3度目の人生は静かに暮らしたい   作:ルーニー

25 / 29
(´・ω・`)遅れてごめーんぬ。

あ、今回わざと誤字ってる場所あります。



無印11

「これですべてのジュエルシードの場所は判明していることになるわね……」

 

 次元の狭間を航る船、アースラの一室。そこでアースラの艦長を務めている女性、リンディ・ハラオウンは静かに現状を思い起こしていた。

 魔法技術のない世界である地球。運搬事故によってジュエルシードが落とされ、それによる様々な事件が起きていた。要請から人員確保、作戦会議、世界情勢考慮までと時間をかけてしまったが、幸運にも現地協力者によって被害は大きくはなっていなかった。

 しかし、同時にこちらと同じくジュエルシードを狙う少女、いや、少女に指示していた女性であるプレシア・テスタロッサのほうにもジュエルシードを持っていかれ、海の中にあったジュエルシードすらも奪われてしまった。

 後の戦いでプレシアの指示に従っていた少女、フェイト・テスタロッサの確保に成功したが、プレシアにとっては何も感じない手駒にしかなく、向こうからの一方的な通信でフェイトの心が壊れる寸前にまで追い込まれていた。しかしリンディはそう思いたくないが、そのおかげでどこにいるかを探知することができ、プレシアのいる場所が時の箱庭であることが判明した。

 

 ジュエルシードをプレシアの願いである娘の死者蘇生に使うことに強く執着しているプレシアに、もはやこちらからの通告は意味のないものとなっていた。

 アルハザードというありもしない空想都市にすがり付き、決して起こすべきではない死者蘇生にジュエルシードを使わせるわけにはいかない。尊敬する父を、愛する夫を失ったハラオウンは、愛する者を失った痛みを知りつつも同じく愛する者を失った者の歪んだ願いを阻止すべく彼女を止める準備していた。

 

 しかし、リンディは直に始まる大きくなるであろう戦闘に集中できずにいた。油断するわけにはいかない、地球の存在すらもかかっている戦いだというのに、どうしてか1度しか遭わずにいた少年が頭から離れずにいた。

 

「……今まであの少年が現れていないことを幸運と思うべきか、それとも動向が読めていないことを嘆くべきか……」

 

 思い出すのはフードを深く被った、背丈は現地協力者である高町なのはと同じぐらいだろうと予想がつくが、しかし血肉を滴らせていた全く子供らしくない少年だ。本来なら喜ぶべきであろうあの1件以来全く音沙汰もないことが、まるで嵐の静けさのような不気味さをリンディは感じていた。

 

 あの少年はこの街の住人だと言うことはあのときの言葉から容易に予想がつく。しかし、どうしてこの街に住む少年が魔法を引き起こすことができたのか、という疑問が出てくるのだ。

 まるで意思を持つかのように動く炎や正体不明の化け物を鑑みるに、おそらく少年の使う魔法は召喚魔法だろうとリンディは予測をたてる。もしかすると魔法ではなくレアスキルである可能性もある。姿を消したのも召喚魔法の応用でできたのかもしれない。

 

 だが、少年のこと以上に分からないのはあの化け物だ。青い脳漿のような粘液を滴らせ、バリアジャケットを貫通する細長い針のようなものを持ち、まるで若さを吸いとるかのように突き刺した対象を老わせる力、そして次元の壁すら容易に移動できる、少年が猟犬と呼んだ存在。

 これほどまでに危険な生物ならば危険指定種として情報がある。そのはずなのだ。しかしあの化け物はいくら調べても欠片も資料に出てくることがない。老いさせる力を、次元を越える力を持つ存在がこんな魔法文明のない世界にいるとは思えなかった。念のためにとこの世界で化け物のことについて調べても資料は1つもでなかったのだ。

 それだけではない。あの戦闘で残った僅かな粘液を採取して何かしらの手がかりを求めて成分を調べたのだが、その粘液には通常ならばありえない事実が存在していたのだ。生きる上で必要とされているはずの酵素。それが全く含まれていなかったのだ。この事実に粘液を調べた乗員はありえないことだと顔を青ざめており、あれは本当に生物なのかとわめき散らすほどだった。

