SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
でも、そんなのは知らなくていいことなのでしょう。
……おそろしや
「さあ、行こっかピナ!」
「キュルー!」
あたしは転移門広場を抜けてリンダースの居住区へ向かった。そこはこの世界の武器防具などを生産し、前線のプレイヤーの活躍を陰ながら支えている職人クラスのプレイヤーが多く住んでいる。あたしは石畳の道を進み、やがて水車が回転していて水が絶え間なく流れ続けている武器屋の前に着いた。看板にはアルファベットでこう記されている。《リズベット武道具店》と。あたしは入り口の階段をリズムよく開けて勢いよく店に入った。だが、肝心の人物は接客スペースには居ない。どうやら、裏の作業場で今日もトカトントンと金槌を振るっているのだろう。あたしは、接客スペースの後ろにあるドアに向かうとトントンという金属音がする、やっぱりそうだ。そして、あたしはまた勢いよくドアを開け放った。
「こんにちは!!」
「ヒャッ!!」
いきなりの訪問客にその女性は振り下ろそうとしている金槌をもって居ついてしまった。し、しまったこのままでは……
「あ……ご、ごめんなさい。また、お邪魔してしまいました?」
「シーリーカ〜?」
その女性は額に血管を浮かび上がらせてあたしのほうを鬼の形相で見ている。するとドンドンと足踏みをしながらこちらに近づくとあたしのこめかみに両手を近づけるとおしおきのグリグリが始まった。
「この前も言ったでしょうが!作業中は静かに入って来いって!あんたはもーーー!!」
「痛いです痛いです、ごめんなさい…ゆ、許してくださいリズさん!」
こめかみが、こめかみが痛いよ。抵抗ままならないままあたしはたっぷりとリズさんのおしおきをくらった。そう、この女性こそがあたしがこの世界で唯一信頼をおいている鍛冶屋のリズベットさんだ。あたしよりも年上の彼女は女性プレイヤーの少ないこの世界で幼いあたしのためにいろいろと世話を焼いてくれている姉貴肌の頼りになる人なのだ。女性でありながら、こんな立派な水車付きの武器屋を持ち、気前の良さと元気の良さから評判も上々らしい。でも、あたしが言うのもなんだけど、少し男勝りすぎじゃないのかしら。
「ほーう。まだ、おしおきがたりてないみたいね〜」
「え……な、なんでわかるんです……イタイイタイイタイ!!」
「あんたは、顔に出てるのよ。その憎らしいぐらい可愛らしいお顔にね!」
「か、かわいいなんて、リズさんの方がよっぽど美人であ、あたしあごがれちゃうな〜」
とにかくこの状況の打破にはなんとか取り繕わなければ
「び、美人……そ、そうかしらね……ってそんなお世辞あたしに通用するとでも?」
「ごめんなさい、ごめんなさい。もうしませんから許して〜」
すると、ようやくあたしはこめかみ集中攻撃から解放されて涙ぐみながらヒリヒリするこめかみを両手でさすった。くすん……
「で?なんか用があってきたんでしょ?」
リズさんは少しふてぶてしく言った。右手をさすっているので、やる方もそうとう痛いのだろう。だったらやらなければいのに。あたしはグッとこらえてリズさんに用件を伝える。
「それがですね。あたし専用の武器を作っていただきたいんです!」
すると、リズさんは目を丸くして驚いた様子だった。
「ヘえー、あんた今までは量産型で済ましていたのに。どうしたのよ、前線に出るわけでもないでしょう?」
「そ、それは……」
あたしは言葉を濁した。言っていいのだろうか。少しの間しか会っていない男の人に憧れて強くなりたくなったなんて。
「んー?」
リズさんは訝しげな目であたしのほうをじっと見ている。ま、まずい顔にでないようにしないと。
「えーと、ですね……」
「ははーん、あんた男でもできたね?」
「だから、なんでわかるんですか!ってハッ!?」
すると、しめたという顔のリズさんはわるーい顔をしてあたしのことをジロジロと見てきた。
「うんうん、あんたもようやく身の置き所っていうのがわかったんだね。変な男にひっついてばかりだから心配してたけど、よかったよかった。っで?相手は誰なの。もしかして、年上の男の人に惚れちゃった?」
次々と出てくる追及の言葉にあたしは顔が真っ赤になってしまい、あわてて否定する。
「そ、そんなのじゃありません。たしかに男の人は合っていますが、そんな、惚れたとか年上とか……あっでも年上は合ってるかも……で、でも違います!」
「わかってるよ。シリカ。あたしは見守っててやるからさ、今度一緒に連れて来なさいよ!」
も、も〜〜なんでこうなっちゃうの……
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
