人里
「やあやあお兄さん。」
その男は笑顔で人里の通行人へ声を掛けた。
男はフードで顔を隠しているが、通行人はあまり気にも止めなかった。
「ルーカス・ローゼンベルグ君、について教えてくれないかな。」
通行人は快く答える。
「ああ、ルーカスか!
あいつは凄い男だぞ。」
「そうそう、牛鬼を何体も倒して、彼は人里の英雄ですよ。」
いつの間にか人々が集まり、ルーカスの話で盛り上がる。
「なるほど、皆さんとてもルーカス・ローゼンベルグ君を信用しているんだね。」
男はフードを脱ぐ、その姿を見て人々は驚いた。
「あ、あんた……‼︎」
「これでも、君達はルーカス・ローゼンベルグが、君達自身を救うと信じ続ける事ができるかな。
柱式、悪魔召喚術、デーモンズゲート。」
男は地面に手を置き、呟く。
その後地面から数百物物牛鬼が姿を現し、人里に姿を現した。
「う、う、ああああ。」
「逃げ…」
「自己紹介をします。
僕は悪魔の一角、ロキと申します。
そして人里襲撃の犯人です。」
さらりととんでもない事を。
まるで自分は関係して無いかの様に。
「‼︎」
飛ばされた弾幕をロキはするりと避ける。
「ふむ、近くになかなかやる人物、いや、妖怪がいたか。」
「貴様が、貴様が今迄の事態を起こしたのか‼︎」
人里の教師こと上白沢慧音は憤怒の表情を抑えきれずにいた。
「しかし周りを見なよ、僕が指示を出せば人里はあっと言う間に血の海だ。
英雄不在の中、君は彼らを守りきれるかな?」
「……‼︎
どこまでも、どこまでも貴様は!」
ロキは怒りに対し焦る事無く笑顔を見せ続ける。
その時、
「あああああああ‼︎‼︎
どいてええええええええ‼︎」
叫び声と共に空から1人の少年が降ってくる。
「あぶし⁉︎」
「グカアアア⁉︎」
少年は一体の牛鬼に激突し、凄まじい反動に全身が砕かれる。
「うう……痛い…」
しかし少年の傷はみるみると塞がり、何事もなく、はないが。立ち上がった。
「はいはい皆さんどいてねどいてね。」
そして牛鬼を退けてロキの前に立ち塞がる。
ルーカスは軽く会釈をした。
「初めまして、僕は、いや僕がルーカス・ローゼンベルグだよ。」
「へぇ……君がか。
…殺っていいよ。」
ロキは指示を出すと二体の牛鬼が同時にルーカスへ襲いかかる。
「妖夢さん、幽々子さん。
借りますね。」
「っ‼︎」
ルーカスが手を引いた瞬間、ロキはしゃがみ込む。
「死剣<心臓貫き>」
それは、ほんの一瞬。
ルーカスが突く様に手を出す。
たかがその動作。
「カッ……⁉︎」
数百体全ての牛鬼の心臓部に穴が空いた。
「幽々子さんによる因果律関与の殺害能力を妖夢さんの斬撃で飛ばす荒業だけど…… どうやら想像以上に牛鬼も脆いもんだ。」
「………牛鬼達を一緒で蹴散らしたか。」
ロキはルーカスを睨みつける。
「さてさて悪魔さんよ。
お前は後何体召喚できる?」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「何やら魔法かは知らないが凄いね。」
ルーカスはもはや千体を越える牛鬼の遺体に座り込み、ロキを見下ろす。
心臓を貫かれた遺体、消し炭にされた遺体、矢の突き刺さる遺体。
力の差は歴然である。
(これは…これは本当にルーカスなのか⁉︎)
ルーカスが幻想郷に来て、よく知るが故に慧音は驚きを隠せない。
圧倒的な成長量、そして魔力。
あまりに初対面とは離れたルーカスに圧倒される。
「クソっ!まだだ‼︎」
「拝借先、ルーミアさん。
<ダークミューテーション>」
「‼︎」
召喚しても、召喚しても。
遺体が増えるばかりである。
「くっ………」
「まだやるか?
お前の部下が死ぬだけだぞ。」
「……調子に乗るなよ。
しかしお前ら下等生物如きに、本気を出さなきゃいけないなんてな…
ロキの身が闇に包まれた。
背中からは翼が生え、むしろ神々しさを現す。
「…そもそもロキとは神の筈。
お前が本物が偽物かは知らんが、何故人里を襲う?」
「お前に答える義理があると?
知りたくば僕を倒す事だ!」
(ベタな台詞だなあ。)
ロキは剣を取り出しルーカスと斬り合う。
互いに攻撃を避ける事や防ぐ事はせず、互いの再生力が均衡を物語っていた。
「む…!」
ルーカスは回し蹴りで後ろへ飛ばされた。
「ホムンクルスの再生力の限界は把握している。貴様の敗北は絶対だ‼︎」
「なるほど……下級妖怪の召喚に神への変身、そして再生能力か。
何故悪魔に従っているかは知らないけど。」
「…?」
「どうしてお前は自分の恋人を殺してしまうのかな?」
「……?」
ロキは少し黙り込み…
「まさか……!
このっ…‼︎下等生物がああああ‼︎」
「うん、挑発成功。」
「ぐあっ⁉︎」
ルーカスに駆け寄ろとしたロキに火球が命中した。
(新手……⁉︎
まさか初めからこいつが囮役を!)
「これだけじゃないよ。」
「皆、今だ‼︎」
「「「おおっ‼︎」」」
「‼︎」
屋根に登った人達が組んだ水を一斉にロキに掛ける。
「3等級錬金術、全てを白紙と化せ。
アブソリュート=ゼロ。」
「がっ……⁉︎」
ロキは足元から身体が凍りついてくるのを感じ、もがく。
「止めろ……‼︎僕は貴様を倒し………愛しき…あの方を…!」
「従う相手が悪かったな、同情するよ。けど、」
ルーカスはそれに劣らぬ凍りつく視線を向ける。
「何があろうとも、人里の皆を殺したお前を許さない。」
せめて安らかに眠れとルーカスは続けた。
「お前にもう未来は無い。」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「テレポート」
ルーカスは氷漬けにされたロキを転移させた。
「海の底に沈めて置きました、これでもう牛鬼が人里に来る事は無い。」
主を失った牛鬼達が消滅していく。
「ああ、感謝する。
これで……終わったのだな。」
「こちらこそ、助かりました。
先生、それと妹紅もありがとう。」
「全く、久しぶりに家に来るなり協力して欲しいなんて驚いたぞ。」
「それは申し訳ない。」
妹紅にチョップされた僕は謝る。
割と痛い。
「それでルーカスはどうするんだ?」
「まずはこの体をなんとかしなきゃいけないんで、1.5日程此処で休んで原因を絶ちます。」
「原因……?」
「まあそれはこちらの話です。
後は……奴の未来に映った敵を倒しに行きますかね。」
「敵はロキだけではないと?」
「はい、ロキを従える程の奴らが魔界に潜んでるっぽいんで。
それよりも今は、あのフラワーマスターに勝たなきゃですけど。」