気が付いたら評価バーが真っ赤に!?
お気に入り登録数が未だかつてない数に!?
見方を変えれば、それだけ期待している方がいるという事なのでしょうか。
……が、がんばります。
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星の光に淡く照らされた二人の異形は互いに無言のまま見つめ合っていたが、しばらくするとそれぞれが連れてきた配下の者に言葉を告げた。
「ゴート、私はこれからモモンガさんと大事な話がある。ローズと一緒に離れていろ」
「セバス、お前もだ。ナーベラルと共に離れよ」
圧倒的な存在感を放つ二人の異形が放つ言葉は、地の底から響き渡るような重さを伴って配下達へ届く。
その圧力を肌に感じながらも、配下達は主の従僕として応じた。
「承知致しましたノア様、どうぞごゆるりと」
「畏まりました。何かございましたらお呼び下さい」
ヤギ型オルフェノクのゴートと執事のセバスが、互いに連れと共に主から距離を置くように歩き出す。
ある程度配下達から距離が取れると、モモンガが魔法を発動させる。
すると、周囲の音が一切聞こえなくなった。
「辺りの音を遮断しました。これなら誰にも聞かれません」
「ありがとうございます。それにしても……」
初めて交わした二人の異形の会話は、見た目の禍々しさとは結びつきもしない穏やかな口調だった。
そして二人は再び互いの顔を見合わせると、揃って星空を見上げて溜息をついた。
「……とんでもない事になりましたね」
「本当に、まるで夢でも見ているみたいですよ」
禍々しい飛蝗の様な灰色の異形――オルフェノクのノアと、死が具現化したかのような存在――オーバーロードのモモンガは、上司から難題を吹っ掛けられたサラリーマンの様な疲れた声を溢した。
しばらくぼんやりと夜空を眺め合っていた二人だが、落ち着いたのか、再び顔を見合わせた。
「とりあえず、モモンガさんがご無事なようで安心しました」
「それは私も同じです。……てっきり、私だけが此処に来てしまったのかと思っていました」
モモンガが最期に漏らした言葉にノアは首をかしげた。
「まだギルドに在籍していたヘロヘロさんや、他の方達はいらっしゃらないのですか?」
「ヘロヘロさんはサーバーダウンの前にログアウトされました。眠いのを我慢していた様でしたので、引き留める訳にもいきませんでしたし……。それに、他の人達も……」
モモンガが顔を俯かせながら話してくれた事に、ノアは合点がいった。
ヘロヘロは転職先のブラック企業でハードな日々を過ごしているのに、貴重な時間を割いて来てくれたのでモモンガは我がままを言うに言えなかったのだろう。そして、他のメンバー達にも同じように。
モモンガはアバターこそ恐ろしげな姿をしているが、その心根は曲者ぞろいなアインズ・ウール・ゴウン内で一番穏やかな人物だ。だからこそギルドリーダーを務め、ギルドメンバーを上手くまとめあげ、時には仲間内で諍いが起こればクッション役を引き受けられるのだ。そんなモモンガだからこそ、ギルドのメンバー達はモモンガに従ってもいたのだ。
しかし、自分の我をあまり前面に出すような人では、否、出せない人だった。故に、ユグドラシル最期の日にやって来てくれた仲間達に最期まで付き合ってくれと声をかける事が出来なかったのではないだろうか。
「私以外にメッセージを返した人はいますか?」
「いいえ、ノアさんだけでした。他は、誰も返してきてくれません」
「そうでしたか……」
他のメンバー達は誰も来ていない様だ。
そもそも、ユグドラシルにログイン出来るような余裕があるのかすら怪しいメンバーもいたのだ。
それぞれが、皆現実の生活があるのだ。それを蔑ろにしてユグドラシル(ゲーム)をするわけにもいかない。同じ社会人として、ノアはそれが痛いほど分かる。そして、モモンガもだ。
「でも! ノアさんが返事をしてくれて本当に良かったです。ナザリックのシモベ達がいるとはいっても、知り合いのプレイヤーがいるだけで、本当に……」
まるで、はぐれた迷子が親に会えたかの様なモモンガの有様に、ノアは何も言えなくなってしまった。軽蔑しているのではない。自分もまた、もし何かの行き違いで独りとなってしまったら、他人事ではなかっただろうと思ったのだ。