あたしは興奮が冷めないリズさんをなんとかなだめて今までの経緯を結局あらかた話してしまった。そうすると彼女はとりあえず武器を作ってくれるとオーダーメイドをしてくれた。彼女は短剣を本格的に注文されたのは初めてだったらしいが、「あんたのためだからね」と、心強い言葉で引き受けてくれて、あれこれと選定をするうちにお昼になってしまった。そのため、あたしはリズさんのお店兼自宅で食事をいただくことになった。献立はアンチョビサンドと軽いスナックというシンプルなものだが、彼女特製のアンチョビは美味しくてあたしはカブリついてしまった。ほどほど食事を済ますと彼女はあたしに《仮面》についての話を切り出した。
「しっかし、《仮面》ねえ〜。そんな人がいるなんてあたし知らなかったわ。これでもいろいろと情報は取り入れているつもりなのにね」
「はい、これだけ大きなことをしているはずなのにほとんど情報がないんです。」
リズさんは紅茶に口をつけながら、うーんと首を傾げた。
「おかしい話ね。たしかに攻略そのものとは無縁の話だけど、犯罪者たちが成敗されるならそれは普通のプレイヤーにとってありがたい話じゃない?あたしだってモンスターだけじゃなくてプレイヤーにも怯えなきゃいけないなんてごめんだしね」
リズさんはサバサバとした口調で言う。うーんこの人が他人たいして怯えるなんてあるのかな。逆に相手が恐れを抱いて後ずさりしそうな気が
「また、失礼なこと考えているんじゃないでしょうね。まあいいわ、それよりも問題はあんたのいうその男よ!」
えーと、どういうことなのだろう。あたしはキョトンとした顔を見せたのでリズさんはそのまま続けた。
「その男!アルトだっけ?聞いた話だとめちゃめちゃ強いんでしょ?しかも長剣使いなんてレアものよレアもの!どんなの使っていたの?」
どうやらリズさんはアルトさんの戦闘スタイルと武器に興味をお持ちになったらしい。長剣使いというのは実はこの世界では珍しいのだ。普通の剣よりも細長く、でもレイピアよりも太さはあり重量もある長剣は、戦いで大きなダメージを一撃で食らわすことも、レイピアのように高速で何連撃もできるものでもないのだ。下手な人が扱っても、剣の柄と剣先とのバランスを崩しやすく、かなりの腕前ではないと使いこなせないからだ。でも、アルトさんはこの長剣を自在に操っていた。まるで剣の舞を踊っているかのような華麗な演舞はさながら演劇のように見応えがあった。彼ほどの腕前の人が他にいるのだろうか?
「あー見てみたいわ〜。あんたもし、次に見つけたら絶対連れて来なさいよ!」
「あはは……リズさんはあいかわらず剣のことになると熱いですね」
ふふんと気分を良くした彼女はその後に秘蔵のチョコレートケーキをご馳走してくれた。「これは前払いよ!絶対に連れて来なさいよ」食べた後にそれをいうのは反則ですよ……
結局、ごちそうになってあたしは短剣の注文をし終わるとお店も忙しいだろうからお暇することにした。リズさんも玄関まであたしを見送ってくださった。すると別れ際に思う出したように彼女は呟いた。
「そういえば《仮面》の情報だけどさあ、もしかしたら鼠が知ってるかもしれないわよ」
「ねずみ?」
「あたしもあんまりしらないんだけどね。何でもこの世界で一番のやり手の情報屋らしいのよ。何でも金に糸目はつけなくてね、ぼったくられたーって人が客にいてね、まぁその人要領の悪そうな人だったしね。あとあと、情報新聞もその情報屋が発行してるらしいよ!」
その時、あたしは頭の中で何かが結合しそうな気がした。情報屋……ねずみ……ぼったくられた……
『これは、とあるボッタクリの情報屋に秘密裏に教えてもらって手に入れた特殊な転移結晶だよ。』
『また、あいつに突っ込まれそうだ……』
その瞬間彼のセリフとともに頭の中でバチバチっと電気が走った気がした。もしかしたら、その人が……
「ん?どうしたのシリカ……」
「リズさん!!!」
「えっ?な、何よいきなり」
「ありがとうございます!!」
「は、はぁー……どうしたのよ……」
リズさんは少しタジタジになりながらも最後はしっかりと調子を取り戻して
「まあ、いいわ。ちゃんとやんなさいよ!」
「はい!」
やっぱりこの人は安心できる女性だ。こんな人がお姉さんだったらいいのになぁ
でも、リズさんはあたしの耳元でこうささやいた。
「その男とうまくいったら紹介しなさいよ♪」
うーーやっぱりこの人もまたあたしをからかうのがお好きなようだ……
いかがでしょうか。
原作でもイマイチ シリカとリズがいつ出会っているのかは明確ではないためオリジナル設定でいきました。
ちなみにこの時のリズはまだ、素敵な黒の剣士に出会う前なので最大限シリカをからかっています。
次回はお久しぶりに登場、あの情報屋さんとシリカの初絡みです。
感想と評価等々、アニメ一期を鑑賞しながらお待ちしています