SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜   作:トアール凡人

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9月も残り10日。夏アニメも佳境に入ってきましたね。
今クールはダークホースが勢揃いで楽しめました。秋アニメも既に見るものがありすぎて心がぴょんぴょんしています。

それでは、第2章終盤戦です、ご覧あれ。


Second section⑨〜サイカイ〜

第22層はアインクラッドの中でもっとも日常的な空間だ。全体が針葉樹の森と美しい湖で構成されている。エリア全体には木々の緑の香りが心を和ませ、遠くから聞こえてくる水の流れる音や、小鳥たちのさえずりは日常のいさかいを忘れさせてくれる。それもそのはず、この層では迷宮区や一部のダンジョンを除けばフィールド上にモンスターが現れないのだ。だから、ここは戦闘を普段しないようなプレイヤーがおおく集いながらも自然と一体となって穏やかに生活しているのだ。この辺で前置きをやめておこう。あたしは、今この森林の中に存在するアルトさんのホームに向かっていた。森林の脇にある街道を進んでいくと丸太作りのかわいらしいお家があった。それほど大きくはないが自然と一体となっているその家はどうやらプレイヤー用のホームらしいが、まだ住人はいないようだ。こんな家に住むとしたら、それは仲睦まじいカップルがぴったしだろう。じゃああたしも……ってまた変なことを考えてしまった。最近のあたしの悪い癖だ。そのまま道を進むと森に向かって道が切れているところがあった。木々の間に人が通れるくらいの獣道はあるが、普通だったらこんなところに入ろうとは思わないだろう。けれども、あたしはアルゴさんに教わった通りに森の中に進んでいった。ちょうど迷いの森で遭難していた時のことが頭に浮かんだが、今回はしっかりとした道標を知っているのだから心配はない。むしろ、ここを抜けたらあの人に会えるのだ。そう思うと足取りは軽くなる。言われた通りに進んでいくと木々を抜けて開けた場所に出た。そこは空から眺めればすっぽりと円状に木がなくなっているように視界が見渡せた。小さな池のほとりには芝生が広がっていて、池の水は太陽の光を反射してキラキラと光ってその透明度を示していた。あたしは、池のほとりにある丸太でできた、さっき見かけた家と同じくらいの規模の住居が視界にはいった。この開けた土地は他者の侵入を拒むようにひっそりと隔絶された空間であり、幻想的な静粛さがあった。でもあたしはいよいよ目的を達成する寸前まで来たことに対して興奮していた。高まる感情を抱きながら、あたしは一歩ずつ家に向かって歩んでいく。そして、ついに玄関のドアの前にたどり着いた。あたしは意を決して忘れ木目作りのドアをコンコンとノックした。すると意外にもすんなりと反応があった。

 

「誰だ?」

 

あたしはその聞き覚えのある男性の声を聞いてほっとした。

 

「突然お訪ねしてすみません。あたしです。シリカです」

 

「シリカだと⁉︎」

 

声の主は驚いた様子ですぐにドアを開け放った。あたしは目の前で驚愕した表情の彼を見て、久しぶりの出会いにますます胸が高鳴る。

 

「はい!お久しぶりですねアルトさん」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

しばらく呆然としていたアルトさんだったが、10秒くらいではっと目覚めて無言のままあたしを中に招いてくれた。リビングとキッチンがある部屋に通されると、ソファに座っているように言われたためあたしは一言入れてから腰をかけた。リビングルームはこのソファに向かって前にあるテーブルとキッチンの最低限の備え付けくらいしかなく、自然溢れる周りの環境と比べるといささか殺風景なかんじがした。なんだか、住んでいるというよりもただここに居るだけみたいだ。アルトさんは何やらお茶を入れながら誰かにメールを打っているようだ。諦めたような顔をしてメール画面を消すと湯気がたっているカップを二つ抱えてこちらに来て、あたしのテーブルを隔てた向こう側に腰をかけた。

 

「……アルゴか?」

 

「はい。……あっ、でもアルゴさんは悪くありませんよ。あたしが無理言って教えてもらったんですから。今のメールもそうなんでしょう」

 

彼はため息まじりの声でいった。

 

「まあ、あいつが何を考えているのかは知らんがな。まったく、困ったもんだな。いつものことだが」

 

彼はその口調の割には少しだけ苦笑を浮かべていてまんざらでもなさそうだった。そういえばアルゴさんとはどれくらいの付き合いなんだろう。

 

「あいつか?さあ、いつからだっただろうな。結構初めからだったような気がするけどよく覚えてないよ。あのころのことはな……」

 

あたしは、本題を切り出すことにした。

 

「あたし、アルトさんに言わなきゃいけないことがあったからここに来たんです」

 

