SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜   作:トアール凡人

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さあ、原作主人公のお出ましだ!

第3章はじまりはじまり……


Third section〜キリトは困惑する〜

第59層、現在攻略の最前線であるその層の主街区から少し離れた洞窟、といっても村の郊外にあるためモンスターが現れることもない。内部には50人くらいは集まれるような広い空間がある。現在ここでは最前線攻略のための会議が行われている。俺は会議の中心から少し外れて、壁に背をもたれてその様子を眺めていた。ソロプレイヤーである俺はどうも積極的に発言するのははばかられるからだ。今攻略を統率している女性プレイヤーと馬が合わないのも原因だが。

 

「フィールドボスを村に引き入れます」

 

女性のよく通るが、威圧感のある声が洞窟内に響き渡り、それを聞いてざわめきが起こる。おいおい、それはさすがにないんじゃないか副団長さん。

 

「ボスが村のNPCに気を取られているうちに、一斉に叩く。これが今回の作戦です」

 

「待て、それじゃあNPCがボスに殺されるじゃないか、彼らだって……」

 

「生きている、とでも?」

 

たしかに、NPCはあくまでもこの世界にとっては設定、ものと変わらない。死んだとしても、すぐに何事もなかったかのように活動を再開する。

 

「だけど、それは見過ごせない」

 

「あなたは、再生産のきく実態のないものと、一度命を失えば二度と元に戻らないプレイヤー、どちらが大事なの?」

 

「……それはもちろんプレイヤーが優先だ、しかし」

 

「まあ、待て待て、キリトもアスナも落ち着け」

 

ひときわ目立つ頭体で日本人離れした外見の大男が二人のやりとりをみかねて、止めに入る。エギルにはよく俺と副団長様の揉め事を仲裁してもらっている。ほんと、もうしわけないぜ。副団長は煮え切らない感じだが、この件はまた次回に回すと言い、もう一件の話題を切り出した。

 

「直接攻略には関係はありませんが、これからの我々の活動のために必要なことと判断しました」

 

そう言って、彼女は一枚の新聞記事を取り出した。それは鼠の情報屋が発行しているもので、おそらくこの世界で最も流通している情報新聞だ。

 

「これはこの層、すなわち前回の攻略が完了したことを知らせた記事です。しかし、私が言いたいのはここではありません」

 

言うと、彼女は攻略達成の見出し記事の左下にポツンと書かれている記事に指をさした。

 

『《仮面》の活躍によりオレンジギルド《赤頭巾の狼》壊滅、《仮面》がこれまでに破滅に追い込んだオレンジギルドは20に上った』

 

実にあっさりとした内容ながら、本当なら見過ごせいものだ。俺も新聞には目を通しているので知っていたが、大抵の人は見出し記事に目がいってこの小さな記事を読もうとはしないだろう。まるで、意図して伝える気がないような、そんな気もする。すると、それを読んだ1人の攻略組のプレイヤーが発言した。

 

「だけど、仮面なんて迷信だろ?見た奴なんて聞いたことないぞ」

 

他のプレイヤーも同調する。それに対して、副団長様、アスナは冷淡な口調で言う。

 

「迷信。たしかに私もずっとそう思っていました。なぜなら、1人のプレイヤーがギルドを壊滅に追い込むなんてことは非現実的。それに、この《仮面》というプレイヤーを目撃したものはいないんです」

 

けれど、とアスナは続けた。

 

「牢獄にいる元オレンジギルドのプレイヤーを除いて……」

 

その発言に動揺が走りざわめきがおこった。元犯罪者たちが《仮面》を見ただと?それってつまり……

 

「私たちは見事にはぐらかされていたんです。大多数の人間は、そもそも《仮面》のことを知っていながら、その実態を信じていなかった。一部の人間も疑問に思いながらも、それ以上追及しない。巧みなまでにプレイヤーが《仮面》について知ろうとしないように、でも決して不自然ではないように、情報が操作されていたんです。私はまさかと思い第1層の牢獄に行ってきました。驚きました、どの元犯罪者も《仮面》のことを口にするんです。盲点でした、一度牢獄に入ればもう世間に出て悪事はできない。だから、普通だったら、牢獄に入った犯罪者に接触しようとも思わない」

