1
遊一はオシリスレッドの寮へと戻るなり、他のオシリスレッド男子どもに質問責めを受ける羽目になってしまっていた。その内容はキャシー・ケネディの事だった。
「だからぁ、アイツとは幼馴染で彼氏彼女の関係ではないって言ってんだろ?」
「本当にそうなんだな?」
「ああ、そうだよしつこいなぁ。この話題はおしまい。おひらき。かいさーん!」
何人もの男どもに囲まれたって嬉しくもなんともない。ここは逃げるのみだ。
「あ、ちょ、待て!!」
オシリスレッドの男にそう言われたが、遊一は聞く耳を持たない。華麗にスルーし、全力でその場から逃げ出した。
(くっそぉ。いきなり告白されるわ、男どもからキャシーについて質問責めを食らうわ、今日は散々な一日だなぁまったく。頭が混乱し過ぎて告白されたのに嬉しい感情が押し寄せてこねぇ……)
とりあえず、遊一は落ち着くためにキャシーと会う事にした。どうやら自分の事を探していたみたいだし、この際すぐに会いに行った方が良い。要件はいったいなんなのか予測できないが、キャシーの事だから大したことではないのだろう。。
ただ、オシリスレッドである自分はどうにもオベリスクブルーの寮に近づくのは気が引ける。ましてや女子寮など、敷地内に入るのもおぞましい。なんだか、敷地内に入った瞬間にトラップが発動して男を駆逐するような気がするからだ。
ここは一度キャシーに連絡を取るのが吉だ。
遊一はPDAでキャシーへとコールをかける。
「あ、キャシーか? お前、俺になんか用があるんだって? いったいなんだよ?」
『えっと、それは会ってから話すね。えっと、学校の校門前まで来てくれるかな?」
「オッケー。今からそっちに向かうよ」
遊一はPDAをポケットへしまい、学校へ向かって歩き出す。
十数分の徒歩の末、学校の校門前へとやってきた。ちょうど昼食時という事もあって、学校の食堂へと足を運ぶ生徒がちらほらと見受けられる。
そこにはすでにキャシーがいた。こちらに手を振っている。
遊一は彼女に近づいて。
「ようキャシー。で、要件は?」
「うん、えっとぉ、今度授業でタッグデュエルをすることになってるよね?」
「うん。そういえばそうだったな」
「でさ、私と、一緒に組まない?」
「うーん、うん。いいよ、キャシーのデュエルの癖はよく知ってるし、俺は適任かもな」
彼は笑いながら言う。
これが、明日には修羅場になることを、彼はまだ知らなかった。
「それから、これから一緒に昼食食べない? 実は、これが本題だったりして」
てへへ、と恥ずかしながら言うキャシー。その仕草を思わず可愛いと思ってしまった遊一は、目をそらす。
「じゃ、じゃあ早速食べに行くか」
二人は学校の中へと姿を消した。
2
食堂は生徒たちでにぎわっていた。赤、黄、青の制服がそれぞれ固まっている。あまりにも綺麗に色分けされていて思わず笑いそうになったのは秘密だ。
メニューを眺めている二人。そこに現れたのは、遊一がよく知る男だった。
「よう遊一、お前もこれから昼飯か?」
「お、鷹か。そうだ、お前ひとりか? なんなら、一緒の席で食べようぜ」
「……あ、ありがてぇ。ここに来てから、未だに友達は遊一、お前だけなんだよぉ……。本当にお前はやさしいなぁ、こんな野郎に気づかいしてくれて」
「なにを大げさな……」
その傍ら、キャシーは頬を膨らませて精一杯遊一と鷹に私は怒っているんだぞ、とアピールするも二人には届かず。やはり、男友達と話しているときの遊一には女の子は介入しにくいのだろうか。
何はともあれ、キャシーも野上鷹と友達になっていた。鷹からしたら、友達を増やしたくてしょうがないのだ。それが男だろうが女だろうが関係ない。仲良くしてくれる人が増えただけで涙ものである。
「あ、そういえば鷹君って、どんなカードを使ってるの?」
キャシーは鷹へ質問する。
「俺か? そういえば、デュエルしてないよな俺たち」
だが、鷹が話しかけた相手は遊一だった。
「そうだな。じゃあ、この後食後のデュエルと行きますか?」
