SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
彼は《仮面》になるということをオイラに話してくれた。
「俺は何があっても奴を止めなければいけない。だが、おそらく今のままじゃ勝てない。俺はあいつに負けた。あの時止められなかったんだ。この先、どれくらいになるかは分からないが俺はしばらく世間から姿を消す。理由は二つ。一つは奴が俺のことを探している可能性があるからだ。今のところ奴のことを知っているのは俺とアルゴお前だけだ。だが、実際の現場で奴の変貌を目撃したのは俺だけだ。狙われてるとしたらまず俺だ。二つ目に力を手に入れるためだ。少なくとも、犯罪者たちを集団で相手取る程度には強くならなけらばならない」
「……オイラに出来ることはないのか?それじゃあ全部君が抱え込むだけじゃないカ」
「二つお願いがある。一つはラフコフをはじめとした犯罪者たちの情報を流してほしい。もう一つは……」
「もう一つ?」
「俺が世間に出てきても、そのことを不自然にならない程度に隠してほしい。ようは情報操作だ」
「ふーん。でも、キミはどうやって動くつもりなんダ?言っちゃ悪いけどキミわりと目立つから顔がすぐに割れるよ」
「それは……これを使おうと思う」
彼が取り出したのは、そうあの《仮面》だった。
「それを被るのカ?」
「……少なくとも顔は割れないだろう」
「ぷっ……」
オイラはその時不謹慎ながらも笑いが抑えられなかった。だって、彼がこんな仮面をつけて出歩くんだゾ?考えただけでおかしいだろ
「……失礼な奴だな。お前の前では絶対見せんぞ」
それから彼は最後に、あるクエストについて尋ねてきた。それは改名クエスト。焼け石に水かもしれないが、万が一のためにプレイヤーネームを変えてラフコフを惑わせようという話だ。そして、話がつくと彼はオイラの前から姿を消した。すごく長かったよ。オイラに何も連絡してこないんだゾ。途中で心配になっていろいろと裏で手を回したけど、警戒心が本当に強くてね。所在地はまったく不明のままだったさ。
でも、その間に思いもよらないことが起こった。ラフコフが組織として初めて殺害事件を起こしたんだ。狙われたのは中層で狩りをしていた3人組の男のパーティでね。ちょうど狩りを終えて街に戻ろうとした時に、突然数名の男に囲まれてあっという間に青いポリゴンとなったんだ。キミも知っているだろう?アレはアインクラッド中が震撼したよ。それを機に攻略組でもラフコフに対する手を打つ動きが出たんだがな。タチの悪いことに奴らの拠点がまったく掴めなかったんだ。オイラだって依頼も受けたし何より彼との約束もあるから、徹底的に洗ったさ。でも、見つからないまま今に至るわけだ。おそらくハーちゃ……ラフコフの首領が余程頭が切れるからだろうな。結局、攻略組も動けじまいだったんだけど
その後、いよいよ彼も動き出したんだ。急に連絡が来てね「オレンジギルドの情報があったらすぐに知らせてくれ」ってな。それで、その時一番活発に動いていたオレンジギルドのことを教えたんだ。そしたら、すぐだったよ。黒鉄宮にそのオレンジギルドの奴が全員投獄されたんだ。その時の1人に会いに行ったらねこう言ったんだよ「死神が……《仮面》が……」ってうわごとのようにブツブツ言っていてね。よっぽど怖い目にあったんだろうな。オイラ、相手が悪人なのに同情しちまったよ。で、それからオイラが情報を教えて彼が征伐をするってサイクルができて、オイラは世間でほどほどに怪しまれい程度の情報を発信していたってわけだ。大衆っていうのは完全に情報が遮断されると騒ぎ出すからな。少しずつ情報を知らせた方がいいガス抜きになるんだな。別にオイラだけがこんなことしてるわけじゃないぞ。現実だってそんなもんだろ?