 

 そんな化け物を、あの少年は操っていた。しかもあの化け物が現れる前に姿を消していた。

 どうして姿を消したのかはわからない。確かに召喚者は自身が攻撃されないように遠くから操るのがセオリーだが、それは召喚者は姿を現さないからこそのセオリーだ。無機物を召喚するなら操りやすいように近くにいたほうがいいが、それならば最後までいなければならないのだ。

 だが、あの少年は姿を現した。そして姿を消した。まるで自分達を見定めに来て、見放したかのように。

 

「……不気味ね……」

 

 不気味だ。陳腐な言葉ではあるが、あまりにも不気味すぎる。手に血肉を滴らせ、魔法文明のない世界で魔法を使い、正体不明の化け物をも使役する。明らかに普通ではない。

 だからこそ、リンディは彼の言葉を調べた。見たくもないおぞましい化け物が映っている映像の中に、少年の手がかりになるものはないかを探すために。

 

 気にかかったのは『血と脂をつけていた』こと、『クリーチャー』と呼ぶ存在を知っていること、『あの子』なる存在、そして『黒い()山羊』なる存在だ。

 

 血と脂をつけていた。つまり誰かを殺していた可能性が非常に高いということだ。いや、むしろ確定と言っても過言ではないだろう。

 調べてみればここ最近夜中まで外にいた子供たちが何人も行方不明になっている事件がある。まず間違いなくあの少年が関わっていると見ていいだろう。

 しかし、わからないのは行方不明になった子供たちが誰も見つかっていない点だ。一瞬にして姿をくらます魔法を使ったとしても、結局は死体が消えたわけではない。この世界の秩序を守る存在が無能でない限りどこかに捨てたとしても発見されるはずなのだ。しかも全国的にニュースで放送されるほど有名になった事件で、人数の規模からして捜索を打ち切るとは考えにくい。

 つまり、あの少年は通常では考えられない方法で死体を片付けたということだ。こちらの追跡を振り切る移動手段を持っていると考えれば、ありえない話ではない。

 いや。死体を消す方法はある。少年が使役していたあの炎。あれで死体を燃やし尽くせばあるいは見つからないかもしれない。だがあの炎は調べてみても死体を消すほどの温度はない。何かしらの方法で温度をあげることはできるかもしれないが、それなりの設備は必要としているはずだ。

 結局のところ、あの少年が人を殺していたということには変わりない。だが、この世界では存在しないはずの魔法を使って人を殺している。到底赦されるべきではない。順次調べて捕まえなければならないことは明白だ。

 

 次に『クリーチャー』と口にしていたことについてだ。クリーチャーとはこの世界の言葉で考えるならば化け物という意味で間違いないだろう。それをあの少年は出したと言った。つまりクリーチャーは出すことのできる存在であることが窺える。現にあの猟犬と呼んだ化け物を出していたのだから召喚魔法を警戒していることは明白だ。

 だが、なぜそれを警戒しているのかがわからない。確かに魔法生物を使役する部族が存在しているから警戒するのもおかしくはないが、魔法文明もドラゴンと言った存在も架空の存在としているこの世界で警戒する意味がわからない。

 あの必死さは間違いなくこの世界にいないであろう何かを知っていた。だからその原因と思われる自分達を襲ったのだろう。

 どこでその存在を知ったのか。それがわかればあの少年の正体を知る手がかりになる可能性が高い。

 

 次に『あの子』という存在。あの言葉からすれば『あの子』とは原因不明の何かに苦しめられている身内を指しているのだろう。そして原因不明の何かとはなんなのかを魔法、ひいてはジュエルシードのせいだと思い、それを奪い合っていたあの子たちと私たちが原因と判断して襲いかかった。

 あの子たちがそんなことをすると思えない以上、原因不明の何かに侵されたのはジュエルシードと考えられる。つまり移送事故があった日よりも後で病気、または怪我を負ったこの街に住む子供の身内である可能性が高いということになる。

 

