オーバーロード異伝 異形の天使たち   作:そよ風ミキサー

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前半は幹部怪人たち+α(!)の交流会です。

シモベ視点「あそこに良さげなお店(国)があるんですよ。ちょっと遊びに行きませんか?」

人間視点「次はあの国を根絶やしにしてやろう」


第8話 幹部達は戯れ、首領達は知恵を絞る

 二人の支配者達が退出した玉座の間には、オルフェノク54眷属達とナザリックの階層守護者及び、アインズウールゴウンのメンバーが直接創造した領域守護者達も含めたシモベ達が相対していた。中には此方へ来る事の出来ないものもちらほらといる。

 先程までいたモンスター達は既に持ち場へ戻らせている。ノアとモモンガの暴威に晒され機能不全に陥った者もいたが、それは他のモンスターの手を借りて運ばれている。

 

 しばし沈黙が流れていたが、先に場の空気を換えようと動き出したのは各陣営のトップのシモベ達だった。ナザリックのアルベドと、オルフェノクのゴートだ。

 

 

「さて、御二方からこうして交流の場を与えてくださったのですから、我々もお互いを知る意味も兼ねて、挨拶から始めてみませんか?」

 

「その通りですね。今後、長い付き合いとなるでしょうから」

 

 

 穏やかな声色で切り出した二人の異形。

 互いが声の主に視線を向けると、小さく笑みを作った。

 切り出しは互いに敬語だった。初対面で、なおかつ互いの主同志が親しい友人同士という事もあって、無碍な態度はとれないと感じたのだろう。

 

 

「失礼、私はオルフェノク54眷属の一人、ゴートと申します。今後とも宜しくお願いいたします」

 

「これはご丁寧にありがとうございます。私はこのナザリック地下大墳墓の守護者統括を務めさせていただいているアルベドと申します。こちらこそ宜しくお願いいたしますわ」

 

「御互い、主こそ違いますが、今後とも良い関係を築いていければと思います」

 

「その通りですわね。お話によれば、貴方もノア様の眷属の統括を務められているとか」

 

「ええ、ですがこうして同じ立場の方と話をするのは初めてでしてね、柄にもなく緊張してしまっているのですよ」

 

「ふふふ、御冗談を」

 

 

 口元を抑え、たおやかにアルベドがほほ笑む。

 その淑女然としたアルベドの姿を、近くにいたシャルティアが気色悪い生物を見たかのような形相で見ていたりするが、幸いそれを知っているのは隣にいたアウラだけだった。

 

 そうして、先駆けとしてゴートとアルベドのペアが出来上がり、お互いに自己紹介から世間話へと移り、会話の花を開かせていった。

 だがしかし、その内心では互いの心理を悟られぬように、相手がどのような人物なのかを探ろうという水面下の攻防が静かに幕を切っていたりもするのだが、それは当人達しか知り得ない事である。

 

 

 こういった場面で最初に生まれる沈黙は、何処か一組でも会話が成立すると、意外な事に雪崩式に他の者達も会話をしだす傾向が無きにしも非ずだが、先の二人が上手く切り出してくれたおかげで、他のシモベと眷属達も能動的にコミュニケーションを取り始めた。

 

 こうして此処に、ナザリックとオルフェノク達各配下による交流会が開かれる事となった。

 

 

 最初は双方共に御互いの様子を伺っていたが、いざ話し始めてみれば拍子抜けするくらいに交流の方はスムーズに進んでいた。お互いの主の仲が良いので、気を使っていた所もあったのだが、これは皆予想外だった。

 

 

 早速親しくなった者達もいる。

 

 一例を上げれば、狼型オルフェノクのウルフと、双子のダークエルフの姉のアウラだ。

 最も、アウラの方が真っ先に狼の姿を模したウルフに興味を持って絡み出し、それを面倒くさそうにしつつも何だかんだで律儀に返事を返しているという形ではあるが、何だかんだで相性は悪くは無い様だ。

