狂人の闘争記 作:マルコス
第五話
ダンジョンの強化をし終えたコクビャクは、ダンジョンマスターの権限で第一層にあるダンジョンの入り口までやって来ていた。
「あ、ダンジョンコアのトラップでもダンジョンの危険が俺に伝わるが、万一のことも考えて俺に連絡するように言っておくか」
基本的にダンジョンマスターと階層毎のフロアボスモンスターは、魔力の有無に関わらず連絡することが可能である。しかし、モンスター側から連絡する際は事前に許可が求められる。
「クラーケンにでも頼むか」
現状、コクビャクの支配するダンジョンで最強の存在である海魔・クラーケン。滅多なことでは死ぬことのない彼に、実質上のダンジョンの統括及び緊急時の連絡を任せる事にした。
「聞こえるかクラーケン」
「はい、聞こえております」
「これから俺は人間共が溢れ返るほど居るという王都に行ってくる。その間ダンジョンを留守にする。故に、お前達で対処出来ない規模の敵襲が来たら俺に連絡をよこせ。以上だ」
「命令、承りました」
恭しく頭を下げている姿が目の前にいなくとも分かる。コクビャクは返事を聞くと、数秒後に連絡を切った。
コクビャクは知り得ないが、ダンジョンのモンスターたちの間では、クラーケンは通称、(大先生)として尊敬されているため実際問題、モンスター達の統括には適している人選ならぬモンスター選だったのだ。
「さてさて、上質な女子供を蓄えておきたいところだな」
今回王都に出掛けるのも前回と同じように食事の為である。しかし、今回の遠出は前回とは違い期間は定まってはいないが、長期間ダンジョンを空けるのだ。
故に、留守の間ダンジョンが陥落してしまう事がないようにクラーケンに連絡役を任せたのだ。ダンジョン強襲に備えて、安全面も万全である。
「さて、先ずは若い美味そうな女の情報収集だ」
こうして、王都を単身で壊滅させることができてしまう怪物がダンジョンを出た。
コクビャクがダンジョンを出て数時間後、コクビャクがダンジョンを出て行った方とは反対側に、王国の騎士団、雇われの傭兵達、総勢二万の軍勢が待機していた。
「バルハート軍団長、各軍準備が整いました」
「ふむ」
二万の軍勢を率いる男、バルハート・マドラス。彼の在籍する王国、『バルムト』の低位貴族であった本家を武術の天才的な腕によって家名をあげ、他貴族を蹴落とし、見事に上級貴族になるとともに、騎士団の団長に就任した成功者である。
今回のこの大軍を率いてのダンジョン攻略はギルドからの要請できたものである。王国とギルドは密接に関わっており、利害が一致することも多い。
ギルドによる周辺モンスターの掃討、王国による都内においてのギルドの権限の保証等、持ちつ持たれつの非常に良い関係でいる。今回のように、人民に被害が出ると思われるが、自分達では対処できないような人数を伴う攻略は他国でも何度か見受けられる。
大抵は強力なモンスターの出るダンジョンで、攻略できないとダンジョンから溢れ出て、王国の住民に被害が出たり王都に攻め込まれる危険性があるダンジョンが要請される。
今回も例に違わず、ダンジョン攻略の要請だ。なんでも、ここ最近まではスライムしか出現しなかったダンジョンだったらしいのだが、急に階層もモンスターも増え、非常に危険なダンジョンなり変わったのだという。
攻略に行かせた上級者7人パーティも悉くが敗れ去ったという。彼等からの最後の通信によるとどうやら五階層間であったらしいのだが、今はどうだかわからないという。
しかし、受けてしまった以上は攻略しなければならない。少数精鋭で無理ならば、雑魚でもなんでもいいからそれなりの実力者を大量に送り込み、攻略する。
どんなに強力なダンジョンのモンスターでも、必ず倒すことができる。そして、そういった強いモンスターに限って再び出現するまでの時間が長いという事が分かっている。
負けない、負けるはずがない。これまで何度もこういった依頼を受け成功させてきたのだ。
しかし、バルハートは何故か安心することはできなかった。何か言いようのない不安が彼を苛み、不安が押し寄せる。
「全軍!!突撃開始ぃいーー!!」
そんな自分の迷いや不安を振り払い、己を鼓舞するかのように号令をかける。
「進軍だー!!行けぇぇええ!!」
近くにいた将にあたる者達から伝播し、軍の各所から声が上がる。
「負けるわけがない。我らが勝利するのだ!!」
その言葉に応えるかのように、第一陣がダンジョンになだれ込む。後方には支援魔法を使う部隊が控えている。この最初にして最大の兵力でどんな難関なダンジョンも半分以上は踏破できている。
今回も例に漏れず踏破できるものと思い、本陣の椅子に腰掛けた。後は、連絡を待つだけだ。
できるだけの準備はもうすでにしてある。第一陣以外の軍団も出番を今か今かと待ち構えている。
こうして、コクビャクのダンジョンvs.王都バルムト騎士団の戦いの狼煙が上がったのだった。