか?」
中から出てきたのはテンガロンハットをかぶり、無精髭を生やし、茶色いコートを来た男性だった。
(そうそう、こういう人の方がどちらかと言うと合ってる気がするのに…それも少し違うか、どちらかと言うと河原のテント生活の方が…)
そこまで考えて僕は1度思考を止めた。
「何で維織さんの家に不信感丸出しの男性が…イオリサンガ、イナァーイ!!」
「え、ちょ、お、落ち着いて。」
僕が落ち着いたところで、リビングに案内され男性が自己紹介を始める。
「えっと、まずは名前から話そうか。俺の名前は
「見ればわかりますよ。」
「…えっと、何か聞きたいことある?」
「維織さんとどういう関係ですか?その服装は何ですか?まず身嗜みが整ってないって時点でおかしいんですよ!仮にも成人してるんでしょ、しっかりしないと!」
「は、はい。」
あれ、目の前の風来坊さん、もとい朴木さんが目を白黒させている。
「あ、すみません、勝手に盛り上がっちゃって。続けて下さい。」
「ん。そうだな維織さんとの関係は…」
「主従関係ですか?」
「え、いや!それは違うよ!えっと、まず俺がこの家に住まわせて貰うことになった経緯を話すとするよ。」
それから朴木さんは細かく説明をしてくれた。
自分が各地を旅している旅ガラスで、その旅の途中でここに立ち寄ったこと。
商店街の野球チーム“ブギウギビクトリーズ”に助っ人として入っていること。
空腹で街を彷徨いていた時、喫茶店の前を通り黒板に書かれていた“店長新作コーヒー”を目当てに入ったらメイドコスの准さんに絞られたこと。
准さんの威圧に耐えれずハムサンドを注文してしまい、無銭飲食をしそうな所を維織さんに助けて貰ったこと。
次の日にまた訪れ、新作コーヒーを飲んでいたところ、また維織さんに奢ってもらったこと。
それを聞いた時思わず、「ヒモだな」と零してしまったけど仕方ないことだ。 朴木さんはショックを受けてたけど。
その次の日もまた新作コーヒー目当てで喫茶店に行ったところ、准さんから維織さんの行為を伝えて貰ったこと。
「確かにそんな感じがしたよ。全てにめんどくさそうで、全てから目を背けている気がしたよ。」
准さんの「維織さんに大してどういう印象を持った?」という質問に朴木さんはこう答えたらしい。
「無銭飲食をしでかすヒモでも観察眼は鋭いのか…」
「え?何か言った?」
「いえ!何も!」
危ない危ない。 何故か朴木さんの前だと心で思ったことが口から漏れるんだよね、何でだろう…。
それから数日後に維織さんと会って、喫茶店で話をするようになったらしい。
7月中旬に行われた“コアラーズ”というチームと対戦し、見事勝利を収めた。
「試合が終わって河川敷に向かった。のんびり歩いていると、ふと河川敷から煙が上がっていたんだ。急いで駆けたよ。それはもう全力で。試合の疲れなんか感じなかった。ただ、早く確認したかったから。」
朴木さんの言葉に熱が篭っている。 それだけ朴木さんにとって、重要なことみたいだ。 だいたい予想はついてるけど。
「それが確認出来るところまで行って、俺は目を疑ったよ。信じたく無かった、俺の“友”がこんなところで終わるわけがないと踏んでいたから。」
『ぴ、ピンポイント落雷?人の家キャンプファイヤー?温暖化現象かぁぁぁぁ!』
「く、友よ、お前のことは忘れないからな。」
大方分かってたけど、びっくりだな。 ピンポイント落雷って流行りそう。
「俺が心の叫びを上げていると後ろから『違う、人のテントキャンプファイヤー。』って冷静に突っ込まれたよ、維織さんにね。」
「え、もしかして火をつけたのって…」
「うん、維織さんだよ。『…ごめん、完全には消し去ることが出来なかった。』って言われたし。」
『何でいつも通り冷静なの!?たまにはそのポーカーフェイスを崩そうよ!』
「あの時はほんとに信じられ無かったな〜。あの維織さんがあんなことをするなんて思ってもみなかったから。」
僕は反応出来ずにいた。 あの維織さんがそんな大胆な行動に出るなんて。
だいたい理由は解るけど。
「維織さんに理由を尋ねたらこの家の鍵を渡されたよ。私の側に居て、支えて欲しいってね。」
やっぱりか。 話の内容的にそう思える点は幾つもあった。 准さんに嫉妬してるって点でピーンって来てたけど。
今日の僕冴えてる。
そう言えば准さんは朴木さんのことを知っていた。 なのに何で教えてくれなかったんだ?
