インフィニット・ストラトス[IFルート]   作:駄菓子

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最後らへんに黒っぽいのと、束とのイチャコラがあります。


5話

(どうして当てられない!?わたくしが何故、何故ですの!?)

 

試合が開始され早くも30分が過ぎた。

が、たった1発をかすらせることもできない現実に苛立ちが隠せない。

スターライトMKⅢ大型エネルギーライフルも、ブルーティアーズと呼ばれる思考制御のビット兵器を使って銃口を4つに増やしても意味がなかった。

全てがISのFCSを振り切ってしまう程、常識外れのスピードのせいで避けられてしまう。

 

(このっ!わたくしを小馬鹿にするつもりなのですか、あの男は!)

 

なのにも関わらず、織斑一夏はこちらと違ってたった1度も攻撃を仕掛けてこない。

何度も攻撃する場面はあったというのに。

普通なら攻撃を回避するのだけで手一杯なのだと嘲笑うことができるかもしれない、だが織斑一夏は違う。

わざと攻撃を仕掛けてこないのだと。

全身装甲という、ISには珍しいタイプのそれのせいで表情を読み取ることは出来ないが、はっきりと分かる。

こちらを見下すかのように嘲笑っているのだと。

だからこそ苛立ちが止まらない。

 

(認めるわけには、あのような出来損ないを認めるわけには!)

 

こちらと織斑一夏に決定的な実力の差があるのは明らかだった。

第3世代と第4世代という機体性能の差というハンデ以前の問題差。

それはかつて時代遅れとすら言われた刀一本で、絶対的な技術と圧倒的な才能と経験から裏付けされる実力から世界の頂点に上り詰めた、織斑千冬そのものを連想させた。

きっとあの男は量産機を使っていたとしても、この状況に持ち込まれるかもしれない。

それでも、あの出来損ないを認めるなど到底出来なかった。

イギリスの代表候補生としても、一介の女子としても、それ以前にISを操縦するものとして認められなかった。

もしも認めてしまえばISは女しか動かせないという前提が作り出したこの女尊男卑の社会が、たった一人男で動かせるというイレギュラー、秩序を破壊する者の手によって崩壊しかねない。

悔しいがあの男の実力は織斑千冬とまではいかないがそれに匹敵するのだから。

それ以前に、あの男は見下し蔑んだ者が生み出した非人道な兵士だ。

この試合でもしも負けてしまえば男女で勝るのは男になってしまうのと同義。

絶対に負けられない。

 

「ほらほらどうしたよ?二度と口を聞けないようにしてくれるんだろ?こんなんじゃあくびが出るよ」

 

なのにも関わらず一向にBTレーザーは当たらない。

ぎりりと嫌な音が聞こえるほど歯を食いしばって、喉まで出かけた反論を抑え込む。

あの男が言うことは限りなく正論であり、そこに反論すればただの負け犬になってしまう。

イギリスでも有数の貴族の娘、貴族の誇りにかけてでも負け犬の立場になるわけにはいかない。

血を吐くような努力と圧倒的なBT適正と最高クラスのIS適正Aを持ったエリートとして。

そうでなければ専用機を持つことのできなかった、本国に残った候補生たちに顔向けが出来ないのだから。

己は由緒ある貴族、中世より長き間に渡り栄えたオルコット家の血を受け継ぐ者、セシリア・オルコット。

第3世代試作機ブルーティアーズを使う者として、オルコット家の全ての資産を守り、預かる者として。

必ず勝たねばならない。

一度たりとも敗北は許されないのだから。

 

 

 

 

“愛しのダーリン!やっとあいつがダーリンと面会したいって申し立てがちーちゃんにあったみたい。もう無駄に長引かせる必要はないよん!”

 

「そうか。ありがとう束」

 

試合が始まって30分が経った頃だろうか。

コアネットワークを通じて開かれた回線から、最も待ちわびた知らせを束は持ってきた。

万が一の為に、というか最初の一手がうまくいくことは殆どないので第2第3の手を考えるのは常套手段なのだが、こうも上手くいくとやっぱり笑いが止まらない。

自分の首を絞めていることに気づいていないのだから。

 

「ほらほらどうしたよ?二度と口を聞けないようにしてくれるんだろ?こんなんじゃあくびが出るよ」

 

そろそろ試合を終わりにするとしよう。

あいつが手に乗ってきた時点でこれ以上長引かせる理由は全くない。

ついでに秘密裏に頼まれていたことも済ませよう。

ただ倒せばいいだけだから対して難しい依頼というわけでもない。

 

