審神者は人外でも良いと聞いて   作:標永久

1 / 1
第1話

『審神者、 眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる技を持つ者』

 

政府が一般人を審神者とする為に受けさせる訓練の最中、座学で再三聞かされたそんな肩書き。テストへの出題は必須であるから覚えたようなもので、私は仰々しいその言葉に胡散臭ささえ感じていた。それもその筈、何れ自分にも使役出来るようになるという付喪神、「刀剣男士」は私にとって壁に薄く映し出されたスライドショーの中の存在でしかなかったのだから。

 

床も壁も光沢のある近未来的な訓練施設の中で刀や江戸、加えて霊力等と言う声が飛び交っているのには正直な話、失笑を禁じ得なかったことを覚えている。年齢や種族は別として、先輩に当たる人達の存在や戦果は確かなものであるから審神者の有用性に懐疑心を持っている訳ではない、況してこの招集がはったりということもないだろうとは思う。だが、このような常に清潔に整えられた環境であくまで訓練用にプログラムされたロボトミーを相手にしていて、紙面上に回答を記す為だけに表面上の知識を暗記していて、果たして歴史修正主義者との戦いに勝てるのか、私は甚だ疑問だった。

 

否、考えればそれは唯自分の迷いを誤魔化したかっただけかもしれない。そもそも審神者に対して決して好意的なだけではないこの私が審神者を目指すのにはとても陳腐な理由がある。別に政府は人材の不足に悩んでなどいない、寧ろ新しい配属先は何時でも即日満杯状態だ。言い方は悪いが正に履いて捨てる程 というのを体現していると思う。当然そこまでの人気職なのには幾つか理由があるのだが、私にとっての唯一無二とも言える志望動機は「金」だった。

 

私は中の上か上の下かという程度のそこそこ裕福な貿易商の家庭に長女として生まれた。父は仕事の関係で年に何度か海外へ出張することもあったが、母思いの父と厳しくも優しい母、やんちゃな弟、それに私、四人で予々楽しくやっていたと思う。家に帰れば家族がいて、週末はショッピングモールやテーマパークへ出掛けたりして、そんなささやかな幸せを感じていた。毎日が平和に過ぎていった。しかし、それは長くは続かなかった。

 

ある日、父が消えた。

 

文字に起こせばたったそれだけのこと、だがそれが私の人生に激震を齎した

。歴史の改変の影響だった。父が消えれは私も消える、実に単純明快、順当な事象だ。ある日、私も消えた。家族が消えた。今私は()を依代に現界する形で存在している。平たく言えば付喪神もどきだ。同じく弟も生前大切にしていた()に依り、母は父と私、弟に関する記憶を依代に留めている。祖父母の計らいで戻っては来られたものの、父は未だ現界しておらず、次に歴史修正主義者の影響を受ければ完全に消失すると宣告されている。そして、当然その不確かな状況下で生きる為には金がいるのだ。一人につき数千万の大金を賄うには高収入が見込める職に就くより他にはない。まあ、審神者として最低限私の存在は保証されており、金さえあれば家族も依代を保たせられると言うのは一般的な被害者と比べれはだいぶ恵まれているのだが。

 

事実だけを端的に纏めれば、今日本は歴史修正主義者によって過去を改竄されるというかなり回り諄い攻撃を受けている。本人達にその気は無くともある日何かが突然無くなるという事態が発生し得るのだから十二分に攻撃と言っていいだろう。要するに歴史の改変は勿論のこと、それ以外の副作用的な部分でも彼等からの被害は計り知れないのだ。

 

そんな訳で私は歴史修正主義者を倒すべく審神者を志したのだ。と、大層なことを言っているようだが自分にその才能があると知ったのはほんの三ヶ月程の前のこと、あれよあれよと言う間に準備は進み8月日付けで私は山城の国へ審神者として配属された。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。