突撃! 隣の地下大墳墓!(巨大な卒塔婆を掲げながら
ナザリックとオルフェノクメンバーのお見合い(!?)です。
オ「あのー……御趣味は?」
ナ「害虫(人間)駆除です」
オ「( ^ω^)ほほーう?」
しかし本格的なお見合い()は次回になるという……。
ノアは自室で時が来るのを静かに待っていた。
石造りの小さな宮殿の様にも見える内装が施された拠点に設けたノアの自室は、王の部屋と称しても遜色のない高級な家具の数々が設(しつら)えてある。オルフェノクの王が寝泊まりする場所が質素では格好が付かないという事で凝りに凝ったノアは、その中で特にノアがお気に入りなのは、いつも利用しているこのデスクセットであった。
オフィス家具で言う所のエグゼクティブクラスの最高級品に部類されるであろうデスクは、ダークブラウンに塗装を施された最高品質の木製材質とデータクリスタルによって、不壊効果と超大容量の収納力を持つ事に成功した逸品だ。
デスクだけではない、それとセットで作られた肘付の椅子もまた最高級品質で作られている。材質は勿論のこと、この椅子は座る人の思考を読み取って自動的に座高等を調節してくれる優れものなのだ。……ゲームなのになぜここまでやったのかと言われれば、ノアの凝り性が原因としか言いようがない。
眷属や様々なアイテムの制作を行った場所は別にあるのだが、アイデアを考える時はいつもこの執務デスクの上から生まれた。言わばノアの生み出した全てが誕生した場所でもある。
その椅子の肘かけに頬杖を突く。そうやって静かにぼんやりする事が大人になったノアには多くなった。プライベートでも人目が付かない所ではこの調子である。
しかし、今はその部屋にノア以外にゴートが側で待機している。いついかなる時でも主人の要望に即座に答えるべく待ち構えるその姿勢は執事の鏡の様だ。
社会人ならば態度的に如何なものかと思われるノアの姿勢も、この場では王の威厳として眷属達には映ってくれているので遠慮なく寛ぐ事が出来た。部屋の中に誰かがいるのは幼い頃から孤児院で経験済みだし、騒がれる事もないため苦にはならなかった。
そんな調子で、ノアもゴートも何一言も発さずに待っている様に見えるが、ノアの頭の中ではモモンガとメッセージでのやり取りが行われていた。
『ユグドラシルの頃はよく遊びに行っていた筈なのに、いざこうしてナザリックのシモベ達から迎えが来るのを待つのって緊張しますね』
『それ言ったら私なんて人を顎で使うなんて事今まで未経験でしたので、此処に来てからありもしない胃がキリキリします……』
『御互い苦労しますね……』
はぁ、と脳内で二人の溜息が交わされる。
ノアがこうしてモモンガとメッセージのやり取りを今行っているのには現状の把握ともう一つ理由がある。
これから行われるノア達オルフェノクによるナザリック地下大墳墓への訪問だが、その際起きるかもしれない予期せぬトラブルへの互いのフォローや、二人で画策していた演出などのタイミング取りなどに利用しようと目論んでいるのだ。
現在はまだ待ちの時間なので、お互いに愚痴ったり世間話をしたりして時間をつぶしていたのだが、それも終わりを迎える。
「ノア様、ナザリックから迎えの者が来ました。現在拠点の入り口前で待たせております」
そばに控えていたゴートが、拠点の外に出させていた眷属から何らかの形で通達を受けたのだろう。ノアへと伝えてきた。
『モモンガさん、迎えのシモベ達が着いたみたいですので、これからそちらへ行きますね』
『了解しました。――――では玉座の間で待っているぞ、オルフェノクの王よ』
『うむ、其処で再び合間見えるとしようか、死の支配者よ』
『……』
『……』
『うっククク……!』
『クフフ……あーもー!』
はっずかしー!