 

アスナは、一呼吸おいて結論を言う。

 

「《仮面》という恐ろしい力を秘めたプレイヤーは存在する可能性は極めて高い、だから私はこの《仮面》を攻略組に引き込むことを提案します」

 

《仮面》がいる?そんなこと……いや、でも聡明な副団長様がここまで言うからには……本当にそんなプレイヤーが

 

「アスナ、仮にその《仮面》が見つかったとしても攻略組に加わる確証は?」

 

「ありません」

 

言い切ったな〜、俺はさらに続けた。

 

「じゃあ、《仮面》はそもそも攻略に参加する気がないんじゃないか?力のあるプレイヤー全員が攻略に参加しようとするわけじゃないだろ?あのレッドギルドの連中がそうであるように……」

 

「常に単独行動を繰り返し、集団行動を乱すようなプレイヤーもいますからね、仕方がないかもしれません」

 

手厳しいな。それって名前だしていないだけで、まさしく俺のことじゃないですか。これは一本取られた。

 

「いや、別に……そういうわけじゃ……」

 

なんとか弁明をしようとするも、ギロっと睨むその鋭い目つきに俺は言葉をそれ以上出せなかった。

 

「とにかく、《仮面》についての調査をすることは必要です。オレンジギルドを狙って壊滅に追い込むその行動動機も気になりますが、レッドギルドの活動もより勢いが増す中で対処が迫っているんです。私からは以上です。他に発言者はいますか?…………いないようです、本日は解散します」

 

散会が宣言されたことで、攻略組の面々はずらずらと洞窟から消えていく。アスナは他の主要ギルドの幹部と何か協議をしている。さて、集団行動を乱すソロプレイヤーはこそこそと退散させてもらいますかな。そう思って洞窟の外に出ると、見覚えのある顔がそこにあった。

 

「よう、今日も揉めたな」

 

エギルが俺の肩をポンと叩く。俺は少しため息をついて語った。

 

「ああ、副団長様には目をつけられているからな。怖いもんだ」

 

「さすが《血盟騎士団》のNo.2だけあるな、彼女も」

 

エギルが感心したような口調で言う。そりゃあ、あんなに優秀なリーダーがいたら攻略もはかどるもんだ。《攻略の鬼》なんて呼ばれるほどだ、恐ろしく出世したもんだな。俺は攻略初期はアスナとコンビを組んでいたものの、いろいろあって彼女はトップギルドの副団長にまで上り、かたや俺は細々とソロで活動しているのだ。

 

「ソロプレイヤーがいつもLA《ラストアタックボーナス》をかっさらうからな。お前を羨む奴も多い。だが、あの副団長様はそうじゃないと俺は思うけどな」

 

どうだかね?もしかしたら本当に嫌われたのかもしれないぞ俺は。……それはちょっと寂しいが。

 

「しかし、最後の《仮面》の話、気がかりだな。あの新聞、たしかアルゴが責任者だろ。キリト、お前あいつと仲がいいんだから何か聞いてないのか?」

 

「別に、仲がいいわけじゃないぞ。むしろお得意様として金をむしりとられているだけだ」

 

「はっはっは、それもそうだな」

 

エギルは高笑いをした。おいおい、笑い事じゃないんだぞ。いったいいくらあの鼠に貢いだと思ってるんだ。うーん、勘定したくもない……

 

「《仮面》か、たしかに調べる価値はありそうだな」

 

「そうだな、まぁ、お前とアスナに任せとけばなんとかなるだろう」

 

「その根拠はどこから来るんだよ……」

 

そういうやりとりをしてエギルと別れた俺は、すぐさまメールを使って情報屋さんに連絡を取った。《仮面》について教えてくれ情報料ははずむと早打ちすると、1分もしないうちに返信が来た。俺はあまりの速さに驚きつつもメールを開く。するとそこには思いもよらないことが記されていた。

