狂人の闘争記 作:マルコス
コクビャクはダンジョンの階層を増やし、モンスターも何匹か召喚して少しはダンジョンらしくなってきたところで、村や町に強襲をかけて女子供を喰いに行った。
その間ダンジョンにはダンジョンマスターが不在の状態となる。これはそのマスター不在の時の出来事を綴ったものである。
side ダンジョン
翌朝になり、マスターが出て行ったダンジョンではゴブリンキングが第二階層の奥に生活スペースを作るため、配下のゴブリン30匹を使い3つの道に別れ掘り進めていた。生活スペースには3つの道全てが繋がっており、途中で道が合流するような造りとする予定である。
せかせかと作業をしていると侵入者の訪れを告げる警告の音がなる。
部下たちには作業を続けるように言いながらも自分は武器を取りに行く。部下ゴブリンは常に武器を携帯しているが、自分の持つ斧《キングアックス》は非常に重たい為普段は壁にかけておいてあるのだ。
配下のゴブリンでは持つこともできないため、奪われる心配はない。まあ奪った瞬間そのゴブリンを殺すが。
今頃は第一階層のスライムの大群を見て、このダンジョンはたいしたことないと思っているのだろう。しかし以前まではそうだったかもしれないがいまは違う。
マスター不在の間ダンジョンコアを守らせる為に我々を第二階層に配置したのだ。他のモンスターに襲われることのない非常に良い環境を与えてくださり、第一層にはスライムも居るため食料にも困らない。
こんなに良い場所を提供してくれているマスターに自分達は恩を返さなければならない。強い決意を持って配下のゴブリンたちを呼び寄せた。
「侵入者を生きて返すな!!配置につけぇい!」
「ギィ!!」
知能の低い配下ゴブリンでは話すことはできないが、命令を理解することはできる。偶に話すことができるゴブリンがいるが、本当に稀である。
さあ、来るが良い!冒険者共!!マスターの食料にしてくれるわ!
ゴブリン達の配置が完了し、後は冒険者たちの到着を待つばかりである。ここで戦果をあげあわよくばマスターから褒賞を貰うのだ。装備も冒険者共から剥ぎ取れるし、侵入者も悪いものではないのだ。
倒すことができればの話ではあるが。しかし、リスクは限りなく低い。
なぜなら、このゴブリン達は死ぬことがないのだから。死んだとしても配下ゴブリンはすぐに蘇生する。
ゴブリン達の司令官であるこのゴブリンキングがやられれば、配下ゴブリンの蘇生もストップし中央に下の階に行く階段が出現してしまうのだが...無限の配下というアドバンテージがあるのだそうそう負けることはないだろう。
ゴブリンキングはそう考えていた。
side 侵入者
今回侵入してきたパーティは以前にやってきた三人組のパーティとは違い、人数も質も更に上である。ギルドがダンジョンとして早急に片付けねば危険と判断し、有志を募り、ダンジョン攻略組を結成させたのである。
成功させた暁には大金を用意している為多少人数が多く山分けすることになったとしても、かなり懐が温まるため参加者の中には上位冒険者も多い。
というより、今回組まれたパーティは上級冒険者しか存在していない。下級冒険者が参加しようとすると上級冒険者に無言の圧力をかけられるため、参加できなかったのだ。
それ故、質の高いパーティが出来上がり、顔見知りも多く一緒にクエストを攻略した経験もある人達も多かった為連携も即席のパーティとしてはそれなりに高いといえる。
冒険者は全員で7人参加している。その内、前衛が四人で後衛が三人。
バランスも悪くなく、
漸く奥へと辿り着き、階段を慎重に前衛の盾持ちが進んで行く。
「此処までは情報通りですねー。やはり警戒すべきは三階層の主様だけですかねー。」
このダンジョンに来たことのあるパーティに片っ端から声を掛けて行き、すでに情報収集は済ませてある。命を賭けてダンジョンに挑むのだ、これぐらいの準備はして当然である。
「まだわかりませんよ、ケンさん。ダンジョンは変化が激しく、来る度に変わるダンジョンも存在していると聞きます。絶対に油断しないでくださいね。」
明るい余裕のある声で言った男性に対し注意を促すローブを被った女性。杖は先端に宝石が幾つかついた高価で強力そうなものを装備している。
「わかってますよ、アリアさん。気を付けますっ♫」
機嫌良く素直に忠告を受けたこの男もまとっている防具も杖も相当価値のあるものだというのがわかる。
本当に大丈夫なんですか?と返そうとした時、
キキィンキキィン!!
