3度目の人生は静かに暮らしたい   作:ルーニー

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なんかプロトタイプを発見したのでもったいない精神でちょくちょく修正して投稿。


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「ジュエルシードよ!私の望みを!私をあの忌まわしい事故があった時間へと連れていきなさい!」

 

 ジュエルシードが妖しく光る。瞬間、空間が揺れたとすら感じる揺れをその場にいた全員が感じた。それは収まることなく、むしろ強さを増しながらジュエルシードから大量の魔力があふれでていく。

 空間が歪む。大量の魔力が一点に集中していき、まるで空間をこじ開けようとしているかのごとく揺れが強くなる。

 

 地面だけの揺れではない。空気が、その空間そのものが震えている今、魔法を使うことすらもできず、ただ立つことしかできない。このままでは空間が崩壊し、あってはならない空間が開かれようとしている最中に、それは起きた。

 まるで真ん中から切り開いたかのように、空間に鋭角の切れ目が入って左右に開かれる。鋭角しか存在していなかった開き口が一瞬にして曲線へと変わり、その中に映し出されている空間を見てその場を見ていた全員が言葉を失った。

 フェイトと生き写しの少女。何事もなく楽しそうに笑みを浮かべている少女のいるその場所は、どこかの研究機関の研究所と思わしき機械がところ狭しと並んでいた。

 

「あぁ……!アリシア……!私の、かわいい娘……!」

 

その姿を見たプレシアは涙した。自分が求めて止まないその姿に、その存在に心を奪われている最中にそれは突然現れた。

 

「……ッ!?」

 

 全員に悪寒が走る。すべての悪意を集めて煮詰めたような、あまりにも不気味で気持ちの悪いそれを、プレシアを除くそこにいる全員は知っていた。

 

「この、感じ……!」

 

「間違いない!これはあの……!」

 

 いや、忘れるはずもない。悪意と憎悪と殺意をドロドロになるまで煮詰めたような負の感情の集合を、友の未来を失ったあの屈辱を、なのはたちが忘れるはずがない。

 どこから出てくる。人を常識外の手段で変わり果てた姿へと変える化け物に恐怖故か意識をそれへと向ける。だから自分達の前にいる存在の行動を見逃してしまった。

 

「あぁ、アリシア……。今からあなたを助けるからね……」

 

 人生を賭してでも待ち望んだ愛娘が目の前にいることに夢中になっているプレシアだけが何が起きているのかわかっていない。否、わかろうともしていない。

 ただ娘を助けるために。ただ娘に会いたい一心に。ただこれから起きる惨劇を無くすために。プレシアは周りのことなど目に入れることなく、ただ目の前の映像へと興奮で震える足を運ぶ。

 

「ッ!母さん!ダメ!」

 

 襲いかかってくるであろう化け物を知っているフェイトはその魔の手から母を助けるために手を伸ばす。機械人形をかわしての移動に、しかしその腕がプレシアに届く前に映像の中から3つのナニカがプレシアの胸に突き刺さった。

 

「えっ?」

 

 その光景に誰も動くことはできなかった。胸に突き刺さっているにも関わらず痛みも大してないそれがなんなのかをプレシアが理解する前に、粘性のあるものを吸いとるかのような汚い音が辺りに響いた。

 

「か……ぁ……!?」

 

 ジュルリ、ジュルリと3本の触手がプレシアの何かを吸いとる。液体を吸いとっているようで、しかしそれは致命的な何かを吸いとっていることを証明するかのようにプレシアの様子が目に見えて変わってゆく。

 妙齢の美人と言えたプレシアの肌の張りがなくなり、声に覇気がなくなり、顔から生気が失われていく。

 

「っあああああああああアアアアア!!?!?!」

 

 フェイトの叫び声が、部屋の中に満ちた。手に持ったバルディッシュを大鎌へと変え、非殺傷設定すらも解除してプレシアを苦しめている触手に電気の刃を斬り込んだ。

 斬り込まれた触手は抵抗もなくいとも容易く断ち切られ、電撃によって焦げ付く嫌な臭いを発した。悲鳴のような唸り声とともに粘着質な液体をすするような不快な音をたてながら触手は過去の映像の奥へと消えていき、同時に悪意が消えていった。

 そして、プレシアは立つ力すら残されてなかったのか胸に孔を空けたままその場に崩れ落ちる。

 

「母さん!」

 

 倒れたプレシアを見てフェイトは急いでプレシアの側に行く。人形のごとく全身の力が抜けて重くなったプレシア体をフェイトはなんとか上半身だけ抱き抱える。

 しかし、プレシアの顔から生気を感じない。美しかった顔は一気に老けたかのように土気色となり、温かかったであろう体温も奪われたかのように冷たくなっていた。

 その様子はまるで死んでいるかのように、プレシアは静かにフェイトのなされるがままだった。

 

「母さん!母さん、母さん!母さん……ッ!」

 

 プレシアの様子に、フェイトは涙を溢す。脳裏から最悪の出来事を振り払うかのように母さんと叫び、涙を流し、ただ自らの無力を嘆いた。

 

「……その顔で、アリシアの、顔で、泣くのは、やめなさい」

 

 フェイトの頬に冷たく、しかしどこか温もりのある震えた手が添えられた。涙で見えなくなった母の顔は、苦しみに耐えながらも憎んでいるかのような表情は変わらずにフェイトを見ていた。

 

「母さん……?」

 

 フェイトは震える手で頬に添えられた手をつかむ。もはや手を上げるだけでも辛かったのか手を握っても震えていた。

 

