SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
「さよなら♪」
その声と同時に剣が振り下ろされる。あたしはそれを呆然と見つめる。その時、横からもう一つの剣があたしの目の前に現れて振り下ろされた彼女と剣がキーンと音を立てて止まった。
「せっかく助けた女の子にまた危機が迫るなんてとんだご時世だな。まぁ、じゃじゃ馬娘に災難はつきものってことだな」
仮面で顔を隠しているけれどあたしにとって特別な響きであるその声は聞き間違えようのない唯一無二のもの
「んふふ〜〜♪まさか、直々に来てくれるなんて思ってもなかったよ〜」
振り下ろした太刀を止められたことにまったく動揺の色もみせない彼女は最高の笑顔で彼の顔を見ている。あたかもその仮面の下を見透かしているかのように。
「シリカ、いい友人をもっているな。羨ましい限りだ」
そう言うと、《仮面》は剣を持たない手の人差し指を斜め上方に指した。
「キューーーーー!!」
そこにはピナがこちらに応答して空中を飛行していた。
「な、なんで……」
「ああ、森をさまよっていた竜の鳴き声が聞こえてな。その方向にいたら彼がいたんだ。それでここに連れて来てもらったってとこだ。おかげで間に合ったみたいだな。感謝するよ。勇敢なドラゴンナイトさん」
「きゅる?キュルルーー!」
ピナが誇らしげに返事を返した。すると急に《仮面》はあたしを片手で抱きかかえた。あたしはいきなり身体の操作がきかなくなって驚きを隠せない。
「おやおや?そんな状態じゃあ〜当ててくださいってことになっちゃうよ〜」
笑みを浮かべながら彼女の刃が再びあたしに向けて迫ってくる。すると彼はあたしを抱えたまま、後方にとんだ。飛んだとしか表現できないのだ。そのジャンプであたしは少し離れた場所に降り立った。
「しばらく、ここでジッとしててくれ」
言うと、彼は再び女に向かっていく。二人の不思議な剣士が森の街道を挟んで対峙している。一方は不敵な笑みを浮かべて、もう一方は感情そのものを仮面の下に隠して。
「ふふふ……久しぶりだね〜《仮面》の騎士さん♪顔をちゃんと見してくれないなんて水臭いじゃないの〜〜」
「黙れ。殺人ギルド《ラフィンコフィン》の首領、お前を黒鉄宮の牢獄に送る。そんなやつに見せる価値などない」
ラフィンコフィン!あの女性はあのラフコフの親玉なの?どうしてそんな人がこんなところに……それに久しぶりってどういうこと?
「そんな固いこと言わないでよ〜。まっ、そっちがその気なら私もやるだけだけどね〜」
言うや否や、親玉は目にも止まらぬスピードで《仮面》に斬りかかる。彼はそれを剣で受け止めながらも、隙を見て反撃をする。女が男の右脇腹に斬りかかると男はそれを剣で受け流しつつ次の瞬間には女の胸に剣を差し込むがそれは紙一重でかわされる。そんな攻防がまるで早送りの劇をみているかのように、華麗に演舞されている。この二人の動きは剣の舞を踊っているかのような軽やかさとそこにある強い意志、それは殺意の意志とともに純粋な戦闘の意志とが混ざり合っている。こんな動きは初めてだ。両者ともにあたかもお互いがつぎに何を仕掛けてくるのか、それをどうやって収めればようのかがわかっているかのように次から次へと、攻撃と防御の応酬が続く。
「ふふふ……腕を上げたね〜〜あの時よりもね♪」
「こちとら、洞窟に引きこもっているやつとは違って朝から晩まで外にいるんだ。引きこもりの下衆に劣ったら示しがつかねえよ」
「さすがだね〜やっぱり面白い……」
すると、親玉は攻撃を受け流しながら同時に後方に飛び跳ねて、彼との距離をとる。彼もすぐさま接近しようとするがピタリと動きがとまった。
「やっかいなものだな」
「Great!近づかないのは正解だよ。これがあるからね〜」
彼女は黒いフードからガサゴソと何か光るものを取り出す。
「最近手に入った、毒針でね〜。君が近づいたらあのかわいい女の子に当てるところだったなのに〜。君が絶妙な場所で止まっているから、ここからじゃあ、当てられないなあ〜」
よく位置を見るとあたしと女を結ぶ直線上の真ん中に《仮面》は剣を構えて立ち止まっていた。もしかして、それで攻撃をやめて……
「アルトさん……」
あたしの声を遮るような愉快な声が響いた。
「キミがそこまで子猫ちゃんを守るなんてワケありみたいだね〜。私気になっちゃうなぁ〜。でも、今日はここまで。楽しみをとっとくのは1番嫌だけど仕方ないね〜。あの子も来てるみたいだし……」
