狂人の闘争記 作:マルコス
勢いよく振り下ろされた大剣をシンヤらは危なげなくかわす。が、相手の攻撃は地面を抉り後方の壁に衝撃が伝わり一部が損壊していた。
「どんな威力してんだよ!」
そして息つく暇もなく、リーダー格の男に迫り薙ぎ払いをした。男は剣を盾にするが壁まで吹き飛ばされた。
助けに向かおうとする冒険者たちには取り巻きの鬼が迫り思うように動けない。
「仕方ないなー、俺がいきますよ」
シンヤは近くにいた取り巻きの鬼を吹き飛ばし、百鬼将軍と対峙した。
「ふんっ!!」
強烈な踏み込みと共に剣が再び振り下ろされた。それにシンヤはリーダー格の男と同じように剣を盾に構えると吹き飛ばされることなくなんとか攻撃を受け切った。
「っ!きっついわー」
剣が受け切られたのをみて百鬼将軍が追い討ちをかけるように左拳で殴りつけてくるが、後退するのとでそれを躱す。
自分を追ってやって来る百鬼将軍を迎え打つため武器を構え、スキルを発動させる。
「スキル...《
相手に防御させる暇を与えず、相手の勢いさえも利用してダメージを与えるスキル。初歩中の初歩のスキルではあるが、強者がそのスキルを使うとその威力は計り知れない。
紛れもなくこの世界において上位に入るシンヤ・カマタの《カウンター》は例に漏れず相手に極大威力の攻撃を叩き込んだ。
「ぐぉおおおおお!!」
百鬼将軍の身に纏っている漆黒の鎧をも斬り裂き、身体へとダメージが入った。巨大な切傷が鎧に入り其処から絶え間なく血が流れる。
「良くやった。勇者!全員、かかれー!!」
取り巻きの鬼達を倒し終えたのか、他の冒険者達が百鬼将軍へと殺到する。
「...ここまでか」
百鬼将軍は諦めたかのように、膝をつき吐血する。
「見事だ...ニンゲン、だが、このダンジョンは落ちん。コクビャク様万歳!」
人間に殺されたのを嫌った百鬼将軍は自刃した。そして、百鬼将軍が死んだ後すぐに玉座の横にあった宝箱が開いた。
中を覗いてみると、そこにあったのは盾であった。
「こ、この盾は!ガインの予備の盾じゃねぇか」
この宝箱は今まで倒した冒険者から手に入れた装備が貯められた宝物庫からランダムで一つ装備が出るカラクリになっている。
「本当に...死んじまったんだな」
少なからず交流のあったリーダー格の男とガイン。彼だけではなく、この場にいる冒険者達もガインと交流のある者は多い。
気さくな性格で誰とでも直ぐに打ち解けてしまう不思議なカリスマとも言えるものを持っていた。彼を褒めることはあれど、負の感情を持つものなどいないだろう。
「絶対に許せねぇ...ダンジョンマスター、ぶっ殺してやる!」
王国からの依頼等関係なく今や私怨でこのダンジョンに挑んでいた。その場に居たバルハートですら、あったこともない冒険者に情を傾ける程である。
「行くぞ」
宝箱から盾を取り出し背中に背負い、出現した階段を下り第五階層へと歩を進めた。
ーー第五階層ーー
再び重厚な大扉を開けるとそこに居たのは頭部が蛸、下半身が人型の魔物が居た。周囲には配下と思われる蛸兵士がいたがそれほど脅威は感じられない。
それより問題なのは、足首まで水が浸水していたのだ。
「これは、動きにくそうだな」
「こんなダンジョンがあるんですかー...見たことありませんねー」
「こんなの異例だ、心配するな俺も見たことねぇ」
槍を持った蛸共の大将のような蛸が何を話しかけることもなくいきなり攻撃を仕掛けてきた。
その奇襲に反応することができず、冒険者の一人が槍に貫かれた。そこでようやく事態を把握したシンヤが斬りかかった。
蛸魔人はそれを槍でいなし、触手の一本でシンヤの両手を拘束した。そして間髪入れず槍を打ち込んだ。
流石に躱すことは出来ないので、最大限に自己強化のスキルを使用し最小限の被害で抑えた。しかし、その被害は甚大なもので肋骨が一本貫かれていた。
「ぐっ...」
助けを求めるように他の冒険者達を見るが、各々自分たちの倍ぐらいの数がいる蛸兵士に苦戦しており、とてもシンヤに手を回せる状況ではない。
此処で漸く蛸魔人が口を開いた。
「やはりニンゲンは下賤で下劣で、愚かな生き物よ」
「...な、何を根拠に言いやがる」
根拠?と言いフッと嘲笑うかのように笑うと、吐き捨てるように言った。
「お前達は自分達の安全の為に他の生物を殺し、可愛ければ愛でる。オーク等の魔物は害悪であると決めつけ冒険者達に依頼して討伐する。何もしていない、オークの子供であろうとも容赦せずにだ。お前たちは考えたことがあるか?虫のように踏み潰され、邪魔だから殺されるものの気持ちが...お前達には分かるか、子供を目の前で殺されるオークの親の感情が...分からんだろうな!!俺達を
弁に熱の入っていた蛸魔人は気付いていなかった。彼が話している間に他の蛸兵士が掃討され背後を狙われていたことに...
グサッグサッグサッ
蛸魔人の頭部を胴部を槍や剣が貫き、呻き声をあげる。蛸兵士の活躍もあり冒険者達は9人にまで減っていた。
「勇者...それが我等の間でなんと言われているか知っているか」
瀕死の蛸魔人が不意にそう言った。
「何だ、なんと呼ばれているのだ」
蛸魔人の瞳には若干ではあるが、畏怖の念がこもっていたように思う。初めから少し腰が引けていたような気さえするのだ。
「...魔王だよ」
それだけを言い残して、光となって消えていった。
「気にするな、魔物ごときの妄言、無視してかまわねぇよ」
「そう、だな」
そう言いながらも、シンヤは心のどこかで思ってしまった。魔物にも心はある。
魔物にも感情はある。痛みも感じれば、悲しみもし、恐怖だってするのだ。
自分たち人間にとって脅威である魔物ではあるが、逆の立場からならば自分たちはどう思われているのだろうか。もし、蛸魔人の言うことが本当ならば...
そんな事を考え、階下を目指していくシンヤ。魔物に一度でも感情移入してしまった者は二度と全力で魔物と相対することができなくなる。
躊躇いが生まれる。最後の最後に蛸魔人は最大の罠を残していったのだ。
もう、勝敗は決したようなものである。