3度目の人生は静かに暮らしたい 作:ルーニー
保育園児1
なんで、またこんなことになったのか。
自分の周りで子供たちがわいわいと賑わっている中、自分だけこっそりとため息を吐く。こっそりしたとは言えさすがに周りとは違う反応をしているのは目立つのか年上の女性からどうしたの?と声をかけられ、何でもないです大丈夫ですと適当にごまかす。まぁさすがに言葉遣い的な意味で怪しいから訝しげな表情をするが、すぐにお友達と遊びましょうね~とにぎやかな中へと連れて行こうとする。
勘弁してくれ。なんでまたこんなことになるんだよ。確かに2回アラサーも行かずに死んじゃったけどさ。なんでまた保育園児から人生が始まるんだよ。
そう。なぜか俺は今3度目の人生を始めているところだ。理由?俺が知りたいわ。確かに死んでからこういったことが起きたけど、死んでからよくある神様転生なんてものはなかったし、気が付いたら前世の記憶を
死んで気が付けば子供になっている。これだけで正気が失いそうになるってのに、その世界は最悪の一言に限る世界だった。
クトゥルフ神話。ラヴクラフトが作り出した宇宙的恐怖のホラー小説。テーブルトークRPGとして一躍有名となったその作品に出てくる、あるはずのない神話的存在が2度目の人生で存在していた。
初めて神話的存在に気付いたのは小学生となったころだったか。ある授業にてアメリカのある都市についてを聞くことがあったのだが、その都市の名前が、アーカムだった。
アーカムとはラヴクラフトが作り出した仮想都市であり、そこにはあらゆる書物が収められていると名高いミスカトニック大学もあったのだ。
俺は前世の記憶をはっきりと明瞭に覚えている。授業であると言われた場所が架空上の存在であるということをはっきりと覚えていた俺は、まぁ混乱した。混乱して、困惑して、そして、発狂した。
俺はクトゥルフ神話はTRPGから知って興味が出たにわか勢でもあるけど、KPもすることがあった俺は一通り書いてあることは目を通している。普通ならそれでおしまいなんだが、なぜか俺はその読んだ部分をハッキリと覚えているのだ。
何が必要でどんな邪神がいるのか、どんなクリーチャーがいてどんな呪文があるのかもはっきりと思い出せる状態にあった俺は正気に戻ってもすぐに発狂寸前まで精神が弱ってしまった。
それからだろう。他の人から見たら異常だと思われるほどに辺りを警戒していた。怪しい噂のあった家やトンネルへの肝試しなんて絶対に行かなかったし、初台駅には必要な時以外では絶対に行かなかった。青山霊園にも絶対に行こうとしなかった。研究所なんかも最低限だけで絶対に行こうとは思ってもいなかった。
けど、そんなことをしてもまるで嘲笑うかのように、それこそ裏でナイアルラホテプが手を引いているんじゃないのかと疑いたくなるほどに神話的事象に巻き込まれていった。中には逃げられない状況だったり逃げれば世界が終わってもおかしくなかったようなものもあったからホントヤバかった。
しかもそれが中学の時からわりとシャレにならない頻度で起きていたから、もう大学に入ってから嫌だと叫びたかった。というか叫んだ。それほど神話的事象が起きていたんだから、もういつ発狂してもおかしくなかった。