奇しくも二人がメッセージ内で叫んだ言葉が重なった。
何でメッセージでまでやらにゃならんのですか、しょうがないじゃないですかつい興が乗っちゃったんですからもー等と軽口を言い合っている二人だが、もし二人っきりだったら今頃羞恥心のあまりに照れ隠しで引っ叩き合っていただろう。
しかしそんな騒ぎもいつの間にか互いに鎮静化し、居た堪れなくなりながらもメッセージを一時的に切った。このままメッセージを繋げたままにすると、変な所で躓きそうだと直感的に感じたのだろう。
ノアの脳内で起こった新たな黒歴史をおくびにも出さないように、必死に冷静な態度を取りながら椅子から立ち上がり、ゴートへ振り向いた。
「うむ。では、行くとしようか」
ノアが他の眷属達を連れて拠点の外へ出ると、時刻は真夜中の様で、空一面が漆黒の夜空と化していたが、星々の光と月明かりが暗さを感じさせなかった。
そしてノア達の前には、6人の美しいメイドを引き連れたナザリックの家令セバス・チャンが待っていた。
その中には、この間モモンガの供をしていた戦闘メイドもいる。どうやら全員連れてきたらしい。
「お待ちしておりました。ノア様、そして眷属の皆様方。この度皆様方をお迎えさせていただくセバス・チャンと申します。後ろにいる者達は、私の補佐をするユリ・アルファを筆頭とした戦闘メイドのプレアデス達でございます。どうぞよろしくお願い致します」
セバスが綺麗なお辞儀をすると、背後にいるユリと他のプレアデス達もそれに追随してお辞儀をしてきた。
皆洗練された美しい姿勢の礼だ。礼儀作法のお手本にしても良いくらいに完成している。
(へぇ……、ユグドラシルの頃から美人にデザインされているなと思っていたけど、こうしてリアルに動いているのを見ると、本当に美人揃いだな)
特に目を引くのはプレアデス達の美貌だ。
各々の実態はナザリックのメイドらしく異形種であるのだが、擬態しているその姿は人間の感性からすれば絶世の美女と評しても可笑しくの無い美人揃いだ。
夜会巻きにした黒髪とメガネがトレードマークの知的な女性。教師が似合いそうなユリ・アルファ。
二房の赤い三つ編みと褐色肌の健康的な外見に、シスター服のような意匠のメイド服を身に纏うルプスレギナ・ベータ。
色白い肌と黒髪ポニーテールの和風美人といった容貌のナーベラル・ガンマ。こちらは既に見た事がある。
ストロベリーブロンドを腰までストレートに伸ばし、金属のアイパッチや都市迷彩柄の装飾が施された機械の様に無表情なメイドのシズ・デルタ。
目にハイライトが無いのが少し玉に瑕だが、金髪の縦ロールヘアとボンテージの様なメイド服で他のメイド達よりも一際色気が際立つソリュシャン・イプシロン。
一見すると赤紫の髪をシニョンにした和風服姿の美少女だが、よく見ると妙な違和感を感じるエントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。
これら全ての美しいメイド達の本来の役割はナザリック地下大墳墓の第9階層の守護なのだが、どうやらモモンガが気を利かせて出迎え役として使わせてきてくれたのだろう。
何せ、全員男どもの視線が離れる事を許さない美女達だ。そんなメイド達に出迎えられれば、男からすれば本望と言っても良い筈だ。
オルフェノクの体になっても美醜の感覚は人間と同じらしい。
ただ一つ残念な事があるとすれば、そんな美人揃いを目の前にしたというのにノアの心は男として何一つ感じる所が無いという事だ。
現実世界の鈴木輝雄の頃から男女の付き合いと言うものについては全くと言っていいほど執着していなかったが、最低限には男として反応するものは反応していた。過去に何となく興味本位で、そこそこのお金を払って〝そう言う所”で大人の階段は登り済みだが、結局片手で数える程もやらずに其処で興味は失せていた。
しかし此処まで全く反応しないのはやはりあれだろうか。オルフェノクは使徒再生で同族を増やす特性があるので、繁殖に対する感性もガラリと変わってしまったのだろうかとノアは内心首を傾げる。
ノアはそんな事実に気が付きはすれども、「そんなものか」とすぐに割り切っていた。今のノアからすれば、異性の美しさは美術的な感性にこそ働くが、性的な所には全く価値を見出せない代物となってしまった。