と前方で何かを弾く音が連続して聞こえる。いまも絶えることなく続いている。上から何か降ってきているようだ。
「あれは...罠?上から弓が降ってきているぞ。こんなの見たのは初めてだ。」
第二層に入りかけたところで嫌な予感がして上に盾を向けた前衛が必死に矢の雨を防いでいる。暫くして弓矢が尽きたのか、攻勢が止んだ。
「ハァハァハァ...なんという罠だ。盾を構えていなければ、頭が蜂の巣になっていたわ。」
息を切らしながらそういう男性。
「このダンジョン、嫌な予感がします。この罠もそうですが、他のダンジョンに比べて死の気配が強い。気をつけてください。」
息を切らした男性の隣に居たレイピアを腰に差し、前衛ながらも軽装の男が眉を顰めて後ろの者達にも聞こえるように注意を促す。
何人もの冒険者が死んでいるこのダンジョンでは死の気配が濃くて当然であろう。遺品も第四層の宝物庫に転がっているので無理もない。
いままで以上に慎重になった彼等の前に現れたのは、前衛として木の盾を持ったゴブリンが10匹。その後方に弓を構え、腰には剣を差したゴブリンが10匹。さらにその後方には、矢筒を背負った弓兵が10匹。
そして最後に一番後ろに聳え立つ、他のゴブリンよりも明らかに大きいゴブリンーーーゴブリンキングが立っていた。
「あれは...ゴブリンキングのようですねー。でも、この陣形を見るに唯のゴブリンキングと侮っては痛い目みそーですねー。」
彼等は3人ほどで、ゴブリンキングを難なく討伐することができる実力を持ち合わせてはいるものの直前にあった矢のトラップといい、死の気配といい、油断しても良い雰囲気が一つもないので警戒心を高める。
此方側も陣形を整え戦闘準備に入る。
暫く睨み合いが続いたが、痺れを切らしたゴブリン側が矢を放ってくる。当然それを前衛の盾持ちが防ぐ。
盾持ちの方に注意が向いている時に、後方では既に魔法の詠唱が始まっていた。それに気付いたゴブリンキングが後方に位置する魔法職を狙うように指示したのか、弓が後方へと飛んでいく。
「そんなこと...させるかよ、
盾持ちが何かの呪文を唱えると、後方に向かっていた矢は全て盾持ち前衛の盾に当たり虚しい音を立てて地に落ちる。弓を撃っても無駄と判断したのか、二列目に存在するゴブリンが弓矢を捨て、剣を持って前衛職四人に突撃を仕掛けてきた。
無論彼等はゴブリン如きに劣るわけもなく、着実に数を減らしているが、敵後方からの弓による支援もあり思うようには数を削ることができない。
そんな中、魔法の詠唱が終了した此方側の魔法使い達から中位魔法《
ゴブリンの蘇生時間は約五分である。戦場においての五分は非常に長く、決着をつけるのには十分すぎるほどの時間である。
竜巻による被害が敵後方にも出ていた為、前衛で倒したゴブリン共々数えると二十匹前後が死亡した。遂に、戦線が崩壊し冒険者達はゴブリンキングを仕留めるべく攻勢をかける。
ゴブリンキングも迎撃する為、遅い歩みではあるが敵へと向かう。接敵し、先ずはゴブリンキングが大きな斧を盾持ちの盾に振り下ろす。
余りの膂力に押し負け、盾持ちは後方に吹き飛ばされてしまい盾は真っ二つに割れてしまった。この惨状を見てゴブリンキングは通常の個体よりも攻撃力が異常に高いと判断し、ちょこまかと動き回り回避しつつ少しづつ攻撃していくスタイルに変更した。
時折飛んでくる、魔法による補助もありゴブリンキングが遂に体勢を崩した。
「今だ!全員で斬り掛かれ!」
レイピア持ちの男が号令をかけ、前衛は全員で突撃しゴブリンキングの腹、首、胴、胴とそれぞれ刺し貫くことに成功した。
「おのれ...侵入者共が、許さんぞおおおおおおお!!!」
