SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜   作:トアール凡人

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Second section③〜ドウヨウ〜

 

頭の中に目覚ましのアラーム音が響いた。あたしは眠たい目をこすりながら時計を見ると午前7時だった。いつもならもう15分は眠気との格闘を繰り広げるのだが、昨日はグッスリ眠れたので頭がすっきりしていて気持ちのいい朝だ。アインクラッドに来てからこんなに目覚めのいい朝は初めてだ。あたしはうーんと伸びをして朝日が差し込む窓辺をうかがうと、何やら誰かが椅子の上で眠っていた。一瞬、侵入者かと思って悲鳴をあげるところだったが、光を浴びたその顔を見るとまちがいないアルトさんだった。

でも、なんでこんなところに?

 

「……はっ!」

 

そういえば、昨日はあれからアルトさんのベッドで眠ってしまったんだった。もしかして、この人はあたしがベッドを占拠しちゃったから椅子で寝ているのかな。だとしたら……あう〜〜顔が熱いよー。自分のほっぺたが真っ赤になっているのがわかった。恥ずかしいよ、もしかして寝顔見られちゃったのかな。よ、よだれなんかたらしてないよね。そんなとこ見られたら、あーどうしよう。そうだ!アルトさんの寝顔を見ればおあいこだ!というわけでベッドからするりと抜けだして彼の寝顔を拝見……ってそれじゃあ、あたしただの変態じゃないの。ウーーもうこの際どうにでもなれ!

自問自答を繰り返して彼の寝顔を結局眺めることにしたあたしは彼が起きないようにそーと顔を覗き込んだ。腕組みをしてやや下を向いているが寝ていてもわかるような整ったキリッとした顔に起きているときに目立つ鋭い目つきもなく、よく見るとあたしとそう変わらない歳の男の子のように見えるがどこかその風格が大人っぽさを演出している。あたしは少しドキドキしてしまった。こんなに間近で男の人の寝顔を見るのは初めてだ。今だけはなんだか、この人の一面をあたしだけが知っているような気がして顔がほころんでしまった。

この人は本当にいくつなんだろう。あたしはこの世界に囚われたときは12歳だったが、周りにはあたしと同じかそれよりも小さい子達もデスゲームの中に閉じ込められたのだ。多くの子ははじまりの街の施設にいるらしいが、あたしは強がって飛び出してきて、たまたま運良くピナと友達になれたお蔭で中層ではそこそこのプレイヤーになれた。この人はどうしてるのだろう。気になるなあ。

でも、いつまでも寝顔を見ているわけにもいかずあたしは彼の肩をゆっくりと揺すって声をかけた。

 

「アルトさん。朝ですよ、起きてください」

 

一回で彼は目を開いてあたしの方を見た。寝起きの顔はあどけなくてそのギャップにドキッとしてしまった。

 

「……悪いな……よく眠れたか?」

 

「ごめんなさい。勝手に寝たあげくベッドまで占拠しちゃって、身体いたくないですか?」

 

「この世界じゃあ、どんな体勢で寝てもありがたいことにどこも痛くならないさ。悪かったな、本当は部屋に運んでやりたかったんだが」

 

「あー、あたしの部屋開けれませんもんね」

 

「ああ、それもそうなんだが」

 

彼は苦笑しながらあたしの顔を指差した

何かついてるのかな?も、もしかしてよだれの跡がやっぱり残ってたとか!?

 

「君の幸せそうな寝顔を見て起こしたら悪いなってな」

 

よかった。よだれは付いてなかったんだ。と、ほっとしたのもつかの間あたしは重要なことに気づいて動転してしまった。

 

「あ、あたしの寝顔見たんですか!」

 

「見たよ。安眠の顔でつい見とれてしまったよ、すまない」

 

ウーーやっぱり恥ずかしいところ見られてた。

 

「そ、そんなこと言わないでくださいよ!デリカシーがありません!!……ほ、ほんとに変な顔していませんでしたか?」

 

「悪かったな、でも安心しろ。全アインクラッド寝顔選手権に出場したらまちかまいなく優勝できるぞ」

 

