SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜   作:トアール凡人

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First section 11〜すべてのはじまり〜

 

レットが約束の洞窟の入り口に着いたのは、もう日は沈み、近くにある森の木々の間からかすかに遠くにある村の明かりが見えるくらいであった。季節は冬だが、このフロアでは他の層と比べて気候は温暖という設定なので、そこまでの寒さは感じないが、周りの空気はというと

冬の乾燥したパリッとした風が吹き上げ

空気が澄んでいるように感じられる。そういえばと彼は思いつくとアイテムストレージから灰色のフードをとりだした。

ずいぶん前に相棒が、色が気に入らないということで譲られたのだが、ちょうど今の少し冷え込んだ中では十分な温もりを感じられる。洞窟にはこれといって強い敵も出てこないため、バッサバッサとモンスターを狩っていく。

 

「やれやれ、目的地までまだなんだ?」

 

いささか、弱いモンスターとの問答にあきあきしていたレットは青いポリゴンとなったモンスターを眺めながら、あくびをする。さて、もう少し進むかと思った時、周りの空気の振動を感じた。

 

「ギャーーーーーー!!!」

 

遠くから、悲鳴が聞こえた。男の声のようだ。

 

「・・・うわーーーー!!!」

 

また、もう1人の悲鳴が上がった。もしかすると、奥に強敵が現れたのか。レットはいてもたってもいられず声のした方向へ走り抜けていった。途中でモンスターがいた気がしたが、構わずに風が吹き抜けるがごとく、突き進んでいった。

しばらく、進むと人工的な明かりが見えてきた。奥の方をじっと凝らしてみると

見覚えのある容貌のプレイヤーがそこにいた。

 

「ハニー、ここにいたのか。さっき悲鳴が聞こえたが知らないか?」

 

「んふふ〜やっときたねレット」

 

彼女はいつものように不敵な笑みを浮かべてこちらを見つめた。

 

「ああ、お前がこんなところに来いと言ったからな。ギルド結成なんだろ。それより・・・・」

 

すると、レットの発言をさいぎってハニーが満面の笑みを浮かべた。

 

「レット。今から紹介するよ〜私たちのギルドのメンバーをね。出てきていいよ〜♪」

 

視界の右左両側から現れたのは3人いや4人のプレイヤーだった。

 

「・・・・・!?」

 

レットはその目を疑った。なぜならそのうちの1人は

 

「おい、そいつ……」

 

そのプレイヤーは顔にペイントをしていた。道化師のように白い化粧をしたそいつは、風貌も奇抜であった。だが、それ以上にレットは目の前の光景が信じられなかった。

 

「そいつのカーソル、オレンジじゃないか!」

 

そいつはオレンジプレイヤーだった。何かしらの犯罪行為をした場合、通常、緑色のプレイヤーカーソルがオレンジとなるのだ。

 

「んふふ、その通りだよ〜。だって、さっき2人殺っちゃったんだもん」

 

耳を疑った。いや、思考が止まった。何をいってるんだふたりころした?さっきの悲鳴はこいつにやられたからなのか。道化師野郎は、こちらをバカにしたような顔で口笛を吹いていた。

 

「私たちはね、これから作るんだよ〜この世界を面白くするギルドをね〜」

 

面白い?人を殺してそれがおもしろいのか?やめろ…

 

「その名も《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》!!目的はひとつだけ。つまらないこの世界に恐怖と絶望をもっともたらすことだよ〜PKなんてお茶のこさいさいだね〜」

 

やめろ…やめてくれ……

 

「冗談はよせ……本気で言ってんのか?」

 

「ほ・ん・き♪これこそが私たちが出来る最高に楽しいことだよ〜」

 

ハニーの表情は決していつもとは変わらない笑みを浮かべている。普段と同じ笑顔の人間がここまで恐ろしく感じられることがあろうか。

 

「ふざけるな」

 

彼は剣を引き抜いてそれを相棒にむける。

 

「へえーー、キミは乗らないんだ〜

こんなに面白いことがはじまろうとしてるんだよ?」

 

「犯罪、いやプレイヤーがプレイヤーを殺すなんて俺は断じて許さない。考え直せ、今ならやりなおせるはずだ」

 

彼は懇願するように、けれども緊張状態を解かないように声を絞り出した。周りの奴らはケタケタと笑いながら2人の問答を見物している。

 

「やりなおす〜?」

 

「少なくとも、この道化師野郎は野放しにできん。すぐに黒鉄宮の牢獄に送る」

 

