感謝感激感無量です!
あと少し前にルーキー日間にランキング入りしてました。
見てくださった皆さんありがとうございます!
怖い。
私の心の中を満たしていたのはそれだけだった。
千冬さんから言いつけ?られていた通り、ほっておくとまともに食事をしようとしない一夏を、強引に食堂へと連れただけ。
多少渋るくらいでも私としては普通の、楽しい食事だった。
上級生、リボンの色からして3年生がくるまで、は。
6年ぶりに再会した一夏は私の事を覚えてないとはっきり言った。
それが私にとってはひどく悲しかったし、下手したら立ち直れない事だったと思う。
他人の事を有象無象のゴミとしか見る事をせず、何しろ人を殺すという事を平然とためらわない性格ははっきり言って姉さんにそっくりだと感じた。
興味のない人に対し関わろうとしない、まだ声をかけられたら返事を返す分マシかもしれないがそれもどんぐりの背比べ。
それでも一夏らしいところは残っているし、私を自惚れかもしれないが慕ってくれるのは嬉しかった。
でも、それはあくまで気分のいい時、そう姉さんと同じく自分の世界を邪魔されるのを何よりも嫌うということを嫌でも思い知らされた。
上級生のことを躊躇うこと無くしめあげる姿を見せつけられて。
瞳から光が消えた焦点が定まらないような、世間でいう死んだような冷たい目。
怒りにまみれた言葉なのにもかかわらず背筋が凍りつくほどに淡々と、そして地獄の底から響いてきたような恐ろしい声。
周りにいた生徒たちが、まるで自分が今から殺されるのではないかというほどの殺気を受け、腰が抜けたり泣き出す生徒がいる中、私はどうして咄嗟に千冬さんの助けを求めるためにはしることができたのだろうか。
私では止められないと悟り千冬さんを頼ろうとしたのか、それとも単純に私がそれに耐えることができずに逃げるための口実を作ったのか、今となっても答えは出ないまま。
織斑一夏は死んだと言う。
デザイント計画の影響で私の知る一夏はもうどこにもいないと。
最初はどこか信じられなかったわたしもこの惨劇を見せつけられて思い知った。
幼いながらも正義感だけは大人にも負けなかった一夏はもうどこにもいない。
今の一夏は私にとっては、そう言われたのと同じく他人だ。
オリムライチカという入れ物に私の知らない誰かが乗り移ったのとなんら変わりない。
もしかしたら私を慕ってくれるのも、あくまで昔のオリムライチカが仲良くしていたからそれの延長としているのかもしれない。
力があれば。
力が少しでも私にあったのならば、世界はちょっとだけ変わっていたのだろうか?
一夏はここまでになることはなかったのではないか。
ほんの僅かでも、笑えていたのではないかと、人に対してもう少し優しくなれていたのではないかと。
しかし、今となっては何もかもが遅く、私は力がないから千冬さんに頼るしかない。
私は一体どうすれば良いのだろうか。
いくら考えても答えは出てこなかった。
絞め殺そうとしたことがどうしていけないのか結局わからずじまい。
だけど、姉さんにもう二度とあんなことしないでくてくれと泣きながら抱きとめられると流石にやるわけにはいかない。
大切な家族である姉さんとの約束だ。
守らないとバチが当たる。
とにかく気に入らないからという理由で当たるのは極力控えよう。
そんな事を考えながら教室へと戻る。
ガラリとドアを開けると一斉に突き刺さる視線。
やっぱりなーなんて思いながらも、全くそれを気にする事も無く自分の席に着くと、次の授業で使う教科書を取り出しペラペラとめくる。
中学にまともに通わず中退し、それ以降まともな教育を受けてこなかった俺には 一般教養言うものが欠如している。
まぁ、頭の中に光ファイバーで構成されたスーパーコンピューターが埋め込まれているせいで、一度覚えたことは忘れないものの、流石にISとなると覚える量は多い。
なのでこうして少しでも頭の容量内に記憶する必要があるのだ。
「...............で?さっきからこっち見てるけど、なんかようでもあるわけ?」
「え?あっ、あはは。ご、ごめんね?朝と全然違うなーって思って...............」
「ふーん?見てたのか」
控えめにこくりとうなづいたのは、昨日も話しかけてきた鷹月とか言った生徒だった。
さっきからずっとこっちを見ていたから声をかけてみたが、大した理由ではなかった。
そこまで大げさに思う事か?
