狂人の闘争記 作:マルコス
気づかぬ間に森の奥深くまで来ており内心、こんな所に村も街もないだろうと思っていたところに村落を発見した。しかし、なにやら慌ただしい様子で金属と金属がぶつかり合うような音や魔法によるものなのか村の各所からは火柱が上がっている。
「祭りか何かか?」
到底祭りとは思えない様子ではあったがコクビャクはそう呟いた。面倒ごとに関わりたくないのだ。ましてや、人間間の抗争など見るのも煩わしい。村の住民達(生娘のみ)が略奪者に犯され殺されて行く様など吐き気がする。
自分の
さて、本来ならばこんなくだらない抗争の中に顔を出すのは偲ばれるものだが、王都に行かなければならないコクビャクは人の一人でも脅して王都への道でも教えてもらおうか、あわよくば未だ穢されていない生娘をお菓子感覚で喰っていく算段である。
そんな事を考えつつ、村の中に足を踏み入れたコクビャクは自分の予想とは大きく外れた事に気づき少しばかり驚いていた。なぜなら、ここは人間の住まう村ではなく森の奥地、其れも多種族からの干渉を嫌うとされている
「これはこれは...予想外ではあるな」
道端に転がるエルフや人間の死体を見るに、エルフ狩りをしている人間を迎撃しているのだろうと考えその死体を踏み潰しながら村の中央へと歩いていく。エルフが人間如きに劣るとは思えないが、恐らく的には相当な手練れがいるのだろうと推測した。しかし、そんな人物であろうとも上位冒険者のパーティを単独で圧倒するコクビャクの脅威になり得ることはない。たった一人でそんな化物を相手に何ができると言うのだろうか。
暫く歩き、村の中央に辿り着いたコクビャク。そこで目にしたのは、周りの家々よりも一回り大きく造られた家である。恐らく此処がエルフの村長かそれに準ずる者の居住区であろうと推測できる。又、この家の周りを三十を越える人間達に囲まれている状況から追い詰められたエルフ達がここに避難したのであろうこともわかる。このエルフ村長の家(仮)は、守護魔法か何かが掛けられているのか人間達が攻撃してもビクともしない程頑丈になっている。しかし、そんな守りが永遠と続くわけもなく、中にいるエルフ達が魔力を注ぎ込んでいるのだろう魔力反応がコクビャクの魔力探知とも言えない勘のようなものに引っかかった。
「人間如きに劣勢とは、情けない」
基本的にコクビャクは自分に害を及ぼす存在にならない限り、人間以外の種族には極めて有効的であると言える。無礼を働くようなものならば有無を言わさず斬り捨てるコクビャクではあるが、魔物の子供が
しかし、魔物だって子供が大事だ。故に子供だけは勘弁してくれと何とか魔物は意思疎通を図ろうとする。すると、冒険者たちは揃ってこんな反応をするのだ。
「なんだこのオーク?ジェスチャーしてるだけで襲ってこないぜ、カモだ!お前ら此奴を袋叩きにしろ!」
野蛮な人間はこのように屑しかいない。世界中を探せば話を聞いてくれるものもいるかもしれない。しかし、そんな者達が少数なのに反して魔物達は何とか考えを伝えようとする親が大多数なのである。無駄だと分かっていても諦めることはできない。
自分達の大切な子供なのだから...
「全く、虫唾が走るな」
そう言って、守護魔法が消え家の扉が破壊された家に向かって歩き始めた。
side エルフの長
遂に...遂にこの家も突破されてしまった。しかし、後ろに控える女子供だけでも守り抜かねば...いくら人間とはいえ、子供ぐらいは見逃してくれるであろう...そこまで非常な存在ではないと思いたい。
「さあ、さっさと来な。お前達は負けたんだよ、諦めろ」
そう言って人間達が取り出したのは鉄製の首輪。ーーー奴隷の首輪である。奴隷の主人となった者の許可がなければ外す事は出来ず、命令には絶対服従。そこに人権も何もない。死ねと言われようと、慰めろと言われようと拒否することはできないのだ。
「...子供だけでも、逃してはくれまいか?儂等ならばなんでもするだから、せめて子供だけは...」
人間たちは下衆た笑みを浮かべ言い放った。
「馬鹿かお前、子供の方がお前ら老人エルフよりも高く売れるんだよ!逃がすわけねぇだろうがハハハハハ!」
周りにいた人間の仲間たちもゲラゲラと気持ちの悪い笑みを浮かべ声を上げて笑う。圧倒的に優っている余裕からか、後ろにいる女エルフを見て「一匹ぐらい、俺がもらってもいいかな」などと仲間内で話している奴も居る。どれだけ人間とは非道な存在なのだろうか、我々エルフに友好的に接したかと思えば機を見て裏切る。この者は信じられると思い信じたら首輪を嵌められていた等良くあることだ。
だから、我々エルフは人の居る町や村には極力近寄らず幻影魔法で人を惑わせこの村まで到達できないようにしていた。しかし、それでも人間たちは我らエルフを見つけてくる。見つけて、捕らえて、奴隷とする為に。最早人間に信じられるものなど一人たりとて存在しない、それが今になって漸く気づき、人間共を殺しておけばよかったと後悔していた。
「それじゃあ、後ろの女エルフ!お前からだ...グヘヘへ」