そういう理由で、ノアは美しい者達に出迎えられて満更ではないが、それはメイド達を美しい芸術品の様に見ているが故の感情に過ぎなかった為、特に後を引くような事もなく支配者然とした態度で出迎えに応じた。
「出迎え御苦労。しかし、ナザリック自慢の家令と戦闘メイド達を迎えに来させるとは豪勢な事だな」
「お褒めに預かり恐縮でございます。しかし、モモンガ様からはノア様と眷属の方々へ最大限の礼を以て接するようにと命じられておりますが故、当然の事かと存じます」
ノアの言葉に返答するのは、出迎え側の代表を務めるセバスだ。
こうしてノアの言葉にテキパキとしっかり返事を返してくるあたり、セバスの家令としての優秀さの片鱗を感じてしまう。
ナザリックの執事とメイドは凄いなあと感心したノアだが、瞬時に心の中でのみ全力で首を横に振って叫んだ。
うちにはゴート(執事のような眷属)がいる。美しい女性だって、眷属には女性のオルフェノクがいるから何一つ悔しくなんかない。そう言って自身に言い聞かせるノアの姿はまるで、風俗に行きそうになったサラリーマンが妻を思い出して念仏のように唱えるそれだった。
今回ノアがナザリック訪問に連れて行く眷属は40人。
当初はほぼ全員にしようかと言う案もあったのだが、拠点の守りが薄くなるのが怖い為、全体の7割くらいの人員を訪問メンバーにする事となった。
残りの14人は守りに強い眷属達を選定しているので心配は無い筈とノアは思ってはいる。更に反撃用に拠点殲滅というか、攻城担当と言うべき眷属を一人残している。その眷属は、全眷属中でもゴートの次に殲滅能力を有し、最もタフネスな移動要塞の様な奴をだ。
仮に何か問題が起きたら即座に連絡が来るようにしているので、最悪モモンガには悪いが訪問をいったん中止して、拠点へ瞬時に移動する事も視野に入れている。
「ノア様、眷属は皆揃っております」
「分かった。ではセバスよ、案内を頼む」
「畏まりました」
セバス達によって案内されたノア達オルフェノクが到着したのは、ナザリック地下大墳墓の第10階層であり、アインズ・ウール・ゴウンの真の本拠地と呼ぶべき場所、玉座へ繋がる大きな両扉の前だった。
部屋の中は大きく半ドーム状に造られており、至る所に邪悪な造形の像が設置されている。この部屋だけでもかなりの面積だ。
そしてノア達オルフェノクの前にある巨大な両扉は左右の扉がそれぞれ悪魔と女神の美しい彫刻が彫られている。
ノアはこれらの造形を見るたび、ユグドラシルの時と違ってリアルになった事で迫力が段違いになっている事に気付く。
周りに設置された悍ましい形状の像など、置かれているだけなのに今にも襲い掛かってきそうなほどに躍動感に満ち溢れていた。
まさに魔王城の玉座へ繋がる部屋と呼ぶべき場所だ。
もし此処にこの世界の感性の人間がいれば、その非常識な空間に怯えて息を飲んでいただろうが、ノアはそれを感心しつつ良い物を見たなと得した気分になっていた。
ノアは自覚していなかったが、ノアを筆頭としたオルフェノク眷属達の姿もまた、この世ならざる神秘さと禍々しさを内包した超常の存在感を放っていた。
神話の中でのみ存在していると思わせるような灰色の肉体は、各々全く違う姿形を持った異形達。ただその場にいるだけで、まるで世界が違うと思わせるほどの圧力を放っていた。
それを今最も肌で感じていたのは、案内を任せられたセバスとプレアデス達だった。
セバスは顔に出さないようにしていたが、オルフェノクの眷属達、そしてノアの体に秘められた潜在力に驚愕した。
話には聞かされていたオルフェノクの王の実力は至高の41人と同格だというのは、体から滲み出てくる強者の気配がそれを証明している。
そしてその王が生み出した眷属達。各々に秘められたものは自分、そして階層守護者達と確かに同等の力が秘められている様に感じられた。
プレアデス達もまた同様に、いやむしろ表情に出てしまうほどには顔を強張らせていた。
プレアデス達のユグドラシルの頃のレベルは50位であるが、目の前のオルフェノクの王の眷属達が階層守護者達と同等ならば皆レベル100という事になる。
それが、今この場には40名。プレアデス達はモモンガから直々に命令を受けていたが、改めて主の友人である異形の王と、その眷属達が無礼をしてはならない相手だと本能的に感じた。
ノアと眷属達が皆広間へ到着したのを確認すると、セバスが扉の向こうに玉座の間がある事を告げてプレアデス達と一礼した。どうやらセバス達の案内はここまでらしい。
