今回はコラボ企画、設定立案は白雪紫音 先生(Twitter: @Sirayuki_Shion)です。
それでは『薄月の航跡』――――――抜錨!
昼下がりというのは万国共通でやる気が削がれるものであるらしい。暑すぎるから、眠いからなど理由は異なるだろうが、大体そういう風に体ができているように感じる。
「……眠い」
芝生に面した木陰のベンチという絶好の位置を確保した彼も例にもれずやる気を削がれているところだ。手にした薄いタブレット端末からは『深海棲艦? 謎の目撃証言』やら『
「やるべきことは、ある……」
あるのだが、手につかない。
目の前の公園の芝生の青さを見て木のベンチに背中を預ける。土曜ということもあり子供の姿も見える。潮の香りもどこか混じる風が心地よく眠気を誘った。寸胴の警備ドローンがゆったりと公園の中を巡回している。
「子どもは元気だなぁ……」
バトミントンのシャトルなどが宙を舞い、海鳥の声が響く。平和そのものだ。それを享受できることのなんと素晴らしさよ。
あっ……
「……ん?」
まどろみの最中に子供の声が割り込んだ直後、彼の目の前を紙飛行機が高速で目の前を通過した。
「うわっ!」
「ご、ごめんなさいっ!」
紙飛行機はベンチの背もたれに当たって落ちる。それを追うようにしてパタパタと一人の女の子が駆けてきた。見覚えのない白い制服は何処かの小学校の物だろうか。緑色の角襟に細いリボンで前を閉じた清楚なセーラー服にパスケースを吊った小ぶりなポーチ。赤茶色のキャスケット帽がどこか浮いて見える。
「ごめんなさい、怪我してないですか?」
「いや、大丈夫だよ。紙飛行機の狙い外れたかな?」
「はい……ごめんなさい」
「いいよいいよ、謝らなくて。綺麗に折ってあるね。手作り?」
彼がそう聞くとどこか申し訳なさそうな顔が照れたように変わる。少し紫色が混じる茶色い髪を跳ねさせる少女はこくりと頷いた。
「うーん、真っ直ぐ飛ばすだけならウィングレットつけるだけで大分飛ぶよ」
「ウィングレット……?」
「少しだけいじってもいいかな、この飛行機」
そう言うと彼女が頷くのを確認してタブレットを下敷きに翼に手を加えていく。翼端を折り曲げて角度をみる。指先に載せて重心を確認するなどいろいろに手を加えていく。
「少し重心が後ろよりかな……」
バックから書類用クリップを取り出して紙飛行機の機首に止めた。もう一度正面と横から確認。
「よし、これで少しは安定するかな……っと」
それを手に持って芝生の方に押し出してやると、そのまますいと風に乗り、まっすぐ芝生に向けて滑空していく。
「おー!」
それを追うようにして走る少女を見て彼は笑った。
「すごーい!」
「これで大分安定して飛ぶと思うよ」
「これだけで真っ直ぐ飛ぶようになるなんてびっくりなのです。ありがとうございますっ!」
その反応に目を細めて「どういたしまして」というと少女が改めてベンチの方にやってきて、横に座った。それに戸惑う。そんな気配を彼女も感じ取ったのか、こてんと首を傾げた。
「? 誰かの席だったりするのです?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「なら少しだけお話しませんか? 今日は睦月の妹たちもいなくて退屈なのです」
そう言う少女は何処かいたずらっ子のようなクリンとした目を細める。
「……じゃぁ少しだけな。俺は
「睦月です。よろしくお願いします。こうづまさん……って呼んでいいですか?」
目を細めて笑う少女――――睦月との最初の出会いはあまりに急に、それでも平凡に始まった。
†
「……反応が途切れた?」
再探知をかけろ、と仄暗い空間に響く。照明が落とされ、ディスプレイだけが辺りを照らす空間は異様な緊張感に包まれていた。
「どこかに
「了解!」
威勢のいい声が返ってくる。それを聞いてその場の責任者が溜息をついた。そしてそれが志気に関わると思い溜息をついたことを後悔する。