「それはフォローになってませんよ!」

 

朝から、どうしてひとをいじる言葉が滝のように出てくるのだろうか。しばらく問答を繰り返しているとあたしのグーーというお腹の音に彼はまたまた「恥ずかしがることはない。生理現象だ」なんて言ってまたからかわれてしまった。

そうして、朝ごはんをきっちり済ましたあたしたちは街の広場の転移門から目的の第47層へと飛んだ。のだが……

 

「こ、これって……」

 

あたしは初めて来たためここがどんな場所か知らなかった。周りには一面の花が咲いており、花壇を十字に切るようにして道があり、そこを他のプレイヤーが歩いていた。男女が並んで歩いたらとても良い雰囲気になれそうなくらいデートにはもってこいなのだろう。道行く男女は手をつないだり、腕を組んでいたりして、つまりカップルが楽しそうに談笑しながら花道を歩いているのだ。

 

「ここのテーマは花だからな、天才発明家も少しは情趣がわかるもんなんだな」

 

わりと済ました顔で語る彼は周りの人達のことなんか気にしない素振りだった。なんかこれじゃあ、慌ててしまった自分がバカみたいだ。あたしは顔の火照りを誤魔化すように、元気よく言う。

 

「さ……さあ、フィールドに行きましょう!」

 

「そうだな」

 

ゲート広場を出ても、街の目抜き路は花でいっぱいだった。彼と並んで歩いて行きながら、彼の方をちらりと見る。今日の彼は仮面をつけていない。どうして昨日はつけてたんだろう。あたしは歩きながらたずねてみた。

 

「アルトさん。昨日森でつけていた仮面、今日はないんですね」

 

すると彼は別に何でもないことのようにさらりと返答した。

 

「ああ、あれか。まあ今は必要ないからな」

 

必要ない?どういうことなのかさらに問おうとしたが

 

「あまり人のプライバシーを勘ぐるのはレディーのすることじゃないぞ」

 

はぐらかされてしまった。あたしは膨れっ面をする。

 

「でも、気になりますよ。結構奇抜でしたよ。昨日初めて会った時すごい印象だったんですよ」

 

「まあ、目立つには目立つからな。とにかく、そのうちわかるよだから、少し待っていてくれよなお嬢さん」

 

彼はわざとらしく子どもをなだめるような口調で言うので

 

「ケチです。もう知りません」

 

そう言ってズンズン彼の前を進んでいくと彼が「あっ……」と声を出した。

 

「おい、シリカ」

 

「何ですか。教えてくれる気に…………ってうわーーー‼︎」

 

目の前に一面に咲く花々の中から突然出現したのはさながら《歩く花》のようだった。茎は腕の太い人間のようだが枝分かれしていてウネウネしている。ヒマワリのような巨大な花には牙を出して変な液体をだしている口があって、ジュルジュルという音があたしのつま先から頭のてっぺんまでにゾクゾクっとした不快な寒気を走らせた。

 

「い、いやーーー‼︎」

 

モンスターは口を不気味に開けてこちらに近づいてくる。恐怖よりも気持ちが悪いもの接近にパニックをおこす。

 

「こ、こないでーーー‼︎や、やああああ!」

 

あたしは目をつむって短剣をブンブン振り回す、逃げるようにランダムに振り回しているため敵にはかすり傷も浴びせられない。

 

「やだってばーーー」

 

すると、傍にいたアルトさんがヤレヤレと言いながらこちらに近づいてくると突然剣を持たない方の手であたしの視界を塞いだ。目をつむっていた時にまぶたの裏にある光の感覚が急に遮断される。

 

「目をつむったら意味がないだろうが、一旦落ち着け」

 

言うと、あたしの体を抱えて後方に移動し草むらにあたしは下ろされた。

 

「すぐに終わらせるからちょっと待ちな」

 

すると、アルトさんが片手剣で巨大な花に向かう。瞬間、眼にも止まらぬ速さで剣が花を切り裂いていき、敵は反撃の余地もなくあっという間に青いポリゴンとなる。

 