もう諦めるしかない、怯える子供や女を見ても下種共は躊躇うどころか喜んでいるようにすら見える。嫌がる顔を見て喜悦に染まる顔は見ていて非常に不愉快だった。しかし、自分にはもうどうすることもできない。...ここまでか。
そう、諦めた時であった。
「相変わらず下種だな、人間よ」
其処には黒髪が首元まで伸び、病気なのではないかと思うほど白い肌、黒いファーのついた王族が着ているような高級な素材を使った衣服であろうことがわかるコートをきており、指には見るだけでも高価な事が分かる指輪が幾つも嵌められいる、紅い瞳を持った青年がいた。
相手側の救援ではないのであろうかと考えた長であったが、直ぐにその考えを払拭する。人間を下に見るかのような発言に下種と人間を嫌うような発言から、人間ではないのであろうと予測する長。
「へっ!オメェ、貴z...」
男の一人が何かを言う前に何をされたか理解することもないまま、
ビチャという音と共にその場に血溜まりが出来、踏み潰され頭の横に足があるという奇怪な状態になっている。先ほど現れた少年の足が踏み潰された男の頭に乗せられている為、誰が男を踏み潰したか一目瞭然であった。
「誰が...話すことを許可した?」
紅い瞳で、男達を一瞥しそう告げる青年。
「なっ...嘘だろ!?」
周りの男たちにも動揺が走り始め、各所から弱気な発言が飛び交い、徐々に件の青年から後ずさり始めた。
その圧倒的な威圧感に怯んでいた男達であったが、何かを思い出したのようにリーダー的存在の男が声を上げた。
「ギリオン!!こんな時のためにテメェを雇ったんだよ、働け!」
ギリオンと呼ばれた身長二メートルを超える大男がのしのしと足音を立てながらリーダー格の男の前までやって来て剣を構えた。
「こいつはな、魔法剣つってな...はぁ!?」
ギリオンが剣を構えた瞬間、斜めに亀裂が走るようにして上半身と下半身が別れ、再び血溜まりが出来上がった。大金を払って雇ったのであろうギリオンを瞬殺され腰を抜かしその場にリーダー的存在の男はへたり込んでしまった。
なんということだ、あの青年は一体何者なのであろうか。男一人を踏み潰し、挙げ句の果てには我等エルフが束になっても勝てると思えないギリオンとかいう大男を恐らく手刀で一閃。なんと桁外れな存在なのであろうか。その割には全く魔力を感じない、おそらくは単純な身体能力、油断することはできないだろう。しかし、この好機を逃す手はない。今はあの青年に任せるしかないであろう。
後ろの女子供を庇うように位置どりを変え、青年へと目を向けた。
side コクビャク
脆弱すぎる。なんだこの
※ダンジョンに攻め込んできたパーティは上位冒険者で、この集団の男達とは格が違います。
ギリオンとか言う奴も雑魚だった...この世界の生物はこんなにも脆弱なのか?其れとも此れが普通だとでも言うのか?ーーーあり得んな。
まあ、何方にせよ人間共を蹂躙し殺しつくすという目的には変更はない。寧ろ、ここまで弱いのならば町の衛兵も弱いのであろう。つまりは、配下達に生娘を攫って来させる事も可能であるという可能性が出てきたということだ。嬉しい誤算だ、張り合いがないのは少しばかり残念ではあるが、そんな事は許容範囲だ。
「まあ、色々後で考える必要があるな」
この村での騒動が終わったらダンジョンに戻ろうと強く決意したコクビャクであった。
side end
「ば、化物だァアア!!逃げろォオオオ!!」
喉が張り裂けんばかりに叫び、男達は散り散りに逃げ始める。しかし、コクビャクがそんな事を見逃す訳もなく凶悪な笑みを浮かべ一つの魔法を発動させた。
「《
暗黒魔法の一種で効果範囲は指定範囲内にいる対象。空中から鉄の檻が出現し、ブラックホールのように強力な引力で対象を檻の中に引き摺り込む魔法である。又、中に閉じ込められた者は状態異常に対する絶対的な耐性がない限り、毒、麻痺、呪い、激痛、恐怖、幻覚、等計十種の状態異常に陥る。しかし、どれだけの痛みを与えられても、意識を失うことは出来ない。それがこの魔法、
苦痛に悲鳴をあげようにも、麻痺により呻き声しか出すことはできない。泡を吹いているものもいるが、気絶することができない。泡により窒息死出来たものは幸せであると言えるであろう害悪魔法である。只、対象の苦しむ様を見るためだけに使用される魔法。暗黒魔法はそういった状態異常や常軌を逸した狂気の魔法であるため人間も手を出さない魔法である。この魔法は通常使用者にも猛毒の効果がある魔法なのだが、コクビャクには効かない。絶対的な耐性を持っているためである。このように、使用者に対する副作用も凶悪なので人間たちには手を出せない魔法というのも理由として存在する。
龍をも殺す毒に人間が耐えられるわけがないのである。暗黒魔法に手をつけるのは頭のおかしいキチガイばかりで、下位の物しか使えないのである。習得する前に死ぬのが普通だから。
男たちの苦しむ様を見て嗤うコクビャクは、その様子を見て怯えているエルフ達に気付くのは男達が半分死んでからであった。
※ コクビャクが人間の姿になっていたのは、設定集を見れば分かりますが、《擬態》によるものです。