「気にしてるんだったらあれだけど、全然朝とは雰囲気が真逆だったから」
「まぁ、今はキレる理由もないし」
「うん。すごい怖かったから驚いちゃったけど、今は全然違くて。なんていうのかな、ハイジのヨーゼフみたいに無害?」
「はい?」
ハイジ、ヨーゼフ。
確か家の古い本棚にそういった感じの本があったような気がする。
数十年前のアニメで絵本だったり映画化だったり割と人気だったはずだが、なんという題名だったか。
...............ん?犬?
「俺は犬じゃないけど」
「違う違う、ものの例えだよ。なんだかちょっとだけ無愛想だったりマイペースなところがそっくりだなって」
「褒められてないのはよく分かる」
「別にバカにしたわけじゃないよ。話してみれば意外と優しいし、周りに流されないところとかは憧れるよ」
「優しい、ねぇ」
まさかそう言われるとは思っていなかったので、顔には出さないけど内心ではかなり驚いている。
俺みたいな人格破綻者が優しいとか、鷹月はどんな思考回路を持っているのだか。
「...............だから、なんで朝はあんな事したんだろうって思うの。どうしてあそこまで出来るのかなって」
「別に。気に入らないからやっただけだ。お前がどう思ってるのか知らないけど、俺は悪いともなんとも思っていないから」
「そんな理由でそこまで他人に無情になれるもの?」
「なれるも何もなぁ、昨日言ってしまったから分かるかもしれないけど、有象無象の1人にしか見ない、いや見れないと言った方が正しいかもしれない」
「昨日のって、オルコットさんに言い返した時の?」
「お?よく覚えてるね。その通りで、他人の事はどうでもいいっていうか、無関心というか、とにかくそんな程度でしかない。なんかしんじられないんだよな。もちろんこうして話しかけられれば返事は返すし、丁寧に来られればそれなりに対応はするけどさ」
とまぁ、偉そうにそういったものの、俺は何を言っているのだか。
デザイント計画で脳をいじられたせいで昔の記憶がないのは箒に話した通りだが、それと同時に人に対する倫理観もけされた。
それはつまり人はなぜ殺してはいけない、当たり前のことをそう思わなく殺しても構わないと、つまり今の俺のようになった。
何が言いたいのかというと、人としての常識もないくせに他人に価値観押し付けてんじゃねーよというわけだ。
「そうなんだ。私と話してくれるのもそういう考えだから?」
「む。ビミョーに違うぞ。まぁ、なんの縁だか知らないけどこうして同じクラスになったんだ。それなりに付かず離れずの関係くらいにはなりたいと思うし。まぁ、他のクラスはどうでもいいけど」
「あはは。あ、相変わらずそういうところは厳しいね...............」
「やっぱりおりむーは優しいね〜」
「あ?おりむー?」
あははと鷹月と話していると不意に話の中に入ってきた生徒。
明らかにサイズの合っていない制服のせいで袖からは手が出ていないし、やけにのほほんとまったりとした雰囲気。
というかそれよりも聞かなければならないのは、謎のあだ名おりむーについてだ。
「うん〜。おりむらだからおりむーなんだよ〜?結構いいせんすしてるでしょー」
やけに間延びしたマイペースな喋り方だった。
いいセンスかどうかは別としてそれはさっさとあきらめる。
こいつに直せといっても直す気などさらさらなさそうだったから。
「俺の事はどうとでも呼べばいいけど。さっきの俺はやっぱり優しいってどういう事だよ?」
「ん〜?そのままの意味だよー?おりむーは人の事信じられないとか、どうでもいいって言うけどね〜?本当に嫌いだったら返事なんてしないはずだよ〜?」
やけに疑問視が多い喋り方でもあった。
なんだかこっちの調子が狂いそうだ。
「昔の偉い人は言いました。好きの反対は嫌いじゃなく無関心だと〜。それで行くと、おりむーは優しいって事になるんだよ〜」
「なるほど。良く分かんね」
「わからないのになるほどって...............」
「それにね〜。おりむーが人を信じれないのはきっとひどい事ばかりされてきたからなんだと思うよ〜?ひどい事いっぱいされてそれでも信じて、裏切られてそれが辛いから信じるのが怖くなっちゃったんだよー。そうでしょおりむー」
「んー。そうでしょと言われても良くわからないな。そう考えた事もなかった」
「って、お姉ちゃんが言ってたー」
「姉の請け負いかよ...............」
思いがけないカミングアウトに思わず椅子から転げ落ちそうになった。
いい事言うんだなと言おうと思ったのにこれだよ。
でも、まぁその考えも一理あるのかもしれないと思う。
好きの反対は嫌いではなく、無関心。
本当に他人の事が嫌いだったらこうして会話する事はないはずだ。
なのにおれがこうして話すのは、単純に口だけの強がりなのか、それとものほほんとした生徒が言ったように自覚はないが優しいからなのか。
「そんなおりむーには私からのプレゼント〜。なでなで〜」
「...............おい」
などと、意識を思考の渦に持って行っている間に何故か俺は頭を撫でられていた。
どうしてこうなった。
(全く、良くわからないやつだな...............)
