3度目の人生は静かに暮らしたい 作:ルーニー
魔術はでてるんですけどね!
「……はぁ」
学校の屋上。通常ならば特別なことがない限り入ることすら許されないその場に、少女が3人いた。もちろん、彼女らは規則を破ってここに入ったのではない。この学校でも一部のみに限った話ではあるが、校則で入ることを許されている場所はある。
そんな場所で、少女らは昼食を食べていた。しかし、3人とも小学生らしく楽しげに食べているのではなく、3人が3人各々が様々な表情を浮かべていた。
その原因となるのがこの時間の前、すなわち4時限目の授業の事であった。
その授業では様々な職業についての授業であった。警察官、消防士、郵便局等事前に行きたい場所へ行って体験学習をしていた彼らは、各々将来なりたいものについて楽しげに想像していたのだ。ただ1人の少年を除いて。
「…………」
その事を思い出していたのか、少女は静かに食べ物を口にいれ、しかし普段より遥かに遅く咀嚼する。そしてそれを飲み込んで、再びため息をついた。
少女、高町なのはは彼が、久藤信也が苦手だ。なにかを警戒するかのような鋭い視線に希望の欠片もない死んだ目、まるで大人のようであり同時に駄々をこねる子供のようでもあるちぐはぐな精神、誰も近づけさせない刺々しい雰囲気が、人ではないように思えて仕方ないのだ。
別になのはは彼の事が嫌いなのではない。けど、誰かと話すこともなく、むしろ誰かと接することを拒んでいるかのようにも見える彼の雰囲気が、視線が、たまに出る言葉が、とても重苦しく感じて苦手なのだ。
「ホンット!なんなのよあいつは!」
暗いなのはとは対照的に、隣で怒りを体で表しながら弁当をかき込むのは、なのはの親友の1人であり社長令嬢であるアリサ・バニングスだ。
彼女は彼を目の敵にしている。勉強でも運動でも成績がいい彼女だが、それでも彼には全く及ばないのだ。
彼は授業中別のことをしている。それこそ授業とは全く関係のないことをしているにもかかわらず、彼は常にテストでは満点を出しているのだ。それが気に入らなかった彼女は一度知識で勝負を挑んだことがあったが、経理関係以外では全く勝負にもならなかったことがあった。
それでわかったことは彼がずっと先の、高校や大学、資格に関するものを勉強していたのだ。そんな先まで勉強していたにもかかわらず、昼前の授業で将来の夢について問われたとき、彼はこんなことを言った。
『何事もない静かな人生を送りたい』
ただでさえ朝から様子がおかしかったのに、将来についての授業にも関わらず、先生からの質問に対してそんな答えを返したのだ。
警察官や教師など、具体的な職業をみんなが言っている中でそんなことを言ったのだ。自分より成績がよく、必死に勉強しているにもかかわらずこんな答えを出した彼に、アリサは怒りを覚えていた。
「なんなのよあいつ!私より頭よくて、なのにあんなことしか言えないわけ!?」
アリサは父の会社を継ぐという夢を掲げている。まだ小学3年生であるにも関わらずその夢がどれほど困難なのかをある程度理解し、そして努力している彼女は十分に子供離れしていると言えるだろう。
そんな彼女は、自分より頭のいい、高みにいるであろう彼が、逃げていると言っても過言ではない状態にあるのが許せなく感じていた。
「……………………」
そんな中、怒る彼女に触れるわけでもなく、食も進まないのか静かに、ゆっくりと箸を進めている少女がいた。
「……すずかちゃん、どうしたの?」
「え?あ、ううん。なんでもないよ。大丈夫だから」
なのはの心配に少女、すずかは慌てたように手を振って笑みを浮かべていた。しかし、常に周りに気を配っている、いや、周りの顔色をうかがっているなのはにはそれが痩せ我慢していることにすぐ気付いた。
すずかは彼の事が苦手なのか、彼を見ると顔を真っ青にするのだ。まるで化け物でも見たかのような、そんな風に見えるほどにすずかは彼に怯えのようなものを見せていた。
それについてアリサはなにかされたのかと思っていたのだが、彼からはくだらないと言わんばかりの返答をもらい、本人に聞いてもなにもされていないと言われ、周りから聞いてもそのようなことが行われていた話は一切なかった。むしろ誰も彼も彼を恐れて近づこうとすらしないのだ。そんな中で彼の情報を得ようとしたところで大したものはほぼ入らなかった。