「ということでさ、さっさと終わらせて帰っていい?さっきから一発も当てられないし、俺飽きたんだけど」

 

「ハァ!?今まで攻撃の意思を見せなかったくせに何を言うのです!ふざるんじゃありませんわ!」

 

「へぇ?じゃあ攻撃の意思を見せれば良いんだな?」

 

は?と間抜けな声を上げるイギリス候補生を尻目にヒュージキャノンからマシンガン、果てはプラズマブレードまでもを装甲に戻し、代わりに拡張領域から1本の刀を取り出す。

 

「ゆ、雪片?」

 

「いいや。純粋な雪片の銘を持つ刀を持って良いのは未来永劫姉さんだけ。こいつはその名前をあやかりなづけられた雪片二型だ」

 

「射撃」

 

「射撃機に刀で挑むなんて無謀だ。なーんて言わせないぞ。そういえばお前らイギリス人だったな。刀は時代遅れ、今は銃器の時代だって。ほんの少し前までは銃剣突撃をしてたのにも関わらず」

 

雪片二型の切っ先をイギリス候補生へと向ける。

 

「世界の頂点に立ったのは刀だけで上り詰めた姉さんだとか、時代遅れと言ったくせに近接機のテンペスタを作ったとかごちゃごちゃ言ったり説教たれたりなんざしない」

 

向けた上で言う。

 

「簡潔に言う。お前をこいつ一本でその翼を全部もぎ取ってやるよ、イギリス候補生。いや、セシリア・オルコット」

 

「い、行きなさい!ブルーティアーズ!」

 

その掛け声とともに再びブルーティアーズとなづけられたビットが俺の元へと殺到する。

が、俺はそれを気にすることもなく、背中と肩そして脚部の展開装甲を最大出力モードのブースターに変更。

反物質ジェネレーターからメインブースターとサブブースターへエネルギーを過剰供給。

独特な甲高い音が響きわたる。

 

ーーハイパーセンサー超音速化モードへ切り替え完了。

オーバードブースト、エネルギー充填率120パーセント超。

 

雪片二型の柄を両手で握り直す。

 

「さて、フィナーレだ」

 

その言葉と同時にチャージされたエネルギーを解放、凄まじいを通り越した推進力が百分の一秒という極めて短い時間で、ゼロからマッハ5へと加速させた。

 

「消えた!?」

 

ハイパーセンサーをつけたセシリア・オルコットが見えないのだ。

観客が見えるはずもないが、そのカラクリは極めて単純であり、早すぎて捉えられないだけだ。

ハイパーセンサーを使えば捉えられないことはないが、それはあくまで俺が通り過ぎた後に起こるソニックブーム。

俺本体を捉えることは絶対にできない。

 

「なっ!?」

 

空中で標的を失ったビットが、セシリア・オルコットの持っていたスターライトMKⅢが突如として爆散したのも、いきなり壁に叩きつけられたのも、全部俺が切り裂きソニックブームで吹き飛ばしただけだ。

時速6000キロオーバーを叩き出す中、クイックブーストで無理やり進路を変更するたびにISのPIC、そして対Gスーツを持ってしても打ち消せない凄まじいGによる負荷が俺の体をぐしゃぐしゃに壊していく。

骨が粉々に砕け、内臓が破裂する。

しかし生身の人間であれば即死のそれも、俺の体内に存在するナノマシンが痛覚を遮断し一瞬で修復してしまう為死ぬことはない。

やがて全ての武器を切り落とされ丸腰となり、半ば戦意喪失しアリーナの地面にへたり込むセシリア・オルコットの前に立つ。

少々無茶をしたせいで機体の一部からはアラートが鳴っているが、束がいるからすぐに直してくれるだろう。

 

「...............あ」

 

俺を見上げるその瞳。

その瞳には明らかな怯えがあった。さっきまでの俺にきつく当たっていたあの力強さはどこにも無い。

まるで親とはぐれた幼子のような、そんな姿だった。

 

「...............うん。お前は確かに強いんだろうよ。そこに立つ為に必死に努力して、苦労したかもしれない。まぁ、いろいろ言いたいことはあるけど、一度でもいいから敗北して苦渋を舐めてみろよ」

 

それだけをいうと俺は雪片二型を振り上げた。

今はまだ試合で決着はついてはいない。

明らかにどちらが勝っているかなんてわかりきっているが、本当の意味で敗北を味わう為には降参を促すわけにはいかない。

もしも、もしもここが戦場であれば俺は死んでいる。戦場で情けをかけたが最後、狩られるのは己なのだから。

 