 ちなみに出遅れたもう双子の片割れの弟は、姉を追いかけようとした際に衝突した気弱そうな鶴型の女オルフェノクとそりが合った様で、其方は其方で異種族との交流を楽しんでいた。

 

 他にも、バラ型オルフェノクのローズと第7階層守護者のデミウルゴスは趣向が似通った所があるらしく、主人に対する忠誠の在り方やその他の論議が白熱して周りがちょっと引き気味になっていた程であった。

 そんな訳で、熱く語り合って有意義な時間を過ごした二人は艶やかな笑顔で握手をしていたりもしたとか。

 

 

 

 

 

 

「済マヌガ。貴殿ノ名ハホース殿で間違イハナイカ?」

 

 

 そう話しかけたのは、第5階層守護者である巨大な蟲皇のコキュートスだ。普段常備しているハルバードは置いてきている。

 コキュートスの2m50cmもあるライトブルーの巨体はとても目立つ。歩くだけで周りの目を引き、自ずとコキュートスが話しかけた相手も視線に晒される事になった。

 

 話しかけられた相手は、家令のセバスと話をしていた馬型オルフェノクのホースだ。生真面目な性格同士という事で話が合ったらしい。

 セバスはコキュートスの近づく様子に気付いて会話を中断し、気を聞かせてその場から一歩引いて二人の会話の場を作った。

 そんなセバスの様子を見たホースは、この家令が近づいてきた蟲の異形へ気遣ったのだろうと察し、その要望に応えて蟲の異形へ応えた。

 

 

「む? 確かに私はホースだが…………おぉ!?」

 

 

 重い足音と共に歩み寄り、感情の見えない蟲独特の顔つきで名を訪ねてきた事に首を傾げていたホースだったが、言葉をかけてきた相手の威容に思い当たる人物がいた。

 

 

「その冷たくも静かな闘士を漂わせる姿、もしや貴殿が第5階層守護者のコキュートス殿か?」

 

「私ノ事ヲ知ッテイルノカ?」

 

「貴殿の事は、我が王や拠点へおこしになられた貴殿の主、武人建御雷様から良く聞かされていた。〝いつかその武を競わせてみたい”、とな」

 

 

 

――――どうです建御雷さん、私の眷属にも武人キャラが出来ました。

 

――――ほほお、見た所騎士の様にお見受けしますが?

 

――――ええ、オルフェノクの王を守る騎士としての使命を与えられているという設定でこのような姿にしました。頭の形はチェスを参考にしています。

 

――――ふーむ、確か、複数の形態があるんでしたっけ?

 

――――……えぇ、プログラミングするのとデータ容量を増量させるのに凄く手間取りましたけれど、会心の出来ですよ。

 

――――なんの、そっちは形態で手数を増やしている様ですが、うちのコキュートスだって手数〝でも”負けませんよ。

 

――――……出来れば、並んでいる姿とかちょっと見て見たいですね。

 

――――それで模擬戦とかやってみたいですね。

 

――――あ、良いですねそれ。ナザリックのコロッセオとかまさにピッタリじゃないですか。騎士と武士の闘いみたいで面白そうですね。

 

――――ははは……まぁ、NPCが外に出せない以上、運営がそんなパッチを用意してくれるのを期待するしかないんですけどね。

 

――――嗚呼……やっぱりそうなりますよね。

 

 

 

 何時か聞いた二人の会話がホースの脳裏で思い起こされる。

 

 そして今、こうして己の主の願いの一端が叶えられた。

 だが、コキュートスの方は創造主の武人建御雷が長い間姿を隠してから未だに戻ってきていない。

 その為、この邂逅を素直に喜び合うべきか判断に迷う所であった。

 

 

「……ソウカ、私モナザリックヘ来ラレタノア様ト我ガ創造主ノ会話カラ貴殿ノ事ヲ知ッタノダ」

 

「う、む、そうか」

 

 

