狂人の闘争記   作:マルコス

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第九話

ーー第六階層ーー

 

シンヤ達が大扉を開けて先ず目に入ったのは一面に広がる海を思わせるほどの量の水である。実際海のように塩水なのである。

 

「誰か海面歩行魔法か海中行動魔法を使える奴はいるか?」

 

此処で誰も手を上げながった場合、このダンジョンの攻略は失敗することになっていたのだが、流石トップレベルの冒険者集団、人数が減った現在でも四人いる魔法使い(マジックキャスター)の内三人が使用可能だということがわかった。

 

早速全員にリーダー格が言った両方の魔法を全員にかけてゆく。これは、海に近い地域に住まう魔法使い(マジックキャスター)がよく習得しているものなのだが、生活用の魔法の括りに入る為習得に掛かる時間もそれほど長くはなく一度この魔法をかけると持続時間が三時間も持つという優れものである。

 

又、それも一般的な話であり、彼彼女らのような高位の魔法使い(マジックキャスター)がこの魔法を行使するとさらに持続時間が長くなり、魔法による体の違和感も少なくなる。基本的に魔法自体は誰でも覚えられるものが多いが、その性能や持続時間が術者の実力によって作用されることが非常に多いのである。

 

「おい、なんか可笑しくねぇか」

 

「何がですかー」

 

「勇者さん、上を見てください」

 

「?...あっ!!」

 

シンヤが頭上を見ると、洞窟の中にもかかわらず暗雲が立ち込めており僅かに雨が降っていた。そのせいで、ただでさえ暗い洞窟の中がさらに暗くなってしまっているのだ。

 

「ライト」

 

魔法使い(マジックキャスター)の一人が生活魔法の一つであるライトを唱えた。初歩中の初歩の魔法で一番初めに覚える魔法である事も少なくなく、誰が術者であろうとも最低でも三時間は持つ。光の光球を飛ばし、任意の場所に留まらせることができ、その任意の場所に到達すると光球が強く発光する。

 

彼等の場合は7時間も持つ為、再び唱える必要はもうないと考えていいだろう。ライトによって洞窟内が照らされるが、全体は照らし出すことはできない。

 

照らしきらなかった為、他四人の魔法使い(マジックキャスター)も部屋の各所に光球を飛ばした。そして漸く部屋全体が照らし出された。

 

「広い...」

 

「どうやら、他の階層とは訳が違うみテェだな」

 

「それは、強い奴が出てくるという意味ですかー」

 

「推測にすぎねぇですがね」

 

これまでにない広さの階層だった為、各々警戒して意見を交換し合っていた。

 

突如、渦潮が発生し冒険者の一人が飲み込まれていった。そして冒険者が飲み込まれた渦潮の中から出てきたのは体長が目測で20メートルはあるであろう巨大な烏賊、海魔として恐れられるクラーケンであった。

 

「ク、クラーケンだと?!」

 

「こ、これは...やばいっすねー、いやマジで」

 

海魔・クラーケンこと大先生に続くように周囲から大量の配下、リトル・クラーケンが次々と海面に姿を現した。リトルとはいえ、クラーケンと名乗っているだけあって、リトル・クラーケンは海に生息する魔物の中では最悪の部類に入るのである。

 

リトルとつくが体長は優に5メートルを超えており船を一匹で沈没させてしまう為、クラーケンと間違われることも多いと言われている。それが、周囲に最低でも10体は出現している。

 

そして、此れが海魔・クラーケンの配下であるとするならば、取り巻きの鬼然り、蛸兵士然り、倒したとしても即座に蘇生するのだろう。それがどれだけの脅威か把握しているためシンヤ達の間にはこれまで以上の緊張感が走る。

 

そんな様子を見越してか、大先生は余裕の笑みを浮かべシンヤ達侵入者たちに向かって話しかけ始めた。

 

「此処まで来れたのは、賞賛に値することは疑いようがないだろう。だが、これまでの階層守護者達と一緒にするなよ若造共。儂はコクビャク様より守護者統括を任された者である。守護者統括が、他の守護者達に劣ると思うか?」

 

大先生が嗤うようにそう言うと、周りのリトル・クラーケン達がゲラゲラと笑うように足をバシャバシャと音を立てて海面に打ち付けている。更に、大先生はシンヤたちの恐怖を誘うように続けた。

 

「否!他の守護者達を圧倒することができる力を保有しているからこそ守護者統括を任されているのだ。故に、他の守護者達に苦戦しているような奴等では儂には勝てんのだ!」

 

そう言って、巨大な触手を冒険者三人に振り下ろす。防御魔法や盾などで防ごうとするがそれら全てを貫通する巨大な毒針が触手についている吸盤から出現し、三人の命を刈り取った。

 

「馬鹿な...」

 

「あんなのに勝てるわけが無い!」

 

「にげろおおおお!!」

 

仲間がやられる様子を見て、恐怖に陥った冒険者達は隊列を乱し各々に散開してしまい入ってきたばかりの大扉へと向かう。が、もちろんその大扉は閉じられていた。

 

階層守護者と対峙した時点で大扉は自動的に閉じられてしまうのだ。

 

「くそ!隊列を乱すな!落ち着け!」

 

何とか体制を立て直そうと必死に指示を出すリーダー格の努力も虚しく散り散りになってしまった。そして、逃げ惑っている冒険者たちに襲いかかったのはリトル・クラーケンである。

