3度目の人生は静かに暮らしたい 作:ルーニー
それと、遅くなって申し訳ないのですがタグにアンチ・ヘイトを追加させていただきました。
アンチ・ヘイトが苦手な方は、今更で大変申し訳ないのですがお気に入り登録を削除するなどをしていただいた方がよろしいかと思います。
このように足りていなかったと自覚できるまでタグをつけ忘れていることがあるような作者で大変申し訳ありません。お手数をおかけするようなことになるのですが、このタグは必要なのでは?というものがあればお申し付けください。できうる限り対処をしたいと思っています。
学校の情報処理室。普通ならば部活動のある放課後以外ではほとんどの確率で誰もいない教室の中、信也はひたすらにキーボードを叩き続けていた。
キーボードを叩く小気味いい音が一定のリズムで、次にクリックする音とペンが走る音が誰もいない教室で静かに響いた。
「……………………」
耳をすませば断片的には聞こえるだろう音量でなにかを呟きながら信也はモニターを見る。そのモニターには動物病院での謎のガス爆発事故についての記事が書かれたサイトが映し出されており、その事故についての一般市民の書き込みを信也は目を動かして確認していた。
「……………………」
その中にはガス管の管理会社についての誹謗中傷や被害にあった病院の同情や庇護、逆に病院への誹謗中傷が書かれていた。しかし信也はそのようなものには一切目もくれずに流し、写真に対する推測や噂話についてをひたすらに調べていた。そして、その中には普通ならばあり得ない、宇宙人や化け物についての書き込みも僅かながらに存在していた。
通常ならばそんなものには興味持つことはないだろう。せいぜいが妄想だの幻覚だのと言われてそれで終わりになるはずなのだ。
だが、信也はそれを一切しなかった。それに対してのコメントをすることはなく、ただそれを情報としてメモに書いて頭の中で整理していく。
ニュースサイトだけでなく、眉唾物どころか明らかなガセであると分かるものが多いサイトすらも目を通す。
どんなものでも情報として整理していき、メモに記す。時間が足りずに整理することが叶わなかった。予鈴がなり、授業の準備もしなければならないため信也はパソコンの電源を切り、メモ書きを片手に静かに教室から出た。
教室に向かうときも、授業中も調べたことを見直しては整理していく。同じ内容と思わしき文に下線を引き、チェックしては下線を消す。それをずっと続け、そしてすべての授業が終わった段階でようやく情報の整理が終わった。
やはりというか、どれもこれも信用もなにもできない情報がほとんどであったが、それでもめぼしい情報はいくつか発見することができた。
1つは道路のあの破損具合。どうやらあれは地中のガス管が爆発したのではなく地上で強い衝撃があったがゆえにできたものではないのかということ。
1つは地面が陥没するほどの事故だというのに音がほとんど聞こえなかったということ。目撃者からの情報によるとどうやら小さな爆発音のようなものが聞こえたのが気になって見に行ったところあのようなことになっていたということらしい。
1つは何人かの人が事件が起きたであろう時間帯に少年の声のようなものが聞こえたということ。何を言っているのかは全くわからなかったが、それでも何人もの人がそれを聞いたということがわかった。
1つは黒い靄のようなものを見たという人が何人もいるということ。これは目撃情報が少なく夜であったこともあり見間違いではないのかという意見が多かった。
1つはピンク色の光が太いレーザー状となって突如現れたというもの。これはどこかの大学生がなにかやっていたのではという意見が多かった。
そして、最後に小学生ぐらいの少女が事故現場周辺で目撃されたというものだ。時間的にも小学生が出歩いているのはおかしいとも言える時間帯にその目撃情報がいくつかあった。ただそれが誰かまではわかっていないとか。
「……………………」
どれもこれも信じられないようなものばかりだったが、どれも複数のサイトにおいて似たような情報が載っていたものばかりだ。他の情報よりもまだ信用できるものだと思ったものをピックアップし、それをメモに書き込む。
もちろん同一人物が複数のサイトに書き込んだ可能性はある。だが同時に複数人が書き込んだ可能性もあるのだから、疑っていては行動が遅れてしまう。