 コキュートスも何か思う所があったのか、些か遅れながらの返事をホースへ返したが、それに対してホースはうまい言葉が浮かばず曖昧な相槌を返してしまった。

 もし此処に武人建御雷がいれば、いつぞやの約束を果たすために、王と共にコキュートスとホースに模擬戦を命じ、二人のシモベは互いの誇りを以て相対していたに違いない。そしておそらく、勝敗の是非に関わらず互いに武を称え合い、良きライバルとなっていたのではないだろうか。

 

 

「貴殿ハ優シイノダナ」

 

「コキュートス殿?」

 

 

 思いもかけないコキュートスの言葉に、ホースは馬の顔の様な外殻の奥で目をぎょっとさせた。

 

 

「我ガ創造主、武人建御雷様ハ貴殿ノ事ヲ誉メテオラレタ」

 

 

 それだけ言うと、コキュートスは顔を伏せてしまう。

 一体何事だろうかと様子を伺うホースを前にして数秒、冷気のこもった吐息を大きく吐き出して、再びコキュートスは顔を上げた。

 

 

「……嗤ウガイイホース殿。今、私ハ貴殿ニ嫉妬ヲ覚エテイルノダ」

 

 

 その発言に、周りにいたナザリックのシモベ達は驚いて会話を中断し、コキュートスの方を振り向いた。

 

 至高の御方によって創造されたその身に一体何が不満だというのだ。

 それとも、今の現状に不満があるというのか? モモンガ様の治める、このナザリックに?

 そんな想いを込めた疑問と非難が合わさった様な視線が、僅かばかり同じ階層守護者達から向けられている。

 

 コキュートスは鈍い男ではない。勿論仲間達から向けられている視線と、内包された感情に気が付いていた。

 

 

「モモンガ様ガ治メルコノナザリックヘノ不満デモ、マシテヤ武人建御雷様ニヨッテ創造サレタコノ身ニ思ウ所ガアルナド決シテ無イ」

 

 

 ならば何故かと物言わぬ視線は困惑を交えてコキュートスへと注がれる。

 

 

「此処ニ、武人建御雷様ハ居ラレナイ。ダガ、貴殿ラハ創造主タルノア様ト共ニアル。…………」

 

 

 それが、酷く羨ましかった。

 その言葉が不敬に当たると思い、コキュートスは拳が軋むほどに握り込んで無理やり飲み込んだ。

 今の自分は、武人建御雷達が作り上げ、モモンガの支配下で仕えるナザリックの階層守護者なのだから。

 

 

 いつの間にか静まり返ったその場で独白するコキュートスの話を聞いていた階層守護者達や他のシモベ達は、複雑な心境だった。

 シモベ達は皆、自分の創造主がいてくれたらどれだけ喜ばしい事かと思わなかった者はいない。皆、言葉にしないだけで同じ気持ちだったのだ。それを今回、コキュートスがこの様な形で代弁したに過ぎない。

 

 

「……私ハ他ノ仲間達ヨリモ言葉ヲ飾ル事ガ苦手ダ。手合セトシテ武ヲ交エレバ語レル事モアルダロウガ、コノ場デソレハ求メラレテオラヌ」

 

 

 様々な感情の果てに溢してしまったものが、先の言葉へと繋がるのか。

 

 ホースはコキュートスが言葉を紡ぐ最中、一度も口を開くことなく彼の不器用なシモベの話を静かに聞き続けていた。

 そして一区切りがついた所で、ホースが口を開いた。

 

 

「……主への忠誠の前では不器用にならざるを得ないと見えるな、御互いに」

 

 

 ホースはコキュートスの独白を聞いたうえで、蔑みの感情を表さなかった。

 そのかわりに、苦笑気味な声が漏れた。

 

 

「己を卑下なさるなコキュートス殿。仮に私が貴殿の立場であれば、きっと動揺して酷い醜態をさらしていただろう。あくまで可能性の話を前提にしてしまうが、それに比べればコキュートス殿、貴殿の有様はずっと立派だよ」

 

 