彼は黙っている。

 

「アルトさん」

 

あたしはソファから立ち上がった。

 

「ピナのことそしてあたしのこと本当に有難うございました。この感謝は絶対に忘れません……」

 

ピナもあたしの真似をして頭を下げている。アルトさんは落ち着いた優しい語り口で言った。

 

「そこまで大層なことじゃないよ。困った時はお互い様。それに俺がやりたくてやったことだ。……まあ、こちらこそどういたしまして……」

 

少し照れながらボリボリと頬をかいている。あたしはそんな様子を見ながらさらに宣言した。

 

「あたし、アルトさんにお願いがあります」

 

「おねがい?」

 

「あたし、アルトさんに会うまでずっと強がっていました。まだ背も小さいし何もわからないし、ピナがいないとまともに戦闘もできない。でも、あなたと出会ってあたし、初めて自分のことを見つめ直すことができました。あなたの強さを見て、あたしもそうなりたいと思ったんです。だから、お願いがあります。

 

あなたの弟子にしてください!」

 

あたしは、さっきよりもさらに頭を深く下げた。彼は平静を保ったままあたしに頭を上げるように言った。彼の顔はこの前の別れの時のような悲しさを帯びていた。

 

「ダメだ。キミは俺と関わるべきじゃない。この前も言っただろう?それに、この短い間で少しはわかっただろう。俺はいつ殺されてもおかしくないし、他人からみれば悪魔みたいな存在なんだ。だから、ダメだ」

 

あたしは、それでも踏ん張って返した。

 

「それでも、それでもあなたみたいになりたいんです!お願いします……」

 

「わざわざ死に急ぐようなことをキミがする必要もないだろ。わかってくれよ」

 

彼はあたしを諭すように淡々と続ける。あたしはそれでもめげずに何度も何度もお願いした。それでも彼はちっとも首を縦に振ろうとしない。そして彼が次の言葉を言った時あたしは我慢ができなくなってしまった。

 

「そんなに、強くなりたいなら、俺が知人で実力のあるやつを紹介するからそいつの弟子になればどうだ?」

 

彼はきっと軽い気持ちで、いやあたしのワガママをなんとか叶えてあげようとしていたのだろう。でも、あたしはその一言に溜まりに溜まった感情が爆発した。

 

「パァーーン」

 

あたしは、彼の左頬を手のひらで叩いた。肌と肌がぶつかって起こった音がのこる。

 

「どうして?どうしてそんなこというんですか!あたしは……あたしは……」

 

あたしはぶるぶると肩を震えながら言った。

 

「あなたと一緒にいたいんです!」

 

あたしは「バカ」と言い残して逃げるように家を飛び出してしまった。ピナは慌ててあたしの後を追ってくる。アルトさんが何か言ったような気がしたが感情が爆発していたあたしの聴覚は正常に機能していなかった。あたしは森の中を走り去り続けた。涙目を流しながら。どのくらい走ったのだろう。気がつくとそこは森の中の街道沿いであった。辺りには人は見当たらない。あたしは涙を袖で拭うとようやく追いついたピナがオロオロしてあたしの顔を見ていた。

 

「ピナ……あたし、またバカなことしちゃった」

 

せっかく、彼に会えたのにどうしてあんな態度を取ってしまったのだろう。本当はわかっていたんだ。きっと彼は断るって。だって彼は優しいから。あたしのこと考えて、絶対に危険な目には合わせたくないんだ。そんなことわかるよ。何度も言ってたもの。でも、あたしはいやだった。どうしても、彼と一緒にいたかった。彼のもとにいれば少しは自分が変わる、そんな気がしたからだ。ああ、どうしようこれから。アルゴさんに合わせる顔ないよ。……リズさんはまあほっといていいとして。あたしは後悔と焦りの感情が同時に湧き上がってきた。でも、彼にどうやって謝れば……

 

そんなことを考えていると何かゾクッとする身ぶるいがした。あたしは、その方向を見ると1人の少女な道の向こうにいた。黒いフードを被りながらもフード自体ははずしていて、顔は見える。あたしよりもずっと年上のようなミステリアスな大人の雰囲気を醸し出しながらも、顔立ち、特にニヤリとはを出している様子はあどけない子供のように見えた。黒いフードの女性はあたしの方にちかづきなが語りかけてきた。

 

「あらあら〜どこの誰かさんに泣かされちゃったみたいだね〜。かわいそうに」

 

彼女はおどけたような喋りを続ける。

 

「こんなに可愛い子を泣かせるなんて、いったいどんなやつなんだろうね。それはそれは、大層な鋭い目つきで剣の腕が立つような少年なんだろうね〜」

 

