3度目の人生は静かに暮らしたい   作:ルーニー

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お久しぶりの更新です。

正直、どうしようか迷っていました。


小学生5

「え?どこに行きたいかって?」

 

 病院の個室の中、はやては俺の言葉が理解できなかったのかキョトンとして俺の言った言葉を繰り返した。

 今日は退院前日であり、はやての様子を見るために病院を見に来たついでに今度の休日にどこかに行こうという話が出ていたことを伝えたのだ。本人はそんな話が俺からでるとは思わなかったのかまだキョトンとしているが。

 

「あぁ。いい気分転換になるだろうって、母さんがな。それで、どこに行きたい?俺は寂れた漁村とか嫌な噂のある山とかじゃなかったらどこでもいいんだが」

 

 さすがに寂れた漁村には行ったことはないが、軽く調べただけでも相当に酷かった噂が流れていた場所だったのだ。誰があんな場所に好んでいくものか。行ってなるものか。

 山に至っては冗談抜きで死にかけた。医者志望の友人がいなかったら間違いなく死んでいただろう。もう2度と下調べもしていない山に行ってなるものか。

 

「うーん……。突然そんなこと言われてもなぁ……」

 

「別に今決めなくてもいいぞ。今度と言っても1週間2週間後に行くわけじゃないからな」

 

 これに関しては母さんの突然の発案だからな。休日とは言っても父さんたちも医者という仕事上普段は急患にも対応できるようにしなければならない。そのため完全にフリーの休日を作るには前もって申請しておく必要があるそうだ。

 

「先生にも事情を話して検査入院の日を考えてもらうこともできるだろう?それに、病は気からとも言うし、気分転換も必要だと思うぞ」

 

「うーん。そうやなぁ……」

 

 うんうんと、唸るようにはやては腕を組んで考え始める。

 まぁ、確かに急なことには違いない。とは言っても、物事は突然なことばかりだ。違いがあるのは前兆があったが気付かなかったか、前兆すらないかの違いだけだ。今回は前者だろう。

 

「うーん。ウィンドウショッピングはいつでもできるし、遊園地は私が乗れるものが少ない。アミューズメントパークもそこまで目ぼしいものは分からへんし、動物園は外やから移動が大変や。温泉もなんかババ臭いし……」

 

 ぶつぶつと、予想以上に行く場所を述べていることに驚きを感じながら真剣に考えているはやてを見て、ふと思う。

 

 もし娘がいたならこんな気持ちだったんだろうか。

 

 前々世はもうほとんど覚えてないが、それでも前々世と前世では俺は結婚して子供を授かったことはなかった。そもそも結婚どころか彼氏彼女の関係になったことすらなかったんじゃないだろうか。

 そう考えると、俺の人生って本当に嫌なことしかなかったんだな。別に結婚自体したいとは考えたことはなかったが、それでも彼女ぐらいは欲しかったかもしれない。もっとも、そんな時間と暇はなかったんだが。

 

「……うん!決めた!」

 

 ようやく、というほど時間も経っていないが、それでも結構な時間考えていたはやては決めたのか、ニッコリとした笑みを浮かべて、忌まわしい記憶(聞きたくなかった言葉)を言葉にした。

 

「私水族館に行きたい!」

 

 ピシリと、自分の中でなにかが固まるような感覚に陥った。そして次の瞬間には、あの忌まわしい、記憶が、甦ってきた。

 

 

 

 高校の修学旅行で、あの時水族館へ行った。あの時は滅多に行かない水族館ということで、年甲斐もなくはしゃいでいた。だが、あの水族館は、裏で手を引いている存在が、最悪の一言だった。

 やつらは、『深きものども』は水族館に来た生徒を攫っていった。1人ずつ、決して気づかれないように、しかし確実に奴らは生徒を攫って行った。それに気が付いたのは、もう既に10人近くがいなくなってからだった。

 

 さすがにここまで多くの生徒がいなくなってはおかしいと、それも何人かは俺と同じ体験をしたこともある連中もいたこともあり、先生の目を盗んで水族館を探索した。そして、見た。見てしまった。

 

 奴らは攫った生徒をナイフで突き刺し、魔力を奪っていた。苦しそうに叫んでいたのに、それを見ていた俺たちには声すらも聞こえなかった。そういう魔術がかけられているのは目に見えていた。男子生徒はそうして魔力を奪い、女子生徒は子を孕ませるために、○○○していた。既にもう数人がこと切れたかのように、服も纏わずただ身を汚した状態で倒れていた。必死に抵抗して、泣きさけんでいるのも見えた。

 その光景が我慢できなかったのか、1人が不意打ち気味に奴らに襲い掛かり、大怪我を負いながらも結果的には勝利した。

 

 だが、奴らはそれだけでは終わらなかった。奪取した魔力を使い、不完全ながらも『ダゴン』を召喚しようとしていたのだ。その召喚で何人もの死人が、その中には○○○された生徒もいたが、出た。何人も食われ、踏まれ、握りつぶされた。けどやっとの思いで召喚を不完全な状態で阻止したが、それでも被害はとんでもないものだった。

 結局修学旅行は中止となって警察からの事情聴取、そして帰る羽目になった。

 

 数日後、生徒を危険な目に遭わせた、死なせたということで何人もの先生が学校を辞めた。その中には生徒に親身になってくれる先生もいたが、だが、生徒に嫌われている先生は残っていた。それがのちに事件になったりもした。あれは、もう、思い出したくもない。

