3度目の人生は静かに暮らしたい 作:ルーニー
え?ちょ、え?1週間もたたずにお気に入りが9倍弱?
やだ。怖い(震え声)
「おでかけしましょう」
唐突に、平日夕飯を食べているとき本当に唐突に母さんはそんなことを言いだした。
別に何かをしていたわけではない。テレビは食事中にはつけることはないし、俺と父さんは黙々と食べるタイプだから食事中はかなり静かなのだ。はやてがいたのならにぎやかにはなっただろうが、残念ながらはやては検査入院で家にはいない。別に口の中にものを入れながら出ない限り食事中に話すことは何も言われないのだが、母さんも特に何かを言うでもなく食べる。
結果、食事中は食器が鳴る音以外はほぼ無音の静かな、厳かなんていう人も出てくるのではないのかと思うほどに静かな食事になることがほとんどだ。
しかし、珍しいことに、それも何の脈絡もなく、唐突に母さんはそんなことを言いだしたのだ。俺はともかく、父さんも驚きでわずかに目を開いている。
「……突然どうしたんだ?」
「いえ。休憩時間に牧師をしていらっしゃる名井さんが子供たちをつれて遊びに行っているのを見かけたのよ」
名井。その名前を聞いた瞬間、前世で出会った貌のない黒い神父を思い出す。
同時に、思い出したくもないあの大惨事を、思い出してしまった。大学生活最後の1月に起きた、あの大事件を。
「最近この子とはやてちゃんを連れてどこかに行くってことをしていなかったなぁって、その時ふと思ったの」
母さんの言葉なんて聞こえない。聞き取れない。聞くことができない。
「はやてちゃんも通院や検査入院が続いているし、いい気分転換になると思うの」
脳裏にはあのおぞましい日の記憶が、まるでビデオ再生をするかのように音も鮮明に写し出されていく。
「教会には1度ぐらい連れていってもいいんじゃないかしら?子供たちは見たことないでしょうし」
瞬間、目の前が真っ暗になった。いや、真っ暗になったと思ったらそこにいるかのように目の前が記憶の景色へと変わっていった。
そこは荘厳で美しく、しかしどこか生理的な嫌悪感すら感じた教会だった。どこに
その中で人が死に、
戦争の真っ只中と言っても過言ではない、血と銃弾、そして魔術が行き交い、多くの人が死んでいった。そして、そんな地獄の中で、俺たちは
ただ1人となった
虐殺。まさに、それは虐殺だった。人でない、異形の身となった
その中で俺は生き残るために必死の抵抗を、使いたくもなかった魔術を駆使し続けた。後ろには友がいて、何度も助けてくれた刑事がいた。全てが終わるまで、意識が無くなるまで必死になって魔術を使い続けた。
そして数分もかからず、あの場にいた味方は全滅した。偶然なのか、それとも何か意図があったのか。
全てが終わり、緊張の糸がわずかに緩んだ瞬間、雪崩のごとく意識が崩れ落ちた。
そのときに、俺は、俺は、不気味な声を聞いた、気がした。
ま た 会 お う 。
そのあとのことは、覚えていない。気が付いたら、俺はベッドの上で横になっていた。意識が回復してから刑事にことの顛末を教えてもらったが、どれも芳しくないものばかりだった。
結果から言えば、俺たちは助かった。俺が意識を失ったあと、
友はあれから精神病院へ通っていたが、それでもちゃんとした日常は送れるほどに回復はできた。
だが、俺は、日常なんてものは、呆気なく崩れていくものなのだと、ただただ恐怖しか感じていなかった。
あのときの言葉が、声が、貌が鮮明に思い出す。思い出させる。
ま た 会 お う 。
……落ち着け。落ち着くんだ。名井なんて苗字はある。その人が牧師をしていないなんてことはない。大丈夫だ。大丈夫だ。
大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫
「おい、しっかりしろ!?」
気が付けば、目の前に父さんの顔があった。その表情は焦ったかのような、しかし心配をしているようなものすらあった。
「どうした?どこかに出掛けるという話から顔が真っ青だぞ」