 そして、最もおかしいと感じてならないのが『黒い()山羊』の存在だ。

 あの少年は『黒い()山羊』を召喚したと言った。これだけならば文字通り黒い子山羊がジュエルシードに願いを叶えてもらい、その被害を被ったと考えるだろう。だが調べてみてもこの街に山羊がいたという記録はない。それに山羊がいたとしても大抵は飼育されているもので、都市化が進んでいるこの街に生息するのはまずいない上に野生でいるのは九州より南のほうだ。

 つまり、この街で人目につかない山羊がいるというのはおかしいのだ。山羊がどうにかなったという噂もこの街にない以上、山羊が存在しないと言っても過言ではないのだ。

 存在しないものを召喚したと憤っていた少年。高町なのはが今まで集めていたなかで山羊が存在したと聞いていないことから、本当に山羊のようなナニかがここにいた可能性が出てきたのだ。

 

 総合して結論付ければ、あの少年は『身内が原因不明の病を患っている、魔法文明の存在を知るレアスキル持ちの殺人鬼』ということになる。レアスキルは追跡を振り切り、火の玉や化け物を出していたことからおそらく空間に作用するものだろう。

 厄介だ。魔法技術がない世界でレアスキルを用いての殺人はこの世界の住人だけでは解決することはまず不可能だ。さらに『黒い()山羊』と呼んでいたナニかを呼び出す存在がいる可能性がいることを鑑みると、アースラおよび管理局の局員を遣わせなければならない事案だ。

 

「……嫌な予感がするわね……」

 

 今までいくつもの事件に関わり、かつ最悪の遺産で夫を亡くした経験が警笛を鳴らしているように、虫の知らせのようななにかをリンディは漠然と感じていた。

 それが何なのかはわからない。少年が脅威になるのか、それとも別のナニかが脅威になるのか。だが、放っておけば良くないことが起きると、警鐘が鳴っているのを感じていた。

 

「艦長。時間です」

 

「……もうそんな時間ですか……。わかりました。すぐにいきます」

 

 アースラの乗員に呼ばれ、もうすぐ作戦の時間であることに考えすぎたと反省しつつ頭を切り替えていく。

 今は目の前の問題に取り組まなければならない。相手は強大な魔導師だ。下手をすればジュエルシードによって地球が滅んでしまう。そんなことにならないようにしなければならない。時空管理局の名に恥じぬよう、世界を守るために。

 

 この時のリンディは痼のように残っているそれを無視するように努めた。忘れる、とまでいかなくともそれに思考を囚われていては最悪の事態になりかねないからだ。

 それは正しいことだった。だが、同時にそれは最悪の選択でもあった。のちにPT事件と呼ばれるようになった事件の後始末に追われて少年のことを後回しにしたことが、史上最悪と言われる事件を起こすことになるのだった。

 

 リンディが予想した最悪の事態が正しかったと知ったときには、既に取り返しのつかない災厄が降り立つことをこの時誰も知るよしもなかった。

 あの少年をただの殺人鬼と認識してしまったがゆえに。知るはずもない、人智を超えた、おぞましく、どうすることもできない存在を知らないがゆえに。狂った少年を知らないがゆえに。世界を滅ぼす神話が、音をたてずに忍び寄っていたことを、気付くことも知ることもできなかったのだ。

 




はい。ということで子山羊はわざとです。言葉でしか聞いてないからこの間違いは仕方ないネ!

はい。投稿遅れてほんとすいませんでした。いえ、公務員試験とかあったんですよ。その勉強とかその合間にプロットとかいろいろ書いてたんですが、書いたものが矛盾とか展開とか考えた結果一話分がまるまる没になった辺りから展開にめっちゃ困ったんですよ。
その結果がこれだよ!時空管理局対神話生物との戦闘を期待してた方ホントごめんなさい!でもこういう展開しか思い浮かばなかったんですはい。

明らかな矛盾点やそもそもの名前の間違いなどがありましたら報告お願いします。矛盾だった場合最新話を消してもう一度作り直すことになりますががんばりますので(震え声)

・追記
クリーチャーとはこの世界のことで指すなら
→クリーチャーとはこの世界の言葉で考えるならば
に変更いたしました。ご指摘ありがとうございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。