SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜   作:トアール凡人

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話の都合ですが、
『心の温度』のストーリーが終わり
リズはキリトと既に出会ったことにしています。



幕間③〜鍛冶屋とまみえて仮面は笑う【後編】〜

 

 

リズはシリカの連絡を受けて一旦作業場を離れて店の方へ行き、店番をしながら来客を待っていた。店番というのは手持ち無沙汰になるが、最近は物思いにふけることが多くなった。

 

「キリトとアスナか……二人ともくっつきそうでなかなかくっつかないわね」

 

自分が恋した相手が親友の思いの寄せる男性だった。普通ならここで修羅場になるのがラブコメの定石だが、彼女はなんとなく身を引いてしまった。だってアスナには幸せになってもらいたい。でも、キリトと過ごしたあの雪山での一夜を思い返すと友情と恋慕という矛盾した感情芽生えてしまう。リズは両手で頭を抱えた。

 

「ああーーー!!もう、どうしろっていうのよ!」

 

彼女はどうもすっきりしないため、気分転換をしようと、店に並べられている商品を移動させたり、店の中をウロウロとしていた。それでも、モヤモヤした感じが消えそうな気配はない。リズは何とか他のことを考えて気を紛らわそうとした。

 

「そういえば、シリカの言っていた人はいつ来るんだろ。まさか、迷っていたりして……」

 

この店はかなり目立つが、世の中には方向音痴というツワモノがいる。リズは少し心配になって店のドア先に出てみることにした。すると、扉の先に彼女よりも一回り背が高く、灰色のポンチョを身にまとったプレイヤーが立っていた。別段変わったところはない。顔が《仮面》でわからないことを除けば……

 

「えっ……」

 

リズは予想もしなかった目の前の光景に開いた口がふさがらなかった。すると、《仮面》は口を開いた。

 

「おーしまった。いつもの癖でつけっぱなしだったな。これは失敬」

 

声からするに男の人なのだろうと分かると、意外なほどおどけたしゃべりにリズは少し安心した。男は仮面をはずすと、少し居心地が悪そうだった。

 

「よくわかんないけど、あなた見ない顔ね」

 

リズはそんな彼の様子を見かねて口を開く。

 

「ああ、ここがリズベット武道具店なんだろ。ということはあんたがリズさんか」

 

この男は初対面のくせになぜ自分の愛称を知っているのだろうと、一瞬疑問を抱いたが、他の誰かに聞いたのだろうと思い咎めることもなかった。

 

「あなた、何か用があるの?」

 

「そうだな……うーーーん、せっかくだから店の物でも見せてもらおうかな。腕の良さは聞いているぞ」

 

「あっ、そう。じゃあ入ってよ」

 

リズはサバサバとした口調で男を店の中に招いた。男は店の中に入ると興味深そうに陳列されている剣を眺めて手にとって感心しながらまた、別の剣をとったりを繰り返していた。

 

「熱心ね、何か気に入った物ある?」

 

男があまりにも夢中になっているため、リズは少しうれしかった。しかし、その返事はあっけないものだった。

 

「うーーん、悪いけどコレっていうのがないな、他にないの?」

 

男が淡々というので、リズは少しイラっとした。だが、初対面のお客にキレるのはさすがに失礼だと思いとどまり、

 

「ふ、ふーん、じゃあコレはどう?」

 

リズは最近手に入ったレア素材で作った自信作の剣を男に見せた。鋼色の刃の磨きがかかっている剣を男はチラリと眺めて手にとったが、すぐに置いて

 

「いい剣だけど、違うな」

 

ここでリズはあんまりにも無情な一言に怒りを抑えきれなくなった。だが、それでも必死に耐え忍ぼうとする。そんな彼女の様子を見てさすがに男も馬鹿ではなかった。

 

「わ、わるい……別にバカにしてるわけじゃないんだ。俺がいつも使う種類のがないからつい……」

 

「……わかったわ。あんたの望む剣がここにはないと。そう言いたいわけね」

 

「いや、そんなことでは……」

 

「そうでしょうが!なんなのよ、図々しく押しかけたあげく、『違うな』って、失礼じゃない!」

 

男は「店に入れたのはそっちのような」と小声で呟くものの、リズの鋭いにらみに口を閉じた。すると、男も観念したらしい。

 

「わかった、俺が悪かった。……じゃあこうしよう。俺が望む剣のイメージを言うから、キミがそれを作ってくれないか?素材なら俺もあるし、キミの腕の高さは聞いているからさ」

 

男はタジタジながらもなんとかリズの機嫌をとろうとする。リズはまだ不機嫌だったがオーダーとなれば腕が鳴る。

 

「そうね、それが一番いいわ。あなたの望む剣、つくってあげるわよ!」

 

「たすかります」

 

「あなた、なんていうの?名前聞いてなかったわね」

 

男はアルトと名乗った。リズは何か頭に引っかかる気がしたが、それどころじゃなかったため、深くは考えなかった。

 

「ご注文は?」

 

「うさぎですか?」

 

リズはギロッとアルトを睨む。冗談が通じないほど機嫌が悪かったとは思っていなかった。

 