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アルゴさんが「ふ〜〜長話は疲れるもんだナ」と言いながら冷めきった紅茶を飲み干した。
「それだとよくわかりません。なんでアルトさんはそこまでしてラフコフを追うのかを」
「まぁ、その点は本人から聞いたほうがいいんじゃないカ?話してくれる確証はないガ」
アルゴはんはニヤリと歯を見せながらあたしの顔を眺めている。
「シリカちゃんはもしかしたら、教えてもらえるかもナ」
なんだか、すごく暖かいけれど、裏で真っ黒なこと考えているような声色でアルゴさんは言う。
「でも、あたしアルトさんの居場所がわかりません……アルゴさんも会ってないんでしょう」
するとチッチッチと人差し指を立てながらアルゴさんは愉快そうに返した。
「たしかに、最初はどこにいるのかわかんなかったけどナ〜。そこは情報屋の意地でね〜彼のホームは既に知ってるんダ。おっと、情報元は言えないゾ。オネエサンも命は狙われたくないからネ」
いったい、どんな手を使ったのだろうか。あたしはスリリングな好奇心にかられたが、それを胸の下に抑えた。
「……その場所を教えていただけますか?」
「もちろん!シリカちゃんは初回特別大サービスでノーマネーだゾ!オネエサン今日は出血大サービスで赤字覚悟だよ〜」
あたしは、まさかそんな簡単にしかもタダでおしえてもらえるとは思ってなかったが、どうやら彼女にも彼女なりの事情があるらしい。
「もしかしたら、彼も何か一歩すすめるかもしれないナ……」
独り言をボソボソとつぶやくと、アルゴさんは早速マップを開いて彼のホームの住所をあたしに耳打ちした。
「場所は第22層……森と湖で構成されるエリアの中でもほとんど知られていない森の奥でね。なんでも、特殊な視覚操作が発生して、一部のプレイヤーしか行けないようなところにあるらしいんダ」
あたしは、その詳細な位置を確認するとアルゴさんにお礼を言った。
「……何から何までありがとうございます。あたし、最近ずっと他の方々に頼ってばっかりで、なんか不甲斐ないです」
アルゴさんはあたしの肩をポンと叩く。
その目はじっとあたしの目を見据えていた。
「ふふふ〜それはみんなシリカちゃんの助けになりたいと思うからだゾ。君が真剣だからこそ、他の人もキミを助けたいって思うんだ。キミはそうやって他の人に愛されてるのさ。だから、気をもむことなんてないよ、頼る時は頼る。それが一番だゾ」
アルゴさんは「柄にもないこと言うと背中がかゆいなぁ」なんて言いながら少し顔を赤くしていた。あたしは、そんな様子をみて笑みがこぼれる。
「クスッ、なんかアルゴさんってアルトさんに似てますね」
「お、オイラが?」
「はい!優しくてとってもカッコイイですから」
アルゴさんは「んー彼はそんなに優しかったかな〜」なんて言っているが、あたしは聞こえないそぶりをする。
「ま、イイさ。頑張るんだゾ!恋する乙女♪」
あたしは、最期の最後で痛恨の一撃を食らう、昨日のリズさんに引き続いて、もう、どうしてそう見るのかなぁとあたしはタジタジになりながら、アルゴさんに別れを告げたのであった。いよいよ、彼に会える。そう思うと胸の高鳴りがする。宿のベットで横になりながら彼の顔を思い返した。鋭い目のなかにある暖かい眼差し、それに眠っている時のキレイな寝顔……ん?あ、あたしまたそんなことを⁉︎うーー、なんだが、ヤカンが沸騰したみたいに熱い……も、もう今日は寝よう。うん!
あたしは枕もとで既に夢を見ているピナにお休みとつぶやき、部屋の光を暗くする。
…………お湯の沸騰は止まったけど、まだやっぱりまだ熱は感じられた。その夜寝付けなかったのはきっと枕もとの相棒のぬくもりのせいだろう、そう言い訳をしたくなるような一夜だった。
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ここは、人が寄りつくことが少ない洞窟の奥。黒いフードを被ったそのプレイヤーは口笛を吹いてご機嫌そうだ。
「ふふふ〜、いよいよだね〜」
その側に影が二つある。
「かしら、俺たちは本当に留守番なんすか?」
「デカイ獲物なんでしょう?俺たちには何にも教えてくれないなんて水臭いじゃないですか」
『かしら』と呼ばれた黒フードはおどけたように言う。
「ダメダメ〜〜、せっかく面白くなってきたんだもん。あんたたちがいると、興ざめになっちゃうよ」
黒フードは不敵に笑みを浮かべる。フードの中のその瞳は子供のような無邪気さとともに、好奇心でアリの巣穴に水を流してアリたちを溺死させる無垢な残酷さも同時に読み取れる。
「ようやく、会えるんだね《仮面》の騎士さん♪」
そうして、黒フードは洞窟の闇となって姿を消した。
そんな集団がいるなんてことを知らずに真夜中のこの洞窟に偶然迷い込んでいた男が一人いた。どうやら、人の寄り付かないこのダンジョンを探索するためにわざと誰にも告げずに来たのだろう。もしかしたら、おもわぬレアアイテムも手に入るかもしれないという期待を胸に進む彼は異様なほどに静まり返った洞窟の奥に達した。そこにあるさっきまで人が居たような痕跡に首をかしげる。だが、気のせいだろう、と決めつけて迷わずにさらに奥へと身を消した。彼の姿も闇に消えていく。しばらく経って闇の向こうから悲壮なまでの叫び声が聴こえる。だが、その声も数秒後にはあたかも何事もなかったかのように闇の中に沈んでいく。そうして、空間は再びもとの静粛さを取り戻したのだった。翌日、第1層の生命の碑に記されていた男の名前の上に横線が引かれていたのは、洞窟の秩序にはなんら関係のないことであった。
次回、久しぶりにオリ主がちゃんと出てきます。
あと2.3話で一区切りつく予定です。
感想と評価をやはりアニメを見返しながらお待ちしています