あたしは、見事に彼の特徴を言い当てている彼女に驚きを隠せなかった。

 

「あなた……誰ですか。どうして、彼のことを……」

 

女性は「んふふ〜〜♪」と上機嫌な笑みを浮かべながら返した。

 

「それは言えないんだな。まあ〜それよりもね私は子猫ちゃん。あなたにお願いがあるのよ〜」

 

あたしは、その予測のつかないような喋りに警戒心をもった。

 

「そんなに怯えないでよ〜。お願いは一つだけ、彼のね《仮面》の居場所を教えてくれればいいのよ」

 

あたしは、さらに警戒を強める。この人、《仮面》の名前を知っている。しかも、何か企んでいる。おどけた笑顔の裏に隠されたとてつもない死神の微笑みが。あたしはごくりと唾を飲み込んで返す。

 

「知りません。彼の居場所はあたしもさがしているんです。他をあたってください」

 

この人に彼のことを教えちゃいけない。そういう直感が働いた。

 

「えー、つれないなあ〜。わざわざ嘘をついてまで隠すなんて、彼も隅に置けないね〜こんな子猫ちゃんに守られるなんてね〜」

 

彼女は笑いを浮かべながら、次にとんでもないことを言い出した。

 

「じゃあ、仕方ないね。子猫ちゃんを痛めるのは忍びないけど〜。言わない以上はこっちもやることやらないとね〜」

 

彼女はフードの奥から剣を取り出すとさやをついた。まるで遊びでもするかのような手つきであたしに言った。

 

「じゃあさ、しょうがないからこの世界から退場してもらうね♪」

 

その瞬間彼女はあたしに向かって目にも留まらぬ速さで剣を振りかざしてきた。あたし、とっさに身体を倒して間一髪で直撃をさけた。えっ?どういうこと?どうしてこの人はあたしに向かって……

 

「ありゃりゃ〜割と動きはいいみたいだね。でも、これはどうかな」

 

彼女はあたしに向かって剣で突きを何回も入れてくる。あたしはなんとか短剣を取り出してほとんど受け止められることもできずにただ、身体で避けることしかできない。すると、ピナがあたしの方へ飛んでこようとする。

 

「ダメ!こっちに来ちゃダメ!安全なところに逃げてピナ!!」

 

ピナは「きゅる……」と悲しそうな顔をしてなかなか聞き入れようとしない。そんな間も彼女は笑いながらあたしに向かって切りつけつづけていく。あたしは声を振り絞ってピナに叫ぶ。

 

「言うことを聞きなさい!あっちに行って!!」

 

強い言葉でもってようやくピナは聞き入れて森の方に飛んでいった。よかった、これでピナを死なせずに済んだ。

 

「うふふ〜、勇敢な竜よりも自分のことを心配した方がいいよ〜」

 

あいもかわらぬ笑顔のまま切りつけ続けてくる彼女の攻撃をあたしは必死で食い止めるが、徐々に徐々に体力が削られている。直撃を受けていないが、減るスピードがはやい。このままでは……

 

 

「考えている暇はないよ〜ほらっ、そこだ!」

 

あたしは、わずかにできた隙を見透かされて一撃をくらいそうになったが、避け方が悪くあたしは大木の根元に足を引っ掛けて倒れてしまった。そのはずみで短剣を落としてしまった。彼女は剣の先をあたしの鼻先に向けてニヤリと笑う。

 

「さあ!最後のお願いだよ〜彼の居場所を教えて♪そうすれば殺さないであげるから〜〜」

 

あたしは、まったく人を脅かすようなつもりには思えないようなその喋り方に恐怖を抱いた。この人は笑顔を崩さずにあたしに語りかけてくる。最初から一貫して楽しそうなのだ。それが、恐ろしい。普通じゃないよ……こんなの……

でも、あたしは絶対に口を割らない。

 

「あなたには絶対に教えません」

 

強く言い放った。すると彼女はわざとらしく肩を落としてヤレヤレと手を振った。

 

「うーーん。ここまで強情な子はなかなかいないな〜面白いね〜、でも残念だな〜もう会えないなんて」

 

彼女は剣をあたしの頭上に振りかぶる。ああ、この剣が下された時あたしはこの世界から消えてしまうのだろう。おかしいなこんなことちょっと前にもあったのに。また同じこと繰り返しちゃった。こうやって追い詰められて木の根元で何もできないまま死ぬのをまつなんて…アルトさん……ごめんなさい。せっかく助けてくれたのに、あたしもう今回はダメです。ごめんなさい、ごめなさい……

 

「覚悟が決まっているね〜本当に面白い子猫ちゃんだね〜」

 

 

 

瞬間、剣が振り下ろされる。

 

 

 

「さよなら♪」

 

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