「元気を出してくださいモモンガさん。私がこうして此処にいるという事は、他の皆もいるかもしれないじゃないですか」
ノアは、モモンガに何処か自分の姿を重ねて見ている自分に気付き、そんなモモンガを勇気付けた。
思えばモモンガとの出会いは、たっち・みーからの紹介からが始まりだった。
当時、未だ駆け出しのギルドだったアインズ・ウール・ゴウンの仮初の拠点に度々(たびたび)お邪魔していたノアは、たっち・みーが異形種プレイヤーを連れて来たのを覚えている。それがモモンガだった。
聞けば、異形種プレイヤーに対するPK行為の標的にされていた所をたっち・みーに助けられたのだという。
ノアもまた、プレイを始めてから1年も経たない頃にオルフェノクへと変異していたので、そういった異形種狩りに狙われた事が何度もある。そこである日、同じく異形種狩り目的のPKプレイヤー相手に、未だ初心者同然だったたっち・みーと逃走中にノアが衝突事故を起して仲良くタコ殴りに遭った過去がある。
そこから巡り合った不思議な縁のもとにモモンガと出会ったノアだが、妙にウマが合った為、仲が良くなるのにそう時間は掛からなかった。
そして月日が経つごとにギルドのメンバー達は力をつけ、メンバーを増やし、徐々にアインズ・ウール・ゴウンの存在が知れ渡り始めた。
その際、ノアは何度もアインズ・ウール・ゴウンへの勧誘を受けていたが、眷属を作る事に邁進していた事もあってそれらを全て断っていた。
しかし、交友関係はそのまま続き、何だかんだでナザリック地下大墳墓へ拠点を移した時も普通に遊びに行っていたので、世間の他のプレイヤーからはアインズ・ウール・ゴウン42人目のメンバーと思われていた事もあったとか。
弱気な雰囲気を纏っていたモモンガは、ノアの言葉に希望を見出したのか、少しずつ気力を戻し始めた。
「そうです……そうですよね。まだ、皆が来ていないなんて証拠もありませんものね。ありがとうございます、ノアさん」
「気にしないでください。それよりも、気にしなくちゃいけないのは私達の方でしょう。ギルドのメンバー達を探すにしたって、私達の立ち位置をしっかりとしないと始まりませんからね」
「確かに、その通りです。ところで……」
モモンガは、ちらりとノアの背後の遠くで待機している彼の眷属達を見た。
「随分と支配者ロールが堂に入っているじゃないですか。まるで〝オルフェノクの王”みたいですよ」
「あ、それ言ったらモモンガさんだって、さっきのセバス達への話し方なんて魔王とそのシモベみたいな雰囲気じゃないですか」
お互いがユグドラシル時代のキャラロールを思い出す。
ノアは54人のオルフェノクの眷属の頂点に立つ〝王”をイメージし、モモンガはその外見通りの魔王をキャラクターメイキングの設定としていた。
最も、それらは全て外面(そとづら)で、実際のプレイヤー達との会話の際はごく普通の社会人としての振る舞いであったのだが。
「……懐かしいですね」
「ええ。もっとも、ウルベルトさんとかにはかないませんけどね」
「あの人は本当に別格でしたね……悪を追及したキャラクターなら他の追随を許しませんでし。何時だったか、「お前は磨けば輝く悪の原石だ!」なんて言われて悪役キャラの教えを受けさせられた時は、本当にどうしようかと思いました」
「……ああ、そう言えばノアさん一時期挙動がおかしかった時がありましたね」
「皆から痛々しい目で見られましたけどね。……今なら酒の肴で済ませられますが」
尤も、いつぞやの年明けの挨拶代わりに「いたずら天使が皆の所に遊びにやって来たJO-Y☆」と言って、マジックアイテムで作った虹を無邪気に滑ってアインズ・ウール・ゴウンのメンバー達の前に現れた時に比べれば屁でもない。
何故、そんな事をしてしまったのかは全く覚えていない。一説では、リアルでしこたま飲んだ酒が原因らしいが。その後、何も言わずに皆から肩を叩かれたり、優しくされた時は暫くログインする事すら憚られるほどに精神的に追い詰められた。
ともかくとして、そんなユグドラシル時代の楽しかった頃の思い出話につい花を咲かせつつ、今後どういった行動をとるべきかを話し合う事にした。
「まずは、この世界に人間の様な知的生命体がいるかどうか調べてみようと思います」
「そういえば、まだ此処で人類に会った事がありませんでしたね」