呪いの言葉を吐きながらゴブリンキングは光となり消えていき、消滅した。予想外のアクシデントもあったものの被害は少しで抑えることができた。
盾持ちも予備の盾を装備して、中央に現れた階段をこれ又慎重に下りていったのだった。
side ゴブリンキング
クソ!彼奴ら予想以上の手練だった。まさか、矢降りの罠で被害がニトリも出ないとは思いもしなかった。耐久力のある前衛を始末しておく算段だったのに倒せなかったのは誤算だった。
それに、魔法の威力がこれ又予想以上に高かった。矢張り、自分たちも鍛えねばならないなと反省し配下のゴブリン達に訓練を行わせようと考えるゴブリンキングであった。
「どうせ彼奴らは、下の階層に居るグラシス様には勝てまい。」
以前、下階層に違うモンスターを配置したと聞きいても立ってもいられず、自分よりも下の階層だからって図に乗るなよと釘を刺しに行こうとして速攻で始末された。
傷をつけることできずにただ一方的に拳に潰され死んだ。強い弱いの次元の話ではないのだ。
おまけにあの体の硬さときた。何度挑んでも傷をつけることすらできなくて、しまいには彼のことを様付けで呼ぶようになってしまった。
これからも、下の階層には強い奴が配置されると思うと憂鬱な気分になるが侵入者と一番接触することが多いのは自分であると考えると、手柄を立てるのも自分が一番簡単なのではないかと前向きに考えその事は考えないようにした。
侵入者がダンジョンコアにさえ辿り着かなければいいのだ。侵入者は誰が倒しても良いのだ。グラシス様には女はどうか殺さずに捕まえてくれと頼んではあるが、果たして聴いてくれるかどうかわからない。
女は別に殺されても良いのだが、できれば生かしてほしい。繁殖するためにも必要な物なのだ。
数を増やせばそれだけで単純に強くなる。それに死んでも蘇生するため減ることがないのだ。
マスターに恩恵を受け、このダンジョン内で生活する限りほぼ不老不死状態になることができるのだ。現にここにいる間は時が止まったかのように老化しないのだ。
筋肉が発達したり、強くなるたびに身長が伸びるようになったのだ。これは長期的な観点で言えば、我々ゴブリンが最強種になるのも夢ではないのではないかと密かに野望を持って、グラシスにはペコペコと頭を下げているのだ。
「いつか、必ず殺してやる。」
そんな野心を秘めて...
side 侵入者
今度は次の回に進んでも罠こそはなかったが、さっきの階層には無かった赤色の大扉が存在していた。
「これは、何だろうか。この先に何がいるというのか。」
「まあ、普通に考えてボスにあたる人がいるんじゃないですか。」
「でも、宝物庫にまだ着いてませんよね。」
「もしや、階層が増えたのか!?」
様々な議論を交わし、10分ほど議論していたが先に進まなければ何もわからないだろうという考えに固まり、武器の手入れをして魔力も回復し体力も全員回復し終えたところで大扉に手をかける。
「行くぞ、準備はいいか?」
全員が盾持ちに頷き返す。ゆっくりと扉を開き奥へと歩みを進める。
部屋の中央辺りまで来た時、後方でバタンと大扉が閉まる音が聞こえた。そして大扉が閉まった音がなった瞬間自分達の前方に現れたのはーーー金属類が電気が何かによって無理やり形を成しているような体を持つ地面から上半身だけ出ている化物。
右の拳だけが異様に大きく、冒険者七名を一撃で押しつぶせるほど大きい。頭部と思われる部分には仄かに赤く光る目があり、口のようなものもある。
体調八メートル。その驚異の大きさに、その見たこともない容姿に一行はしばらく驚いて動くことができなかった。
戦況が動いたのはその後、しばらく経ってからの事であった。