だって呪文とか二けた覚えたんだぞ。黄金の蜂蜜酒の作り方も覚えたし、魔力を貯める呪文だって覚えざるを得ない状況で覚えたことだってあった。
出会った神話生物は深き者から始まり、仔山羊に亡霊、イゴーロナク、ショゴス、クァチルと、他もあげればきりがないほど遭遇してしまっている。もうクリーチャーレベルなら正気を失うほどでもないと言い切れるほどに出会っている気がする。
だって中学1年の時に遠足で行った島で深き者どもと遭遇したんだぞ。女子生徒何人か攫われててマジでR-18になりかけていたんだぞ!先生含めた生徒一丸となって女子生徒を助けられたからよかったけど、今思えばあれが神話的事象に巻き込まれることになったんだろうなぁ。
次は家族旅行で行った先に狂信者がいるし、異空間に連れてかれるわ、学校の催しで邪神を降臨しようとする奴が出たし、友達が持ってきた本がどこから手に入れてきたのかグラーキの黙示録だったり狂信者が手に入れようと付け狙っていた屍食教典儀の写本だったりと、もう本当になにか憑いているんじゃないかと叫ぶほど事件に巻き込まれ続けていた。事件に首を突っ込んでいるんじゃなく、事件が尻尾を振ってこっちに向かってきているんじゃないかと思ったほどだ。
中学高校と、ホント学校の催しでどっかにいくのは休もうかと本気で思ったぐらいで、実際にどこかしらに行ったときに事件に友達と巻き込まれたりとふざけんなと言いたくなるようなことがてんこ盛りだった。
特にひどかったのは中学3年のときだった。課外活動の一環で片田舎に泊まりで行ったときに姑獲鳥の事件に巻き込まれたときだった。その村の子供たちが原因不明の熱病にうなされ、数人が死亡したという事件があった。熱病に侵されている子供たちに共通して服に血のようなものがついているという話があったのだが、友達にこの血のようなものがつけられ、熱病に侵されたのだ。
このままだと友達が死んでしまうということで、授業そっちのけで原因を調べたことがあった。なんとか原因を発見して退治することができたけど、頑張りも意味を成せず、退治するのが間に合わずにそいつは死んでしまった。
そのあと学校側や村の管理に問題があると騒ぎになり、その後泊まり込みで行う課外活動は無くなったという話を聞いたけど、それよりいわくつきの場所で活動させるのを止めろと俺は言いたかった。
そう考えると高校はまだマシだった。大怪我をすることはあっても死んだ人は誰もいなかったんだから。と言っても規模は中々に最悪と言えるものになってきていたんだから喜ばしいものじゃないんだが。というか1人の古今東西の怪しい品を集めるというのが趣味のバカが全体の半分を占めるほどなんだが。なんであんな稀覯本の写本を何度も手に入れられるんだよ。写本と言っても稀覯本と言ってもいいようなモノすらあったときがあったんだから。
持ってることはどうでもいい。いやどうでもよくはないけど、それに俺を巻き込むなと声を大にして言いたかった。というかそんなものを持ってくるなと何度も本気で説得した。けど収集癖は治ることがなく、結局死にかけるまで集め続けていてそれに関する事件に否応なく巻き込まれていた。
けどネクロノミコンの写本とかどこで手に入れたんだあの野郎は。どういった伝手をたどっていけばあんなふざけたものを手に入れれるんだよホントに!