そう言うと、ミステリアスな女性は青い結晶を取り出した。彼女が呟くと青い光が身体の周りを包む。
「また、いつか会えるかもね〜。《仮面》いや、レット……。子猫ちゃんもまたね〜♪」
けたたましい笑い声と共に彼女は光に包まれて消えてしまった。どうやら転移結晶でどこかに移動したようだ。あたしは、ようやく緊張から解放されてその場に崩れてしまった。彼が仮面を外して、じっと青い光が消えた、さっきまで彼女がいた場所を見つめている。
「あれは、本当に何を考えているかわからん。それだけは変わらないな」
そう、呟くと彼はあたしの方を向いて話しかけてた。
「何はともあれ、無事でよかった。ラフコフに遭遇して無事に帰ってこれた者は今のところ誰もいないからな」
淡々と、話すと彼は急に気まづそうな顔をした。あたしキョトンとして首をかしげた。
「アルトさん?どうされたんですか……」
「シリカ!」
「は、はい!」
アルトさんが急にあたしの名前を呼んだので思わす返事をしてしまった。すると彼は真剣な顔であたしの方へ近づいてそして、
「すまなかった」
あたまのてっぺんが見えるくらい顔を下げた。あたしは突然のことに慌てふためく。
「えっ……ど、どうしたんですか?やめてください。頭を上げてください」
「いや、謝らせてくれ。その……さっき、心ないこと言ってしまったから……撤回させてほしい」
あたしはふわっと『さっき』のことを思い出した。
『そんなに、強くなりたいなら、俺が知人で実力のあるやつを紹介するからそいつの弟子になればどうだ?』
そ、そういえば、あたしがとびだしてきたのってアルトさんにこのセリフを言われてつい、カッとなって……
「強くなりたいと望む子に、あんな軽いこと言ってしまうなんて、バカなことだ。本当に悪かった…」
「い、いえ、やめてください。あたしも感情をぶつけてしまって……アルトさんは悪くないですよ。だ、だからお願いだから頭を…」
彼は気付いた地べたに頭をつけていた。いわゆる土下座状態だ。あたしはなんとか顔を上げてもらおうと必死にあれこれと釈明をして、ようやく彼は頭を上げてくれた……
「そこまで頭を下げる人見たことがありません!」
「紳士たるもの、仁義を貫いて誠意を見せるべきだろ?」
「いつの時代の日本男児ですか!」
「ホームズみたいな紳士を目指している」
「ホームズは英国紳士ですよ!」
天然なのかどうなのかわからないが、どうもこの人のもつ人物像はわけがわからない。
「まあー、アルトも大概わけわからない男だかなナー。苦労するぞシリカちゃんも」
突然後ろの方から声がした。振り返れば、ついこないだ知り合った情報屋のお姉さんがケラケラと笑っていた。
「ア、アルゴさん、いつのまに!」
「んー?アルトの謝罪シーンからだゾ」
「結構、前からいたんじゃないですか!」
すると、アルトさんも鼠のほうを見つめて面倒くさそうな顔をしている。
「あーアルゴか、久しぶりだな」
「顔を合わせてなくてどのくらいだっケ?」
「さあ?」
この人たち、たしか1年くらいは顔をあわせていないんだよね?どうしてこんなに軽いんだろう……アルゴさんは呆れ顔のあたしの顔を見るとニヤリと笑った。何を考えているのだろう?
「さてさて、シリカちゃん。大変な目にあったみたいだナ。残念ながらラフコフの頭に顔を覚えられたようだし、このままじゃ、奴らにいつ狙われてもおかしくないナ」
あたしは、ゾッとする。そうだ、よく考えるとあたし、あの殺人ギルドの親玉に顔を覚えられたんだ。子猫ちゃんって言ってたけど、もしかして名前も……アルトさんは不味そうな表情をしている。
「ちっ、厄介なことになった。このままじゃシリカが危険だ……」
アルトさん……あたしのことを…
「まあまあ、オイラに一つ名案があるんダ!ラフコフ目をつけられてもシリカちゃんが安全にかつ、シリカちゃんが満足な暮らせる方法がナ!」
あたしとアルトさんは目を合わせると、はりきった声の持ち主の顔を見つめる。
「シリカちゃんが、アルトと同居するんダ!」
次回で第2章は一区切り。
この章が終わるとようやく、まともに原作のダブル花形を出せます。(なげーよ)
このまま、突っ走れるかどうか心配ですが、読者のみなさんの暖かい支援の中、執筆を続けられています。
感謝を忘れず、なんとか更新を続けていきたいです。
感想とご評価をお待ちしています。