 あんな思いをしたからか、誰もあの時のことを話そうとしなかったし、水族館には近づきもしなかった。もちろん俺もそうだった。

 

 あんな目に、あった。

 

 また、あそこに、行くのか? いやだ、 いや だ   い   や

 

 

 

「……ゃ、しんや?」

 

 気が付けば、目の前に心配そうなはやての顔があった。いつの間にか俺の息は絶え絶えになり、爪痕がつくほどに手を強く握りしめていた。

 

「どうしたん?なんか、すごく思いつめたみたいな顔しとったけど……」

 

「……なん、でもない」

 

 ……落ち着け。まだ、大丈夫だ。あの時は全く警戒もしていなかった。だが、今回は、違うんだ。

 今は知識がある。奴らに対抗できる、知識が、ある。

 

 だが、肉体に不安が残る。子供の肉体では戦闘はおろか逃げることすらままならない。仮に行くとしたら、何かしらの準備は絶対に必要だろう。

 何がいる。奴らは『クトゥルフ』の眷属、いや、『クトゥルフ』を崇拝しているんだったか。なら『ハスター』の眷属を、『バイアクヘー』を呼び出せば、あるいは対策出来るか?

 いや、それは無理だ。奴らを使役できるためのものがない。『黄金の蜂蜜酒』は絶対にいるわけではないが、それでも準備を万全にしておかなければ、奴らは召喚者にすら牙をむく。

 

 準備だ。早く、準備をしなければ。

 奴らに抵抗するために、奴らに対抗するために、奴らを撃退するために、奴らを皆■すために。

 準備だ、準備だ。準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ準備だ

 

「……やっぱ、水族館はええかな」

 

 ポツリと、はやては何やら諦めたかのような表情をしてそんなことを言った。

 

「……え?」

 

 水族館に、行かない?……そう、か。そうか。よかった。あそこに行かなくてもいいのか。

 だが、それでもやつらへの対策は取らなければならないのは事実だろう。それが発揮するのが遅いか早いかの違いだろう。だが、早いよりは遅い方がいい。遅い方が、早いよりも対策はしやすくなる。そうだ。その方が、いいんだ。

 

「…………」

 

「そう、だ……。対策だ。抵抗するために、対抗するために、奴らの、対策を、しなければ……」

 

 そうだ、みんなを守るために、対策しなくちゃ、いけないんだ、

 

 対策を、奴らの、全ての、対策を

 

 

 

 

 

 1か月後、俺たちは岐阜にある有名な温泉へと向かい、特に問題もなく帰ることができた。強いて言うのなら、はやての足には何も、そう、痺れが取れたとも進行したとも言ったことが一切なく、けど本人は楽しそうにしていた。

 

 そして、帰ってからニュースでとんでもないことを、知ってしまった。

 決定していれば行っていたであろう水族館が、旅行に行く予定日に事故で半壊していたということが、流れていた。

 詳しく調べてみれば、生き残った人たちは事故が起こる前に鱗を持った人間もどき、玉虫色のコールタールのようなものがいたという、噂が、出回っていた。

 

 




主人公、奇跡の回避。

いやぁ、ね。一応いろいろと考えていたんですよ。水族館のマスコットが深きものどものデフォルメだとか聞き耳に成功してしまった主人公がトラウマで発狂したりお母さんがテケリリに潰されたりといったようなことを考えていたんですが、さすがにそこまで行くと広げた風呂敷たためなくなるんで諦めました。

このエンドになった場合、主人公は不定の狂気として父とはやてに対して異常なほどに守ろうとします。はやても家族を失って失った分余計に家族の温もりを求めるようになり、そして父はこのことを忘れようとして仕事に没頭するようになった、というエンドになる予定でした。

けど、ホント前世ではろくな人生送ってないなこの主人公。こんなの知識あっても生きていける自信ないですわ私。



最後にあった事件のプロット時の裏設定として、簡単に説明すると

深きものどもとクトゥルフを崇拝する狂信者がわずかな細胞を使って、ハスターの眷属と崇拝者を殺すためのショゴスを作り出そうとしていたが、唯一成功した実験体がどうしても独自で動くための、それこそ自身の崇拝するべき神を理解できるほどの《知識》が育まれることができなかった。
そこで、狂信者や深きものども以外の人を観察させてために水族館を作ってそこで人を観察させていた。最初は狂信者たちの言うことを聞いていたのだが、様々な人間を見てきて、《興味》が出てくるほどに知識が育まれた。
しかし、そこから勝手な行動をとることになり、ある日人に襲い掛かった。本人(?)はバカップルで見たようにじゃれついたつもりだが重量と人ではない姿によりその人を殺してしまう。本人(?)は意味が分からないと言わんばかりにその場にいたが、狂信者と深きものどもを一掃した探索者によって知識を手に入れられ、退散させられた。

というものです。まぁ主人公は玉虫色のコールタールのようなものというものを目にした瞬間にそれを探すことを止めました。発狂して父親に落ち着かせられました。物理的な意味で。

これをプロットとして考えてたんですが、収集つかなくなりそうなので諦めました。事実がどうあれ今後のストーリーには関わることのない設定なので実際はどうであったのかはご自由にご想像ください←

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