なにより、前世にてこういったものの情報を疎かにしていた結果、死人が出たこともあった。このような情報もバカにはできないのだ。
「……………………」
もちろん、この情報を鵜呑みにするほど信也もバカではない。ここにピックアップされなかったものも頭の隅に留めておき、実際に調べて真偽の確証を信也は得たかった。
そのために、信也はまずはピックアップした情報を確認する。
「……怪しむべきは、小学生ぐらいの少女か」
事故が起きたと思われる時間帯は8時から9時。普通ならば親の同伴なしに出歩く時間帯ではない。何故この時間帯に小学生が外に出歩いたのか。
「……黒い靄、か?」
事故現場周辺に黒い靄のようなものが発見されている。夜であることから黒に見えた可能性もなきにしもあらずだが、それでも何かがいたということは間違いないだろう。
恐らく小学生が出歩いていた原因はこれだろう。小学生はこれに接触するため、あるいはこれを呼び出すために出歩いていた可能性が高い。
そして、そのきっかけとなるのが"少年の声のようなもの"だろう。この声のようなものに呼ばれたのか、または操られていたのかはわからない。だが、きっかけはこれだと暫定しておいても大丈夫だろう。
だが、このピンク色の光はなんなのか。これが信也には見当がつかなかった。
何かしらの魔術がここで行われていたということなのか、とも思ったがあのような惨状を引き起こすようなものの前で魔術を使うような時間があったようには思えない。
ここで考えられるのは2つ。小学生以外に誰かがいて時間を稼いでいたから使うことができた。そしてもう1つがその小学生が黒い靄のようなものを操っていたから時間をかけることができた。
だが、小学生がそのようなことができるとは考えられない。誰かしらがいたということを考えたいが、そう言った目撃情報はネット上にはなかった。つまりこの小学生がなにかしらをしたということになる。
通常ならば小学生にそんな大それたようなことができるはずがない。例えそれだけを教えられていたとしても、予備があるとしても重要な位置にいるであろう子供をそこまで自由に動かすようなことをするとは思えない。……
そんなことができるのは、あの存在しか、いない……。
信也の脳裏には、人の姿から貌のない混沌の異形の姿へと変わっていく映像がカメラのフラッシュのようにハッキリと浮かび上がってくる。すべてを嘲るような、面白がっているような、なんとも形容しがたい笑い声すらも聞こえているかのように。目の前にいるわけでもないのに、その恐怖は全身を縛り上げ、脳内を犯していた。
「っ………………!」
全身から体温が奪われているような錯覚に陥る。同時に出してはならない汗が全身から出る。呼吸すらも満足にできず、意識を保とうとするだけで精一杯だった。
「だ、大丈夫なの!?」
明らかに異常である信也にいち早く気がついたのは、隣に座っている高町なのはだった。心配そうなその声は教室に響き、そこにいる全員が信也の異常に気が付いた。
「久藤くん!?大丈夫!?」
担任の先生は気づくや否や信也のすぐそばまで駆け寄り、声をかける。しかし信也はそれに反応することはなくただ顔を青ざめて必死の呼吸していた。
それに異常を感じた先生はほかの児童に先生を呼ぶように指示し、信也は連れられるように教室から出ていった。敬遠しているとはいえ、クラスメイトが教室から出ていくことになったのだ。教室内は騒然としていた。
「はい!久藤くんが心配なのは分かるけど、今は終礼の時間よ!静かにしてください!」
それを先生がたしなめて教室は静かになる。しかし、いくら私立の小学校の児童とは言えまだ精神的にも幼い子たちに完全に静かにさせることはできず、所々からひっそりと会話している声が聞こえた。
「…………」
そんな中、隣の席であるなのはは複雑な表情をして信也の席を見ていた。
今日の信也は普段以上に周りに神経を尖らせているようになのはは感じた。寝不足なのか普段以上に目の隈が濃くなり、やや血走った目で回りを見回していた彼は年上にすら恐怖を感じさせるほどに。
どうしてあんなに怯えていたんだろう。そんなことを考えていたなのはは机の上にはメモが残っていることに気がつき、しかし細かく書かれているそれを少し離れた場所から細かく読み取ることはできなかった。