俺の経歴故に短い中学時代の中で話しかけてきたやつは弾たちを除けばいなかったし、いたとしても暴言を吐かれたくらい。
純粋な感情で話しかけてくるのは俺の家族だけだったのだが。
だけど不思議な事に不快ではなかった。
むしろ話しているのも悪くないと思ってしまう。
数ヶ月前の、世界のすべてを拒絶していた俺が見れば信じられないと一喝するかもしれないけど、これが現実。
...............俺も甘くなったな。
頭を撫でられながらそう思った。
ちなみに余談だが。
半殺しに仕掛けたあの女は学園の中でも他人を見下すせいで嫌われていたらしく、裏では自業自得などと言われているらしい。
うん。女という生き物は末恐ろしい。
時が過ぎるのは早く、あっという間に俺に決闘を仕掛けた女、オルコットとかいうやつとの試合の日になった。
短い間ではあるものの、放課後に新しい俺のISの試運転や調整を済ませているため準備は抜かりない。
試合まであと30分もある中、俺はアリーナピットで待機していた。
「体調はどうだ?」
「大丈夫。万全だよ」
分厚いグローブに包まれた手を開いたり閉じたりしながら答える。
ボディスーツかと見間違えるような俺の全身を首元まで完全に覆うもの。
それが俺のISスーツだ。
対G性能、唯一点に集中して作られたオーダーメイドのこのスーツがなければ俺のISをまともに操縦する事はできない。
並の人間をはるかに凌駕する強化人間をもってしても、体を壊しかねない殺人的な機動力、PICをもってしても打ち消せない凄まじいGが襲うからだ。
普通のISスーツならぐしゃぐしゃのミンチになって死ぬだろう。
だからこのスーツを着てあるというわけだ。
「一夏。お前には悪いが、今日は非公式だとはいえ初の実戦。それにお前の実力を一目見ようと各国から政府関係者が訪ねてきている。モンドグロッソのように観客の前でISを展開してくれ」
「ふーん。まぁ、そんな奴らはどうでもいいけど」
観客の前でISを展開する。
それはモンドグロッソなどの公式試合で行われる対戦前の形式美のようなものらしい。
IS、つまり自分の武器を展開するのはお互いの姿を確認してからという礼儀だという。
ISを操縦する馬鹿どもに礼儀の心もへったくれもないと思うけども、
まぁ、展開する場所が違うだけで大した変わりはなく、それに万が一生身の状態の時に撃たれても避けられるから問題もない。
「今ばかりはお前の気持ちが分かるよ。実際目の前で対応して怖気が走った。政治家はやはり汚いな」
「そりゃあもちろん、金と権力にしか興味のない奴らだけだし。それにばれたら社会的に抹消されるようなことに手を染めているやつも少なくはない」
唯の紙切れと、目に見えないもののどこが良いのか、俺にはさっぱりわからない。
だけど唯一言えるのはあんな風にはなりたくないというだけだ。
すべてを捨ててまで手に入れる価値があるのかはなただしい。
「現にデザイント計画に関わっている連中もあそこにいるみたいだし、ね」
「なんだと?」
「見覚えのあるある顔だから間違いない。あいにく記憶力は良いから。というかそれ以前にこれを聞いて欲しい」
そう言って俺が姉さんに見せたのは超小型ボイスレコーダー。
兎さん印のそれはUSBほどの大きさでありながら1テラバイトもの容量を持つ優れもの。
携帯性にも優れた最強レベルの盗聴道具。
ーーー織斑一夏が生きているとなると、私の出世に影響が出てしまう。いつデザイント計画に加担していたかバラされるかわからない以上芽は積んでおきたい。金はいくらでも出す。どんな手を使っても構わないから奴を殺せ。