セバス達の動きに合わせたかのように、巨大な扉がゆっくりと独りでに開いていく。
開いた扉の向こう側に広がる物は、ノアが何度もお邪魔した事のある玉座の間だった。
天井は見上げるほどに高く、壁面は美しい白を基調にして、金をメインとした細工が所彼処に芸術的な意匠で施されていた。
天井に吊り下げられた複数のシャンデリアもまた豪華絢爛を絵にかいたような美しさだ。七色の宝石で作られたそれらは光輝き、幻想的な雰囲気を醸し出している。
壁にはそれぞれ41枚の大きな旗が、様々な模様を描いて床まで垂れ下がっている。これは、アインズ・ウール・ゴウンのメンバー達を現したシンボルマークだ。
そしてこの部屋の最奥には一際大きな赤い布が掛けられており、其処にギルドサインが描かれている。
見れば見るほど、凄まじい創り込みだ。
ノアはユグドラシル内の様々な景色やギルド拠点をこの目で見た事があったが、此処まで作り込まれた物はそうは無かった。
これもギルドメンバー達の拘りと、社会人だけで構成されたギルド故に成せるワザだろう。
これだけ見れば、此処が墳墓の最深部にある場所とは想像もつかないだろう。むしろ天上の地に建てられた神々の住まう城と思う者もいるかもしれない。
しかし、この部屋にいる者達の姿がそうではないと否定する。
部屋に敷かれた真っ赤な絨毯を中央に、左側には様々なモンスター達が種族ごとに均等に並んでいた。右側はノア達オルフェノク用のスペースらしい。
モンスター達の数は部屋の大きさも相まって、かなりの数だ。数百は並んでいそうである。
その種類も結構な高レベルの上等そうなモンスター達をチョイスしている。ちょっとしたモンスター博物館の様な様相だ。
恐らく今回の訪問に合わせて厳選してきたのではないだろうかと思われる。
そして、その仕掛け人達と思しきものが、部屋の最奥に座る主の側にいた。
玉座に近づくとそこから階段となっており、その者達はここより上段にいる。
銀髪の美しい少女姿の真祖。
ライトブルーの大柄な蟲皇(ヴァーミンロード)。
スーツを綺麗に着こなすカエル顔の悪魔。
幼いダークエルフの姉弟。
主の側に控える黒髪の美しい美女の姿をしたサキュバス。
皆アインズ・ウール・ゴウンのメンバー達が手ずから作成したレベル100のNPC達だ。いずれも視線は此方へ向けられている。
前にユグドラシルの頃に見た時は機械の様な無機質な雰囲気だったのに、今では表情が見え、各々が活き活きとして見えた。
ノアは、友人の子供が会わない内に見違える程に成長した瞬間を垣間見た様な心持だった。
そして、天井にまで届きそうな程に背が高い水晶で出来た玉座に、このナザリック地下大墳墓の主、モモンガが座っていた。
この間会った時の様に豪奢なローブとギルドアイテムであるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に持ち、悠然と玉座に腰かけている。
どこからどう見ても魔王の威容だ。姿だけならば。
『ノアさん、いらっしゃい』
ノアの頭の中では、友達を自宅にお招きしている青年の様な声が聞こえている。声の主はもちろん玉座に座っているモモンガである。
この様な場でなければ、嬉しそうに手招きしている事は間違いないだろう。実際ユグドラシルの頃にやっていたのだから。
『お邪魔します。相変わらず立派な場所ですね、ユグドラシルの頃よりもうんと雰囲気がゴージャスになりましたね』
『いやぁ、どうもありがとうございます。なんか照れますね』
そういえば、此処のステンドグラスを悪戯で〝誰かさん”がミラーボールにすげ替えて、ノリの良いBGMを大音量で鳴らしながら大量のゴーレム達と踊って皆に怒られていたなあと、ノアはちょっと懐かしい過去を思い返した。
(さて、ここからが勝負だな)
一瞬和やかな雰囲気になったが、此処からはそうもいかない。
御互い恥をかかず、尚且つ成功をおさめられるようにとノアはモモンガへメッセージを送る。
『それじゃあ行きますよ、モモンガさん。手筈通りに』
『了解です。何時でもどうぞ』
大扉が開き、其処から現れた者達をナザリックのシモベ達は視線を集中し、そしてその目を見開いた。
最初に現れたのは、白と灰色の2色の強大なる異形。
