オーバーロード異伝 異形の天使たち   作:そよ風ミキサー

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前書き


※ユグドラシル内のNPCの機能について私の作品に誤りがありましたので一部の話を修正致しました。


今回はオルフェノクの眷属サイドです。

「いいから早く進まんかい」と御思いの方もいらっしゃるかと思いますが、何卒ご勘弁ください(北崎さんからしっぺを喰らいながら

――――――――――――――――――――――――――――――


第6話 オルフェノク54眷属たち

 ノア達オルフェノクの拠点内では、眷属達が一つの話題で色めき立っていた。

 

 場所はオルフェノク達が集う場所として利用されている大広間。以前、ノアがユグドラシルのサーバーダウンを見届けようとしていた所だ。

 だが、其処に当の支配者たるノアの姿は無い。ノアは自室へ向かい、今この場にはノアの眷属である54人のオルフェノク達が一堂に介している。

 

 

「諸君、既にノア様からお聞きした話は覚えているな?」

 

 

 其処でヤギ型オルフェノクのゴートが眷属達の統括としてこの場を取り纏めていた。

 ノアが座る為の玉座の横に立ち、他の眷属達へ話す話題は今眷属達の中で一番ホットなニュースだ。

 

 それすなわち、己らの王と深い友好の仲であるアインズ・ウール・ゴウン達の本拠地ナザリック地下大墳墓への訪問計画だ。

 ナザリックの方で階層守護者達が〝そうしていた”ように、ノアの眷属達もまた近日行われるナザリックへの遠征に思いを馳せていた。

 

 

「ナザリック地下大墳墓……話には聞いていたが、まさかあそこへ実際に行く事になるとはな」

 

 

 そう呟いたのは、サボテン型オルフェノクのカクタスだ。

 他の眷属達と比べると外殻が薄く、人間の様に腹筋等の逞しく発達した筋肉が体の各所から覗かせているが、胸から上はサボテンのモチーフに恥じない剣山の様なとげがびっしりと生えている。

 頭部は鋭い棘を大量に生やした編み籠の様な形状をしており、その隙間からおよそ人類のそれとは大きく逸脱した悍ましい形状の髑髏の様な顔を覗かせていた。

 

 

「だが、まだ俺達が行くと決まったわけではないのだろう? ノア様のお話では、参加する隊とこの拠点の守りに就く隊で分かれるという話だ。期待するのは良いが、後でガッカリしない事だな」

 

 

 カクタスへそう返したのは、雄牛型オルフェノクのオックス。

 全身はカクタスよりも大きく強靭な体つきをしており、上半身は盛り上がる程に分厚い外殻を身に纏っている。

 その顔は雄牛の如く左右の頭部から鋭く大きな角が円を描くように上へ伸びていた。

 更にオックスの分厚い上半身の外殻の脇の隙間から鎖が伸び、本人の2~3倍はあろうかと言うほどの握り拳型の鉄球が両の肩から一つずつ、計2つを両の手に持っていた。

 おかげで鉄球を柄で掴んでいる事もあって、握り拳の上から更に巨大な握り拳があるという不思議な外観となっていた。

 

 

「おい、ゴートが話をしているからそろそろ口を閉じておけ。後でローズにどやされるぞ」

 

 

 カクタスとオックスへ、カマキリ型オルフェノクのマンティスが注意する。

 頭部の額にはカマキリの複眼を模した器官を持ち、二人に比べると細身だが両の手首から延びる鋭い鎌と腰から足元を隠す翅状のコートが只者ではない雰囲気を醸し出していた。 

 

 カクタスとオックスの両名がちらりと前を向くと、ゴートの隣で此方をじっと見ているバラ型オルフェノクがいる事に気が付き、慌てて佇まいを正した。

 仲間内に対しては優しい所もあるのだが、それでも口うるさい事が度々あるので苦手にしていた。 

 

 ローズが二人から視線を外し、他の眷属達をじっと見まわしていくと、徐々に口を閉じはじめ、終いには部屋中がしんと静かになった。

 さながらその様相は、学校の生徒会風紀委員による取り締まりのようにも見えた。

 

 

「……どうやら皆、私の言葉を聞く姿勢を取ってくれたようだな、ありがとう。さてその訪問の件だが、恐らくナザリック側はモモンガ様の指揮の下に、ノア様とそのお供をする我々を盛大に歓迎してくださる事だろう」 