「零落白夜」

 

ーー音声コマンド確認。単一能力「零落白夜」起動

 

「本当なら叩きのめして終わりにしたかったけど、誰かさんが助けてやってほしいだとさ。取り敢えず試合は終わりにしよう。言いたいことは山ほどあるから、勝手に約束だって言って死ぬなよ?俺はお前の可能性にかけてみるんだからな」

 

そして俺は振り下ろした。

 

勝者、織斑一夏とアナウンスが流れ、歓声に包まれるアリーナ。

初めての試合で初めての勝利。

それがなぜか虚しく感じた。

 

 

 

 

「お疲れ、ダーリン!」

 

「あぁ、ありがとう束」

 

ナノマシンのおかげで傷ついた体は後を残さず治り疲れも取れて、これならデザイントになってよかったかなと、少し不謹慎なことを思いながらピットに戻る。

するとピットからは姉さんの姿はなく、代わりに1人だった束が抱きついてきた。

ただし、試合前のような息ができなくなるようなものではなくて、単純に俺の胸に顔を埋めるような、詰まる所普通のハグ。

 

「えへへ〜、さっきを除けば2週間と3時間52分ぶりのダーリンだぁ。やっぱりこうするのが一番落ち着くよ」

 

「...............そんな細かいところまで覚えてたのかよ」

 

さらりと凄いことをいう束。

一番驚きなのは時計を見ないで言ったということであって、つまり束は脳内でそれを図っていたのだろうか。

今更だけど末恐ろしい奴。

 

「ヘッヘッヘ!この部屋には束さんとダーリン以外いないからすきなだけ甘えさせてもらっちゃうもんねー!堪忍しやがれなのだよダーリン!」

 

「おいおい。いきなり何言ってんだよ?さっきしただろ?」

 

一方的にだったろ?とは言わないが。

 

「えー?あんなののーかんだよのーかん。チーちゃんいたし、時間なかったし〜?というわけでうりうりー!拒否権は無いぞう?」

 

「くすぐったいって」

 

と、口ではいうものの拒むことはしない。

束と同じで俺だって束とは会いたかったし、2週間ぶりの、束式でいうなら3時間52分ぶりの再会は素直に嬉しく思う。

ある意味で俺が1番心を許せるのは束だからこそ、次に会えるのが何時になるか分からない以上この時間を大切にしたかった。

似た者同士というのも少なからずあるかもしれない。

会おうと思えば何時でも会えるのではあるけれど、俺は学園での生活というものがあるから、1年近く自由に束と生きてきた時と比べれば時間の自由はほとんど無いのだから。

それに束も世間一般からはお尋ね者。

いくら束がつかまらないとはいえ、おいおいと外を歩けるわけではない。

だから、たまにはこんなのも悪くないかな?なんて思う。

だからこそ、突如としてピットに入ってきた礼儀知らずの奴には殺意が湧いた。

 

「素晴らしい限りだよ、君の実力は。おっと、済まないね、どうやら邪魔してしまったみたいで」

 

「...............入る時くらいノックしたらどうなんだ」

 

「失敬。気持ちばかり先回りしてしまったようだ」

 

手を叩きながら入り口に立つ脂ぎったデブの中年野郎と、それを守るように立つ黒服のSPが3人。

欲望と権力に溺れた濁り薄汚いその目を忘れるはずもない。

その男は間違いなく俺を日常から地獄へと叩き落とした人間の1人であり、そして唯一の計画を遂行させようと企てた奴らの生き残り。

俺が死ねば、あの計画を知る者は自分自身以外には居なくなるからこそ、俺に向けて殺害依頼を出したのだろう。

それが何時になるかまでは知らないが。

そして束を見るその目もまた醜い。

 

ーーあぁ、なんて汚いのだろうか。

 

「とにかく私はリチャード、シーカー。イギリスで国会議員、そしてIS委員会の役員を勤めている。初めまして、織斑一夏氏に篠ノ之博士。お会いできて何よりだ」

 

「...............別に束さんはお前みたいな奴とは会いたくなかったんだけど。ていうか邪魔しないでもらえる?目障りだから」

 