「す、すごい」

 

彼が剣をしまってこちらを見る。

 

「このくらい、鍛錬すれば誰でもできるようになる。君でもね」

 

しかし、それでもやはり速すぎた。しかもその剣はさながら舞をしているかのような鮮やかさを表現していた。ますます不思議な人だ。

その後、数回戦闘を重ねたがほとんどは彼は手を出すことなく、あたしが危なくなりと防御のために攻撃を弾いてくれた。普段よりも高レベルのモンスターに主体的にダメージを与えて倒すため気づいたら自分のレベルが1つ上がっていた。

 

「うん、いい戦いぶりだな。もうすぐ目的地だ」

 

しばらくすると小川にかかった小さな橋があり、その先に小高い丘が見えてきた。

 

「あと一息だ」

 

「はい!」

 

あたしはゴールが見えてきたため気持ちが高揚し、元気よく返事をする。

そうしてようやく丘の頂上にたどり着いた。

 

「うわあ……!」

 

小高いそこにあるのはさながら空中の庭園であった。一面に明るい色の花が咲き誇っている。頂上の真ん中あたりには一際目立つ岩がポツンとあった。

 

「ふむ、たしかここの岩だな。シリカ」

 

「は、はい!」

 

あたしは綺麗な景色に眼を奪われていたところを我に返った。

 

「そこの岩に行ってみな、行けばわかる」

 

岩の近くに言われるがままに近づくと

その上には小さな茎があった。あたしがそれに触れようとするとみるみる茎が生命力溢れて白い花が徐々に咲き、花弁が広がっていく。すると、花弁からキラキラしたものが落とされた。手に取ってみるとネームウインドウが開いた。《プネウマの花》

 

「それがあれば君の友達は生き返るよ」

 

「ピナが……生き返る……!」

 

あたしは達成感とともに嬉しさが溢れてきた。これがあればピナはあたしの元に帰ってきてくれるんだ。

 

「ここで、生き返らせてもいいが、何しろ帰り道があるからな。一度街に戻って安全な場所でやるのがいいだろう」

 

「はい!ありがとうございます、アルトさん」

 

あたしは満面の笑みで彼に頭を下げた。

そのまま興奮冷めぬまま丘を下りていくと小川の橋にさしかかった。あたしはスキップをしながらはしを渡ろうとしたが、ふいにアルトさんがあたしの行く手を阻んだ。彼の方を見るととても真剣な眼差しで橋の向こうに生えている広葉樹を睨みつけていた。

 

「隠れ見とは趣味が悪いな。姿を現せ小鼠ども」

 

「えっ…そんな人なんて」

 

彼があたしを守るようにしてあたしの前に一歩出た。すると数本の木々から複数のプレイヤーが現れた。その中の1人を見てあたしは驚きを隠せなかった。

 

「ロザリアさん!」

 

「あらあら、ばれちゃうなんてね」

 

彼は威嚇の姿勢を変えずに厳しい口調でロザリアさんをにらんだ。

 

「あらあら、怖い顔だこと」

 

彼女は唇の片側を釣り上げて笑いながらあたしの方に視線を移した。

 

「その様子だと、《プネウマの花》を手に入れたみたいね。おめでと、シリカちゃん」

 

あたしはただならぬ様子に数歩後ずさりをする。するとロザリアの口から信じられない言葉がでてきた。

 

「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」

 

「……⁉︎な、何を言っているの……」

 

すると、あたしの前にいたアルトさんが口を開いた。

 

「そうはいかんな。ババアにいや、犯罪者にやるものはねえよ。《オレンジギルドの首領さん》」

 

彼の言葉にあたしは動揺した。

 

「そんな……でも、ロザリアさんのカーソルは緑ですよ」

 

「簡単な話だ。トップがあるパーティに入り込んで情報収集。適当なところで仲間に連絡してパーティを襲わせて金品を強奪すればいいことだ」

 

ロザリオは感心した表情でこちらを見つめた。

 