 

「ちょっといいだろうか? ナザリックが王や我らを歓迎してくれるのは良いが、それは確定なのか?」

 

 

 ゴートへ質問を投げかけたのは馬型オルフェノクのホースだ。

 片手を上げてそう問いかけるホースへ、ゴートは頷いた。

 

 

「あのお二人の仲は、まさに竹馬の友と呼ぶべき間柄だ。その様な関係を持たれておられるモモンガ様の今までの様子からするに、ノア様を蔑ろにする事はあり得ないだろう。それに、広大なナザリックを治める御方が狭量だと思われるような事を、あの忠義の臣たる階層守護者達が許しはしまいよ。恐らくだが、ナザリックの威信を我らに見せるべく、それ相応の用意はして来る筈だ」

 

 

 そう断じるゴートに眷属達は成程と納得する。

 ゴートはノアが生み出した54の眷属達のまとめ役にして、その頭脳も王を補佐するに値する程に卓抜したものを持っている事はこの場にいる誰もが知っている。だからこそ皆はゴートが言うのならばと一定の理解を得られるのだ。

 

 

「そこでだ。我らオルフェノクも此度ノア様と共に招かれるにあたって、ノア様の眷属に恥じぬよう振る舞うべきだと私は思う。そこで諸君らにもその事を十分承知の上、協力して貰いたい」

 

「ノア様の為に働く事は我ら眷属一同是非もない事だが、具体的にはどうすればいいのだ?」

 

 

 ゴートの話に疑問を抱いたのは、ガスマスクを装着した特殊工作員の様な姿のフクロウ、とでも言うべき容貌のフクロウ型オルフェノクのオウル。

 

 

「そう難しい事ではない、手短な所から言えばまずは所作だな。何分、我ら眷属の中にはいささかこういったな場面を苦手とする者もいる」

 

 

 ゴートの発言に何人かが反応する。

 思い当る所があり、バツが悪くなった者もいれば、その様に創って下さった創造主への文句にも取れるため僅かに責めるような視線を向ける者もいた。

 それらの反応を予測していたらしいゴートは、皆が口を開く前に片手を上げて補足を入れた。

 

 

「勿論、それは〝そうであれ”とノア様が創造されたが故であり、私はそれを否定する心算は毛頭ない。ただし、今回はそれを曲げて貰いたいとは思っている。諸君らも、我らの態度が原因でナザリックの者達に我らの王が侮られるような事があるなど、想像したくも無いだろう?」

 

 

 そう言われてしまえば、怒っていた者達もその感情を霧散せざるを得なかった。

 沈黙の帳がおりたこの空間に、ゴートは苦笑した。

 

 

「だからこそ、だ。詳しい内容については後でノア様と御相談したものを皆に伝える事になるだろう。だが、私も含めたこの場にいる皆はノア様が創造された眷属、問題なく完遂出来ると信じている。ノア様もそう仰られるはずだ」

 

 

 皆に優しく語るゴートの言葉は偽りのない本心だった。

 ゴート自身も、兄弟ともいえる眷属達の能力を信じているのだ。

 

 

 ゴートの言葉に周りの眷属達を顔を見合わせ「その通りだな」「これはノア様への忠誠にも繋がる、失敗は許されんな」と意気込み始めた。

 

 皆からやる気を感じたゴートは静かに頷いていると、横にいるローズから「ゴートさん、例の話もしては?」と周りに聞こえない声音で話しかけられた。

 言われたゴートは肩を竦め、ワザとらしく大きく咳き込んで眷属達の注目を再度集めた。

 

 

「それと一つ、皆に一応伝えておきたいことがある。今回の来訪に際して、ノア様の護衛と我らオルフェノクの威力を見せる意味も兼ねて〝ベルト”の持ち出しをノア様へ上申した」

 

 

 ゴートの話に眷属達は騒然とした。

 

 

「ベルト! 5本のベルトか!?」

 

「王が御創造された、あの神器級アイテム!」

 

「まさか、〝支援外装”も出すつもりか?」

 

 

 ユグドラシルというゲームに存在する武装系のアイテムは9種類に分類される。神器級アイテムとは、その中の最上位に位置する程の性能と、恐るべき希少性を兼ね備えた装備なのだ。