「お疲れですか? 艦長」
「いや、ただもどかしいと思っただけだ」
そう略式の作業帽をかぶった男が言う。
「甲種指定害獣が現れてから早十幾年、未だに陸周辺部を守るだけで精一杯の現状だ。それも、あんな兵器を投入して、だ」
そう言って横の男を見やる。
「なぁ、水雷長。この状況をどう見る」
「……瀬戸内まで侵入しているとは正直考えにくいです。ただの魚群である可能性が高いのでは?」
「楽観視はできんだろうよ。万が一にも哨戒線を越えてきたのがいれば、日本の重工業を支えるこの内海が戦場になるんだぞ」
「ですが……ありえるのでしょうか?」
「万が一にも億が一にも可能性を否定できないならばその可能性から潰し、最悪の事態を避ける。それが軍隊というものだろう。探せ」
そう言った直後に部屋にいた通信員が声をあげた。
「艦長! 《にちなん》より緊急の通信です!」
「繋げ」
すぐに男が司令卓の受話器をあげる。
「こちら《なんぷう》、《にちなん》送れ」
『こちら海洋情報収集艦《にちなん》座上中の敷島准将だ。こちらの観測員が甲種指定害獣と思しき影を発見。貴艦の四時方向一五ノーティカルマイル、数最低十六、確認できるか』
そういわれ目の前のスクリーンを見やる。
「こちらでは確認できない」
『了解。こちらで捕捉中だがルートからして広島か呉、ないし
それを横に男が眉をひそめる。会話に聞き耳を立てていたらしい。
「……《にちなん》はこちらの五マイルも前方ですよ。こちらでも捕捉できない対象を補足できるでしょうか」
「《にちなん》は海洋情報収集艦だぞ。レーダーやソナーの性能はこちらと比較にならん。それにあの艦には『アレ』が乗ってる」
そう言って通信を返す。
「こちら《なんぷう》了解した。緊急戦闘に備える」
『対応感謝する。現時点をもって本艦は緊急戦闘に備え試験情報収集任務を中断し、敵勢力を追尾する。貴艦の左舷側を通過することになる。注意されたし。通信終了』
一方的に切られた通信を受けて、僅かに嫌な顔をする水雷長に男はどこか苦笑を浮かべた。
「准将とはいえ何様のつもりですかね? こちらの指揮権ないでしょう」
「だからこそ『準備されたし』とだけ言ったんだ。越権指示ギリギリだがね。これで何もなかったら笑い飛ばして終了だ」
ただ探針音だけが響く暗闇の世界で戦闘用意が静かに整えられていく。探針音の回数だけが時の流れを伝える。そして――――――
「呉防海域に高度警戒命令発令! 呉軍港沖に甲種指定害獣の存在を確認!」
「呉地方総監部より第一種戦闘配備命令!」
「来たか」
男が小さく舌打ちをした。
「敷島准将の情報は正しかったな。対艦戦闘用意。これより本艦は甲種指定害獣の漸減を開始する。右舷四点回頭用意、かかれ!」
後に呉沖甲種指定海獣対処行動、通称第一次呉沖海戦と呼ばれる戦闘の始まりであった。
†
「じゃぁ上妻さんは大学生にゃし!」
「しがいない学生だけどね」
そんなことを言ってタブレットを上妻は持ち上げる。
「一応情報工学の専門だからコンピュータとかかな、専門は」
「へー、文月ちゃんみたいー」
「文月ちゃん?」
「うん。睦月の妹の一人なんだけど、コンピュータ使うのが上手なの」
上妻の隣でベンチに腰かけ足をぷらぷらと振る睦月はそんなことを言って笑っている。上妻は合わせるように笑みを浮かべる。電源を入れっぱなしのタブレットからは『難民関連法案今期可決は絶望的か』などのニュースフラッシュが流れている。
「でも、今日はみんなちょっと出かけてるから睦月は一人なのね。いつもならみんなでこの公園に来るんだけど」
「だから一人で公園に来てたんだ。ってことは地元の子?」
「うーん、引っ越してるから生まれは違うんだけどにゃぁ」
どこか猫っぽい語尾を付ける彼女。どことなくほんわかとした印象を受ける。
「そういう上妻さんは呉の人?」