「ご名答よ。あんたがいたパーティも今日にもヤルつもりだったけどね。一番狙ってたあんたが抜けちゃうんだもの。でも、昨日盗み聞きさせて正解。レアアイテムがただで手に入るチャンスよ。その花は今が旬だから結構金になるのよね」

 

どうやら、昨日の不審者もロザリアの一味らしい。ロザリアはアルトさんの方をもう一度みる。

 

「お兄さんも変わった趣味ね。そんな子よりもあたしと組んだ方がよっぽど儲かるわよ。それともその子に昨日の夜、体で手なずけられちゃったの?」

 

あたしはロザリアの侮辱に、憤った。

怒りに任せて短剣を抜こうとすると彼がすっと腕を前に出した。

 

「ヤレヤレ、おばさんの思考は品がないねぇ。それよりもあんたに聞きたいことがあるよ首領さん」

 

「何かしら?」

 

「十日前のことだ。あるギルドが襲われてな。リーダーは命からがら助かったが、他は皆殺しだそうだ。そのリーダーさんがな38層の広場で泣きじゃくりながらこう言っていたよ『どうか仲間を殺した奴を捕まえてくれ』ってね。俺は心底同情したね。犯人を殺さずに黒鉄宮の牢獄に入れて欲しいとね。俺は真っ先に彼の依頼を聞いたよ」

 

「ふーーん。あの貧乏ギルドねぇ。あんたも立派ね。正義感にかられて人助け?ヒーローになったつもりかしら」

 

すると、彼はニヤリと笑って首を振る。

 

「別に、俺は依頼の達成なんてどうでもいいのさ。あんたらみたいなクズの情報を得るのに役立てただけだ。」

 

「はあ?あんた何がしたいの」

 

彼はニヤリとした表情を一転させる。

 

「ただ、俺は知りたいだけだ。お前らが《ラフィンコフィン》の情報を知っているかな。同業者のことは同業者がよくわかっているからな」

 

ロザリアは声を立てて笑いながら言う

 

「情報?……ぎゃははははは!!そんなことあんたは知れないよなぜなら……」

 

ロザリアの部下の男が一斉にアルトさんに襲いかかる。

 

「あんたらここで死ぬからね」

 

すると、彼も勢いよく前に走る。男たちは彼にめがけて一斉に攻撃を浴びせる。

危ない!あたしは恐ろしさのあまり目をつむってしまった。……?何かおかしい。

目を開けると男たちは顔面を蒼白にしてアルトさんの顔を見ていた。

 

「お、お、お前は……」

 

男の1人が震えながら声を絞り出す。

ロザリアも驚愕の表情でアルトさんの顔を見ている。

 

「ロザリアさん!不味いです。こいつ《仮面》ですよ!死神の犯罪者処刑人です!!」

 

「……《仮面》…………?」

 

あたしは聞きなれない単語に疑問を抱く。すると、ロザリアはそんならあたしの様子を見て、笑った。

 

「ったく、ガキは何も知らないみたいね。この男は《仮面》別名犯罪者の処刑人。あたしらオレンジギルドをたった一人で次々に壊滅させた悪魔だよ……クソっお前たち、相手は1人だよいくら《仮面》でもこの人数を相手なんかできゃしないよ」

 

その言葉に呼応して固まっていた男たちが《仮面》に斬りかかる。しかし、一瞬のうちにその攻撃はすべてかわされ、《仮面》の剣が男たちに襲いかかる。

剣は腕を切り裂き、あるいは片足を切り裂き、次々と戦闘不能に陥れていき、

最後の1人はあっけなく武器を破壊されてその場に倒れこんだ。

 

「小鼠に興味はない。サッサと消え失せろ」

 

彼は手元から多くの青い結晶石を取り出して男たちのもとに置く。

 

「黒鉄宮に転移」

 

次々と男たちから青い光が溢れて、10人の盗賊は瞬く間に姿を消した。あたしはそんな様子を橋のたもとに座り込んでしまい、呆然と見つめていた。

 

「さて、そろそろ本題に移ろうか」

 

仮面の男はドスの効いた低い声で何もできずに立ちすくむロザリアの方を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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