 そして眷属達が口々にするベルトとは、ノアがユグドラシル時代に眷属とは別に大量の重課金と廃人プレイによる心血を注いで作成した代物であり、計5つ存在するノアの渾身の力作と言うべき神器級アイテムである。

 それ程のものを持ち出そうとするのだから、眷属達がにわかに騒然とするのは無理もない事だった。

 

 

「しかし、ノア様はその件については難色を示されている。ナザリック側を刺激するような真似は避けたいとの事だ」

 

 

 眷属達の反応は大体がその結果を残念がっていた。中には、わざわざ王のご友人のもとへ来訪する為だけにあのベルトを使用するのは流石にやりすぎなんじゃないだろうかと思う者もいた。

 ちなみに、ゴートの隣にいるローズはその件について一番残念がっている様で、深いため息をつきながら肩を落としていた。それをちらりと見たゴートは内心で溜息をつく。

 

 元々このベルトの件について提案をしたのはローズだ。

 ゴートもノアと同じくそれを使用する事について少々過剰だと思っていたのだが、いかんせんオルフェノクへの想い、ひいてはノアに対する忠誠心が一際高いローズが「ナザリックの者達へ我らの武威をお見せするのに最適でしょう」という言い分も分からなくはなかったため、ノアへ直接相談したのだ。まぁ、結果はこの通りである。

 

 何故そこまでしてノアやゴート、そして一部の眷属達が出し渋るのにはそのベルトに使用されているとある材料に大きな問題があった。

 それがナザリックの住人達に何らかの害を及ぼす事になったら非常に不味い、それを自ら創造したノア自身が理解しているから使う事を控えようとしているのだ。

 ゴートがこの場でベルトの使用が不採用となった旨を伝えたのは、遅かれ早かれ他の眷属達からも同じ事を提案されるであろうと予想していた為、此処でまとめておく事にしたのだ。言い方を変えれば、一々言われるのも手間なので先に手を打っておいたという事でもあるのだが。

 

 

「だが、ベルトが無くとも我らはオルフェノクの王であらせられるノア様が直々に御創造なされた眷属だ。そんな我々が、ベルトが無いだけでその価値を貶められるほどに矮小な存在かね? ノア様が莫大な費用を投じて創られた、この我々が?」

 

 

 眷属達が静まり返る。その目には、ゴートの先程の問いに対して否定を唱えんとする気炎が感じられた。

 

 

「――――断じて、否である。我ら54の眷属達は、皆全てが居並ぶ者のいない強者であると私は信奉している。それを遍く全ての者達は知るべきだ……否、知らしめねばならないのだ……」

 

 

 自ずとゴートは己の拳を強く握り締めた。

 

 ゴートは昔から口惜しんでいた事がある。

 ノアが創造した己ら眷属達は、ノアが莫大な投資を行い、一人一人丁寧に作られた存在だという事を知っている。

 外見だけではない。その戦闘能力もノアの手によって、各々が綿密な計算によって独自の超越的な力を与えられている。

 

 54体の眷属全てにそれを行ったのだ。

 まさに神の御業である。そしてその力で眷属達はこの拠点に侵入した者達を皆等しく捻り潰し、一度たりとも略奪を許してはいない。

 

 

 だからこそ、故に惜しい。

 ゴートは今でも覚えている。己が王がアインズ・ウール・ゴウンの友人達を拠点に招き、我ら眷属の御披露目をした時の事を。

 

 

 

――――見てください、ついに目標の54体全部の眷属のチューンナップが完了しました!

 

――――……すげぇ、本当に作っちゃったよこの人。前々から思ってたけど、ノアさんもようやりますね。どのくらい課金しました?

 

――――あー、詳しくは言えませんが、通帳を見るのが怖くなった時とかありますね。よくゼロの桁が吹き飛んでます。

 

――――うわぁ……どんだけ廃課金やらかしてるんですか。うちもモモンガさんとか結構な廃課金の人がいますけど、ソロで此処までやった人はあまり見た事が無いですね。

 

――――あははは……ただ、ちょっと悔しいって思う事もありますけどね。

 

――――と、言いますと?