「生まれは
「でも訛ってないんだねぇ、なんとなくこっちの人って『何々じゃけぇ!』とか『おんどりゃぁ! そこ退けやぁ!』とか言ってるような感じが……」
「任侠映画じゃないんだから」
そう笑った刹那、タブレットに赤い警報表示が現れた。サイレントモードにしていた設定を無視して大音量で電子音のサイレンが鳴る。
「にゃっ⁉」
「……甲種指定海獣警報⁉ ここ内海だぞ⁉」
エリア警報・甲種指定海獣が接近しています。速やかに安全シェルターに避難してください。
そんな表示が出ているタブレットを乱雑に仕舞う。その横では睦月が呆然とした表情を浮かべていた。
「どうして……三つも哨戒線を越えてくるなんて……!」
直後、風切り音がすると同時、閃光が光る。爆発音が届く。 その時差一秒以上二秒未満。おそらく五〇〇メートル以内。衝撃波の残滓らしい突風が吹いたほうを見ればどす黒い煙が膨らみながら昇るところだった。
「……! 睦月ちゃん、こっち!」
ベンチを蹴るようにして立ち上がり、睦月の手を引く。
「うにゃっ⁉」
「早く避難するんだ! 殺されるぞ!」
そう言う間にも市街地の方から煙が上がる。子どもの泣き声が公園のいたるところから響く。睦月が上妻の手をゆっくりと放しながらそれを振り返る。上妻は彼女がまだ付いて来ていることを確かめながらも走り続けた。
「一番近いシェルターはどこだ⁉」
上妻はたすき掛けにしたタブレットポーチから薄い板状の機械を取り出した。それを首に叩き付けるように当てるとそれが首に沿って丸まり、首元を戒めるチョーカーようになる。生体電気を読み取り、パイロットランプが点灯。同時に上妻の視界には薄い青のフィルタがかかるように情報が表示されていく。
―――――スーパーリンカー 正常に起動しました 生体認証 上妻正敏 正規登録ユーザーです
直接脳内に響く合成音声を聞きながら、上妻は奥歯を噛み締めた。使えるようになるまでの数秒がもどかしい。
ネットワーク接続確認。視界に周囲の地図をオーバーレイ、付近の安全シェルターの位置を表示。最短経路検索。
「七〇〇メートル先⁉ 広域避難場所にシェルター作ってねぇのかよ! なにやってるんだようちの行政!」
そう言いながら公園の外に出る。もう一度振り返り、睦月の方に手を伸ばす。
「たぶん脚は俺の方が早い! 背負ってやるから急ぐぞ!」
「……上妻さんは先に行ってください。行かなきゃいけない場所があるのです」
「はぁっ⁉」
素でそう叫んでしまい、睦月が肩を怯えたように竦めたのを見て一瞬しまったと思い。すぐにそれを否定した。
「なに言ってんだよ! 深海棲艦がここまで来てるんだぞ⁉ 馬鹿なこと言ってないで逃げるんだよ!」
「大丈夫ですよ。睦月はこれでも正義の味方なのです」
子供じみた理由。正義の味方なんて、なんて子供だましな。
それでもなぜか声をかけられなかった。その刹那に彼女は背を向ける。その道の方向は――――――呉市街地。今ちょうどまさに化物が攻撃を加えているところだ。
「この先七〇〇メートル道なりに直進すると安全シェルターがあるはずです。そこに逃げてください」
「あ、待て―――――!」
上妻が無理やり彼女の手を掴もうと手を伸ばす。それを軽々と避けて彼女は笑う。
「紙飛行機、ありがとうにゃし!」
そう言って駆けていく彼女、それを追いかけようとして、遠くに落ちた爆音に足を止めてしまう。その間に彼女は交差点を曲がり、街中へと消えていく。
「くっそ……」
七〇〇メートル、全力疾走で二分、それで安全圏が確約される。今会った女の子のことなど忘れて走れば自分はほぼ間違いなく生き残れる。出会って十分も経ってない少女のために命を危険にさらす理由がどこにある。
すごーい! ありがとうございますっ!
睦月です。よろしくお願いします!
大丈夫ですよ。睦月はこれでも正義の味方なのです。
――――――紙飛行機、ありがとうにゃし!