「……長剣、そうだな、バスタードソードなんかいいなぁー」

 

「珍しいわね。長剣なんて使いこなすやつなんていたんだ」

 

そう言うと、リズはきびしを返して作業場に向かおうとする。

 

「ついてきて、素材はそっちがもつんでしょう」

 

「もうやってくれるのか?」

 

「そうよ、今日は特別なお客さんが来る日なの。あたしも仕事は後に回したくないわ」

 

それはたいそう熱心なことだと、アルトは感心しながら彼女の後をついていった。そうして、素材を渡された彼女は炉で熱してそれを溶かすと、すぐにハンマー打つ。本当の鍛冶では熱して叩いて冷やすの工程を何度も繰り返して強い剣を生み出すのだが、この世界ではその作業は簡略化されているのだ。カーンコーンとハンマーを叩く音が部屋に響く。アルトは真剣な眼差しで剣に向かっているリズの姿をみて、やはりシリカの言う通り良い鍛冶職人なんだなぁ と、しみじみと感じていた。ベタな言い方だが、モノに魂を入れ込んでいるようなそんな強い気迫がするのだ。ひしひしと空気を通して伝わってくる。その一方で彼はジャムの蓋がきっちりと閉じずに微妙にずれてはまっているかのような違和感をわずかながらも感じていた。しばらくすると、ハンマーを下ろす音が止み、金属は剣に変化していった。

 

「できたわ。名は《サリエル》……なんだか仰々しいわね」

 

アルトは苦笑していた。

 

「聖書でいえば、堕天使を導くものだからな。神に忠実でありながら、おそれを抱かれる、さながら死神みたいだな……面白い」

 

アルトはリズから渡された剣を手に取るとその場で感触を確かめる。長さ、重さ、質感、なにより剣からにじみ出てくるものが自分の生き方と共鳴しているように思えた。リズはためらいながらも彼に使い心地をたずねる。

 

「どう、かな?」

 

「花マルだな」

 

「なんか小学生みたいね」

 

「最高だね」

 

「最初からそう言え!」

 

どうもこの男は人を小馬鹿にしたような態度でいちいちリズの神経をつついてくる。男は満足そうな顔をしている。

 

「いい仕事をしてもらったよ、お代は?」

 

「お金?あーどうしようかなー。素材はあんたもちだし、あたしも好きでやっちゃったからね……」

 

リズは感情に任せてハンマーを振るっていたため、この小生意気な男をようやくウンと言わせてなんだか風呂上がりのような気分だった。しかし、男は困ったような顔をする。

 

「いや、こんなに良いもの作ってもらったんだ。ちゃんとそれに見合う対価を出さないとシリカに怒られてしまうよ」

 

「別に良いのよ……ってシリカ!?」

 

いきなり出てきたその固有名詞にリズは反射的に反応してしまった。

 

「ああ、そういえば、よろしく伝えて欲しいって言われてたな。シリカ来れなくて残念そうにしてたぞ」

 

「そうじゃないわよ!あんたがシリカの言ってた『知り合い』の人なの!?」

 

「そうだが?知り合いというのは少し傷つくなぁ」

 

ひょうひょうと言うアルトに対して、驚きを隠せないリズ。まさか、シリカの言ってたのが男の人だなんて。ん?オトコ……

 

「もしかしてあなたが《仮面》なの?」

 

「そうだぞ、ほれ」

 

アルトは例の仮面を取り出して見してみせる。なるほど、勘違いというのは怖いものだ。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「そうかつまり、キミは架空の客人を待っていたのだな」

 

「そうね……」

 

アルトは愉快そうにしているが、リズはきまりが悪そうにため息をつく。

 

「まあ、間違いは誰にでもあることだ、気にするな」

 

「気にするなと言われて、気にしなくなる人がいたら世の中困らないわよ」

 

リズはげんなりとしていたが、ふいに何かを思いつくとニヤリとして、アルトに話を切り出した。

 

「そ・う・い・え・ば、あなた、シリカと一緒に住んでいるのよね」

 

「ああ、事情があってな」

 

「それでもよ!女の子と同棲でしょ。あんたあの子のことどう思っているの」

 

アルトは眉をピクリとも動かさずに返答した。

 

「真剣に剣の鍛錬に取り組む真面目な子だし、友達思いな優しい子だよ。あ、あと料理が絶品だ、特に朝作るオムレツがすごく美味いんだな」

 

リズは変化球を投げられてズッコケた。この男、わざとやっているのだろうか。

 

「そうじゃなくて……いや、いいわ」

 

リズはなんとなく他人の男女の仲に首を突っ込んだことに後ろめたさを感じた。

なんとなく、自分のことと重なってしまったのだ。

 

「なんだか、聞いていたのと違うなぁ」

 

アルトは静かな声で言う。リズは首をかしげた。

 

「シリカがなこう言ってたんだ。『リズさんはいつも本当に明るくて元気な方なんです。それで、剣を作るときは本当にすごくて、あたし間近でその姿を見ていたら思わず見惚れちゃいました。一心不乱っていうくらい剣にかける思いが強くって、あたし、そんなリズさんにすごくあこがれているんです』ってな」