 

――――ほら、NPCって結局は拠点防衛用で外に出せないじゃないですか。もし出す事が出来たら、皆さんのいるナザリックの所やいろんな場所へ連れて行かせたかったんですけどね。

 

――――あー、それ何となく分かる気がします。ウチは幸い面積の広いナザリック地下大墳墓ですけど、ノアさんの所はそうは行きませんものね。

 

――――と言うか、ノアさんの事だから全部の眷属連れ出してオルフェノク版の大名行列とかやりそうですね。

 

――――いや、流石にそれはちょっと……。

 

 

 

 詰まる所は、己らノアの眷属達が今まで拠点の外を出る事が全く無かったのだ。

 拠点を守る事もノアから仰せつかった重大な任務であることはゴートも強く認識している。しかし、自分達が外へ繰り出す事が出来れば、もっと我が王の為に役立つ事が出来たんじゃないだろうかという思いが脳裏を過ぎりもした。

 事実創造主であるノア自身、何らかの理由で自分達を外に出す事が出来ずに悔やむ姿を度々見た事がある。眷属もノアも思いは同じなのだ。

 

 

 しかし、その掟が解かれた。

 拠点が謎の移転現象を起こした際、ノアは己の眷属の一人であるローズへ偵察の任を与えたのだ。

 ゴートはその事実に冷静さを装いつつ、内心では衝撃を覚えていた。恐らくそれはゴートだけでなく、他の眷属達も同様の筈。

 

 

 もしかしたら、此処から我々は何かが変わる。

 判然としないが、ゴートは自分達を取り巻く事態がノアを、そして我らオルフェノク達に大きな変化を齎すのではないのかと予測した。

 

 

「……その第一歩が、ナザリック地下大墳墓への訪問だ。未だ訪問メンバーは決定していないが、これはノア様へお伺いを立てて最終的な人数の確認を行い、随時発表とする。その間諸君らには先ほど話をした所作の件で事前のリハーサルをしてもらう。講師担当も選別済みだ」

 

 

 そう言うや否や、ゴートの横にいたローズがずいっと前へ出た。

 両の手を背中で組み、胸を張った姿は実に堂々としている。

 

 

「皆さん、本日よりこのローズが皆さんに完全な作法を習得させ、〝上の上”と呼べるようにして差し上げます」

 

 

 ローズはそう言った礼儀作法の類については眷属達の中でも1・2を争う程に精通している為、今回の抜擢は妥当なものだと皆は思う。

 

 しかし、それに対して「うげ……」と漏らした眷属がいた。

 ローズはその反応を見逃さない。

 

 

「おや、何か不服がおありですか? スネーク」

 

 

 ローズのガラス状の硬質で覆われた顔の中でギラリと光る眼光が、一人の眷属を見つめる。

 

 その眷属は、毒蛇をモチーフに生み出されたオルフェノクだ。

 荒い蛇の鱗の様な外皮を持ち、顔には眼窩の様な穴が5つ、そしてこめかみ辺りからは両側に各1本ずつの計2本の巨大な蛇の牙が顎へと延び、蛇の尻尾にも似た器官が頭部から弁髪のように背中まで伸びていた。

 とりわけ目を引くのは、他の眷属達が神話から現代にいたるまでの戦う者達の姿を模しているのに対し、スネークの姿は白い革ジャンの様な衣装を着込んだロックミュージシャンと言った比較的現代風に近い格好をしている。

 

 眷属の名はスネーク。

 そんなスネークに、眷属達の視線までもが集中した。

 スネークは己の迂闊さを自覚し、ビクッと跳ねては慌てて口元を両手で隠したが、すでに遅い。 

 中には「あ、馬鹿……」とスネークの迂闊さを密かに毒づく者もおり、眷属の大半はスネークに同情するような素振りが密かに見受けられた。

 

 

「あ、いや、違う。今のは……しゃっくりが出そうになったの。だから見逃してくんもごお!?」

 

 

 慌てた素振りで言い訳を述べようとしたスネークの口元に、突如虚空から現れたバラの花びらがこんもりと突っ込まれて沈黙した。

 

 

「……いけませんね、このノア様のおわす神聖なるこの地で、その様な下賤な振る舞いは尚更慎んでもらいたいものです。――――そう、貴方ですよ。先程ゴートさんが言っていた作法のなっていない眷属、その代表格っ!」

 

 

 声色を徐々に強めながらローズがスネークへと指差した。

 