「ふーーん、じゃあコイツが消えれば良いんだね〜」

 

言うが早いか、ハニーは道化師野郎を一突きにした。道化師は驚く間も無く、青いポリゴンとかした。下手人のカーソルは緑色からオレンジに変わった。おいおい、だれがそいつが消えればいいなんて言ったんだよ。曲解もいいところにしてくれよ

 

「さーてと、私は本気だよ〜。キミが参加してくれないと、私もここまでした意味がないからね〜。……怖い顔してるね♪」

 

ああ、自分でもわかるよ腕をみると血管が浮き出ている。さっきから頭に血が上っちまって顔が熱くてたまんねえよ。

 

「ハニー、お前は俺が引っ捕える。他の連中もそうだ。こんなヤツらを野に放ったら、バカでもその後どうなるか見当がつく」

 

レットは剣を構えて標準を目の前の少女にあてる。なさけないことにこんな今になって、自分がコイツに剣を向けることに躊躇していることを肌で感じ始めた。

考えてみろよ。昨日まで一緒にレベリングしてる奴なんだぞ。食事でテーブルを挟んでバカ話したし、宿で夜にちょっかいかけられてゲンコツ打ったこともあるし、やれ探索だと思いつきで出かけてみたら穴に落ちてさまよったあげくユーレイの成仏を助けたりしたんだぞ。こんな密度の濃い体験を共有してるんだ、今だって俺がこの世界のグチを言ったら。きっといつもみたいにヘラヘラして笑い飛ばすような女だぜ。たまったもんじゃないよな、でも俺はそれが安心だったんだ。この胡散臭いやつでも俺の相棒だ。仮想世界なのにさらにあだ名なんてくだらないもの考えてあの情報屋とこいつと俺の間で呼び合うような、俺の数少ないこの世界の知人でもあるんだ。みろよ、向こうは今にも俺の喉を突き抜いて殺すこともためらってない。おかしいやつだよ、最初からそうなんだよ。初めて俺に話しかけてきたときと何一つ変わっちゃいないんだよ。どうして簡単にあいつに本気で剣を向けられるんだよ。わけわかんねぇよ。

頭が今までに経験したことがないくらい熱を発してる、情報の処理でオーバーヒート目前だ。

 

ダメだ、抑えろ、抑えろ……

 

やらなければこっちがやられる……

 

あいつは今まで一緒にいた相棒だどうして戦わなきゃならない……

 

まちがった道に歩むやつを導くのが相棒じゃないのか……

 

頭の中でどれが俺の本当の人格なのかわかんない応答が続けられていくうちに

改めて剣を持つ手を、緊張と恐怖と興奮による尋常じゃないくらい汗で滑り落ちないように握り直し、目をやつから決して離すことなく心の中で深呼吸をする。

 

「ハニー、いや『POH(プー)』覚悟はできているな……」

 

相手はニヤけた表情を寸分も変えることなく答えた。

 

「望むところだよ〜」

 

灰色のフードを被った剣士とPOHと呼ばれた少女の両者が一斉に動き出した。

キィーーーーン‼︎‼︎

剣と剣が激しくぶつかり合う。レットはズシリと重くのしかかる。の攻撃に歯を食いしばりながら受け止めている。たいして、少女は満面の笑みで試合開始の音頭をとった。

 

「さあ、はじめようか〜〜♪It' show time〜〜」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

勝負は常に平静なやつが勝つ。実力差がないような両者であったら、少しでも相手にたいして居つくようなことがあればその隙を見事につかれるのはすべての駆け引きの常識だ。

 

「くそっ。……どうしてこんなことに」

 

現在、レットは月の出ない真夜中の森を一目散にはしっている。HPゲージはあともう一撃を受ければゼロになるギリギリのところまでなくなっている。警告のアラーム音が彼の耳に響き渡るが、彼にそれは聴こえていなかった。敵の、ついこないだまでの相棒の追跡がすぐそこまできている。

 

「ふふふ〜〜どこにいったのかな〜」

 

いつもと相変わらないおふざけ節が今では恐怖にしか聞こえない。

彼はおびえていた。

カサカサっ

足元の草が揺れる。しまった音を立ててしまった。

 

「おや、ふふふ〜そこにいるんだね〜」

 

暗がりで表情がうまく読めないが彼は長年の経験からわかっていた。今の、彼女の表情は

 

「ふふふ〜出てきなよ、すぐに終わりだよ〜」

 

それは、誰がみても自然に思えるような

だからこそ、さらに彼のおそれを募らせるような

満面の笑みだった

 

 

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