SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜   作:トアール凡人

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Third section④〜正体不明〜

 

そして、翌日俺とアスナは57層ーそこはカインズが惨死を遂げた広場があるところだがーのある宿屋に、現青龍連合の幹部のシュミットを連れて向かっていた。

シュミットはどうも落ちつかない様相で歩いているときもキョロキョロしていた。そのせいだろう、前からやってきたプレイヤーと彼の身体がぶつかってしまった。屈強な身体のシュミットだが、どうしてか彼の方がよろけてしまった。相手の灰色のフードをかぶった性別不明のプレイヤーは彼を一瞥すると何も言わず、かわりに俺たちの方をじっと見ていた。

 

「……何か?」

 

アスナが警戒して威嚇の言葉を発した。フードは左手をアゴに当てて何か考えごとを始めた。すると、フードは何も言わずに、納得したような素振りでその場を去った。

 

「変なやつもいるもんだな」

 

「あなたも十分、変人よ……」

 

「これはまた厳しいな」

 

呆然としている、シュミットに声をかけ、再び歩き始めた俺たちは5分もしない内に目的地に到達した。

俺は、宿に着くとヨルコさんが滞在している部屋にまっすぐ向かう。ドアをノックして自分であることを告げるとドアカギのロックが解除された。俺はドアをを開けると、部屋の中央のソファーに彼女が腰かけていた。彼女の後ろの窓は開け放たれて、髪が風に揺られていた。俺たちは彼女に薦められて対面するような形で席に着いた。シュミットはなおも落ちつかない様子だった。

 

「……久しぶり、シュミット」

 

「……ああ。もう2度と会わないと思っていたけどな」

 

ヨルコが薄く微笑むのと対照的に、シュミットはその屈強な体に似合わずか細い声を出した。

 

「でも、すごいね攻略組の中でもトップギルドにいるなんて」

 

その言葉にシュミットは眉間に険しさを増した。

 

「どういう、意味だ。不自然だとでも?」

 

「まさか。ギルド解散後に、すごく頑張ったんでしょう。私とカインズは挫けちゃったけど」

 

ヨルコは微笑みの表情を変えていない。

だが、本心では逆なのだろう。この前会ったときよりも今日の彼女の装備は充実したものだった。防御力をここまで高めているということは、やはり不安を感じているのだろう。

 

「俺のことはどうでもいい!ききたいのはカインズのことだ」

 

急に身を乗り出してシュミットは続ける。

 

「どうして、今になってカインズが殺されたんだ!あいつが……やつが、指輪を奪ったのか」

 

ヨルコは首をふる。

 

「そんなことない、私たちはカインズを含めてリーダーを尊敬していたわ、指輪の売却に反対したのだって、ギルドの戦力に有効活用すべきと思ったからだわ、リーダーだって……そうしたかったはずだわ」

 

「じゃあ、なんでだ!グリムロック……やつはどうして今頃になって……指輪売却反対だった俺たちを皆殺しにするつもりなのか?」

 

シュミットの顔には明確な恐怖の表情が読み取れた。

 

「まだ、グリムロックさんが殺したと決まったわけじゃないわ、それに……」

 

彼女は虚ろな視線をソファーの前のテーブルにおとした。

 

「リーダー自身の復讐なのかもしれないでしょ?普通のプレイヤーには絶対に圏内で人を殺すことはできないのだもの」

 

「な……」

 

信じられないような言葉にシュミットは口をパクパクさせて喘ぐ。俺も彼女の言葉にゾッとしてしまった。

ヨルコさんは音もなく立ち上がると、俺たちにかおをみせたまま、南の窓に向かってゆっくり後ろ歩きをしながら、悲痛な声で言った。

 

「私、ゆうべ、寝ないで考えたの。結局のところリーダーを殺したのはメンバー全員なのよ!指輪がドロップしたとき、投票なんてしないでリーダーに任せればよかったのよ。ただ、一人グリムロックさんだけはリーダーに任せるといったわ。だから彼には私たちに復讐するけんりがあるのよ」

 

ヨルコさんは窓枠に腰かけた。外から吹く冷たい風が不気味なほどに彼女の髪を揺らす。シュミットは顔面を蒼白にして、ポツポツと呟いた

 

「……冗談じゃない、今更……半年も経ってから、どうして、今更……」

 

がばっと、上体を上げてヨルコさんに向かって叫ぶ。

 

「お前はそれでいいのかよ、ヨルコ!」

 