……とにかく、あのバカはネクロノミコンの写本で死にかけて以来は集めることはなくなったけど、それまでは俺に見せてはヤバいことが起こることがあったってのに懲りずに集めてきやがったから何度縁を切ろうと思ったことか。
その中で本当に嫌だったのは事件解決のために本を読まざるを得なくなったことだ。退散の呪文が必要だったときとかもう死んだと思った。もう2度と外なる神を相手にしたくない。盲目白痴の王の召喚を止めるなんてもうごめんだ。
そんなことがあっても時が過ぎるのは止められず、気がつけば大学入試の時期がくる。だというのにどこぞのバカがテストの問題を見るがために未来に行こうとして猟犬に見つかり、なぜか俺も含めて追いかけ回されていた。なんとか攻撃を食らわずに退散させることに成功したけど、あのときほどあのバカを殺したいと思ったことはない。
そして、なんとか大学に合格して入学してもナイアルラホテプが俺を見ているんじゃないのかと嘆きたくなるほどに事件が勃発していた。
大学の天文部が秋の終わりに神格を招来しようとしたり、カウンセラーの無形の落とし子と対決したり、大学教授がショゴスを作り出したり、ドリームランドで作り出した化け物を倒したりと。
もう自宅に引き込もって一生外に出たくないとマジで思ったほどキツい大学生活だった。
そんな生活を送っていたからか、大学卒業してから精神安定剤がなかったら結構ヤバいときがあった。内定が決まって大学を卒業してからも度々事件に巻き込まれ、職を失ったのは1度や2度ではない。むしろあんなに事件に巻き込まれているのによく正気を保っていられるなと自分で感心するほどの事件に巻き込まれていた。
その中で未だにトラウマとして恐怖を感じているものは多少ある。いないとわかっているのにそれに近しいものを見た瞬間魔術をぶっぱなして壊すかただひたすらに逃げるかを繰り返しているほどだ。
トラウマはどうあがいても治らないものだ。変なものに恐怖したり性的思考をしない分マシだとは思うが。
実際包丁やカッターといった刃物より窓の外にはびりついている玉虫色のナニカのほうが怖いに……。
「ぎゃああああああああああああああああ!?」
「ちょ、なに、どうしたの!?」
「ショゴ、ショゴスがぁああああああああああ!!」
「ショゴ?って、あれタマムシ!?なんであんなにたくさんここに!?」
「うわきもっ!」
「キャー!」
「うわすげぇ!」
「すいません先生!近くの昆虫店でタマムシの入った籠が壊れて逃げ出したと伝え忘れていました!」
「なんでもっと早く言ってくれないんですか!子供たちが不安になるでしょう!」
「す、すいません!今すぐ店の人に連絡をして回収してもらいます!」
もう嫌だ!なんか言ってるけどショゴスを相手にするのはもう嫌だ!
「お、おちつきやしんやくん!」
「放せはやて!あれから逃げなきゃ死んじまう!」
もう、あんなやつを相手にするのは嫌なんだァァアアアアア!!
結局、俺のパニックが辺りに広がり、全員が落ち着くのに1時間近くかかったのは本当に申し訳ないことをしたと思う。
主人公設定(クトゥルフ神話TRPG探索者シート風)
事件の愛され子/転生した幼子/生ける魔導書
STR:14 CON:13 SIZ:16 DEX:14
APP:12 POW:22 INT:16 EDU:25
SAN:0
アイデア:80 こぶし:65 キック:65 回避:24
目星:75 聞き耳:75 隠す:65 隠れる:80
忍び足:55 応急手当:55 武道(空手):55 言いくるめ:45
運転:55 オカルト:65 コンピュータ:55 図書館:65
薬学:25 天文学:25 心理学:75
クトゥルフ神話:95
3度目の人生を送ることになったいわゆる転生者。前世の記憶は1度読んだものの細かな部分をはっきりと明瞭に思い出せるため、常時発狂しかけている状態にある。前々世の記憶はぼんやりとしか思い出せない。
前世では神話的事象に何度も巻き込まれており、その事件で親しい友人が何人か死んでいる。どうあがいても事件に巻き込まれることを悟った高校2年生の頃にはいやだいやだと思いつつ魔術や護身術を必死になって習得している。実際そのおかげで助かったことは何度もあった。
大学を卒業した辺りで既に正気ではない状態になったが、正気であると思い込むことで平穏な状態ならばどこにでもいるような人間であるようには振る舞える。ただし何らかの事件に巻き込まれた場合は知識や魔術をフルに使って首謀者を排除することになんのためらいもない。
ちなみに前世での彼を知っている人は
幼馴染「もう哀れにしか思えない」
高校の友人「少年誌で出てきそうな探偵漫画の主人公だわ」
大学の友人「オカルトはあいつに任せれば何とかなる」
野望を抱く刑事「エサ。あいつを使えば難解事件は解決するからな」
人のいい刑事「あいつがいなかったら日本はどうなっていたことか」
という具合。