狂人の闘争記 作:マルコス
エルフの村を襲っていた人間達を殺し終えたコクビャクは、漸く人間たちが襲っていた家に目を向けた。森の木でできているであろう簡素な造りの家の癖に、人間たちの攻撃にも耐えていた。その理由は、エルフたちの魔法だ。本来であれば仲間のエルフにかける物である支援魔法をあろう事か、無機物にかけていたのだ。常識はずれの手段を用いたことによって、結果、結界の魔法が使えないエルフも戦力となり、家の守りをより強固にしていたのだ。
しかし、それだけの数のエルフが束になっても人間たちの攻撃に屈しようとしていたのだ。そんなエルフ達にコクビャクは、哀れな物を見るような目で見つめていた。ーーー脆弱すぎる。
人間にしても、エルフにしても、どうにもこの世界の者たちは自分の予想していた以上に戦闘能力が乏しいように感じられる。この地域では荒事はあまり起きないのか、将又その程度の戦闘力が普通とされているのかは分からないが、この程度のエルフどもならば一億人来ようとも負けはしないだろうとやや自信過剰な推測を立てた。...さすがに言いすぎである。
その後もさまざまな思考をめぐらせ、10分ほどした後、漸くコクビャクはエルフ達の元へと歩いて行った。その間、エルフ達は警戒するようにコクビャクの前に男たちが立ち塞がり、女や子供のエルフ達が後ろの方へと隠されていた。そんな事をしてもこのエルフどもは逆立ちしてもコクビャクを一秒すら止めることもできないというのに。
コクビャクが歩み寄ってきた為、エルフの長がコクビャクに声をかけようとした時、コクビャクが長の話を聞かんとするかのように、割り込んで話し始めた。
「話すな、何も話したくはない。人間風情に苦戦を呈する下等種族に、我と話す権利など無い。」
それは、あまりにも傲慢で高慢。ゴミを見るような目でエルフ達を見据え、その通りゴミであることを明確に相手に伝わるように嫌悪感を露わにしてそう言い放った。本来であれば話しかけるのも嫌なのだと言わんばかりに...
だが、その態度にエルフ達がだまっているわけもなく、各所から批難の声が上がりコクビャクを中傷するような発言が聞こえてくる。命の恩人である彼を先程の一つの発言で良く思っていた者も掌を返したように態度を変える。しかし、人間であれば、他種族であれば、コクビャクでさえ無ければ、その発言の正当性を理解し、謝罪したかもしれない。いや、先ずそのような発言が起こりうるわけがないのだ。コクビャクにその中傷の声が届いた時、先程までとは桁違いの殺気を纏ったコクビャクがそこには居た。
完全に人を、いやエルフを見下した発言をしたコクビャクが悪いのにもかかわらず、キれている。逆ギレである。
しかし、彼の逆ギレは洒落にならないレベルであり完全に機嫌を損ねてしまった彼を止める術などもはや存在しない。正しい行為をしても、正しい発言をしても、正しい権利だと主張しても、無力、無力、無力。
彼の前では森羅万象すべてのことが彼中心に考えられており、まるでバグがある機械のように暴れ出す。理不尽な理由で、力で、知識で、圧倒するのだ。
その場にいたすべてのエルフが息を飲む。先程まで非難の声を上げていたもの達など見る影もない。只々目の前の化物に恐怖し涙を目に浮かべることしかできなかった。
そして、その
「この俺を、侮辱したな?
この俺に、敵意を向けたな?
そして何より.......俺を、怒らせたな?」
コクビャクの言葉にまるで、言霊が乗せられているかのような重圧がエルフたちにのしかかる。彼が一言発する度に地面に足がめり込んでいくような感覚に襲われる。エルフ達はそれは幻覚だと思っているが、幻覚などではない。物理的に、現実で、本当に地面に足が埋もれているのだ。既に足首まで埋まってしまっている。しかし、彼らは気づかないーーいや、気づかないのだ。目を離したいのに話せない。逃げ出したいの目が彼から話すことを許してくれないのだ。
まるで、コクビャクが、
ーーー誰が目を離すことを許可した?
誰が逃げ出すことを許可した?
その場で黙って死を待て。ーーー
そう、命じられているかのように。
「敵意を向けぬ人間以外の種族に関しては、俺は必要以上に干渉するつもりはなかったんだがなぁ...しかし、俺に敵意を向け、剰え、命の恩人に暴言を吐く者に慈悲を与えられるか?答えは…Noだ。」
そして、ため息をつくかのように、呼吸をするかのようにサラッと述べた。
「そんな奴ら...常識的に考えて、極刑だろう?」
彼がそう言い終わった頃には、女子供を庇っていた長のエルフを含む生き残りの数人の男エルフ達の首が宙を舞った。その首は背後にいたエルフたちの元へと転がり、さらに恐怖心を煽った。
しかし、悲鳴をあげる者は存在しない。それは何故か、理由は簡単である。
『許可されていないからだ』
たった数分会話するだけでエルフ達に恐怖を刻み込み、奴隷のように首輪をはめなくとも絶対服従。コクビャクに首輪などもとより必要ない。その理不尽なまでの恐怖で力で強制すればいいのだから。
「お前たちに聞きたいことがある。ーーそこの先頭の女エルフ、お前に発言を許可する」
「はい、なんで...御座いましょうか」
コクビャクは、恐怖から足が小鹿のようにガクガクと震える女エルフを見て嗤いながら、問いかけた。
「なあに、簡単なことだ。ここから一番近い王国とは何処にある」
「そ、それは、此処から向こう側に直進すれば王都バルムトが御座います」
「そうか、ご苦労」
それだけ言い終えると、手を一振りし、話していたエルフは勿論の事、後ろにいるエルフ達共々首を切り飛ばした。
「楽に死ねただけ、有り難く思え」
コクビャクは既に死体となり、地面に倒れ伏したエルフ達にそう言い残し、今迄歩いて来ていた道程を戻るようにして、歩き始めた。
「まさか、進行方向が逆だったとはな。とんだ時間の無駄だったな」
それだけ言うと、コクビャクはエルフの事もそれを襲っていた人間のこともスッパリと忘れてしまったのであった。