「くそったれっ!」
自分のお人好しさに腹がたつ。
首元のチョーカーに触れる。モード切り替え、パフォーマンス優先に設定。市街地に向け、走る。
†
「……すこし厄介かも、にゃぁ」
そう言ってビルの後ろ、植栽の影を駆けていく。周囲にはシェルターに向かう人が我先にと駆けていく。それを横目に睦月は反対方向へ走る。信号の看板を確かめる。カソリック教会前。
「あと、六二〇メートル。見つからずに行けるかにゃぁ……」
息を整え、意を決し、走る。見つかったら集中的に攻撃される可能性が高いし、準備がないから見つかれば一巻の終わりだ。今はまだ撃たれる訳には行かなかった。
「安全なところに避難してください。安全なところに避難してください」
そう言ってまわる警備ドローンを尻目にかけていく。隣ブロックに砲弾が落ちたのかビルからガラスが降ってくる。それをよけるようにビルの壁際に寄った。十何階からの鋭利なガラス片はアスファルトにも難なく突き刺さる。当たり所が悪ければ簡単に天国行きだ。
一通り落ち着いたところを見計らって走り抜ける。交差点を超えた。あと五〇〇メートルくらいか。
「嬢ちゃん! 早く避難するんだ!」
後ろから声がかかるが無視。無茶だとわかっている。そうだとしても、私は――――。
「……行かなきゃ」
海上で水柱が立った。やっと海上部隊の攻撃が始まった。間に合うか。
次の交差点に出る。直後に何かに躓いて地面が迫る。
「ふにゃっ!?」
擦った肘を気にしながら顔をあげ、目を見開いた。自らに影が落ちている。
「駆逐ハ級後期型……⁉」
のっそりと足をついて見下ろすそれ。――――深海棲艦の濁った瞳が睦月を見下ろしていた。
喰われる!
起き上がりながら腰の後ろに手を回しても、ポーチを叩くだけだった。一瞬歯噛みして足の痛みにバランスを崩す。
「――――――――睦月ちゃん!」
響いた声に一瞬動きを止める。声の響いた方向を見ると猛スピードで走ってくる警備ドローンと―――――
「上妻さん⁉」
ドローンが其のままのスピードを保って駆逐ハ級に体当たりする。百何十キロもあるドローンが時速七〇キロで体当たりをかけるのだ。いくら怪物といえども姿勢を崩す。睦月がそれを呆然と見ていると両脇から抱えるようにして持ち上げられた。強引に抱えられたせいで少し息が苦しいが、そのまま交差点の対岸まで連れていかれ、下ろされた。同時に怒号が降ってくる。
「全く! 遠くまで行きすぎだバカ!」
「バっ、バカとは失礼にゃ!」
「そんな噛み噛みで言われても迫力ねぇぞ」
上妻はそう言って首のチョーカー型のデバイスに触れ、溜息を一つついた。その合間にも目線は周囲を走る。
「上妻さん、何を……」
「警備ドローンの運用プログラムをクラックした」
早口でそう言って睦月の方をちらりと見る。
「今回は正当防衛なり緊急避難でチャラにしてほしいね。で?」
「え?」
「深海棲艦に囲まれた状況で無謀な嬢ちゃんは何をする気なのかな?」
そう言って軽く笑いながらチョーカーからコードを引きだす。それをタブレットに接続。
「なんで、来ちゃうんですか、まったく」
「こんなところまで一人で来る女の子に言われたくないね。で、どこに行く気だい?」
「――――――――呉海軍基地、です」
「……本気で言ってる?」
「はい」
「海岸線だよ?」
「でも睦月は行かないといけないんです」
睦月がさらりと言いきった。刹那逡巡するような表情を浮かべ、「あぁもう」少々自棄な雰囲気で髪をかきむしる上妻。
「乗り掛かった舟だし、見捨てられん。付き合うけど本当にそこに行く気か? 睦月ちゃんまったく、とんでもない女の子と知り合いになったもんだ」
そう言って上妻は立ち上がり、睦月の手をとって走りだす。どこからともなく現れた警備ドローンが彼らを守るように追従する。遠くにまた煙が立つ。次の角を曲がれば海軍基地の門が見えるはずだ。
「……っ!」