「ええ、そして同時にこの世界に私達を脅かすほどの存在がいるのかも確認しておきたいと思います」
「一応この近辺は安全みたいですけど、そこから先の地域はどうなっているのか全くの未知数ですから、知っておくに越した事はありませんね。」
モモンガはある程度今後の方針を考えていた様だ。
ノアは言われて確かに、と納得し、此方からも提案した。
「宜しければ、私も眷属と一緒にモモンガさんのお手伝いをさせていただきましょう」
「おぉ! ノアさんと眷属達の力を貸していただけるのは有難いです! ……ですけど、良いのですか? ノアさんは眷属達をとても大事にしているじゃないですか」
モモンガはノアの協力要請に諸手を挙げて喜ぼうとしたが、ノアがどれ程眷属達に対して並々ならぬ情熱を注いできたのか知っている為、素直に喜ぶのをためらった。
「そこはどうしても危ない場合は逃げる様に言い付けますから。それに私の眷属は多種多様な能力を個々に与えていますので、適材適所って奴で、その時々に合わせて上手く活躍させていこうと思うんですよ」
ノアとしても、確かに眷属達に何かあったらと懸念すべき事はあったが、しかしせっかく育て上げた眷属達を拠点に押し込んだままにしては、宝の持ち腐れの様にも思えたのだ。
ならば、今こうして同伴させているゴートやローズの様に、目的に合わせて能力の見合った眷属を送り出す方が良いだろうと考えていた。
それに何より、ノアは眷属達の戦闘力に自信を持っていた。伊達に総プレイ時間の半分以上が眷属作成に注がれたわけではない。
「うーん……其処まで仰るのなら、私としましても心強い味方が増えるので頼もしく思いますから…………あ゛」
モモンガは、そんなノアの言い分に理解を示したが、ある事を思い出して髑髏顔の口がぽかんと開いた。
その様子を不審に思ったノアが訊ねる。
「え、モモンガさん? どうしましたか?」
「……ノアさん、私は今重要な事を思い出しました」
重要な事! ノアはその一言で緊張が走る。
まさか、ゲームには存在しなかったネガティブな要素でも見つかったのだろうか?
たまに天然の入るモモンガであるが、思慮深さと言う点ではアインズ・ウール・ゴウンの中でも上位に入る男だ。
なんでしょう、とモモンガに続きを促すと、髑髏の眼窩の奥の赤い輝きがギラリと光った。
「私の所のナザリックのシモベ達と、ノアさんの所の眷属達の本格的な顔見せがまだ出来ていませんでした。今後、協力体制を築く事は必要でしょうから、近い内何らかの場を設ける必要があると思うのですよ」
「――――あ、あぁ。そうでしたね。そう言えばそうでした」
何だそんな事かと思いはするが、確かに重要な事だと頷いた。
ナザリックの戦力、その中でも各階層を守りの代表を務めている階層守護者達の力は良く知っている。
そんな守護者達も、この世界に来てから人格を表した眷属達の様に心を持った一個の生命としている筈だ。
果たして、彼らはどの様なキャラになっているのだろうかと思うと、期待に胸が膨らんでくる。NPC制作にノアも立ち会った事があるし、ナザリックへ遊びに行く時はよく見かけているので、知り合いの子供たちが成長した姿を楽しみにしている叔父さんのような心持だ。
禍々しい飛蝗の様な顔をしているノアは表情こそ出ないが、内心ナザリックへ訪問する機会が来るのを楽しみになってきた所で、モモンガから提案が出された。
「そこで、一度お互い拠点に戻りましたら、事前に皆に相手の事をどう認識しているのか確認してみませんか? 顔合わせの場を設けるにしましても、ある程度はこちらで互いの事を説明する必要があると思うんですよ」
「ああ、それは良いですね。……何故か、モモンガさんと会いに行くと眷属に言った時、皆が息を飲んでいましたし」
思い浮かべるのは、アインズ・ウール・ゴウンの名を口にしてからの眷属達の反応だ。
まるで恐ろしいものを想起しているかのような対応に、ノアは思い当たる節が見つからなかったのでずっと引っかかっていた。
「え、ノアさんもですか? 実は、私もノアさんに会いに行くと告げた時、妙な反応だったんですよね。何か、凍り付いていたと言いますか」
「……コキュートスの冷気にあてられたとか、そう言うオチじゃないですよね?」
「はっはっは。ノアさん、流石にそれは無いですよ」