「決まってるじゃない。面白いからよ。」
「え、あ、准さん、と、維織さんも。」
「うん。久しぶり。」
「あぁ、帰ってきたのか。おかえり維織さん。」
「うん。ただいま。」
維織さんと准さんが持っていた袋を朴木さんが受け取り奥のキッチンへと向かう。 なるほど、お昼の準備か。
「どうだった湊叶君。」
「どうだって、朴木さんがですか?」
相変わらずのメイド服で、営業スマイルで准さんが聞いてくる。
「それはもうびっくりしましたね。4月にここに来たとのことですからまるで僕と入れ替わりみたいですね。」
「あ、ほんとだね。あの人ほんと凄い生活してたんだよ。お金持ってないからマスターの無料コーヒー飲みに来て帰ろうとするくらい。」
「あ、さっき言ってましたね。」
「お、偉い偉いちゃんと言ってるんだね。じゃあカブトム---」
「おい准!それは言わなくて良いだろう!」
「はいはい。あんまり怒ると午後の練習に差し支えるよ。」
「そこまでやわな身体じゃない!」
「…朴木君、落ち着いて。」
*
朴木さんが作ってくれたのはカレー。 2人と話していたので特に待つことも無く、直ぐに料理が出てきた。
カレーを食べ終えこれからどうしようかなと思っていると
「湊叶君。」
朴木さんに呼ばれた。
「あ、はい。どうしました?」
「これからビクトリーズで練習が有るんだけど湊叶君も来ないか?」
「え、僕も良いんですか?」
「うん。大丈夫だと思うよ。みんな顔見知りだろうし。」
ーーー練習場ーーー
「…えっと、これホントにブギウギビクトリーズですか?」
「うん、そうだよ。…何人かおかしいけど。」
おかしい。 その言葉通り変わった人たちがそこでは野球をしていた。
ピエロ、根暗、水着男、コック、カニ、目つき悪い人、寒いのに扇子をパタパタしてる人、鎧…
「こうして見ると、朴木さんが霞みますね。」
「待って、俺はここまで酷く無いよ?」
「んー…」
「…おい。」
「ん?お前もしかして湊叶か?」
声を掛けられ、振り向くとそこには顔なじみの人々が居た。
「権田さんに木川さん!並木さんに青島さんも!」
「久しぶりだな。どうだ高校野球は?」
「はい、それなりに充実してます。」
そうか。 と権田さんは笑みを浮かべる。
「朴木、始めようか。」
「ああ。」
朴木さんはコートを脱ぎ、ストレッチを始め、ランニングに行ってしまった。
権田さんに聞くと近々“負けられない試合”が有るらしい。
それの対策を今からするとの事だ。
「終わったよ。さ、始めようか。」
帽子を被り直し、右肩を回しながら朴木さんはマウントに向かった。
朴木さんは
非の打ち所がない綺麗なフォームから糸を引くような直球が投じられる。
力強さと靭やかさを併せもつ朴木さん。
変化球も幾つかあり、球速は僕よりも数段上だが、先程の投球を見る限りタイプは似ている。
球威がある分ゴリ押しの所も有るけどコーナーを丁寧につき、緩急で凡打の山を築いていく。
これだ。 僕の理想の投手像はこの人が体現している。
「ふぅ、疲れた。冬場でも汗かくな〜。」
パワビタ--恐らく維織さんが購入した物--を飲み干し、朴木さんが伸びをする。
ビクトリーズのスタメン全員に1人三打席で投げ、浴びたヒットは僅かに3本。
「我が女神と仲良くするなんて…許せん朴木ィ!キィィィィボォォォォドォォォォ!」
カキーン!
自身も電子炎斬と名乗る人から三打席連続で安打し、その内の1本はスタンドインさせた。
「電子よ。あれは女神じゃない。魔女だ。」
「何か言った朴木さん?♡」
「ナニモイッテマセン。」
凄い、この人は次元が違う。 それこそプロ野球のトップクラスに入るくらいの
浅沼選手は日の出島出身の選手でプロ10年目の今年、打率.392とプロ野球最高打率を更新した。4年連続で200本安打も達成している好打者だ。 折笠選手は大神モグラーズ時代にドラフト下位指名で入団し、努力で1軍を勝ち取った苦労人である努力家だ。 先発投手、中継ぎ投手、抑え投手と全適性を持つ投手だ。
藤堂さんと宮郷さんの2人も大神ホッパーズで、3年目の選手である同期だが、既に球界トップクラスの投手と打者として脚光を浴びている。
今年の日本シリーズでMAX160km/hの直球と150km/h前半で落ちるスプリットを武器に2勝を上げ、1ホームランと大活躍し優勝に貢献した藤堂さん。
24打数16安打と打ちまくり、5ホームランの活躍を見せた宮郷さん。
今年“覚醒”を見せた2人がいる大神ホッパーズは来年も恐らく強いだろう。 頼れるエースと主砲が居るということはそういうことだ。
遅咲きの天才として、何時でもプロ入りすることが出来るであろう朴木さん。
あくまで練習を見ただけだけど、この人は凄いと断言出来る。
ヒモで、情けない1面を持っていた朴木さんだけど、マウンドに居る時は違う人のように見えた。
髭も沿ってあるし、凛々しく見えた。 これがあの“冴えない人が活躍すると見る目が変わる”みたいなやつだね。
「朴木さん。」
「ん?どうした湊叶君。」