飛蝗の様な顔つきの大きな複眼状の目は深い紫色に染まり、虚空を見据えている様な、全てを飲み込む深淵の奥に潜む虚無めいた悍ましさがあった。
2メートルを超えた頑強な肉体は外骨格の様な物質を体の至る所に備え、首に巻き、肩から伸ばした巨大なマフラー状の外套は先端が生物の牙の様な有機的な造形をしており、重力に逆らいながら宙を怪しく漂っている。
醸し出すのは絶対強者の気配。生物の頂点に立たんとするそれはまさしく、自分達が崇拝する至高の41人が持つ気配と同じものであった。
この御方がノア。
死を超越したオルフェノクの54眷属を支配する王にしてアインズ・ウール・ゴウン、そしてモモンガの親友であらせられる御方。
オルフェノクの王は部屋のシモベ達に臆した様子も無く、最奥の玉座に座るモモンガの方を見据えている。
そして、オルフェノクの王が歩き出す。
周りの視線を意に介さずに進みだす王の背後へ続くように、眷属達も姿を現し出す。
その眷属達もまた、只ならぬ存在感を放っていた。
オルフェノクの王のすぐ背後を歩くのは、ヤギの様な姿のオルフェノク。
その眷属の更に背後をバラの様なオルフェノクを中心に、左右を馬とドラゴンの特徴を持つ眷属の3列で形成し、其処から後ろへ列を作って行進を始めた。
眷属達も全く動揺する事無く、王の臣下の如き勇壮さを見せながら皆が全く同じ歩幅と速度で進み、あまりに均一な動きに無機質さすら感じられる。
行進するその光景だけで一部のシモベ達は圧倒される。
己らの住まうナザリックが誇る階層守護者達と同格の威力を感じさせる者が、40人も一糸乱れずに王に追随するのだ。その眷属を率いる王と相まって、この一個集団を容易ならざる強大な相手として認識せざるを得なかった。
たった41人。玉座の間に控えるナザリックのシモベ達の数と比べれば、その差は雲泥の差である筈なのに、その存在感は全く引けを取る事が無かった。
オルフェノクの王達が階段下へと着き、眷属達が左側の空いたスペースへと移動する。それを確認したモモンガの側に控えていた守護者統括のアルベドがモモンガへ声を掛けようとした。
「モモンガ様、オルフェノクの王、ノア様がお越しに……!?」
しかし掛けようとしたその瞬間、己の主から途轍もない気配が放たれた。
この場にいる全ての者達が、その場に頭を地につけてしまいたくなるような重圧に体が震え出した。
これにはオルフェノク54眷属達もたまらず反応する。大きく体制が崩れた者はいないが、それでも僅かながらに列に乱れが生じていた。
「……ふふふ」
だが、この場で全く動じていない者がいた。
オルフェノクの王だ。体を崩すどころか、可笑しそうに笑みを漏らしてモモンガを見ていた。
――そして。
更に、今度はオルフェノクの王からも悍ましい気配と、精神を押し潰すような圧力が放たれ出したのだ。
まるで、魂が消えていくような、怖気とその場に頭を垂らしたくなるような重みがある。
階層守護者およびオルフェノクの眷属達は未だ耐えられる範囲内だったが、それでも体が震え、顔色は悪くなり、脂汗を流す者が現れ始めた。
それ以外のシモベ達に至っては、もはやその場に精気を失いつつある目をしながら跪き始める者が続出していた。
そんな様子を気にも留めず、オルフェノクの王が階段を上る。
その所作に儀式的要素は見当たらず、友人の家へ上がるような気安さだった。
モモンガはノアのその態度に気を悪くする事無く、むしろ嬉しそうに彼の王が上って来るのを見つめていた。
そしてついに、オルフェノクの王はモモンガと同じ位置へと辿り着く。
「ふふ、ははははは……」
モモンガが楽しそうに笑う。
嘲りは無く、蔑みも無い。心の底から友の到来を歓迎するかのように玉座から立ち上がり、手に持っていた杖を宙に浮かせると、大きく両腕を広げて見せた。
「嗚呼、よく来てくれた、オルフェノクの王。我が友よ!」
「この様な状況だ。喜んで会いに行くとも」
二人が、玉座の間で両の手を使い固い握手を交わす。
二人の王が、二人の親友が、心の底からこの出会いを喜び合うかのように。
その場を目撃したナザリックの階層守護者達の中で、特に知恵の回る者達は驚愕する。
――――おお、何と言う事だ。モモンガ様は、我らナザリック地下大墳墓の支配者であらせられるモモンガ様は―――
――――戯れておられる! 莫逆の友との邂逅の瞬間を、対等である事を楽しむかのように、楽しんでおられるのか!