「……なにが、したいんだろうね」
ポツリと、ため息混じりに呟いたその言葉になのははどこか怯えも混じっているような、そんな気がした。
「知らないわよ!あんな根暗の考えていることなんて!」
それに気付かなかったのかアリサはガーッと叫びながら食べ終えた弁当箱をベンチへと叩きつけた。小気味いい音を立てた弁当箱にアリサはハッとしたように慌てて壊れていないかを確認しだし、その姿になのはとすずかはクスリと笑った。
アリサはそれに対して顔を赤くし、なにかを言おうとしたその時だった。
やや錆び付いた音をたてて扉が開いた。いきなり扉が開いたことに3人はビクリと身体を震わせてその扉へ視線を向ける。ここ、屋上は全児童生徒に解放されており、誰かがここに来ないなんて事はないから別段おかしいことではないのだ。だが、その扉を開いた人物を見て3人は驚きで目を見開くことになった。それほどに、その来た人物がおかしかったのだ。
「……久藤、くん?」
久藤信也。先程までの話の主格であり、学校きっての問題児とも言われている少年がなにかを呟きながら、まるで幽鬼のように扉から現れた。
普段ならば昼休みの間ずっと図書館か情報処理室にこもっているはずの人物が室外に、ここにくるなんて事が滅多にないために3人は驚きを隠せないでいた。
「っ……!」
ビクリと、その姿を確認したすずかは身体を震わせる。まるでおぞましいものを感じたかのような、在り得ないものを見たかのような、そんな怯え方をするすずか。
すずかは信也を見るたびにそんな反応をするのだ。まるで怯えるかのような反応に、しかしすずかと信也との間にはクラスメイトということ以外には全くと言っていいほどに接点はないのだ。
だというのに、信也を見る度に怯えを見せるすずかに、アリサはすずかに対して何かしたんだと、そう思い信也を睨み付けた。
「……………………」
しかし、信也はそんなことを気にしていないのか、それとも気付いてすらいないのか聞こえないギリギリの音量でなにかを呟きながらゆらゆらと歩き続けていた。
「……ねぇ、どうしたの?」
いつもとは違う、さっきまでの暗い雰囲気とはうってかわってショックを受けているような、絶望しているのような、そんな印象すら覚える信也の姿になのはは声をかける。
しかし、その声すら聞こえていないのか市内を見回し、未だになにかを呟き続けていた。そんな姿を見てアリサは堪えきれなくなったのか大声を上げて信也に近づいた。
「ちょっと!聞いてるの!?」
肩を掴み、自分の方に向かせようとしたアリサはそれに成功したが、信也の顔を、目を見たアリサは身体が強張った。
その目は普段の死んだ目なんかではなく、暗くドロリと濁ったような、まるで深い闇を覗いているような、そんな錯覚に襲われたのだ。
肩を叩かれてやっと3人に気が付いた信也は、その目を呆然と、恐怖すら感じて見ていたアリサに訝し気な表情をわずかに見せて重々しくその口を開いた。
「……なんだ?」
感情も何もない目をアリサに向ける。その目は先程までの恐怖を覚えるような目ではなく、普段の死んだ目に戻っていた。アリサもはそれに気が付いたのかハッとしたような表情を浮かべ、視線をキツくした。
「っ……な、なんでここにきたのよ?あんたがここに来ることなんてなかったじゃないの」
さっきの目がまだ頭に残っているせいか少し吃り気味にはなったが、なめられたくなかったアリサはそれでも普段通りに信也と接することができた。その事に気付かなかったのか、それともどうでもいいのか信也はその死んだ目をアリサに向けてポツリと言葉を出した。
「……街を見に来た。ここは市内がよく見える」
そういうと信也はアリサに興味を失ったかのように再び視線を市内に戻した。
確かに、ここからは市内がよく見える。市内きっての小中高大がある学校であるここはそれ相応に建物も大きい。屋上にこれば市内を見回すこともできるのだ。
だが、アリサはそれだけを聞きたかったわけではない。なぜ街を見る必要があったのか。何がしたいのか。それが聞きたかったのだ。
だが、アリサはそれができなかった。さっきの目に、ドロドロとした闇のような目の光を宿していた目に恐怖を覚えたために口を開くことができず、ただ信也の様子を見ることしかできなかった。