やだなあもーと手首を前に振るモモンガの姿が、ノアには井戸端会議をしている奥様方の姿とダブって見えた。見た目は骸骨の魔王といった風貌なのに、中身の庶民的な感性がにじみ出ていた。
兎にも角にも、次回はお互いの主要メンバー達の顔見せと同盟を表明するための場を設けるという事にしたノアとモモンガは、再び軽い世間話をした後、互いに頑張りましょうと硬い握手を交わしてその場を後にした。
「お帰りなさいませノア様、如何でしたでしょうか?」
モモンガと仮初の別れを告げたノアが供に連れて来た眷属達のもとへ戻ると、ゴートがローズを連れて出迎えてくれた。
「ああ、中々有意義な時間だった。やはり友がいるというのは実に良い事だ」
「左様でございますか。それはよろしゅうございましたな」
ノアがどこか嬉しそうな声色で答えると、ゴートとローズは主の喜びこそわが身の喜びだと言うかのように、嬉しそうに返した。
そんな二人に、ノアはアインズと懸念していた事について試しに訊いてみる事にした。
「……時に二人とも、拠点を出る前から気になっていたが、お前達はモモンガさんの事はどう思っているのだ? これは他の眷属達にも言える事だが、お前達はどうにもモモンガさんに対して妙な反応を取っていると思ってな」
気になって聞いてみただけであったが、その声色はまるで詰問しているかのような雰囲気が醸し出され、ゴートとローズはその場で足を止めた。
そして二人で何処か気まずげに顔を見合わせると、最初にローズが口を開いた。
「……王よ、御親友であられるモモンガ様への無礼な態度をお許しください。しかし……」
言いよどむローズに代わり、ゴートが続きを紡いだ。
「あれ程に濃密な死の気配を溢れださせるあの御方の有様は、我ら死を超越したオルフェノクの身を以てしても重圧がかかるのです」
(つまり、属性的なものが原因なのか?)
ノアや眷属達の種族であるオルフェノクは、”限りなくアンデッドに近い特性を持つ天使”だ。天使でありながらアンデッドの様に不死身の体を持ち、闇の力を操るその姿は、本来天使が持つ清らかなものとは程遠い、死を象徴とした化け物なのだ。
だが、いくらアンデッドの特性を持つとはいえ、本来ならばその真逆の立ち位置にいる天使の種族に部類されているオルフェノクからしたら、少なからずともそのアンデッドの極致に立つオーバーロードという種族には何かしら感じるものがあるのだろう。それが、この度のモモンガへの反応となったわけだ。
「その点、モモンガ様と知己の間柄であられるノア様は全くの自然体で接しておられる。流石は我らを創造されたオルフェノクの王であらせられると、恐れ多くも感服した次第にございます」
ノアが一人で納得していると、ローズは調子を取り戻し大げさにノアを褒め称えてきた。
何度もこんな風に持ち上げられると、流石にノアも体が痒さを覚えてくる。
ノアは何でもないように手を振った。
「あんなものはただのじゃれ合いだ。そこまで褒められるものでもない」
「おぉ、流石でございます王よ……ッ!」
「いや、だから」
うっかり本来の口調が漏れそうになってしまった。
(……さっきから思うが、ローズってこんなキャラだったっけ? もうちょっと理知的だったと思ったんだが)
記憶の中にあるローズへ入力したキャラ設定を思い返してみるが、これもまたこの世界へ来た時のホースの反応の様に、一個の生物として生まれた際の〝むらっ気”の様なものだろうとノアは結論付けた。
心と言うものは、数字やプログラムで表せるほど簡単なのではないのだろう。
(これが全部で54人もいるのか。個性が出ていて嬉しいっちゃ嬉しいんだが……さて、どうやって応対しよう。帰ったらやらなきゃいけない事が沢山あるな……ああ、スケジュールが埋まっていく)
星空の下、雑草を踏み鳴らしてオルフェノクの王は密かに今後の展望に頭を悩ませる。
盟友と手を取り合い、己の生み出した眷属達と生きて行くために。
ちょうどその頃、ナザリックへ帰ったモモンガもまた、同じように今後の予定の組み立てに頭を悩ませていたりした。
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後書き
ナザリック側の反応は、次回あたりにでも。
……私に書けるのだろうか。