「いいねぇ。あ、でもアリーナは空いてないだろうし……」
「別に外でもいいじゃん。広い場所探してやろうぜ!」
男同士の話になってしまってまたも話の輪から追い出されてしまうキャシー。傍から見てとてもかわいそうに見えるが、特にどうすることもできないのだ。
「いーだ。どうせ私なんか、私なんか……。ねぇ、私の事無視しないでよぉ!!」
3
あれからふて腐れてしまったキャシーのご機嫌を取り戻すのに結構な労力を使ったが、彼女にデュエルモンスターズのパックを一箱分、つまり三〇パック分を買ってあげたら機嫌が直った。なんともまぁ素直というかなんというか、である。ただ、遊一と鷹は涙を流したのであった。
そして、彼らはラーイエローの寮の前まで来ている。最初はオシリスレッド寮の前でやる、という提案があったのだが、あそこには遊一の敵がまだ興奮状態にあるかもしれないのですぐさま却下した。
その結果、ここラーイエローの寮の前、ということで落ち着いた。
「さぁて、早速行きますかぁ!」
「おう、遊一の剣は珍しいが、この俺のデッキだって珍しいんだぜ?」
「そうか、それは期待せざるを得ないな」
両者、デュエルディスクにデッキをセットし準備が完了。お互いにらみ合いながらも、その目に宿る闘志はデュエリストそのものだ。お互い、それを感じ取りながら宣言する。
『決闘!!』
まずは鷹の先攻だ。彼はデッキの上からカードを一枚ドローする。
「まずはこれだ! 《
《
モンスター・星3・地
機械族・効果
攻撃力1300 守備力400
このカードは獣族としても扱う。
1ターンに1度、ライフを1000ポイント払い、このカードと同名のトークン(攻1300・守400)を特殊召喚することができる。
フィールドに現れたのはオオカミ型の青いロボットだった。背中には大きい砲台を背負っている。
(
カード名といい、この動物型のロボットといい、遊一はどこかで見たような気がした。そして何か懐かしいものを感じたのだ。
「そして効果を発動だ! ライフポイントを1000払うことによって、このモンスターと同名のトークンを特殊召喚する」
鷹:LP4000→3000
アーマード・ウルフが遠吠えをしかと思えば、どこからともなくもう一匹のアーマード・ウルフが姿を現した。
これで鷹のフィールドには二体のモンスターが揃った。アーマード・ウルフ自体はそれほどスペックの高いモンスターではない。おそらくは、生贄を稼ぐ要因に違いない。ライフポイントは少々高くつくものの、上手く使えばすぐさま上級モンスター召喚に漕ぎ着けるだろう。
「俺はリバースカードをセットし、ターン終了だ」
「よし、俺のターンドロー!」
そのドローカード。遊一の中で後攻の場合、安定のスタートを切るのに頼りになる奴。コイツが来てくれれば困らない。ソイツを引いたのだ。
「よし、よく来てくれた! 俺は《円卓の騎士 ペデゥヴィア》を召喚! コイツは相手フィールド上にモンスターがいて、自分のフィールド上にモンスターがいないとき、生贄なしで召喚できる。効果によって装備魔法《炎の剣‐アレミラ》を手札に加えて装備だ!」
《円卓の騎士 ペデゥヴィア》
モンスター・星5・炎
戦士族・効果
攻撃力2100 守備力200
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しないとき、生贄なしでこのモンスターを召喚できる。
このカードが召喚に成功したとき、デッキから「炎の剣‐アレミラ」を手札に加える。
《炎の剣‐アレミラ》
魔法カード・装備
このカードは炎属性のモンスターしか装備できない。
このカードを装備したモンスターは1ターンに2回相手モンスターを攻撃できる。
このカードが墓地へ送られたとき、「武装融合」をデッキから手札に加える。
「これによってペディヴィアはモンスターへ二回の攻撃が可能になった! これで二体のアーマード・ウルフを掃討する。バトルフェイズ、ペディヴィアで二体のアーマード・ウルフへ攻撃!」