階層守護者クラスのシモベですら跪いてしまいそうになる重圧を放ち、これに耐えられぬ者なぞ友たり得ぬ、そう言わんばかりの力で以て旧交を温め合う。
これは、至高の強者のみが許された他愛のない遊戯なのだ。
その最中に交わされるモモンガの心境を僅かながらも察したアルベドは、眼頭が熱くなるのを抑えるのに精いっぱいになった。
ああ、愛しき御方よ、それ程までに友を欲されるのですか。それ程までに、今の貴方は孤独なのですか。
今の私では貴方様の御心を癒し、空いた隙間を埋め合わせる事は出来ないのですか。
それを成し得るのは今この場では、あの御方一人しかいないというのですか。
アルベドは、今唯一モモンガと対等に接し、対等に苦楽を分かち合い、励まし合う事の出来るオルフェノクの王へ、嵐のように様々な感情が渦巻くのを必死で抑えた。
本能が悔しさと、嫉妬と、憎悪を。理性が羨望と、希望と、納得を。
アルベドは、鋼の意思で以てこれが漏れださないように努めた。暴れ狂う獣を、光の射さぬ鉄格子で囲う様に。
それを悟られてはいけない。今これを知られるわけには行かないのだ。今、愛しい主君は心の底から楽しんでおられる。それを邪魔する事など、あってはならないのだ。
しかし、そんなアルベドの感情を察知した者が、この場において二人いたのをアルベドは気づかなかった。
アルベドが今いる場所から階段下で列をなすオルフェノクの眷属達。
――――ヤギ型オルフェノクとバラ型のオルフェノクの二人が。顔を見ずとも、その暴虐的な思念を察知していた。
『も、モモンガさん? 何か体がヂリヂリしますねこれ!?』
『お、お気持ちは察しますが、此処はお互いのメンツの為に踏ん張りましょ! 私も体に妙な感覚がががが』
そんな己らの配下達のやり取りもつゆ知らず、ノアとモモンガは事前に段取りをしたとはいえ、自分達が発動させたスキルで御互い若干バッドステータスの効果を受けていた。
モモンガはオーバーロードとしての種族スキル<絶望のオーラ>を、ノアはオルフェノクの種族を極めた者が放てる<慈悲なき灰塵の威光>を放ち、御互い支配者らしい雰囲気を放って配下達に印象付けようとしていたのだが、お互い初めて体に掛かるバッドステータスに内心戸惑いを隠せなかった。
ゲームでは只のバッドステータスで終わっていたのがリアルになるとこの様な状態になるのかと、二人は文字通り体感する事となった。
とは言え、お互い身に着けている装備が神器級アイテムで、それによってステータスを大きく底上げしている事で深刻な影響にまでは及ばなかった。その代り、周りの配下達がそれなりの影響下に陥ってしまった訳なのだが。
不敵な笑みを漏らし合う二人の王は、次第にその暴力的な気配を潜めた。
そして握手を終えた二人が一歩距離を離すと、モモンガが片手を上げて魔法を行使する。
するとどうだろう。モモンガが座っていた水晶の玉座の前に、二席のそれぞれ意匠の異なる豪奢な椅子が現れる。
一つは先ほどモモンガが座っていた物を小さく纏めた――とは言え、十分玉座たり得るものだ。
そしてもう一つは、灰の様にも、白亜の様にも見える不思議な色彩を放っており、全体が細やかな意匠があしらわれている。
特に目を引くのは背の造形だ。三本の矢印が互いに絡まり合い、三方向へ伸びるその形状は、オルフェノクの王のシンボルマークでもある。こちらはオルフェノクの王が座るための席である。
この模様はオルフェノクの王の腰部にもバックルとして身に付けられており、それ自体が一個の神器級アイテムとして機能しているのだ。
王だけでなく、眷属達にもやや簡略化した三角形のバックルが取り付けられている。
二人の王がそれらの椅子に腰かけると、モモンガがオルフェノクの王とその眷属達の到来を歓迎した
「我が友ノアよ、そしてその眷属達よ。ようこそナザリック地下大墳墓へ。私は諸君らの此度の来訪を、心より歓迎する」
モモンガの発言が終わるや、ノアが設えた椅子に優雅に座りながらナザリックのシモベ達へ声をかける。
「始めまして、ナザリックのシモベ達よ。私がオルフェノクの王、ノアだ。既に何度か会った事のある者達もいるであろうが、此処は改めて名乗らせてもらおう。そして――――」
ノアの言葉をタイミングに、階下に控えていた眷属達が一糸乱れぬ動きで身を正し、ザッと一気に階層守護者達の方へ向いた。
「私の眷属達だ。これからも顔を合わせる事になるであろうから、良い付き合いをしてくれると嬉しい。今後ともよろしく頼む」
まるで眷属達を手足の様に動かすオルフェノクの王を見ながら、モモンガが隣で微笑ましげに笑う。
「本来ならば諸君らとの邂逅を祝したいところだが、状況がそれを許さぬようだ」
ナザリックの支配者が階下の者達へ厳かに語りかけていく。
「現在我らアインズ・ウール・ゴウンと諸君らオルフェノク達は、各々の拠点ごとに謎の転移現象に見舞われているのは既に知っていよう。そこで私が我が友であるノアと出会う事が出来たのは、この世界で最初に得られた大きな幸運と断言出来る」