 

背後から忍び寄り、触手を冒険者の体に巻きつけ毒針を突き出す。鎧など優に貫通して着実に冒険者たちの命を刈り取っていった。

 

そして、泣き叫ぶ冒険者たちの声が消えリトル・クラーケン達が大先生の背後に控えた時にはシンヤを含め3名しかその場に残ってはいなかった。その三名というのは、シンヤ・カマタ、リーダー格の男ジョー・バルカン、バルハート・マドラスである。

 

残った三名に対して嘲笑うかのように大先生は話し掛けた。

 

「後は、お主達を倒せば終わりかな」

 

「ああ...そうだぜぇ?俺達が正真正銘今回このダンジョンに攻め込んできた奴等の指揮官にあたるニンゲンだ」

 

「ほう、漸く終わるか。まあ、お前達が攻め込んできた事はマイナスな事ばかりではなかった。」

 

「...ダンジョンの血肉となったか」

 

「儂等には関係のないことじゃがな...コクビャク様が喜ばれるのじゃよ」

 

意外にも自分たちの話に受け答えをしてくれているクラーケンにやや驚きながらも、勝利を確信し余興として俺たちと穴しているのだろうと結論づけ、シンヤも話し出した。

 

「そのコクビャク様ってゆーのは、このダンジョンのマスターかい?アンタより強いのかい?その方は」

 

「ホッホッホ、当たり前じゃのう。儂では手も足もでんわい」

 

「それほどの力を持っていたとは...」

 

「そりゃーこんな強いモンスターがダンジョンにいるわけですよ」

 

「こんなダンジョン聞いたことがないな」

 

「さて、死前のお話は楽しかったかな」

 

「あぁ...非常に有意義だったよ、アンタを刺身にして食ってやるから刺身と話したって仲間達に自慢してやるんでね」

 

「烏賊にこの俺が負けるわけがないんだ...」

 

「ガチで勝ちに行きますぜーっと」

 

勝負とも言えない勝負が始まった。先ず、バルハートとジョーに何時の間にか背後に迫っていた触手に絡まれ毒針を打たれ死亡。

 

そして、残ったシンヤも決死の覚悟で攻撃するが周りのリトル・クラーケンに行動を阻まれ、身動きが取れなくなってしまった。

 

「楽しかったよ、ニンゲン。死ねぃ!」

 

全力で叩きつけられてくる触手を迎え撃つべく、自身が持つ最強のスキルで反撃する。

 

「スキル...《山崩し(レベリング)》!!!」

 

シンヤの持つ剣が紅く光り輝き、リトル・クラーケンが絡みつけてきた触手を切り落とし巨大な大先生の触手も切り落とそうとする。

 

「舐めるなよォオオオ!!若造がぁぁあああ!!!」

 

突然触手が鉄のような色に変化し重量を増しシンヤへと迫ってきた。シンヤが持つ剣を押し返し、剣ごと体に金属化した触手が巻きつけられた。

 

そして、吸盤と思われる場所から毒針が射出された。

 

「グッ...くそ!クソクソクソクソクソ!!この...世界でも...俺は生きることはできないのか...サイテーだよクソ...」

 

シンヤは静かに息を引き取った。

 

「ふん!ニンゲンにしては中々やりおる男じゃったわい」

 

バルハート、シンヤ、ジョー、この三人の死が確認された為今回遠征に来ていた残りの部隊は王国へと撤退していった。三人の死は魔力感知の得意な魔法使い(マジックキャスター)が三人の魔力が消えた事から判断したのだ。

 

「今回の戦いでは儂以外の階層守護者が死んでしもうた。三日後に蘇生するとはいえ、それまでは儂が侵入者を片さねばならんのか、面倒じゃのう」

 

はぁ、と吐くこともできないため息を吐き、コクビャクに今回の件はひと段落がついたと報告せねばと思いついた。

 

「さて、コクビャク様にご報告せねばな」

 

この後、コクビャクに連絡を取り褒美は考えておくから楽しみにしておけと言われ、連絡中にはしゃぐことはなかったが連絡魔法が途切れると海の中でリトル・クラーケン達と共に嬉しくてはしゃいでしまったのは秘密だ。

 

side コクビャク

 

今しがた、クラーケンから例の件についての報告が来た。今回は冒険者ひとパーティが攻め込んでくるのとは訳が違い万を超える兵士が攻め込んできたのだ。流石に報償を与えなければ謀反を起こすのではないかと危惧したコクビャクは褒美は考えておくから楽しみにしておけとその場は乗り切ったところなのであった。

 

「やはり、クラーケンは使えるな。まあ、あれだけ大量のDPを消費したのだ。我がいなくても敵を排除もしくは対処することができなければ困るのだがな」

 

そう言い、内心ではかなりご満悦のコクビャク。自分が自由に行動できる安心感がうまれ、非常に機嫌が良いのだ。

 

「あの村で生娘を喰らった後、一度ダンジョンに戻るか」

 

褒賞の件もあるし、何にせよ一度はダンジョンに帰らねばならないだろう。そう考え、王都に着くまで帰らないという目的は変更し目の前の村の生娘を喰ったらおしまいという目的に変更し、村へと向かっていった。

 

この村で起きている事件に、巻き込まれるとは知らずに...

 

 

 

 

 

 

 

 

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