そう言われて、顔に手を当てる。手から感じたのは、春から夏になりつつある季節の、それも家の中ではあり得ないほどに冷えきった温度だった。
よくよく見れば手も震えている。自分のことだというのに、まるで他人事のように自分の状態を確認していく俺に父さんと母さんは心配そうな表情を崩さなかった。
「どうしたの?なにか、怖いことでもあったの?」
「……なん、でもない」
「なんでもないって、そんな血が通ってなさそうな顔を見たらそんな風には思えない」
「なんでもない!」
自分の口から、自分でも意識していないほどに大きな声が出た。自分でも驚くほどの大きさだったんだ。父さんと母さんの驚きは相当なものなんだろう。2人とも目を見開いて俺を見ていた。
「……ごめん。でも、なんでもない。なんでも、ない。ただ、嫌なことを思い出していただけだ」
深呼吸をして落ち着かせようとして、しかし未だにあの恐怖が、
そんな俺を察したのか、母さんが俺を抱き締め、優しく頭を撫でてくれた。
「大丈夫よ。ここには、お母さんとお父さん、あなたしかいない。怖いものなんてどこにもいないのよ。
温かいご飯を食べて、温かいお風呂に入って、お母さんとお父さん、そしてはやてちゃんが、あなたを守ってあげる。
だから、安心して。あなたは、今、大切に思われているの」
柔らかい匂いだった。鉄臭い血の臭いでもなく、泥が腐ったような気持ちの悪い臭いでもなく、生理的恐怖を覚える臭いでもない。
柔らかく、暖かく、安らぎのある、家族の匂いだった。
「…………」
気が付けば、頬に何かが伝い落ちるのを感じた。同時に目を閉じれば、目尻から液体が流れ落ちていくのを感じる。
そして、それで流されるかのように恐怖に満ちた記憶が薄れていき、代わりに
いつも笑みを浮かべ、しかし厳しいときもある女性の、母さん。
厳しくもあり、しかし時に悪さも笑ってくれる優しい男性の、父さん。
そして、新しい家族になった、原因不明の病にもめげずに笑顔を浮かべている少女の、はやて。
そうだ。これが、俺の日常だ。この人たちがいるこの時間こそが日常なんだ。
これが、俺の守るべきものだ。壊されてはならないものなんだ。
守らならければ。あのおぞましい化け物から、狂った人間から、現象から、噂から、神から、非日常から。
たとえどんな手を使ってでも。どんな手段を取っても。
どんなにこの手を血で染めることになっても。
今回の神話生物
・闇をさまようもの
外なる神、ナイアルラホテプの一面。3つの赤い目を持ち巨大な蝙蝠のような翼を持ったヒトガタの姿をしている。
取りつくことができ、取りついた人間の脳を吸い取り、内臓を燃やし尽くす。犠牲となった獲物は炭となり黄色い染みだけが残るのみとなる。
しかし光に極端に弱く、ろうそくの火ですらダメージを受けるほどに光に弱い。
・ナイアルラホテプ
別名這い寄る混沌。決して銀髪美少女ではない。そんなかわいいものでは断じてない。
千の姿を持っているとも言われ、単純な滅亡や死を見るより人の狂気を眺めている方が楽しいと思っているような、愉快犯すら可愛く思えるほどの外道である。
様々な事件の黒幕であり、きっかけでもある。何かが起きたら大体こいつのせいといってもいおっと誰か来たようだ。
・依存
主人公の依存先。心の柱ともいえるもので、主人公がまだ普遍的な行動や思考をとれるようになる、唯一のモノ。
その依存先は家族である。この家族がいる限り、無事でいる限り正気を保てるようになった。
しかし1日に1回家族の誰かしらを見る、あるいは声を聴かないと情緒不安定となり、3日も見てないと発狂してしまう。写真では意味を為さない。
ということで、はい。何なんでしょうね、あのお気に入りの入り方。見ててゾッとしましたよ逆に。
投稿して1日あいて、そこからうなぎ上りしていく評価とお気に入り、閲覧数はプレッシャーすら感じましたよ(震え声)
しかし、こんな作品でもみてくださる皆様には感謝の意が尽きません。
このような、作品の世界観を壊すような作品を見てくださり、そして楽しんでいただければ幸いです。微力ながらも全力を出して書いていきたいと思います。