しかしなのはは信也が何をしていたのか、なぜあのような状態になったのかが気になってなんとかメモに書かれていることを読もうとするが、漢字が多く何が書かれているのか理解することができなかった。
「……すごいなぁ……」
同じ年齢であるのに、信也の知識の量は自分よりはるかに多い。数多くの外国語を学んだり、星や地球についても調べていて、国や古い物の歴史にも詳しい。そして、誰も気にも留めない、笑い話ですらある怪奇の話にも真面目に、いや、まるで餓えた狼がエサに食いつくように必死に聞いている。
それを怖いと感じているのは自分だけでなく、先生すら彼を疎ましく感じている人が多くいる。彼と接しようとするのはごく一部の先生と、自分の親友であるアリサ・バニングスだけだろうとすら思うほどに、彼の周りは何もない。
彼は勉強ができる。自分は数理系ができても語学系ができない。彼は運動神経もいい。自分は何もないところでも躓くほど運動神経がない。
けれど、なのはは彼と自分を重ね合わせていた。ずっと前の自分と同じ、周りを気にして、そして隣には誰もいない。自分には今では親友が2人いる。家族もいる。けれど彼は家族しかいない。そんな彼を。
失礼なことだと自覚していながら、なのはは彼についてそう言った風にしか見れていなかった。初めて見た時に過去の自分と勝手に重ね合わせて、でも彼はそれから何もすることはなくむしろそれが当然であると言わんばかりに行動していることに、なのはは恐怖すら感じていた。
それが何の恐怖かは分からない。彼が怖いというのもあるのだが、それ以上に自分の中から湧き上がる得体のしれない恐怖が、なのはの中にあった。
なのははそれが知りたかった。彼を見ると湧き出てくる恐怖が一体なんであるのか、どうしてそれを感じているのか、それを知って、自分はどうするのか。
「なのは、大丈夫なの?」
ふと後ろから親友の声が聞こえた。それに反応して後ろを見ると、そこにはなのはの親友であるアリサ・バニングスと月村すずかが心配そうな表情をしてなのはを見ていた。
辺りを見回すと、既に終礼が終わっていたのか各々席から立ちあがって部活動の準備や帰宅の準備をしている児童がいることにやっと気が付いた。ずっと信也を、自分のことを考えていたなのはは終礼の内容をほとんど聞いていなかったことに焦りを感じ、それを見た2人は普段は見ることのないなのはの挙動に少しばかりの不安を感じた。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと久藤くんが大丈夫なのかが気になっただけだから」
すずかの心配そうな声になのはは普段通りにと努める。アリサはその様子に僅かに引っ掛かりを覚えたが、隣にいた人が急にあんなことになったらそうなるかと納得するかのように頷いた。
「まぁあいつとは言え隣があんな顔色悪くなったら心配になるわよね」
アリサは信也が連れていかれたドアを見る。普段は暗さと鋭さを感じさせる雰囲気を纏っていたが、あのときの信也はそれを感じさせず、怯える子供のようなものすら感じたことに違和感を覚えていた。
しかし、アリサとしては腹立たしいことに信也は自分よりも頭がいい。運動神経だって大人と変わらない程のものであり、いつか打倒する目標でもある彼を何でもできる人であるというイメージを持っていたアリサは彼ならすぐに立ち直るであろうと考え、友達であるなのはを元気つけるように声をかける。
「……まぁ、あいつなら大丈夫でしょ。それより、今日は私の家に遊びに来るのよね?校門に鮫島を待たせているから行こ!」
「……うん」
なのははアリサに呼ばれ、鞄を手にして席を発つ。2人と教室を出る前に、最後にメモを見る。
何てことはない、どこにでもある紙だ。黒いペンで書かれ、様々な色の下線を引いたメモ書きだ。
しかし、なのはは何故だかそれに一抹の不安を感じ、アリサとすずかの呼び掛けに慌てて2人の元へかける。
この時なのはに感じた一抹の不安は2人に呼ばれることで忘れ、しかし心の奥で僅かに引っ掛かりを覚えながら校舎を後にした。
その一抹の不安は正しいものなのだと、知るよしもなく。
みんな、勘違いしているよ!
名井さんは名井さんなんだよ!名井って苗字の人いるし、牧師で色黒でイケメンだけど名井さんは名井さんなんだよ!
まるでどこぞの邪神に出会ったみたいなことを言うのは偏見なんじゃないのかな!(ニヤニヤ