その瞬間、ドスッ、という音が響き、同時にヨルコさんの目と口が見開かれた。彼女なよろけながら、外の方に振り返る。その時、一際強い風が吹いて、彼女の身にまとっていた羽織が舞った。その時、俺は信じられない光景を見た。彼女の背中には棒のような、尖ったものが刺さっていたのだ。すると、ヨルコさんはぐらっと体を揺らして、窓の外へと傾いていく。

 

「あっ……」

 

アスナが思わず声を漏らした。俺は飛び出して、彼女の体を引き戻そうとするが、間に合わなかった。彼女の体は宿の二階からまっすぐ、その下の路地にユラユラと落下し、ドサっという鈍い音が外に響く。彼女の体を青いエフェクトが包み、同時にヨルコさんの身体は青いポリゴンとなった。彼女に刺さっていたダガーナイフだけが路上に残されていた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

ありえない!俺は目の前で再び起こったプレイヤーの死に混乱していた。だが、はっと気づいて、二階の窓から外の方を眺める。すると、道を挟んだ向こう側の建物の屋根に黒いローブをまとったプレイヤーがこちらをうかがっていた。あいつが犯人なのか

 

「アスナ、シュミットを頼む」

 

言うや早いか、俺は窓から向こうの屋根に飛ぶ。アスナが

 

「ダメ、キリトくん!」

 

と叫んだが、構うことなく、突っ走る。黒のローブが屋根を伝って走り去るのを、俺は屋根から屋根に飛びながら追う。さながら、義経の三段跳びのようであるが、今はそんな悠長なことを言ってられない。あともう少しで追いつきそうになったとき、ローブが走りながらふところから青いものを取りだした。しまった、転移するつもりなのか。俺はなんとか追いつこうとするが、奴のいる屋根に飛び移る間に逃げられてしまう。くそっ。……と、思ったときだった。

突然俺の側方から、灰色のフードをかぶった二人組のプレイヤーが飛び出してきたのだ。片方の背が高い方が瞬く間に、逃げようとするローブの前に立つと、それに合わせて、もう片方のフードが鋭いものを投げてローブの結晶を弾き落とした。だが、俺は突然のそんな事態よりも驚くべきことがあった。その二人組はフードを被って頭を隠しているだけでなく、《仮面》をかぶっていたのだ。

 

「さて、お顔を拝見」

 

背の高い、男の《仮面》は当惑している黒いローブの顔を下から覗き込む。俺は、あいつが何かするのではないかと思ったが、確認すると彼は納得したような素振りで笑った。

 

「ほおー。なるほどね……《S》。結晶を拾ってやってくれ」

 

「わかりました《α》さん」

 

《S》と呼ばれた《仮面》は声のトーンから女であるとわかった。彼女は結晶を拾い上げると黒のローブに手渡した。

ローブは何が起こったのかわからなかったようだが、はっと我に返って何か呟くと青いエフェクトに包まれて消えてしまった。

って、しまった!なんで、立ち尽くして居たんだ俺は!てっきり、《仮面》がやつを捕まえてくれると、内心思っていたのだろうか。だが、奴は予想に反したことをした。俺は低い声で《α》とよばれた男を睨みながら言った。

 

「……おい、どうして、逃した」

 

男は静かに返す。

 

「……逃して何か問題でも?」

 

「ふざけるな!奴は、圏内PKの犯人なんだ。逃がしていいわけあるか」

 

俺は怒りな任せて言うが、彼はただ淡々と言った。

 

「……黒の剣士さん。あなたは、もうこの件から手を引け。これは警告だ、賢明な男は引き際が大切だよ」

 

その瞬間、彼ともう一人の女はふところから青い結晶を取りだした。

 

「まて、逃げる気か《仮面》!」

 

俺は奴を止めようと、走り出したが追いつけなかった。華麗なまでの動きで、隣の屋根に飛び移った《仮面》は最後にこう呟いた。

 

「さようなら、キー坊さん……」

 

どうしてその名前を……ん?このやり取り何かデジャブが……

俺は当惑しながら、さっきまで2つの影があった場所をじっと見つめていた。夜を告げる教会の鐘の音が鳴り響く。日が沈んだ街の屋根の上にはポツンと一人だけのプレイヤーが立ち尽くしていた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「アルトさん、どうしてにがしちゃったんですか?」

 

転移先に着いた、シリカはフードをとりながら尋ねた。その場の状況で、言われるがままにしてしまったが、理解していなかったのだ。

 

「ああ、この事件は脅威でもなんでもないからな」

 

「どういうことですか?」

 

「まあ、説明しよう……でもな、シリカ」

 

アルトは一息ついて彼女の瞳をまっすぐ見つめた。たしかに、事件そのものは、もう心配はない。だが……

 

「ひとつだけ気がかりだ……」

 

 

 

 

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