「そこで、我々はこの未曽有の事態に対し、万全を期すためにアインズ・ウール・ゴウンとオルフェノク達による同盟を組む事を此処で宣言する」
階下の配下達が死の支配者の宣言に、言葉を語らずとも気炎を上げる気配が高まっていく。
二人の王が手を取り合うのだ。そして、オルフェノクの王の眷属達54人は全てがナザリックの階層守護者達と同格の力を有していると言う。
凄まじい同盟となるだろう。そしてこれは、ナザリックとオルフェノクの歴史始まって以来の出来事となるに違いない。配下達は、そんな確信にも似た予感があった。
「今後諸君らが任務を遂行するに辺り、オルフェノクの眷属達と協力する場合が出てくるであろう。そのような時は、各々の長所を活かしより良い成果を出してくれる事を我々は期待している」
「今回の来訪は良い機会だ。これを機に、我が眷属達とナザリックのシモベ達で交流を行うがいい。私とモモンガは、今後の方針について話す事があるので彼の執務室へ向かう……よろしいかな? モモンガ」
「ああ、それで良いとも。だがその前に……」
モモンガが階下に控えるシモベ達を見やる。それにノアも合わせ、互いに己が眷属達に支配者としての言葉を投げかける。
「我がシモベ達よ!」
「我が眷属達よ!」
二人の王が、己の配下へ問いかける。
モモンガは髑髏の眼窩の奥で輝く赤い眼光を輝かし、ノアもまた、底の見えない紫色の複眼を怪しく光らせた。
――――お前達が今、我らに見せる忠義とは何ぞや? と。
その言葉に、この場にいる全てのシモベ達が跪いた。
その姿勢を以て、先ずは一つの忠義を示すかのように。
「ナザリック地下大墳墓内の階層守護者、及び全てのシモベ達と共に、ノア様とその眷属達と力を合わせ、この現状の打破に努めさせていただきます」
ナザリックの守護者統括である美しいサキュバスが、その外見に違わぬ美声で以て答える。
「同じく、我らオルフェノク54眷属は、モモンガ様率いるナザリック地下大墳墓のシモベ達と協力し、任務を全うする所存にございます」
オルフェノクの眷属統括たるヤギ型オルフェノクが、厳かに主達へと告げる。
配下達の意思を聞き届けた王達は、配下達の真意を探る様にねめつけるような視線を向けるだけで黙して語らない。
しかし、暫くするとモモンガの髑髏顔の口元が笑みを浮かべるかのように歪み、配下達へ口を開いた。
「宜しい、ならば我らは諸君らのその忠義と今後の活躍に期待しよう」
そして二人の王はそのまま玉座を後にし、今後の方針について話し合うべくその場を後にした。
二人の王、ノアとモモンガは悠然とその場を退出し、自分達以外に気配が無い事を確認できる場所まで着くと、逃げるようにモモンガの執務室まで全力で走った。その姿に、先ほどの支配者としての威厳は何処にもない。まるで悪戯がばれるのを恐れて逃げる子供の様だった。
その間、二人の間にメッセージも含めて会話は全くない。しかし随所の行動はツーカーの如き連携だった。
メイド達の姿を目にすれば、絶妙なタイミングで支配者らしい余裕の態度を取り、深々と礼をする彼女たちを通り過ぎ、そして執務室まで到着する。
鍵をかけ、広い面積を誇るモモンガの執務室の奥、モモンガのデスクがある場所まで着いた時、二人はその場で倒れ込んだ。
「お、おわったぁ~!」
「お疲れ様ですモモンガさん……ひとまず最初の問題はクリア、でしょうかね」
二人は支配者の仮面をかなぐり捨て、プレイヤーとして一気に緊張を解きほぐし、互いを労った。
二人が思い浮かべるのは眷属達の自分達へ向ける視線だ。
ノアは拠点ではそこまで気にならなかったのだが、こうして襟元を正して支配者と配下の関係を強調させてみると、此処まで変わる物なのかと驚いた。
「……一応、成功って言う事で良いんでしょうかね?」
「……恐らくは。眷属達には可愛そうでしたが、あそこでスキルを使って支配者らしい印象を与えたのは間違ってはいないと思います」
ノアが思い出すのはスキルを使った時の各々の配下達の反応だった。
震える体を無理やり正そうとする様子は、間違いなくスキルの影響下にあったのだろうと予想する。
恐怖で相手を縛るつもりは無いのだが、NPC達が此方を支配者として扱うのならば、舐められない為にという意味もかねて威厳を見せつけたのは良かったはずだ。
あの時のノアとモモンガのメッセージは結構焦っていた。
やれやりすぎたんじゃないだろうかだとか、タイミングを合わせますよ、せーのっだとかせせこましくメッセージを交わして支配者を演じていたのだ。
そして、ようやく終わった。
「……これから、どうなってしまうんでしょうか。私達は」
モモンガがこぼしたその言葉に、ノアは何か気の利いた事を言おうとしたが、下手な慰めが果たして良いのだろうかと思い悩んだ。
何せ過去に類を見ない事態だ。有史以来どこの人間がネットゲームを介して異世界へと行くのであろうか。
そこでふと、自分のリアルの実情を思い返した。
リアルの自分はどうなっているのだろうか?