それだけを言うと束は部屋から出て行ってしまう。

だが、誰の目から見ても拒絶の意を見せる束の気持ちはよく分かる。

俺も箒との飯の時に邪魔されたことがあったから、自分の時間を邪魔されるのがどれだけ不快なのか知っているから。

それに俺個人としてもこいつの存在が受け付けられない。

 

「随分と嫌われたものだな」

 

「当たり前だろ?政治家なんか金と権力にまみれた連中だけ。中学生が言うくらいだから信用なんかないんだよ」

 

「極一部の奴らのせいで悪評が付いてしまうとは。悲しいものだ」

 

わざとらしくオーバーに肩をすくめ、自分は関係ないと言わんばかりの態度に思わず問答無用で殺したくなった。

こいつがデザイント計画を発案をしなければ、束と恋人になれたかは分からないが、少なくとも俺は人間でいることはできた筈だ。

普通に高校生になって、誰かと恋におちて。普通に大人になって就職して、家庭を持ったのだろう。

もしかしたらそんなもしもでもISを動かしていたかもしれない。

だが、その全て、もしもを壊したのはまぎれもないこいつだ。

金と権力に溺れ醜く生きる存在。

そのくせしてこうも他人事のように言うのが許せない。

 

「よく言う。極一部の奴らはお前だろうが。生き易いものだな、羨ましい限りだ」

 

「...............なんだと?その力をくれてやったのは誰のおかげだと思ってる」

 

「あーぁ化けの皮を剥がしちゃって。まぁ、いいか。あんた直属の候補生になるとかそんな話考えていたが、そんな必要もなさそうだな」

 

くだらないほど簡単に手のひら返しする様はある意味滑稽だった。

逃げ道がないことに未だに気づいていないのだから。

 

「チェックメイトだ、クソ野郎。俺と同じように地獄へ引きずり落としてやる」

 

「ーーっ!?」

 

俺は無慈悲にハンドガン、試合前に俺めがけて撃ったシグザウエルp226を突きつけた。

慌てたように取り押さえろと喚くが俺はただニヤリと笑うだけ。

なぜなら、取り巻きは俺ではなく、こいつ自身を取り押さえたのだから。

 

「なっ、何をしている貴様ら!あいつをとらえろ馬鹿者が!」

 

「バカはお前だ。護衛くらい信頼できる奴を雇ったほうがいいんじゃないか?」

 

「貴様なにを!」

 

「言葉の通りだ。こいつらは全員俺がお前以上の金を積んで雇ったのさ。お前の護衛になるように仕向けてな」

 

「なんだと!?貴様なにが望みだ!私をここまでしてタダで帰れると思うなよ!」

 

「望み、ねぇ?あんたも薄々分かってんじゃないの?」

 

きっと誰もが引くくらいの笑みを浮かべている俺は、シグザウエルp226の代わりに携帯端末を突きつけた。

 

「なっ!?どうしてこれを!」

 

「俺の恋人に調べられないことは無いんだよ。焦るのわかるよー?でも、もう無駄さ。IS委員会とイギリス政府に全部公表してやったから」

 

「ーーーーーーーー!?」

 

驚きに声が出ず、絶望に染まった表情を浮かべるこいつは最高だ。

俺がそうさせたかった表情をいともたやすく浮かべてくれたお陰で楽しくてしょうがない。

突きつけた端末に写していたのは、言った通り束が徹底的に調べ上げた汚職からセクハラまで、世間一般に知られれば社会的抹消は免れないようなことばかり。

其れを俺はIS委員会とイギリス政府に突きつけたのだ。

タダで済まないのは俺ではなく、こいつの方。

 

「このままイギリス政府に身柄を預けて豚箱にぶち込むっていうのもアリなんだが、それじゃあ俺の気は済まないんだよなぁ。生身の人間だったら軽く1万は超えるほど死ぬようなことをされてきたからな」

 

無色透明の液体が入った注射器を束から渡されていたバックの中から取り出す。

小さく悲鳴をあげるのには目をくれず、容赦なく首もとへと突き刺し中の液体を注入した。

 

「がっ!?な、なにをした...............!」

 

「安心しろ。すぐに分かる」

 

それだけ言い放ち、そいつの両足をシグザウエルp226で打ち抜き、歩けないようにした。

 

「ああああああああっ!!!??」

 

「さて、と。じゃああんたたちは部屋を出て行って結構。仕事は終わりだ。報酬は入り口の近くにいるかもしれない束に要求してくれ」

 

「...............あぁ、そうさせてもらう。しかしだな。本当に1億もの報酬を貰えるのか?」

 