あの政治家の秘匿回線から盗聴するのもお茶の子さいさいだったりする。
もちろんハッキングした形跡を残すこともないから、俺がこうしたことも向こうにはいっさいばれてはいない。
まぁ、秘匿回線とはいえ盗聴する方法などいくらでもある。それに頼ったのが運の尽きだった。
何も行動を起こさなければ、俺も何もしない。この世界の行く末なんて興味もないのだが。
因果応報、自業自得だ。
「全く馬鹿だよなぁ。計画に加担しているならさ、デザイントがどれだけの実力を誇っているか分かるはずなんだけど」
「...............随分と落ち着いているな」
「まぁね。デザイントはもともとそういう存在だしね。こういうのは慣れっこさ」
俺の殺害を指令した政治家に嫌悪を隠さず眉をひそめる姉さんと異なり、俺はケラケラと笑うだけ。
やっぱり俺は戦いの中で生きる存在だと実感できる。
日常の中で平穏に暮らすのも悪くはないけど、しっくりくるのはやはりこっちだ。
なんとなく落ち着く気がする。
「それに、あいつが仕向けた黒服達が装備する歩兵用の武器程度じゃ、“俺を殺すことはできない”」
そう言いながら俺が取り出したのはシグザウエルp226。
かの有名なAKシリーズ並の信頼性と耐久度を誇るこの銃は、世界最高峰の拳銃として名高い。
デザイントになったあの日から使い続けている愛銃ともいうべきそれを、ためらいもなく俺の頭に押しつけると引き金を引く。
「ほら、こんな感じにね」
「...............全く、いくら分かってるとはいえ見ていて気分の良いものではないな」
狭いピットに響き渡る銃声。
俺の頭を貫くはずだった銃弾は、強化骨格に変貌させられた骨に弾かれあらぬところへと飛んで行った。
ガクンと首に被弾した時の衝撃が有っただけで、血が吹き出ることもない。
損傷した頭部の皮膚組織もナノマシン瞬時に修復し後すら残さない。
これがデザイント。
通常火器類では傷つくこともなく、頭部を吹き飛ばされようが内臓をぶちまけようが、体の内部に埋め込まれた5つの核をほぼ同時に破壊しない限り死ぬことはない。
たとえ一つ壊せたとしても残りの4つが相補的に動作し修復してしまう。
もちろんそれを壊すのにはIS兵器か、核を持ち出さなければ不可能だ。
逆に言えばISさえあればいいのだが、あいつの護衛に女はいない。
つまり俺を殺せない。
「まぁ、あいつが動いたんだ。もしかしたら姉さんや箒に被害が出るかもしれない。後は山田先生とかかな。だったら、こっちも容赦する必要はないよな?」
「容赦ないな、お前は」
「目には目を、歯には歯をってね。向こうがそう出るって言うならそれなりの対応はしてやらないと。それにもう、手は打ってある。チェックメイトはかけてあるから、後は無能な王様とやらを討ち取るだけさ。なぁ、“束?”」
「もちろんだよ、ダーリン!」
いつの間にかピットに居た束へと声をかける。
能天気で子供のように無邪気な性格は相変わらずで、眠たげな表情も同じく。
こうしている会うのは二週間ぶりほどだったか。
「ありとあらゆる汚職のことは調べ上げといたよ!セクハラから賄賂までとにかくぜんぶね。この束さんに調べられないことはないのだー!」
「た、束!?お前、どうして?」
「ん?簡単だよ姉さん。束があいつを失脚させるための協力者さ。あいつには豚箱が似合いだ」
ニヤリと笑いながら姉さんに答える。
きっと俺は清々しいまでの笑みを浮かべていたに違いない。