もしかしたら、意識がなくなって植物人間にでもなっているのか、はたまた死んでしまったのかもしれない。
今務めている会社内では、もしかしたら大騒ぎになっているかも知れない。
学生の頃から社会人になってしまったノアこと鈴木輝雄だが、勤め先では今現在そこそこの地位に就かせてもらっている自覚はそれなりに、ある。そのおかげでユグドラシルでは他のプレイヤー達よりも重課金をする事が出来たので、そこは有難く思ってはいる。
しかし、それだけだ。充実しているかと思えば、そうでもない。
稼ぎが良いのは嬉しいが、社内では他人を蹴落としてその地位を手に入れようとする派閥争いだとか、権力争いで周りはギラギラしていてうんざりしていた。きっと今頃忌々しい奴がいなくなり、偶然空いたポストを狙って馬鹿馬鹿しい争いを水面下で行っているやもしれない。
私生活に至ってはもっと酷い。
仕事の時は、給料の為に社交性を前面に出していた事でそれなりの人間で通していたが、プライベートは知る人からすれば「まるで生活感の欠片も無い」と言わしめる程に何もなかった。
異性への興味や恋と言った性関係の類は早々に枯果て、趣味もネット環境が揃えばそれだけで事足りる程度。はっきり言って、一体何を喜びとして生きているのか自身でも全く分からなかった様な状態だった。
それに比べて、今はどうだろう。
鈴木輝雄の数少ない娯楽として楽しんでいたユグドラシルのアバターとなって異世界へ飛ばされ、其処で新たな生命として存在している。
それに友人のモモンガが、そして何より、眷属達がいる。自信がなけなしの感性と可能な限りの財産を衝動的につぎ込んで生まれた、あの眷属達が。
そして今自分は、その眷属達と生きて行くために、精力的に動こうとしている。
実に結構な事だ。鈴木輝雄だった頃の灰の様な人生に比べれば、随分と活力を感じる。
鈴木輝雄は、あの幼い頃の火災事故で死んだのだ。あの時、燃えて死んだ両親と共に。
今までこうしておめおめと生きながらえていた男は、鈴木輝雄の燃えカス。いわば、灰だ。
……どこぞの文献曰く、不死鳥は灰の中から蘇るという。
……しかし灰から蘇ったのは、不死鳥ではなく、全く別の怪物が出て来る事もあるのだろう。
それが、今の鈴木輝夫の残滓(ノア)なのだろう。
ノアは勢いよく体を起こし、その反動で飛び跳ねる様に起き上がった。
そんな様子に隣で地べたに寝転んでいたモモンガがびっくりして上体をお越し、何事かと眼窩に収まる眼光をぱちくりさせてノアを見ていた。
突然の出来事に驚かせてしまったかとノアは頭をかきながら苦笑した。
「ああ、いや、まあ。今後も色々と問題が出て来るとは思いますが、気を改めて頑張りましょうよ。少なくとも、今の状況は最悪ではないでしょうから」
今の自分達には拠点があり、豊富なアイテムがあり、期待の出来るNPC達がいる。
気さくな様子で話すオルフェノクの王の姿に、呆然としていたオーバーロードも苦笑を返して立ち上がった。
「……ノアさんってぶれないですよね」
「そうですか?」
「そうですよ。いざっていう時、いつも狼狽えたりしないでさも普通に振る舞っている様に見えます」
「何も考えてないかもしれませんよ」
「でしたら其処まで拠点や眷属を育てられませんって」
「……なら、その期待を裏切らないように頑張ってみます」
ですから、今後もよろしくお願いします。
そうモモンガへ振ると、嬉しそうに答えてくれた。
こちらこそ!
そう言って二人の異形は締まらないながらも、改めて己のパートナーと握手を交わした。
後書き
このセリフは臭かったかなあとか、こういった演出はどうなんだろうと思いながらの7話でした。
それとここで懺悔を一つ。
今回の訪問には、某皇帝訪問のシーンを参考にさせていただきました。
想像力の足りないわが身をお許しください。