 ホースとて、この謎の転移現象の前後でノアが発した言葉に自分達が捨てられるのではと勘違いし、狼狽してノアに呆れられた事があるのだ。はっきり言って、他人に偉そうな事を言える立場ではないのは自覚していする。

 というのも、あの後他の眷属達から勘違いによる失態をなじられ「馬頭」だの「馬刺しにしてやろうか」だのと散々小突きまわされながら罵倒を受けて酷い目にあったのだ。

 

 ホースがコキュートスの肩を手でポンとたたいた。頭一つほど体格に違いがあるが、それでも不格好な様にはならなかった。

 並の人間ならばそれだけで凍結して肉体の細胞が壊死してしまうが、ホースは手にひんやりとした感覚が伝わるだけだ。

 

 

「今日はいい機会だ、こうして巡り合う事が出来たのも、我らの主の御導かもしれない。共に色々と語り合おうじゃないか」

 

 

 それだけの時間は十分にあるのだ。

 

 そしていずれは、主が、そして我らが願った武の競いをしようじゃないか。

 

 そう言ったホースの言葉に、沈黙を続けていたコキュートスが静かに笑い声を漏らした。

 

 

 

 この日行われた両陣営のシモベ達による交流会は、互いの仕事に支障が出ない程度にまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 所変わって此処はナザリック地下大墳墓の第9階層にあるモモンガの自室。

 その部屋へ逃げ込んだノアとモモンガは、休憩がてらだらだらと世間話をした後に、これからの方針を暫定的にでも固めておこうと早速話し合いを始めていた。未だ完全に落ち着ける状況ではないのだ。幸いお互い疲労は感じないので、厄介な問題の解決に思考をシフトさせた。

 

 今二人はモモンガの自室にある応接セットに腰かけ、互いに顔を突き合わせてあれこれと現状の問題点と解決する内容の優先順位を決め合っていた。

 

 

「やはり最優先事項の課題は近隣の環境と知的生命体の調査。これはまず確定でしょうか」

 

「ええ、特に知的生命体との接触は理想的に言えば急務だと思います。彼らと情報交換が出来れば、それだけ現状の把握もスムーズに済みますし。ただ、問題もあります」

 

「我々の今の体が異種族である事、ですね?」

 

「其れなんですよね。此処がユグドラシルみたいに異種族狩りが横行していたりするような場所でしたら、呑気にやって来た私達は良いカモですよ」

 

「更に言えば、私達以外のプレイヤーが此処へ来ている可能性も十分にあります。相手が友好的なら良いのですが、敵対姿勢なんて取られたら相手次第では厄介どころではないですよ」

 

 

 二人の間に置かれた応接テーブルには、大きな用紙が広げられ、互いに思いついた問題点がこれまた同じく置かれている黒いマジックペンで書き足されていた。ペンと紙については、ユグドラシル時代からあったアイテムなので、アイテムボックスの中で眠っていたものを掘り起こしたのだ。

 現代社会でサラリーマンをしていた二人は問題点を口にしただけで済ませるような事はせず、何かに残しながら後で確認が出来る様にこの様な形で二人だけの会議を行っていた。

 

 

 ノアは白と灰色の外殻で覆われた禍々しい片手の指をこめかみに添え、もう片方の手に持ったマジックペンを逆さにして紙面の文字を確認するようになぞる。

 対するモモンガは、問題点を乱雑に書き足してある用紙を両ひざに手を置きながら静かに見下ろしていた。

 

 

「……あ、その前に私達の拠点を隠さないといけませんね」

 

「あ、ああーそれがありましたね。……うーん、ナザリックの方は表層の建造物を魔法で外壁に土を被せて擬態を試みてみましょうか? 建物自体は幻覚で私達以外には認識できないようにするとか」

 

「流石に平原に土の壁があるのは不自然ではないでしょうか? せめて土を盛り上げて複数のダミーを作った方が良いかもしれません。ついでに土の表面も植物を生やしてそれらしくしたら、より自然に溶け込めると思うのですが」

 

「あ、その案いただきます。ノアさんの方はどうしますか?」

 

