偉大なる航路、3つの航路のうちの1つの最初の島。そこに海賊を歓迎する町、ウィスキーピークはある。だがその実態は歓待すると見せかけ、海賊たちに睡眠薬を盛り眠りこけているところを捕える街ぐるみの賞金稼ぎの巣窟である。今宵もまた愚かな海賊たちが町で歓迎の宴で眠りこけている。
「おい新入り。何呆けてるんだ。もうそろそろ海賊たちをとっ捕まえる時間だ。」
ランプの光に頬を照らされたひげ面の男が足元で壁に背を預け眠りこけている男を爪先で突く。
新入り。そう呼ばれた男はまさにここ数日この街に来た賞金稼ぎである。短めに切りそろえた黒の短髪と身の丈ほどもある鉄の棒を肩に立てかけたその男は、日に焼けた浅黒いゴツゴツとした腕をタンクトップから生やしている。
涼し気な上半身とは対照的に下半身はゆったりとした深緑色のズボンに包まれ、ふくらはぎは半ばまで網上のブーツの中にズボンとともに収まっている。更に腰には円筒形の柄を持つ短剣と風になびく真っ白な上着が巻きつけられていた。
「朝言っただろ、あいつらが寝こけてる間に取っ捕まえるんだよ」
「イヤでもホラ、少なくとも1人は起きてるみたいだけど?」
「なにィ!?」
ホラ、と新入りが指差す先を見ると、剣を持った緑髪の男がふてぶてしくも月を背に負って屋根に座り、一味を捉えようとしていた無数の賞金稼ぎたちを睥睨していた。
クソ!という悪態とともに隣の男が銃を打つがこの距離で当たるわけもなく外れていく。だが仲間に警告する効果はあったらしく次々に剣士の存在に賞金稼ぎが気付き襲いかかっていった。
鎧袖一触、いや一騎当千とでも言おうか。
たった一人の海賊相手に何人も居た賞金稼ぎたちは触れることすら叶わずに次々と切り捨てられていった。数の利が意味を成していない。グランドラインで生き残る男たちはだ
いたいこういう男だと独りごちる。それにしてもひどい戦いだった。連携なんて有って無きが如し。振り回した剣が仲間に当たるわ銃を持って円形に包囲した挙句発泡して仲間に当てるわで目も当てられない。これが海軍ならありえないことである。
新入りはため息を付き棒で肩をトントンと叩いた。
スッ、と新入りは建物の影から剣士の前に姿を現す。
「なんだ、次はお前が相手してくれんのかい」
野獣の如き目つきをした男が次の得物を見定める。
「「海賊狩り」だな。なぜ同業者のお前が海賊になったのかは問うまい。海賊相手に話すことなど何もない。大人しく・・・」
そう言うと新入りは鉄棒を構え重心を低く落とし足の筋肉を引き絞られた弓のように弛め、一気にその力を開放した。
「殺られろ!!」
【初刺貫鉄】
全身全霊の突進の衝撃を一本の棒の先に集めた突きは銀色の光の奔流となって鉄の板すら貫き通す勢いでゾロに向かって迸(はし)っていった。
ギィン!!
「うおぉ!」
甲高い金属音を撒き散らしながら防がれた突きはしかしその勢いを止めることなくゾロを1軒先の窓まで吹き飛ばした。
窓の瓦礫の山に埋もれたゾロに追撃を仕掛けるが棒を大きく剣で振り払われ一旦後退する。
「どうにも、これまでの雑魚どもと一緒というわけには行かんらしい」
ガラガラと自分に乗っていた瓦礫を落としながらゾロが起き上がる。どうやら全くダメージはないらしい。
「話すことはないと言った!!」
【桜花】
ギギギギギィィィン・・・
両肩、両膝、首元をほぼ同時に突く五連撃は全て弾かれる。マトモに喰らえば五体が全て機能しなくなっていただろう。
【打ち上げェ・・】
「・・・ッく」
【花火!!】
「おわっ」
ギィン!!!
