SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜   作:トアール凡人

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トアール凡人と申します
しばらくの間はオリジナル展開です
お付き合いください


アインクラッド編
First section 〜彼は彼女に出会った〜


 

・・・・・暗がりの森の中をただ、走る

「ハアハアはぁ・・・」

息を荒げ、ただ追ってから逃げる、後ろを振り返る、追っ手はどうやらこないようだ

深夜の森の中、彼の表情は読めないが何に怯えているのだろうか彼の後ろにはその追っ手とやらの気配は見えない。だが、足を止めることはなく、疾走するしか彼の選択肢にはなかった。

「なんだよ、・・・ちくしょう・・・」

脳裏に浮かぶのは突然の事態に対応できないことから生じる焦りだが、実はもう理解していたのではないだろうか。今のこの状況は起こるべくして起きたのだ。

わざと自分の頭の中の思考回路に散らばるパズルのピースをバラバラにしているのではないのか。本当はわかっているのに。でも頭がそれを受け入れられていないのだ。この危機の発生源は自分なのだと。だがわかっていても納得がいかない。頭で整理しようとしても自己逃避に走ってしまう。夜中の森の中、遠くには村の小さな明かりがあるが、今の彼にはみえていない。そんなことよりも後ろに迫ってくるものに対する恐れのほうが

彼の本能のもっとも敏感なところを刺激している。

恐怖とともに心にふつふつと湧き上がるこの塊はなんだろうか?それはどんな光さえも吸収してしまうような真っ黒な、1度出てきてしまったらもう止められない感情

「イツカ、カナラズ……」

それは恨み、あるいは後悔、そして決意。

呼び起こされた悲劇の種子。

すべてのはじまりといったところか。

けれども、今の彼にとって

これからの自身の運命など

到底予想の範ちゅうを超えているのだ。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

ギリギリまで暑さが続きながら、急に手のひらを返して冷たい風が吹き始める近年特有の気候が部屋の外では起きている。だが、彼はエアコンの人工的な温風を感じながら、自然のことには目もくれていなかった。ソードアートオンライン、通称SAO。彼の関心はこのMMORPGにしか向けられていなかった。正式サービス開始時はわずか一万人にしかゲームへの参加権が与えられない中、自らの運と実力によってその権利を勝ち取った彼は2022年11月6日午後1時満を持して初ログインをした。自身のオンラインゲームの知識をもとに、なんとなくだが独特のゲーム環境になじみ始めた彼はオーソドックスに片手剣を装備して、《はじまりの街》から少し離れたところにある平原で、レベル1のプレイヤーでも簡単にひねりつぶせるようなモンスターを倒している。

 

「結構楽しいもんだな」

 

稀代の天才科学者茅場晶彦。若くして、科学界に頭角をあらわした彼が渾身の思いでプロジュースしただけあり、このゲームの完成度は高い。グラフィック、プレイヤー自身の動きや、各種設定が緻密な演算の果てに、天才が織りなす最高傑作が堂々と彼の目の前には広がっていた。

 

「今日は初日だしほどほどにするかな」

 

ログインしてから既にかなりの時間が経過していた。普通のゲームだったら、キッチンから菓子でも取り出してそれをつまみながら、もう少し粘ろうと思うが、いかんせん現実の身体が野放しである以上、一度ゲームを終えて、夕食を済ませたい。そう思ってログアウトしようとしたのだが

 

「ん?なんでログアウトの画面が出てないんだ」

 

彼は首をかしげた。たしかにログインした時にあったはずの画面がすっぽりなくなっている。いろいろと探してみたがログアウトに関するような表示が不思議なことにまったく見当たらない。

 

「戻れ!ログアウト!脱出‼︎」

 

「クライン、無駄だ。マニュアルにも、その手の緊急切断方法は一切・・・」

 

どうやら周りで狩りをしていた同じ年くらいの少年と少し年上の男性プレイヤーも同じ異変が起こっているらしい。彼はわずかな違和感と不安を感じていたが、この時点ではなにかしらのシステムのバグだろうなんて楽観主義者を演じていた。きっと、配信初日によくありがちな想定外のログイン数に運営が対処しきれていないのだろう。でも、初回生産は1万台限定なのに、どうして想定外などあり得るのだろう。

 

リンゴーン、リンゴーン

 

突然頭上から鳴り響いた鐘の音に目をやると、鮮やかなブルーの光が彼と周りの二人のプレイヤーを包み込んだ。

気づくとそこは《はじまりの街》の中央広場であったのだが、さらに驚くのはこの場にいる数え切れないほどの人、いやこの数の多さは野球場の満員にはいかないが応援が盛り上がるようなくらいの人がいる。全プレイヤーがいるのだろうか?