「…………」
少しの間市内を見回していた信也は、結局なにも見つけることができなかったのか深く息を吐いて出入口へと歩いていった。
「……………………」
「っ!?」
その際にも、なにか考えているのか呟きながら歩いていく信也に、すずかはまるで怯えたように肩を震わせて信也を凝視した。しかし考えに没頭していた信也はそれに気づくこともなく、そのまま校舎内へと姿を消した。
「…………」
「すずかちゃん?どうしたの?」
「顔色悪いわよ?大丈夫なの?」
「大丈夫。大丈夫だから……」
心配する2人に対して、同時に自分に言い聞かせるようにそう言う。だが、すずかの頭の中ではさっき信也が呟いていた言葉が繰り返されていた。
吸血鬼が、この街にいる。
わずかにしか聞こえなかったが、しかしすずかの耳には確かにその言葉が聞こえたのだった。
「……どうして、それを……」
どうやってそんな情報を手にいれたのか。どうしてそれを気にするのか。どうしてそれを信じているのか。
まさか、彼は、吸血鬼の存在を知っている?それを気にしているのは、誰かが血を摂取しているのを見たから?あの様子は、吸血鬼に怯えていた?それとも、家族の誰かが吸血鬼に襲われてた?
「……すずか?」
「……ううん。なんでもない」
自分の考えを振り払うかのように頭を振る。普通ならばあり得ないその考えを、しかしすずかはどうしても振り払うことができずに心配する親友たちを宥める。
けど、どうしてそれを信じているんだろう。どうしてあんなに恐怖しているんだろう。どうして怖がりながらも探せるんだろう。
そんな疑問を頭に残しつつ、次の授業の開始10分前のチャイムが鳴り始めたので3人は弁当箱を慌てながらしまい始めた。
ふと浮かび上がったその疑問は、真水に小さな泥が入ったかのように徐々に広がっていった。
薄くなって見えなくなるが、決して消えることのない不純物として、少女の中に確実に残ったのだった。
はい。一部原作設定が変わっていますが、ここではこういう設定でいこうと思っています。
いやぁ。吸血鬼の噂、ありましたね。まぁ吸血鬼なんて、そんな女性の声を出すものがいるんですかねぇ(すっとぼけ)
と、まぁ前置きはさておき。主人公は吸血鬼なんてものがいるんなんて思っていませんよ。クトゥルフ脳の主人公がそんなヴラド公のお話のような過去の事実がねじ曲がって出来た存在を信じるわけないじゃないですかヤダー(棒)
まぁ真面目な話をするとルルブには吸血鬼の存在はあるんですが、主人公はそんな存在には出会ってはいません。
ルルブの知識も既に無くなっていますが、それでも過去に出会った存在、調べた文献、自分が見聞きしたことや口にしたことは一字一句完璧に憶えています。その記憶を頼りにしているからこそ、まずは神話生物の存在を疑います。
自分の知らない存在であると疑うのは、すべての神話生物の知識や既存している文献を調べてからやっと疑いにかかっています。それでも何かしらの神格が背後にいるということを信じて疑っていないですが。主人公にとってのトラウマはあくまで神話生物なので、まずは神話生物ではないのかという疑いから徹底的に調べていきます。
私は狂信者、狂人は自分の信じていることを信じて行動し続けるからこそ狂信者であり狂人なのであると考えています。信じるということはそれについての知識があり、それを狂信、妄信しているからこそ実行に移せるんだと考えています。
進行しているかはともかく、それが存在しているということを、誰もが存在しないと思っていることを狂ったように信じている主人公は一種の狂信者であり、狂人であると私は考えています。
知識に貪欲であるこの狂信者は、自身のトラウマである神話生物がいわゆるクトゥルフ神話に出てくるものであると狂信しています。妖怪やお化けといったものもすべて神格による気まぐれの産物であり、それが伝承に残っていると信じ切っているため、思考はどうしてもそっちの方面へと持っていこうとしています。だからこその狂信者であると、私は思っています。
と、まぁあくまでこれは私の考えです。この考えのもと主人公の行動を考えています。こんなもんなのかぁという感じで読んでいただけたらと思います。