目の前を砲弾が走る。とっさに後ろを走る睦月の頭を抱え込んでしゃがみ込む。直後、鈍痛、鼓膜を破らんばかりの爆音。
「……大丈夫かい睦月ちゃん」
「上妻さんこそ無茶しないでください!」
「……まったくだよ」
誰のせいだと言いかけて上妻は言葉を飲み込んだ。脇腹かどこかに破片が当たったのか痛みが激しい。だがなんとか立ちあがり笑って見せる。耳の上というか目の横というか、そこをアスファルトかなにかの破片がかすったらしい。血が頬を伝う感覚がある。ついでに左耳がどうもくぐもって聞こえる。
「……いくぞ」
どこか泣きそうな睦月の背中を軽く押して立ち上がる。
「――――行くんだろ? もうすぐそこだ」
右手で脇腹を押さえ、角から頭を出す。砲弾でひび割れた道路を渡る。思ったより痛みが激しい。
「こっち!」
歪んで開いた通用ゲートに何とか体を滑り込ませる。柵に残った血の跡に睦月は辛そうな顔をした。海岸線の向こうは文字通りの戦場へ向けて近づいていく。
睦月が手を引くようにして一つの建物へと連れてきた。地面にめり込んだかまぼこ型の建物は倉庫のようにも見える。その入り口の脇にある電子パネルに睦月がパスケースをかざす。飛び出してきた読み取り機に人差し指を差し込むと、OPENの表示が灯ると同時。ドアが重い音と共にスライドした。
「ドアが開いた……?」
それに驚きつつも、睦月に「入って」といわれ考えるのをやめた。中は真っ暗だが上妻たちが足を踏み入れるとスイッチの入る音と共に徐々に順に明かりが灯ってゆく。それを見て上妻は言葉を失った。
「これは……」
目の前には思ったよりもがらんとした空間が広がっていた。反対側の壁際から建物の中ほどまで水路が六本引かれており、緩やかに揺れる水面が天井の高光度ハロゲンランプの明かりを照り返している。
「びっくりした?」
どこか悪戯っ子のような笑みを浮かべて睦月はそう言うと、壁際にある大きなコンソールに手をかざす。火が入って明るく灯る操作パネルに睦月が触れると同時、大量のリストが表示される。
「……やっぱりこれしかないけど、ないよりはずっといいかにゃぁ」
どこか諦めたような声色でリストの一つを呼び出した。
「古い装備だけど今は時間を稼げれば……」
睦月はそう呟きながら、表示された緑の実行ボタンに触れて振り返る。後ろに立っていた上妻に手をかけそっとコンソールの影に座らせると、水路の一本に向けて走り出した。
「ここなら安全だから上妻さんはここにいて!」
「睦月ちゃん……君は……」
「正義の味方!」
誇らしげな笑みでそう言う睦月を見ながら、上妻は自分の体重を支えられずにコンソールに体重を預けた。その視線の先で睦月が振り返らずに駆けていく。
「音声認証! DDMK-01! システム・スタンバイ!」
建物内部に反響した声に反応するように、睦月の背後の床がせりあがった。警告灯の黄色い光が乱反射し、駆動音と一緒に警告音ががなりたてる。
「ずっと使われてなかった艤装、うまく使えるか……」
それでも私が守らなきゃ。
せりあがった床の下から現れたコンテナの扉が開き、現れたのは――――鋼鉄の塊。それが睦月の背中を覆うように動き、接続が行われる、床の一部がせり上がり足元を覆う。同時に横からせりあがったアームが彼女の太ももに何かの箱状の鋼鉄の塊――――魚雷発射管を取り付けていく。
「睦月が出なきゃ始まらないんです! スーパーリンカー起動! システムアクティベート!」
少女が背負うには明らかに大きな装備。それを背負って少女は前を睨む。コンテナから勢いよく飛び出してきた主砲を手に取った。それと同時に視界に短い一文が表示された。
―――――ALL SEQUENCE / CMPL
「第七十五試験艦隊旗艦、睦月! 出撃です!」
いかがだったでしょうか?
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次回は戦闘編
それでは次回お会いしましょう。