「私の所は幸い表層に建造物がある訳ではないので、地下へ繋がる入り口さえ擬態出来れば、後は同様に幻覚や緑化を駆使すれば何とかなるかと。念のため、私の方でもダミーは考えています」

 

 

 ノアの拠点はいわば地下施設の様な様相を呈している。

 ユグドラシルの頃は険しい山脈地帯の岩肌に隠れて地下への入り口が隠され、そこから拠点へと繋がる通路があるのだ。

 幸いな事に、此方の世界へ転移しても拠点は地下にあるため、モモンガの所のナザリック地下大墳墓ほど労力を費やす必要はなかった。

 

 

「そうなると、結構な範囲の地形が変わりそうですね」

 

「いっその事、この近辺を森にでも変えてみますか?」

 

「しかし、それでは余計違和感がありませんか? つい数日で森が出来るなんて、常識的にあり得ませんよ」

 

「うーん……森で表層をダンジョン化でもすれば良い目隠しになるかと思ったのですけど、流石に早計でしたかね」

 

「私も考えたのですけど、急に現れた森林地帯を怪しんで丸ごと吹き飛ばすなんて事をされたら目も当てられませんよ」

 

 

 ノアは森林化を提案したが、モモンガが言う通り不安要素があるため却下された。

 この世界の戦闘能力が如何程か分からないが、もし現代世界並の科学兵器や想像だにしない大破壊を行える魔法などがあるかもしれないのだ。そう思えば、下手に目に付きやすい事は控えた方が良いだろうとノアも納得している。

 

 

「この世界の戦闘能力が分かればもっと選択肢が明確になるんですけどね……」

 

 

 知的生命体を探すうえで知るべきなのは、この世界の戦闘力の調査も同時に必要となって来るのだが、その方法で行き詰った。

 誰かシモベに偵察を頼む手も考えたが、予想外の事態で死亡する事があっては元も子もないのでこれは最後の選択肢だ。

 かといって通常モンスターはどうかという案もあったが、モンスター達では知能や能力面で不安があったためこれも却下であった。

 

 ぼやくモモンガに、ノアがアイテムボックスからとあるアイテムを取り出した。

 

 

「そこで思いついたのですが、これなんてどうでしょう?」

 

 

 取り出されたのは、1メートル程の鏡だ。

 これは、ポイントの指定が出来ればどんな距離でもその箇所の風景を映し出す事が可能なアイテム、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)だ。

 その性能は一見するととても便利の様に見えるが、対情報系魔法で簡単に防がれるし、攻勢防壁で反撃を受けてしまうのでノア達ほどのレベルになると非常に微妙なアイテム扱いになっていた。

 

 

「それですか……うーん逆探知されると非常に怖いですけど、代案が無いですしねぇ……」

 

 

 顎に手を添えて唸るアインズであったが、他に良さそうな案が思いつかなかったので、この案を可決する事にした。

 

 

「では、これでいってみますか?」

 

「それしかないでしょうね。念の為、私の方で逆探知対策は施しておきますので、私達で二手に分かれて別々の地域を見るという事にしましょうよ」

 

 

 そうして、二人は疲労も感じられない事もあって、そのままアイテムを使って近辺の調査に乗り出す事にした。

 

 

 

 

 

「ノアさん、何か見つかりましたか?」

 

「青々と生え茂った草原に離れた場所には山、それと美しいお空って所ですかね」

 

「……成果なし、ですか」

 

 

 二人で慎重に近隣をマジックアイテムで調べているのだが、あまり良い成果は得られていなかった。

 鏡のアイテムには俯瞰した視点で雄大な自然が映し出されているが、既にこれをノアとモモンガは数時間にわたって見続けていた。

 

 当初はもといた世界では決して見れない光景に感嘆の声を上げて楽しんでいた二人だが、流石に此処まで全く変わり映えのしない物を延々と手を動かしながら見せられていると精神的に消耗しだしていた。