 

「どうなってるの?」

「早くしてくれよ」

「ふざけんなよこら」

「ダーリンこわーい!」

「任せてよ僕がいるよ」

 

喧騒の中になんだかふさわしくない言葉も一部飛び交っていたが、いかんせんこの人数の多さが、プレイヤー全員に不安の感情を与えている。赤信号みんなで渡れば怖くないというが、それは違う。みんなで渡るということは、みんなで渡らざるを得ない。つまり、自分一人だけで

青信号を渡ることはできず、集団に飲み込まれて、車に突撃するのだ。怖くないというのは、集団で突撃することで個々人がケガをするリスクが減るからであって、事故が起こらないという意味ではない。話が大幅にずれている。今、ここにいる誰もが不安を抱いている状況下において、だれもこの事態の解消手段を持っていない。だから、不安は募り恐れへと変わっていく。突然、誰かが声を上げた。

 

「あっ・・・・上を見ろ‼︎」

 

その声につられて空を見上げるとそこには真紅のフード付きローブをまとった巨大な人の姿があった。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「ふざけたことをするもんだな」

 

天才科学者であり、この世界の創造主茅場晶彦を名乗った不気味な巨人が消え周りは大混乱に陥っている。あのものは叫び、あるものは泣きじゃくり、あるものは立ちすくんでいた。彼は頭の中でいまの状況を整理した。

 

「攻略法さえわからないこのゲームを一度も死なずにクリアしなければ、現実のベッドの上には帰れない。こっちで死んだらあっちでも死ぬし、仮想世界なのに現実と姿が変わらないオプション付きか・・・・」

 

別に現実の顔になるのは問題ない。実際、彼の顔は繁華街で適当に10代の若者50人選び出せば、五本の指には入りそうなくらい、つまりそこそこイケているルックスだった。いささか鋭い目つきが玉に傷だが、彼自身かわいい系の顔であるよりは今の顔のほうがマシだと思ってた。だが、ログイン時にそこそこ時間をかけて目元を修正した苦労を考えると、その労力だけはおしいものだ。彼は冷静に現状を分析できた。これから何をすれば良いのか?

 

「ひとまず、ここから退散しよう」

 

一万人の群衆の喧騒で混乱している広場から立ち去り、ひとまず落ち着ける宿を探してこの先のことを考えようと歩き出した矢先、何かに右肩を触れられた気がした。少し視線を後ろにやるとそこには彼と同じくらいの年齢であろう少女が笑みを浮かべて立っていた。鼻筋が通っていて凜とした目しているので自分よりも大人びてみえるが、よく見ると顔つき全体はやや幼い感じがするように思えた。というのも、彼女の口もとの緩み方、つまり笑みを浮かべた様子が悪戯めいた子供のような雰囲気を出しているからだ。不思議なオーラの少女が彼に何か用があるようだ。

 

「あなた、これからどうするの?こんな事態になっているわりに、冷静だね〜」

 

その声は、幾分大人びた雰囲気を醸し出すがやはり子供のようないたずらめいた雰囲気を彼に強く与えた。

 

「そう言うあなたも落ち着いていますね。見たところ僕とそう変わらない年のようですが?」

 

「レディーに対して年の話をするのは紳士じゃないね〜。そもそもこの世界では

リアルの話はタブーじゃないの〜?」

 

たしかにそうだ。だが10代の、それも前半に見えるようなのだから、年を聞いても差し支えないのではないだろうか。20代、30代かの判別が困難なのは別として。

 

「これは失礼しました。でも、そうでしょう?」

 

「まあね……あと君固くない?もっと砕けた喋り方しようよ〜」

 

「……で?何の用だ。不思議の国のマドモアゼルさん」

 

「いきなり砕けたね〜」

 

自分から言っといてなんだよその反応は

 

「でもね……ふふふ〜そうだねー」

 

彼女は不敵な微笑を浮かべた。頬にはえくぼが見られ、それがまた彼女のミステリアスな雰囲気を引きたてている。

 

「ねぇ、一緒にパーティ組もうよ

かた〜いジェントルマンさん♪」

 

「は?」

 

「だ・か・ら♪私とパーティ組んでくれないって頼んでるんだよ?男の子なら悩まずにオーケイを出すのがマナーだよ〜」

 

「……お前は何かアテでもあるのか?」

 

「わたし?ん〜〜そうだね……ベータテスターでもないけど〜」

 

「俺もそうだ。双方ともこの世界では初心者。ペアを組むにしてもメリットどころか、逆に危険なんじゃないか?

……ソロのほうが自分の安全に気を配れるし」

 

「うーーん」

 

彼女は腕組みをして悩んでいるそぶりを見せる。

 

「それでも、私はキミがいいな〜なんかね〜ビビッときたんだよ‼︎」

 

彼女はわざとらしく頭に電気が走った感じを表現している、ビビッときたポーズだろうか。彼は少し頭の中で問答をして

答を出した。

 

「……一週間だ」

 

「えっ??」

 

「一週間、仮にペアを組んでみてそれで俺もあんたもやっていけないようだったらそこでコンビ解消ってのはどうだ?」

 

まあ、こいつもこの異常事態で思考回路がおかしくなってるだけだろう。さすがに7日あれば少しは正常に今後のことを考えられるはずだ。

 

「オッケー‼︎」

 

「即答かよ」

 

「じゃあ、決まりだね♪よろしく〜♫」

 

大丈夫なのだろうか。なんだか一週間でカラダを壊しそうな気がする。……病気のシステムがあるのかは知らないけどな。

 

これが彼と彼女の出会いであった。そして、デスゲームが始まるとともに彼と彼女のゲームもまたこの時から開幕したのである。

 

 

 

 

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