 鞭を打った。人形と呼んだ。体のいい道具としても扱った。憎まれてもおかしくない行為をあれほど行ったというのに、まるで嫌う様子のない幼子にプレシアはせき込むかのように弱く笑い声をあげる。

 

「……本当に、どうして、こうなった、のかしら、ね」

 

 プレシアは自嘲するかのように笑みを浮かべる。体を動かすこともできず、もはやしゃべることすら困難なほどに衰弱しきっていた。

 だからかもしれない。衰弱しきった体で、残り数分と持たない命で見るフェイトが、どうしてか記憶の中にいるアリシアと重なり、それがある言葉を思い出すきっかけとなった。

 

『私に妹がいたら、私も、それにお母さんも寂しくならないよね』

 

 そうだ。寂しいのだ。夫を早くに亡くし、アリシアがただ1人の家族だったからアリシアに執着していた。

 たった1人の家族。たった1人の愛娘。我が子が望んでいた、否、自分すらも望んでいた寂しさのない日常を、あろうことか自ら作り出しては自分の手で壊そうとしていたのだ。

 自分の本当の望みはすぐ側にいたのに。自分の本当の望みは既に手の中にあったも同然なのに。それすらも気づかずに、ただ1つの願いに妄執し続けていた。

 

「……いきなさい」

 

 ポツリと、息も絶え絶えにしながらもプレシアは最期の力を振り絞って手を震わせながらフェイトの頬に当てる。

 フェイトは突然のことに目を丸くしてプレシアの目を見る。その目は今までの狂気に満ちたものではなく、理性の光を灯した、優しさのある目だった。

 

「……お母、さん?」

 

 頬に添えられた母の手を、どうすればいいか分からずに触れたり離したりする()()()をプレシアは笑った。

 この子はこんなこともわからないのか。この子がこんなこともわからないようなことを自分はし続けていたのか。

 それは愛しい娘が死んでから()()()感じた後悔だった。どうしてああしてあげられなかったのか。どうしてこうしてあげられなかったのか。そんな愛娘にし続けていた後悔を、プレシアはフェイトに想ったのだ。

 

 そして添えた手を静かに伸ばし、壊れ物に触れるかのようにフェイトを優しく撫でる。

 

「いきなさい、フェイト。あのこの、いもうと……わたしの、むす、め……」

 

 それが最期まで振り絞れた力だった。撫でていた手は重力に逆らうことなく床に落ち、さっきまでとは比べ物にならないほどに、プレシアの体は重くなっていた。

 

「……かあ、さん……?」

 

 あまりにも急激に重く冷たくなった母の体は、幼い少女の細腕で支えるにはあまりにも重いものだった。

 

「母さん!母さん!」

 

 フェイトは揺する。母だった肉体を現実を拒否するかのように必死になって揺すった。しかし、それから返ってくるのは何もない。ただただなされるがままに動き、そして動かない。

 ダラリと力なく眠る姿は、決して起きることのないそれは、幼い心を持つ少女に否応がなしに現実を見せつけていた。

 

「あ、あぁ……!あああああぁぁぁあぁぁああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これがプレシア・テスタロッサの引き起こした事件、ジュエルシード事件の顛末だった。

 その後も謎の生物が全員の前に現れたが、直後にジュエルシードの暴走による爆発、およびそれによる次元震によって時の箱庭の崩壊が起きた。

 この爆発によって本事件の首謀者の1人でもあり、同時に被害者でもあるフェイト・テスタロッサは爆発に巻き込まれたものの幸運にも小規模の爆発によって吹き飛ばされ、大爆発に巻き込まれることなく全治1ヶ月の重傷で済んだ。さらに魔法を使うことで1週間も経たずに通常の生活を送ることが出来る程度には回復できた。

 しかし事件の真犯人であるプレシア・テスタロッサの遺体は爆発に巻き込まれ、行方不明となった。爆発によって消えたプレシアとアリシアの遺体、およびジュエルシードをアースラが懸命に探すも、次元震による虚数空間に落ちてしまったのか結局は見つけることはできなかった。

 

 そして管理外世界でジュエルシードを奪い続けたフェイト・テスタロッサとその使い魔アルフはクロノ・ハラオウンによって逮捕されたが、その傷と経緯(いきさつ)からひとまずアースラにて療養することとなった。さらに経緯と事実を知っているからか、それとも自らと同じく親を亡くしたからか、彼女の罪を軽くするために奔走することとなった。

 

 実の母を失ったフェイトは悲しさに打ちひしがれていた。最後の最後に娘と呼んでくれた母に、しかし救うことができなかった自身の力のなさを呪った。

 それでも、フェイトは立ち上がった。親友となる女の子の手助けもあったが、フェイトは自分の足で立つことができた。悲しみを引きずったまま、しかし母の最期の遺言でもあるいきなさいという言葉を胸に、ゆっくりではあるが確かに進んでいく。

 

 母に見せたかった世界を。母とともに歩むことのできなかった未来を。失った痛みを忘れることなく、ただ自身の信じる道を、母の望んだ道をいきつづけるために。

 




精神力を一定まで吸い取られる前に救うことができた時のEND。このENDと本編のENDの違いはトラウマがあるかどうかの違いですねたぶん。←
ついでにこのENDではフェイトがとある存在を利用して作られたという事実がなくなって原作通りの存在になったりならなかったり。ぶっちゃけこっちの方がフラグ回収の必要がなくなって楽だったり。

いやぁ、やっぱ同じ死ネタでも複数のルートができるからクトゥルフはたまんないんだよ!

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