 外は夜から明朝へと差し掛かり始め、風景の向こう側から太陽が僅かに顔を出して世界に光を注ぎ始めようとしていた。

 

 

「……この姿になっても徹夜で仕事をする事になるとは、つくづく社畜根性が身に染みているなぁ」

 

「一応、私達って社長みたいな位置なんですよね。そんな私達が社畜根性ってどうなんですか」

 

「やあ人間のみなさん、いつか有給を取りたいオーバーロードのモモンガです。そして有給取ったら、お墓で運動会をするんだ……」

 

「モモンガさん、本当に大丈夫ですか?」

 

 

 この場にシモベは誰も入れていないので、二人は徹夜明けのテンションで言いたい放題であった。

 実際シモベ達が何度か入ろうとしたのだが、妙なテンションと苛立ちによって二人揃って「やかましい! 今取り込み中だから外で待ってろ!」とうっかり怒鳴りつけてしまい、あとで部屋の外を確認したらシモベ達が死刑宣告を受けた罪人の様な顔をしていたので、取り繕うのにとても苦労した。

 

 だが、二人を悩ませているのは延々と映し出される風景だけが原因ではない。その操作方法にも問題があった。

 

 鏡の面に指を滑らせて移動、つついて拡大、掌を広げて縮小。

 独特な動きをするため二人はそれに四苦八苦していた。

 

 

「こうも知的生命体が見つからないとなりますと、もしかして、私達がこの世界の最初の知的生命体になったりしませんか?」

 

「アダムとイヴ的な?」

 

「……この場合どっちがアダムでイヴなのかは、敢えて訊ねない事にしますよモモンガさん」

 

「どーせ骸骨にお嫁さんなんて不要ですよだ……」

 

「んー、アルベドなんてどうでしょうか?」

 

「あべぇ!?」

 

 

 何気なく言ってみたノアの言葉に、モモンガが素っ頓狂な声を上げて態勢を崩した。

 その反応をみて、ノアはもしかして脈ありなのか? と思い、不快にならない程度に突っ込んでみる事にした。

 

 

「ほら、アルベドって確かナザリックのシモベ統括でモモンガさんに一番身近な女性じゃないですか。公私合わせてアルベドに支えてもらうっていう選択肢もあるのかなーと思いまして」

 

「あ、あああいやあのその」

 

 

 モモンガが見るからに狼狽えだした。骸骨顔なので表情が良く分からないが、もし人間の頃だったら脂汗を滝のように流していたのではないだろうか?

 それをノアは意中の相手を知られて動揺しているのだと判断したのだが……。

 

 

「その反応からして、もしかして気があったりしますか? まぁ、美人ですものねアルベドって。でも確か設定でビッチになっていたはずじゃ――」

 

「うわあああああ」

 

 

 突然モモンガが絶叫し、頭を抱えて応接テーブルに頭突きまがいに突っ伏した。

 ごん゛っ! と丸出しの頭蓋骨が上品な応接テーブルにぶつかって良い音をたてるので、これにはノアも面喰ってしまった。

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさいタブラさん許してくださいいぃぃ……!」

 

「お、おぉ、モモンガさん? どうしたんですか一体?」

 

 

 モモンガの突然の様相にノアも焦り、モモンガの両肩に手をやり上体を起こした。

 体を起こされたモモンガは顔を両手で覆い隠し、羞恥のあまりか顔を左右に振り始めた。

 魔王みたいな姿をしたアンデッドが恥じらう乙女みたいな仕草をするのは、流石にシモベ達には見せられないなぁと、ノアは妙に冷静な部分でそう思ってしまっていた。

 

 

「突然どうしたんですか? 何かアルベドとあったのですか?」

 

 

 モモンガの狼狽えっぷりから、まさか既に〝お手つき状態”になっているのだろうかとあの控えめなモモンガさんらしからない可能性を予測したが、どうも様子がおかしい。

 

 

「違うんですノアさん。私は、ああ……何と言う事を」

 

 