地面を舐め足首を刈り取るような横薙ぎは跳んで躱される。しかし上空に誘導されたゾロを下段からの全身のバネを使った突き上げが襲う。
しかし金属のぶつかり合う音とともに防がれたが、差し詰め打ち上げ花火のごとくその身を上空に跳ね上げた。
【二刀流・・・】
【サジタリウス・・】
二人の視線が交錯する。互いに笑っている事に気づいた。類稀なる武術家の二人は、僅か数合撃ちあっただけで互いの実力、心の裡がわかった。もっとコイツと戦いたい。そう思わずにいられないほどに。しかしここは戦場、相手は敵、なれば互いに必勝の誓いを胸に己の技を繰り出す。
【龍落とし!!】ズオッ!
【パワーショットォ!!】バシュ!
互いの技が炸裂する。ゾロの剣気を纏った旋風は渦をまいて突き進み新入りを飲み込み、新入りのはなった宙を伝わる突きは渦の無風の中心を正確に突き抜けてゾロの胸を穿った。
ドサ
ゾロが受け身も取れずに落下しうずくまる。剣を支えに立ち上がると、同じく鉄棒を支えに立ち上がったところという風情の新入りが目に入った。
再度二人の視線が交錯する。
何か変な男女の二人組が叫んでいるが二人の耳にはそんなものは入らない。二人は無造作に得物を振るい邪魔者を吹き飛ばす。互いに体力を消耗しており距離も開いている。再び大技を出せる距離だ。二人の武人の勘が次の
技で勝敗が決まると言っていた。
冷たい潮風が頬を撫ぜる。月の光が二人にだけスポットライトを当てる。無音の刹那、気迫で何手もの剣戟が交錯する。
瞬間、どちらからともなく動き出した。グングンと距離は縮まる。空気が粘着き体に纏わり付く。相手の髪の一本、頬を垂れる汗、地面を踏みしめる音まで鮮明に認識できる。ことここに至って二人は武芸者として一定
の到達点に達していた。
【三刀流 鬼・・】
【後の先 針穴通し】
ガッ!!!!
今回は金属を弾いた時の不思議な余韻はなかった。それもそのはず、新入りの棒の繊細かつ神速の突きは、ゾロの鬼斬りの三本の刀の交差点を力が乗る前に真正面から押さえつけその動きを完封していた。奇しくもそれ
は数週間前鷹の目がゾロに対して放ったものと似ていた。そしてそれはゾロの心の柔らかいところを刺激していた。
ギチギチギチギチチチ・・・・!!!
「ウエァァ!!」
力任せに棒が振り払われる。
「ハァ、ハァ、アイツ以外のやつでもこんなマネが出来るのか」
(アイツ?)
「俺は、まだ弱いな」
そう言うとガチッと再び口に刀を咥え直したゾロはさらなる鬼気迫る気迫とともに口の刀と合わせて放射状になるように構えた。
「三刀流」
(これはマズいな)
「奥義」
(やむを得まい)
「三千・・グガァ!!」
突然ゾロが腕を抑えたかと思うと倒れこんだ。
「ハァ、ハァ・・!スマン・・!本当は武人として決着を付けたところだが、どうもお仲間がおきだしたようでね。」
「ゾロ!!」
叫び声とともに麦わら帽子を被った少年、ルフィが駆け寄ってくる。
「おいお前!うちのゾロに何をした!!」
「なーに、これでもこっちは賞金稼ぎでね。本当は能力なんて使いたくなかったし使うつもりもなかったが仲間まで起き出されるとなると話は別だ。」
棒を肩に担ぎ後ろを向く。
「お前何言ってんだ!町の奴らをやったのもお前か!」
「そこの・・ゾロ?まあやったのはそいつだ。いやそれはどうでもいい。まあ海賊狩りもそろそろ回復しちまうようだしここは退かせてもらう。」
そう言うと新入りはさっと路地う裏に消え・・・
「待てって」
唐突に肩を掴まれる。
「言ってんだろ!!」
ルフィの腕が伸びてにげる新入りを捕まえていた。肩に指が食い込み新入りを捕まえたままルフィの方に戻ろうとする。
(まさかこの船長悪魔の実の能力者か・・厄介な)
「おいおいここは素直に逃してくれ、よ!!」
そう言って肩に捕まっている腕を裏拳で殴りつけると、今度こそ新入りは路地裏の闇に溶けていった。