 

『残念ながら、教えられないんだナ〜。キー坊には悪いけど、オネエサンにも事情ってのがあるんダ』

 

おいおい、それは反則だろ。俺はその文面に苦笑いしながら、自分でやるしかないかと一念発起した。今日のところは宿に戻るか。俺はそう呟くと1人寂しく、主街区に戻っていった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「転移、黒鉄宮の牢獄」

 

青い光とともにオレンジカーソルのプレイヤーがまた1人消えた。残ったのはリーダー格の男1人だけだった。その男は、目の前の光景が信じられなかった。20人いたプレイヤーがことごとく《仮面》の手によって牢獄送りされたのだ。リーダーは慌てふためいて青い結晶石を取り出した。

 

「ちっ、小鼠がちょこまかと……」

 

《仮面》は舌打ちをする。ここからリーダーとの距離が広く、このままでは逃げられてしまう。

 

「へっへっ……し、死神なんかに捕まってたまるかよ!」

 

リーダーは「転移」と言ってまさに《仮面》の魔の手から逃れようとしたが、そうはいかなかった。

 

「させませんよ」

 

リーダーの後ろからしたもう1人の女の《仮面》の声がすると同時に、男の手から結晶石が剣で飛ばされた。

 

「うそだろ……二人いるなんて聞いてないぞ……」

 

「影分身の術ってとこか?まあ残念だったな」

 

リーダーはその場に崩れ落ち、女の《仮面》が彼を牢獄に送り込む。その場にはもう二人以外のプレイヤーは残っていない。

 

「初陣にしては上出来だな。でも、油断大敵だぞ」

 

男は仮面を外しながら言う。それと同時に女もまた《仮面》を顔から外して、誇らしげな顔をする。あどけないながらも凛とした風格がみられるその女の子は、鋭い目つきの少年に力強く答える。

 

「はい!がんばります、アルトさん!」

 

「その名前……戦闘中に出すなよ、バレると厄介なんだから」

 

「ああ、そうでしたね……うーん、じゃあどう呼べばいいんでしょうか?」

 

たしかに、二人となると連携をとるうえで名前が呼べないのは不便だ。アルトはうーんと悩む。

 

「そうだな、俺が《仮面A》、シリカが《仮面B》というのはどうだ」

 

「ドラ○エみたいですね……もっと呼びやすいのにしましょうよ」

 

アルトのボケに冷静に突っ込むシリカだったが、しばらく頭をひねっていると、パァと明るい表情になった。

 

「じゃあ、あたしが《S》で、アルトさんが《α》なんてどうですか?それぞれの頭文字で」

 

「シリカのSと、アルトのα(アルファー)か。単純だな」

 

「A.Bよりはひねっています!」

 

「まあ、そういうことにしておくか……」

 

それで合意した彼らは剣を収めて帰途につく。

 

「やれやれ、腹が減ったな……」

 

アルトは右手をお腹にあてながら呟く。すると、その言葉を聞き逃さなかったシリカはそんな彼の様子をみてニコニコしながら言った。

 

「今日はパエリアですよ!魚介類が手に入りましたので」

 

「それはいいな。楽しみだ」

 

「はい♪」

 

さっきまで犯罪者たちを絶望に陥れていた当事者とは思えないような、軽い二人のやりとりは、さながら休日の公園を一緒に歩くような調子だった。

 

この日、二つのニュースが犯罪者たちの間に伝わった。一つは《仮面》によって大規模なオレンジギルドがまた一つ壊滅したこと。もう一つは《仮面》が二人組になったというもので、どちらも犯罪者たちの恐怖を募らせるには十分すぎるものであったことはまちがいないだろう。当然、翌日の新聞にもそのニュースは掲載されたものの、それはやはり左下側のこじんまりとしたスペースにお情けのように載せられているにすぎなかった。

 




パエリアってオシャレな響きがしますよね
私はどうしても、貝とかをいちいち殻からとって
食べるのが面倒なんですが……

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