 

「シリカ……そんなことを……」

 

リズは恥ずかしさと嬉しさがごちゃごちゃになったような心地がした。彼は穏やかに続ける。

 

「でも、今日のキミを見ていると、なんていったらいいんだろう。こう、ここに心有らずって時があってね。初めて会ったばかりなのにこんなこと言っちゃおかしいけど、らしくない?って感じがしたんだ」

 

らしくない、か。リズは自分でも気づいていないうちにそれが表に出ていたんだなと実感した。

 

「あたし、どうすればいいんだろう、自分でもわかんないんだ……」

 

リズは苦々しい顔で言う。

 

「俺はキミが何に悩んでいるのかを聞くほど図々しい神経はもっていない、けど、もしキミが悩んでいるのなら、俺はひとつだけ言える」

 

彼は遠くを見つめているような感じだった。どこか自分の過去を思い返すようなそんな感じだった。

 

「世の中って気づいた時にはもうどうしようもない時があるんだよな。その時にはどうしてこんなことになったんだってわけがわかんなくなるんだよ。けど、後でゆっくり考えれば分かるんだ……どこかで変わるチャンスがあったんだって、最悪の結末を迎えるルートから外れる選択肢は何回もあったんだ。でも、それができなかった。だから……だから……こんなことに……」

 

リズは彼が何か心の奥にぬぐいきれないような深いものを抱えているような、そんな気がした。それは簡単には取り戻せないような。

 

「リズベット、だからこれだけは言える。やって後悔するよりも、やらなくて、自分で勝手に限界をつくって、それでもう二度と手に入らないような、そんな後悔だけはしないでほしい」

 

(やらないで後悔するよりも、やって後悔か……あたしは勝手に納得してたのかな。親友のことを思っているように自分をとりつくろって、見たくないものから目を背けてたのかな……あたしの本当の気持ち……)リズは自分の中で問答を続ける。そんな姿を見てアルトは優しく微笑む。

 

「それでいい。キミにはまだ時間はあるから」

 

時間がある、か。リズは彼のその柔らかい語りを聞いていると、絡まった糸をほどくキッカケを、それは完璧な答えではないけれど、一筋の出口の光が見えるようなものをつかんだ、そんな気がした。

 

「そうね。でも、いつまでもウジウジ悩んでいられないわ。だってあたしは『リズベット』なんだもの」

 

リズはその日で一番明るい笑顔をみせた。その笑顔を見て、アルトは安心するとともに、ほんのわずかだけドキッとした。これがきっとシリカの言う『リズさん』なんだな、そう思った。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「それが、《サリエル》ですか!なんかすごいですね!」

 

今日、オーダメイドで完成したばかりの長剣を見せると、シリカは目をキラキラさせてはしゃいだ。

 

「さすが、リズさんですね」

 

「ああ、シリカの言ってた通りの素敵なな女性だったよ」

 

アルトは一つだけ嘘をついた。リズが今抱えている悩みのことを。もちろん、彼はその内容までは知らない。そんなことを聞くほどの親交を深めるのはもっと時間が経ってからだ。でも、きっと、リズが自分でシリカに打ち明けるときも来るだろう。そのときまではシリカにとって『理想のおねえさん』ってことにしておくのもいいはずだ。シリカの笑顔をみているとなぜだかそうしたくなった。ゆっくりとお茶でも飲んで気長に待っているのが紳士ではなかろうか。彼には彼のやらなければならないことがあるから。たとえ、もうどうしようもないことでも、彼にしかできないことだから。シリカが今日あったことを楽しそうに聞きながら彼はそう感じていた。……あ、そういえば

 

「そういえば、リズが言ってたぞ、キミに伝えて欲しいって」

 

「なんですか?」

 

「『ちゃんとやりなさいよ』ってな」

 

アルトはなんでもないようにさらりと伝言を伝えた。するとシリカは瞬間にヤカンのお湯を沸かせるほど顔を真っ赤にして取り乱した。

 

「……も、もうリズさんはなんてことを!!どうして、それをアルトさんに伝えさせるんですか〜!!」

 

あわわわと慌てふためくシリカの姿をアルトは健気な子供を見守るような暖かい目で見ていた。彼女の慌てる姿、頑張る姿、笑う姿、それらを見ていると彼は心の奥底のしこりを忘れて、穏やかになれる。でも、彼だって困っているんだ。『ちゃんとやれ』の意味がわからないほど鈍感ではないのだから。彼は顔を少し右に向けて、何でもないようにシリカが飾った小さな置物を眺めた。シリカから見てちょうど死角になる彼の右耳は平常運転の左耳とは対照的に真っ赤に染まっていた。もちろん、それをシリカが知るよしはないのだけれども。

 

 

 

 




次回からは新章に入ります。

キリト「俺の出番は……」

もちろんあるぞ!

アスナ「……」

も、もちろんですよ。ありますから

アスナ「メインヒロインなのに……」

感想と評価おまちしています。
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