「まぁな、護衛さんたち。金なんていくらでもあるし、こいつを地獄へと突き落とされるなら1億なんざ少ないくらいだ」

 

これからは拷問タイムだから出て行けと、半ば無理やり追い出すように部屋を出てもらう。

そうして出来上がったのは足をぶち抜かれて動けない“元”政治家と俺の完全密室。

事前にカメラを止めていたお陰で監視される心配も無い。

 

「...............お前には散々な目にあわされてきたな。なんだっけ?全身を高電圧で焼かれたり、核が壊れ無いことをいいことにロードローラーで潰したり破砕機にぶち込まれたり。時には致死量の数百倍の劇薬を毎日投与されたこともあった」

 

今思い出してもあれは地獄だったと言える。

俺の体をぐちゃぐちゃにしようとして迫り来るローラーと回転するカッター。

まだ痛覚神経遮断技術がなかったために、ゆっくりと体を潰される生々しい音と激痛が俺を襲い、喉が枯れるほどの絶叫を上げる。

劇薬を投与された時は特に悲惨だった。

ありとあらゆる劇薬の作用により体は絶えなく痙攣を起こし、息は出来ず瞳孔は開きっぱなしでまともに視界を確保でき無い。

身体中を潰された時とは違う、頭の中身を無理やりかき混ぜられるような劇痛が走り、何度も何度も意識が飛んだ。

それでも、俺は死ななかった。

否、死ねなかった。

投与されたナノマシンの影響によって俺は核を5個壊され無い限り死なない身体にされたのだから。

死にたくなるような地獄を、死ぬことも許されずに幾度となく繰り返される人体実験。

精神がまともじゃなくなら無いわけがなかった。

 

「まぁ、そこまで悲惨なことはしないさ。それをするための準備なんか整っていないからな。だけど、これくらいなら出来るよな?」

 

「ひ、ひぃ!や、止めてくれ...............!死にたくない、死にたくない!」

 

改めて銃口を突きつけるとそいつは情けない声を上げながら惨めに床を這って逃げようとする。

が、逃がしてやるほど俺は優しくない。

 

「そんなこと言うなよ。どうせ帰る場所はどこにもないんだ。それだったら堕ちるとこまで落ちようじゃないか。to the noble Welcome to the Hellってな」

 

高貴なる者よ(薄汚れた政治家)、地獄(死ねない苦しみを味わう闇)へようこそ。

和訳すればそんな意味を持つそれも、元々は今は亡きデザイント計画の被害者のあいつが皮肉を込めて行っていた言葉だった。

確か地獄ではなく、地球へだったはずた。

 

「お前の薄汚さにはそろそろ我慢の限界なんだ。残念だったな?夢破れて。まぁ、来世では夢が叶うように祈っとけ」

 

そいつの背中を踏みつけ、狙いが付けられるよう動かせないようにする。

 

「お前には豚箱が似合いだ。じゃあな、愚かな野望を抱いて溺死しやがれクソ野郎」

 

俺は躊躇いもなく引き金を引いた。

 

 

 

 

「ダーリンすっきりした?復讐できて」

 

「復讐だったのかなぁ。単純に俺は遊んだだけなんだけど」

 

「うわぉう!ダーリンはえぐいなぁ」

 

「お前には言われたくないんだけど?」

 

えへへと、さっきは邪魔されたからその続きー!と俺の胸に顔をうずめる束をあやしながら、それまでの経緯を簡単に振り返る。

あの時投与したのは俺の体内に存在するナノマシンの複製。あいつはもう死ねない身体に成り果てた。

それがあったから俺は手始めに頭を打ち抜き、その後は精神が崩壊するまで殺しては生き返りを繰り返したというわけだ。

今頃はイギリス行きの飛行機に乗っているだろうが、まぁ俺にはもう関係ないことだ。

精神崩壊を起こした奴が脱走、ましてや謀反などできるはずもないのだから。

だから、俺の頭の中からはあいつのことは消し去った。

俺にとっては束との時間の方が何倍も大事なのだから。

 

「愛してるよ、ダーリン」

 

「あぁ。俺もだ、束」

 

本当ならこの後はセシリア・オルコットと話をつけなきゃいけない。

でも、まだ後ちょっとだけと自分に言い聞かせながら、束が俺の胸に顔をうずめるように、俺も束のいい匂いのする頭にうずめた。




今回はとある感想をくれた方のセリフを少しいじって使わせていただきました。
不快であればすぐに修正するので遠慮なく言ってください。
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