---この人に、野球を教えてもらいたい。
「急な事ですみません。僕に、野球を教えてくれませんか?」
*
曇りの無い、真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「教えるって、あまり教えられることは無いよ?申し訳ないけど。」
「いえ、あの教えるというか、その、朴木さんのスタイルに成りたいんです。あくまでも現時点での僕のイメージが貴方ですから。」
目の前の少年、天道湊叶は自らの過去、そして
「なるほど、速球投手か。」
話を聞き、マウンドから投げさせてみたところ球速はだいたい120後半という所だろうか。
「うん。悪くない。でも、速球投手としてはこの球じゃ無理だ。」
少年は厳しい顔つきになり、顔を落として足場を慣らす。
確かに150km/hを超える速球は投げることが出来ないかもしれない。
でも、“錯覚”させることは出来る。
「回転数を上げるんだ。」
ピュッとボールを回転させながら回転について話す。
「回転があれば有るほどボールは伸びてくるように感じる。さっき受けた感じだと湊叶君の制球力は悪くない。いや、寧ろ針の穴を通すといったレベルと言ってもいい。回転数を上げるのには指先の感覚を鍛えるなど幾つか方法が有るけど俺はその中でも“スナップ”を鍛えることを勧める。今はショートをやっているんだろ。体勢が厳しい時にスナップスローで刺せる時がある。そういう点も踏まえ、スナップ強化には利点が有るんだ。」
ゼスチャーを交えながら説明していく。
「後は“緩急”で抑えるって感じかな。ノビのあるストレートの次にチェンジアップが来たら頭にない場合はまず打てない。考えていても当てるのが精一杯だ。これはさっき俺が証明して見せただろ?」
コクっと、少年は頷く。 そうか、ちゃんとここまでは考えていたのか。
でも、何を言われるか分からない恐怖で行動出来ずに居たんだ。
野球センスの塊で有るが、身体が出来て無い為不本意な結果になってしまい、結果ショートという位置に着いた。
でも、野球センスが抜群だから直ぐに慣れて定着してしまった。
心の中で投手としてもう一度マウンドに立ちたいという思いも合ったはずだ。 それをこの少年--湊叶君は必死に耐え、必死に努力し、筋力も付け直して結果最後の大会までシニア時代無失策を達成したんだろう。
投手用の筋肉と、打者用の筋肉は全然違う。
それを1から付け直し、湊叶君は頑張っているんだ。
それを知ってしまったら、その想いに応えないとな。
「湊叶君。俺はもう直ぐこの街をでると思う。だから、それまでの間君が大丈夫なら俺は自分の技術を君に伝えるよ。」
「はい、ありがとうございます!」
試合まであと1週間。 これが最後の戦いだ。
俺も覚悟を決めなければいけない。 維織さん、君はどっちを選ぶんだ?
---1週間後
俺達は無事“命運をかけた最後の試合”に勝ち、商店街は大いに賑わった。
そして ---俺も旅立ちの時だ。
湊叶には伝えることは伝えた。 後は自分自身の問題だ。 投手と遊撃手という二刀流は難しいが、
「じゃあ行こうか、維織さん。」
「うん…どこまでも。」
バスに乗り、最寄りの駅に向かう。
適当に切符を買い、電車に乗り込む。
右手に見える車窓の景色が目まぐるしく変わっていく。
だけど左手に見える景色だけは変わらない。
2人を縛る見えない鎖。
断ち切ることも離すことも出来ない。
だけど俺はそれをどこまでも運んでいく。
維織に世界を見せるため。
維織、君が本当に笑える日が来るまで俺がお前を守ってやる。
いつまでも、ずっとずっとだ。
湊叶、俺は維織と一緒に君を見守るよ。 忘れるな、君は独りじゃないんだ。
*
朴木さんと維織さんは行ってしまった。
次に2人と会う時に、今のままではいけない。
必ず成長した姿をあの2人に、いや、遠前町のお世話になった方々に見せるんだ。
『少し前の話になるんだけどね、何年か前にある高校に行ったことが有るんだ。そこの高校は絶対的な力を持つものと、実力はまだまだだが、不屈の魂を持つものが居たんだ。初めはボコボコにされていた。力の差が歴然もしていたからね。でも彼らは諦めなかった。個人個人が自分を見つめ直して、1人を中心とし、着実に成長していった。そして、遂にその成長は絶対的な力を捉えたんだ。結果は彼らの勝利。“諦めてはいけない”ということを身をもって知らされたよ。』
諦めてはいけない。
この冬休み、僕が確実に成長出来たと思う為にも、今は練習有るのみだ。
藤堂大和…7主 宮坂恭…8主 です。
9主は維織さんルート。 今は維織さんに世界を見せ始めたところですが、ここからどうなるのやら。
維織さんルートの9主のイメージソングは「ペルセウス」です。
4主浅沼の登場曲は「グットラック」
5主折笠の登場曲は「We believe in Magic」
7主藤堂の登場曲は先発時「気まぐれロマンティック」・打席時「車輪の唄」
8主宮郷の登場曲は「アゲハ蝶」です。
湊叶君、冬休み明け覚醒のフラグ。
次話から2年生となります。