 

 そんな様子を見ていたゴートが静かに、そして困った様に首を横に振っていた。

 

 ローズは眷属達の中では特に完璧を求めようとする所があり、逆にスネークはそう言ったものにとらわれない自由な気質を最も持つ眷属だ。……もう一人、普段何を考えているのか分からない眷属がいるのだが、こちらはノアの為となると突然人が変わった様に忠臣の如く振る舞うので除外する。

 

 二人は反目し合っていたり、嫌悪し合っているする程ではないのだが、ローズの方はどうもスネークのラフさが気になるらしい。

 しかし、スネークをそう生み出したのは他ならぬ敬愛するノアであるわけで、つまりスネークを否定する事はノアを否定する事に繋がるので、ローズは強く言うに言えないジレンマをこじらせていた。

 

 だがしかし、今回ばかりはそれを曲げようとしている。

 非常事態にあたり、ノアの親友が治めるナザリックへノアと共に眷属が赴くので、問題児の一部更生をこれを機にしてしまおうと目論んでいるようだ。

 

 

「出来ないからやらせない、などと言って妥協するのを私は許しません。スネークにはこの際ですので念入りに叩き込ませていただきましょう」

 

 

 強く意気込むローズに対し、スネークは口を花びらで塞がっている為声が出せないのだが、代わりに喉から悲鳴のような唸りが聞こえた。

 

 

「……何ですか?」

 

「も、もっが」

 

 

 スネークは、顔が一面バラの花びらでデコレートされたまま、その場でもごもご言いながら敬礼をした。その言葉をまともに聞き取れる者はこの場にいない。……もしかしたら、適当に何か口にしただけなのかもしれないが。

 

 そんな様子にイラついたのか、ローズが顔に張り付かせたバラの花びらを消した。

 

 

「何ですか?」

 

「もっが。……じゃねぇ! 誠心誠意頑張らせていただきまぁす!」

 

 

 じろりと睨みつけるようにスネークの全身へ視線を走らせていたローズだが、スネークの態度に一応の誠意を感じたのか態度を改め、他の眷属達を見回した。

 

 

「宜しい。そして他の方達も是非心に留めていただきたい事があります。まぁ、私個人のお願いなのですが念の為――――」

 

 

 どろりと粘りつくような重い気配がローズから滲み出はじめた。

 並の人間ならばショック死するのではないかと思われるほどの重圧が眷属達へも届いて行くが、まるでいつもの事だと言わんばかりに僅かな呆れを滲ませながら眷属達は静聴している。

  

 

 

 

「――――くれぐれも、我らがオルフェノクの王、ノア様に恥をかかせる事の無き様、宜しくお願いいたします」

 

 

 

 

 まさしくそれは、狂信者の域を突き抜けた忠誠心が成せる気配だった。

 

 そしてその言葉始めとして、眷属達は行動を開始する。

 想いの度合いに違いはあれども、己の主を敬愛する心は紛う事無く本物なのだ。

 

 

 

 

 

 

(……眷属達が張り切っているな)

 

 

 眷属達が気炎を上げている最中、眷属達が崇拝するオルフェノクの王ことノアは、自室で今後のスケジュールや確認事項について設(しつら)えた専用デスクに座って取り纏めていたのだが、大広間で繰り広げられている眷属達のやり取りをこっそり盗み聞きしていた。

 そこで聞こえる彼らのやり取りと、そこから滲み出てくる自分に対する崇拝の念にちょっとビビっていたりする。

 

 此方の世界に来てからと言うもの、ノアは異常に発達した己の身体能力をユグドラシルの頃との擦り合わせを試みていたのだが、その副産物なのだろうか五感が人間のそれを遥かに超越していた。今ならばそこらへんの適当な山程度なら素手で叩き壊せそうだ。実際ユグドラシルでも似たような事をしていたし。

 この間モモンガと草原で出会った時、夜中であるにもかかわらず昼間の様に視界が暗くなかったし、1キロ以上は確実に距離が離れている所に生えている雑草の葉脈がはっきりと見る事が出来たりした。

 聴覚も同様で、現在の様にノアの自室から離れている大広間の間まで防音処理を施しているというのに、隣で話をされているかのように聞く事が出来る。盗み聞きするのは正直心苦しく思うのだが、能力の確認と心を持った眷属達のやり取りをこっそり聞いてみたいという欲に負けてしまった。