 テーブルに手を突き頭を下げるその様は、契約履行後に提供した商品に不具合があって謝罪に来たサラリーマンの様だった。

 

 

「ま、まぁまぁモモンガさん、落ち着きましょう。こういう時は落ち着く事が大切ですよ?」

 

 

 理由は分からないが、どうもただ事では無いように見えたノアは、ひとまずモモンガの鎮静化に努めた。そして、こういう時こそ自分達のスキルで鎮まってくれないものかと思ってしまう。

 

 ノアとモモンガは自分のアバターに精神異常無効化があるため、この世界では精神的な大きな高まりが起こると強制的に鎮静化する現象が起こるのだが、どうも今のモモンガはそこまで精神的にキているわけではないらしい。

 それでも傍から見ても明らかに参ってしまっている様だ。

 

 とりあえず、少しモモンガが落ち着くのを待とうとしたノアだったが、そこでふと手元のマジックアイテムが視界に入った。

 そこで、ある事に気が付いた。

 

 

「モモンガさん」

 

「うぅ! 嗚呼……やっぱり、許されませんよねこんな事……」

 

「違います違います。こっちですよ、マジックアイテムの方ですよ」

 

「へ?」

 

 

 何を勘違いしたのか、余計沈み始めたモモンガに手招きをしてノアが操作していたマジックアイテムの鏡面を見せた。

 

 

「こ、これは……」

 

「私も今気が付きました。多分、さっきのどさくさで肘か手でもぶつかって動いていたんでしょう」

 

 

 二人の異形が覗き込む遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)には、今まで映り続けていた大自然の風景以外のものが映っていた。

 

 二本の脚で大地に立ち、二本の腕を持つ、人間だ。

 明らかに文明の技術で作り上げたであろう衣装を身に纏っているその姿は、何処をどう見てもホモサピエンス系の知的生命体という奴であった。

 それも複数人。獣の様な群れではなく、何らかの意思の基に動く〝集団”である。

 ノアとモモンガは、ようやくこの世界で最初の現地人達を見つける事が出来たのだ。

 

 

「お、おぉぉぉ?」

 

「やりましたねモモンガさん、とうとう私達の苦労が報われましたよ」

 

「あ、あははは……本当に良かった。ああ、本当に」

 

 

 アルベドとの件については後回しにするため、ノアはワザと声を弾ませてモモンガを労う。

 対するモモンガも引きつりがちであるが喜んでいた。

 

 何はともあれ、不幸中の幸いと言うか、怪我の功名と言うべきだろう。

 

 

 

「……ですが、この人たちの服装は何なのでしょう?」

 

 

 最初に発見した現地人達の様子にノアは疑問をいだいた。

 彼らの身なりが、どうも普通の様には見えなかったのだ。 

 

 黒を基調とした厚めの服に白いマントを羽織り、腰に巻いたベルトには、ポーチや試験管の収納箇所がある。

 極めつけは頭に丸いのぞき穴が設けられたバケツの様な被り物をかぶっており、さながら特殊部隊じみた雰囲気を醸し出していた。

 

 皆同じ服装をしている。均一で揃った装備を持つ彼らは野盗と言うには洗練されており、組織に所属する何らかの集団と言う方が納得が出来る。

 

 そんな彼らの先頭に、独りだけ被り物を付けていない人物がいた。

 服装は他の者達と大体同じで、露出した頭部は、金髪を短く刈り込んだ割と地味目な顔の男のものだった。

 強いて違いがあるとすれば、左頬に顎へ向かって走る切り傷が、その男に凄みを与えている様に思えるところだろう。

 

 

「モモンガさん、彼らは一体何者なのでしょうか?」

 

「……流石にパッと見ただけではまだ判断が付かないですが、野盗にしては身なりが綺麗すぎませんか?」

 

「と、なりますとやはり国か何かの組織に所属している集団……軍隊とかでしょうか?」

 

「それにしては武器らしいものが見当たりませんね。もしかして、魔法詠唱者?」

 

「小型の携帯武器を懐に隠しているという線も、まだ捨てきれませんよ」

 

