事件、そして始まり
あの子に振り向いてほしい、願うはただそれだけだった。
だからかっこよくなって勉強できるようにして、運動だってできるように頑張った。
最初はみんな驚いていたけど、だんだん男子にも女子にも人気が出るようになった。
もう生徒全員と仲良くなったんじゃないかと思うくらい。
だけど仲良くなりたい彼女との距離はまったく変わっていなかった。
彼女に近づきたい。もっと、もっと。
叶わないと思っていた。しかしそれは、いとも簡単に叶ってしまった。
今まで神様にからかわれてたのかと思ってしまうくらいに――――。
*
「お前ってさ、やっぱ彼女とかいんの?」
「……は?」
午前中の授業が終わって弁当を食べていた時、友達がいきなり俺こと
確かに告白されたことはかなりある。だからといって彼女がいるという発想にいくのはどうかと思う。
負と皆の目を見ると、今にもどんな人なのかという質問攻めになることが目に見えている。
なのでここでわざわざ嘘をつかなくてもいいだろうと思い、話を進める。
「彼女なんていないけど」
「は!? 嘘だろ!? なんでいないんだよ! モテんだろ!」
「モテるからって彼女がいるわけでもないし、好きでもないのにOKすると相手を傷つけるし」
「マジかよ、もったいねぇ~」
そう言うと友達はそのままうなだれてしまった。
本当はもっと言ってやりたいところだが、時間的にそろそろ自販機で飲み物が簡単に買えるだろう。
急いで行かないと授業に間に合わなくなってしまう。
「んじゃ、行ってくるわ」
「了解っすよ」
友達が手をひらひらと振ったのを見て、弁当箱を片付けずにそのまま自販機へ向かった。
自販機で飲み物を買って教室へ戻ろうとすると、3人組の男子が後ろに立っていた。
飲み物を買いたいのかと思い素早くどき、踵を返して歩こうとした。その瞬間、
ドガッ!
いきなり背中を殴られ、バランスを崩して倒れてしまった。
そんな状態になったのもお構いなしに、1人が話を淡々と告げる。
「お前がいるから彼女に振られたんだ! お前さえいなければ、俺達は彼女と付き合えて、あんなこともできて……それなのにっ!!」
そして俺を再び殴ろうとしたが、それは当たることがなく、逆にその男が倒れた。
「「なっ!?」」
2人が驚いている間に体勢を立て直し、追いつかれないように早めに走って近くの空き教室へと入った。
ちなみにさっき男が倒れたのは、俺が足を伸ばして腹に蹴りを入れて気絶したからだ。
「あ、飲み物忘れた…」
とりに戻るとまだあの3人組がいそうだが、喉が渇いているので再び買うなりなんだりしたい。
どうしようかと悩んでいると、いきなり教室の扉が開いた。
そこに立っていたのはさっきの3人が言っていた『彼女』もとい、学園一の美少女と言われている、
「……何の用だ?」
「これ、あなたの落とし物でしょ?」
彼女はそう言うと、さっき買った飲み物をさし出してきた。
こういうところがあるからモテるのか、と勝手に解釈し、一言「どうも」と言って早速飲み始めた。
それを見ていた彼女は深呼吸をすると、俺に話しかけてきた。
「あのさ、拾ってあげたお礼、貰ってもいい?」
「言っておくが金欠だから何も買ってやれないぞ」
「大丈夫、お金に関しては問題ないから!」
じゃあ他にどんなお礼の方法があるのだ、と言いかけたのを無理やり飲み込んで、返事をせずに黙って頷いた。
それを見た瞬間、彼女は顔を真っ赤にして近づいてき、目の前にしゃがんだ。
「それじゃあ、貰うね」
そう言うと、いきなり頬にキスをしてきた。
自分でやったのに恥ずかしくなったのか、彼女は走り去ってしまった。
教室に1人になったのを確認すると、床に寝転がった。
「マジかよ……」
こんなことをされてしまったら、意識せざるをおえなくなる。きっと勉強にも集中できないだろう。
そう思い、俺は仮病を使って保健室で休むことにした。