「そうはさせない! トラップカード発動。《攻撃の無力化》だ!」
《攻撃の無力化》
罠カード・カウンター
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
これによってペディヴィアの攻撃が無効になり、バトルフェイズが強制的に終了。二体のアーマード・ウルフを守ることが出来た。これで魔法カードなどで破壊しない限り、相手に上級モンスターの召喚を許してしまうが……。
(俺の手札ではどうすることもできない。とりあえず《一時撤退》をブラフとして伏せておくしかない。状況によっては普通に発動することもあるかもしれないし)
遊一は手札からカードを一枚抜き取り、
「俺はリバースカードをセットしてターンエンドだ」
野上鷹 LP4000 手札3枚
場 《機獣 アーマード・ウルフ》、《機獣 アーマード・ウルフトークン》
魔法・罠 なし
セット なし
場 《円卓の騎士 ペデゥヴィア》
魔法・罠 《炎の剣‐アレミラ》
セット 1枚
「キタキタキタ!! 俺のターン!」
鷹は勢いよくデッキからカードを引く。だが、そのカードに目もくれず、手札のカードに手を伸ばす。
「俺はアーマード・ウルフとトークンを生贄に……俺の相棒、《機獣 ユーティリティ・ライガー》を召喚だ!!」
《機獣 ユーティリティ・ライガー》
モンスター・星7・地
機械族・効果
攻撃力2400 守備力1000
このカードは獣族としても扱う。
また、このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、
通常モンスターとして扱う。
そこに現れたのは、白いボディの獅子だった。目は赤く、爪は金色に輝いている。
それを見て遊一は思い出したのだ、子供の頃の記憶を。
あれは、そう今から一〇年以上前の事だ。遊一も見ていたアニメ、『機獣ゾイックアンドロイド』が放映されていた。元々はおもちゃで展開していた作品で、それからアニメ化と至った。
遊一が今目の前にしているユーティリティ・ライガーはその第二作品目の主人公が扱う獅子型ゾイック・アンドロイドである。
これがなぜカード化しているのか。
それは放送当時、このデュエルモンスターズとコラボすることが決定したのだ。今となっては機獣シリーズは入手困難なカードと化しているが、鷹のように昔からずっと好きな人に限ってはそんなカードを持っていても不思議ではない。
だが、このユーティリティ・ライガーのカードだけは別だ。激レア中の激レア。コラボキャンペーンとして抽選の懸賞となったカードなのである。抽選で百名様にプレゼントという凄い倍率の懸賞で、しかも未だ再録されたことがないため、希少価値はものすごい高いカードなのである。
そんなカードを鷹は持っているのだ。
「おいおいおいおい!! 鷹よぉ、そんなカード持っているだなんて初耳だぞ!」
「だから言ったじゃねえか、俺のデッキは珍しいって。今では入手困難な機獣のカードだ。どうだ、驚いただろう!!」
胸を張って威張る鷹。しかし、その態度も納得だ。ユーティリティ・ライガー入りのデッキなんてものを使っているのは、間違いなくこの島で野上鷹ひとりだけだろう。そんな態度になってしまうのもうなずける。
「じゃあ、早速行くぜ! ライガーでペデゥヴィアに攻撃! フォトン・ブレイク・クローォォォ!!」
まさに気分はユーティリティ・ライガーを操る主人公のようだ。攻撃の時の台詞も、その言い方も忠実に再現している。
ユーティリティ・ライガーの爪は黄金に輝き出す。ライガーは踏み込んでペデゥヴィアへと飛びかかる。容赦なくその大きな爪で騎士を切り裂く姿はまさに獣。機獣はその名の通り機械の獣だが、その奥底に秘める性は獣そのものらしい。
ペデゥヴィアの攻撃力は2100。対してユーティリティ・ライガーの攻撃力は2400。その差300ポイントが遊一のライフポイントから引かれる。
遊一:LP4000→3700
「俺はこれでターンエンドだ。さあ、遊一、俺のライガーを倒せるかな?」