「見れば見るほど怪しい奴らですね」

 

 

 それに、この集団が何をしているのかも未だ謎である。

 二人で様子を伺っているその鏡の向こうで、その謎の集団は特に動く事も無くその場で待機しているだけで、特に何らかのアクションを起こそうとしている様子は見られなかった。

 

 

「……もしかして、何かを待っている?」

 

 

 ノアが外骨格で覆われた口でぼそりと呟くと、モモンガが眼窩の奥で輝く赤い眼光をノアへと動かした。

 

 

「獲物が来るのを、ですか?」

 

「もしくは罠にかかるのを、かもしれません。獲物が動物か、魔物か、もしくは……」

 

 

 ユグドラシルでも、似たような場面がいくつもあった事をノアとモモンガは憶えている。

 そこから来る経験則で、集団が何をしようとしているのか、おぼろげながらに推察する事が出来たのだ。

 

 二人の間に沈黙が生まれる。

 静かに鏡の向こうの集団の様子を見ながら、互いに頭の中で彼是と考えていたが、先にモモンガが動いた。

 

 

「ノアさん、私の方でももう少し周辺を探ってみます。もしかしたら、別働隊がいるかもしれません」

 

「獲物を追い込む囮役って奴ですか?」

 

「ええ、私の予測に過ぎませんが」

 

「信じますよ。では私は彼らの監視を続けます。……あ、しもべを連れて来ていいですか? こういう時にうってつけの奴がいるんです」

 

「お願いします。私の方でも連れて来させます」

 

 

 この謎の集団が一体何を目的として動いているのか。

 それはもしかしたら、自分達の拠点の事を指しているのだろうか?

 そんな嫌な可能性が二人の頭に過ぎったからこそ、事を自分達だけに留めずにシモベ達にも協力を仰ぐ事にした。

 

 

 こうして、オルフェノクの王と死の支配者達はこの世界に来て最初の一歩を踏み出そうとしていた。




気が付いたら前半はコキュートスとホースがメインの様な話になりました。

コキュートスが好きなのでもっと原作でも出てほしいですが、如何せん人間の姿をしたキャラの需要が多いので、中々そうもいかない様子。

各キャラごとに書こうとしたら、ダラダラしてしまうのが確実なので色々と端折らせていただきました。



※おまけNG(王がDJを目指した理由)





 数時間にわたって遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)での調査を続けていたノアとモモンガだが、今一つ結果を出せずにいた。
 肉体に疲労は無い、だが、精神的な所で二人は多大な消耗を強いられていた。


 自分だけならともかく、ノアも一緒なのでそろそろいったん休憩を取った方が良いのだろうか? と流石にモモンガも思い始めた時、それは起こった。


「Hey! Hey! Yo! スクラッチェ!」

「ふえっ?」


 突如目の前でせっせと手を動かしていたノアが無言のままに遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を横に倒して突如ズンチキズンチキ口ずさみ出し、横倒しにしたアイテムの鏡面部分をきゅっきゅと擦りだした。


「OH! Yo! モモンガサーン! 本日只今もDeadしちゃってるメーン!?」

「え、え、なに? なんなの? うえええ?」


 それから数分後、「ガッ!」だとか「ゲロッパ!」だの〝らしい事を”ほざいてヒートアップしたオルフェノクの王の正気を戻させようと躍起になった死の支配者は、トチ狂って第6位階の魔法を十数発ほどドたまにぶち込み、それでようやく正気に戻させたそうな。

 しかし、それが原因かは定かではないが、ノアのマジックアイテムに人間らしき種族が形成する国の首都らしき場所がばっちり映り出したため、モモンガは数時間にわたる自分の努力が馬鹿馬鹿しくなり、拗ねてベッドにダイブ。
 うつ伏せのまま枕に顔を押し付けて、すすり泣くような声を漏らしていたとか、そうでないとか。



Q.何でこんな話が出来たの?

A.酒の威力とは恐ろしいものでございまして。
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