 その結果として、ゲームでは知る事のなかった眷属達の個性を感じる事が出来て、ノアは嬉しくなってもいた。ユグドラシルの頃の努力は、決して無駄にはならなかったのだ。

 

 ……とはいうものの、ローズを筆頭とした眷属達の忠誠心や、狂信っぷりにはちょっぴり引いていた。

 まるでどこぞの宗教の教祖になってしまったかのような心持だ。リアル世界のニュースなどで耳にした宗教間の武力衝突の折に耳にする武闘派達の言い分と重なって聞こる。

 

 

(……だが、それは俺がそう望んだから、そうなったんだろうさ)

 

 

 ゲームの世界だからという事で、ノアはオルフェノクの王に仕える眷属と言う側面も眷属達のキャラ設定に与えている。

 ならばこれは自身の責任なのだろうし、それを理由にして眷属達を嫌うつもりは全くない。むしろ忠実に再現している為に嬉しく思う。

 

 これから末永く付き合う事になるのだから、もっと眷属達を知る必要がありそうだと、ノアはデスクの上に頬杖を突きながら今後の展望をぼんやりと思い描いていた。

 

 それに、ナザリック訪問の日にちが迫っている。

 これは、自分と眷属達の最初の共同作業ともいえるだろう。モモンガやナザリックのシモベ達と手を取り合う前に、まずは己の眷属達との連携を強くしなくてはいけないだろう。何事も足元を固める事が大事だ。

 

 先ほど眷属達のやり取りを聞いている限りでは、ゴートが今後の事についてこっちへ相談に来る筈だ。

 

 ……すると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

 

「ノア様、ゴートでございます。今、宜しいでしょうか?」

 

 

(そうら来た)

 

 

 噂をすればと言うか、何と言うか。早速ゴートがやって来た。

 

 恐らく先程の話からすると、連れて行く眷属達の数についての相談だろう。

 

 

「構わん、入るが良い」

 

 

 ノアは尊大な態度を取る様に努めながら、ゴートへ入室を許した。




――――――――――――――――――――――――――――――
後書き

ローズは比較的アルベド枠です。
忠誠心の具合がという意味で。



※おまけNG (ゴートの回想中にて)




――――ところでノアさんや、このクレインちゃんをもうちょっとエロくしてみねえ? 磨けば輝く娘だと思うのよ。

――――おいペロ公ーー! ウチの娘をいやらしい目で見るなぁーー!! 羽毟り取ってやろうかーー!?

――――……ノアさんって眷属の事になると性格変わりますよね。

――――ほんとほんと、将来子供が出来たら子煩悩になりそうですよね。そういえば家族と言えば、うちのギルドにもいますよね、所帯持ちのリア充が。

――――オルフェノクの王よ、もぎ取るのならば此処のいけ好かない銀ぴかの鎧男などおススメだぞ? ……もげてしまえばいいのだこんな奴。

――――たっちさんは後でついでにじっくり可愛がってやるわ! その前にこのトリ野郎を丸裸にして、ケツからライスブッ込んでやる!

――――うわぁ!? 止めて! クリスマスのメインディッシュになっちまう!

――――っていうか何で私とばっちり!? ウルベルトさんも私を巻き込まないでくださいよ!


 ……妙な会話が思い起こされたゴートだったが、きっとこれらは偉大な王とその御友人にしか理解しえない至高なる智慧が隙間なく詰め込まれているのだろうと思った。


 尚、極めてどうでもいい事だが、当時怒ったノアは発言者であるペロロンチーノに対してとても恥ずかしい体制のロメロスペシャルをお見舞いして、アインズ・ウール・ゴウンのメンバー達の晒し者にしたとか。
 一体恥ずかしい体制とはどの様なものだったのかは、その時現場にいた者達は皆口を固く閉ざして語ろうとはしなかった。


――――これがお前の真の姿だ! 潰される前の鶏の様な悲鳴を上げるがいい!

――――いやああ! 離して! 皆が見ているのにいいぃ!


 ちなみに技をかけられたペロロンチーノはいたく傷心気味だったが、それを姉のぶくぶく茶釜が大爆笑しながらその光景をしっかり保存してネタにしていたそうな。
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