SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
圏内事件終了です!
真夜中の孤立した墓前の周りで対峙するプレイヤーたち。黒の剣士に閃光、倒れこんでいる上位ギルド幹部、《仮面》の少女。男はじっとラフコフの首領に焦点を当てていた。こちら側は4人、あっちは2人、形勢は十分有利だ。
口を先に開いたのはPOHだった。
「これは豪華すぎるね〜、夕食食べていなかったけどお腹いっぱいだよ〜」
彼女にとっては不利な状況もまた滑稽なことなのだろう。そんな戯言に対してアルトは静かに返した。
「あまり食べ過ぎると腹壊すぞ。ごちそうは今日のところはお預けにしたらどうだ?」
「あたし、我慢できないタイプなんだよね〜知ってるでしょ?」
「さあな……覚えていないな」
「つれないな〜」
キリトは違和感を感じていた。明らかに両者ともに警戒しているはずなのに、会話の内容に緊張感がみられない。
愉快そうな女は剣を収めると残念そうに言った。
「でも仕方ないね〜今日のところは巻いた方がいいかも」
「カシラ、依頼はどうするんですか……」
「あんな男の依頼、受ける気はサラサラないよ〜。あんな弱っちいのやっても面白くないし、先に帰ってていいよ〜」
すると、ザザは倒れたメンバーに近づき、解毒剤を打つと、足元がおぼつかない二人に檄を入れ、先に闇の中に消えていった。
一人だけ残されても余裕の表情を変えないのは、自信の表れかそれとも何も考えいないのか、キリトは理解できなかった。
ニヤリと笑みを浮かべながら、その場を立ち去ろうとする間際でPOHは少女の仮面の方を見て言った。
「子猫ちゃんも強くなったね〜。お姉さんビックリだよ。また、会えるといいね♪」
シリカは何も返さずその場に立っていた。前会ったときのように何もできない自分でないのだと、無言でそれを示した。それを見て、ウンウンとうなずきながら、懐から何か取り出すとそれをシリカに投げ渡す。
「おねえさんからの餞別だよ、たぶん近くにいるから連れて来るんだったら、はやくするといいよ〜♪」
そう言うと彼女はクスクス言いながら小走りで闇の中に消えていった。シリカは受け取ったそのメモのようなくちゃくちゃ丸められた紙切れを開くと
「αさん、しばらく席を外します」
「……あいつ何を考えてんだ…………よろしく頼む」
シリカはうなずくと慌てて紙を見ながら走り去っていった。
その姿を見届けると今まで黙っていたアスナが口を開いた。
「……あなたたちいったい何者なの?」
「まあまあ、そんな怖い顔しないでくれ。そうだな、それよりもやることがあるんじゃないか?」
《仮面》はキリトに目を向けた。退避していたカインズ、ヨルコも現場に戻ってきた。ここいらで事件の真相とやらを主人公に説明してもらおうじゃないか。
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少し前、俺はアスナに事件は終わったことを話していた。その席で話題になったこと、それは「結婚」についてだった。
この世界では「結婚」をすると夫婦のアイテムストレージは共有となる。では離婚したときにはどうなるかというと、複雑なアイテムの割り当てのシステムがあるのだが、そのとき俺はゾクッとした。
「あっ……」
俺はガタンと椅子を蹴倒して倒し、アスナの両肩を掴んだ。
「ちょっ…………な、何よ……」
「自分の取り分が百、相手ゼロ、そうなる離婚の仕方がある」
「……えっ?」
「死別だ、結婚相手が死んだとき、グリセルダが殺されたとき、彼女のアイテムは結婚相手のグリムロックに残る可能性がある」
アスナは戸惑いの色をだしながらも不意に深く考え込んだ。
「指輪は……奪われていなかった?」
「いや、そうじゃない。グリムロックは奪ったんだ」
それがこの黄金ギルドの一連の事件の核心だったのだ。
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「なあ、ヨルコさん。あんたたちはこの事件に使った武器をどこで手に入れたんだ?」
「今回の計画で必要だったのは貫通力が強い特殊なものでした。私たちはいろいろな武器屋さんを回りましたが思ったようなものが手に入らず、止むを得ず鍛治職人でもあったグリムロックさんに依頼しました」
やはりそうだったのか。
「グリムロックさんは反対しました。でも、何度もお願いをして何とか作成を承諾してくださいました」
俺は頭の脳細胞が一気につながった感触になった。グリムロックが反対したのはおおごとになって、結婚によるアイテムストレージのトリックがバレるのを恐れたからだろう。それに、シュミットは何者かの指示に従った結果、大金を手にした。その大金を用意するためにも指輪の売却は必要不可欠だったはずだ。
「グリムロックが……あいつがグリセルダを殺した張本人だっていうのか?」
シュミットの震えた声に対して俺は首を横に振った。おそらく、彼自身は汚れ仕事をしなかっただろう。その時に殺害を依頼したツテがあって
「ラフコフに依頼して君たち三人を抹殺。そうすれば、事件の真相は闇の中に葬られるはずだった」
「そんな……どうして……」
ヨルコさんの顔が蒼白になって崩れ落ちる。そんな彼女を片眼に俺は一つだけ引っかかった。どうしてグリムロックはグリセルダを殺したのか。不謹慎だが、ミステリーにおいて読者が最も気になるのは犯行のトリックではなく犯人の動機だ。どうして殺人という手段を選ばざるを得なくなったのか。
そんな俺の疑問を察したかのように《仮面α》は口を開いた。
「その答えは、本人尋問で明らかになるよ」
どういうことだ?
そのとき、闇の中から少女の声がした。
「αさん、連れてきました」
その声の方向を見ると二つの影が見えた。先ほど席を外した《仮面》の少女が剣を下げながらこちらに歩いてきた。鋭い剣先にはまるで英国紳士のような正装に身を固めつばの広い帽子をつけた男がいた。彼のかけている眼鏡のレンズが闇の中でギラリと光っていて、独特の哀愁漂う雰囲気を出していた。
「グリムロックさん!」
ヨルコさんが思わず声を漏らした。
「やあ、久しぶりだね」
すると、ヨルコさんは問い詰めるような強い口調で訪ねた。
「どうして……どうして、奥さんを殺してまで指輪を売ってお金にする必要があったの?」
「……金?カネだって?」
グリムロックは、くっと笑って俺たち全員を一瞥して言った。
「金のためではない。私は彼女を殺さなければならなかった。私の妻であるうちに……彼女は現実世界でも私の妻だった!」
その場にどよめきが起こる。
「彼女は変わってしまった。デスゲームに囚われて怯えていたのは私だけだった。それなのに彼女は穏やかだったあの頃のおもかげをなくして、勇敢に、充実した姿を見せていたよ。ギルドのリーダーにもなって優れた統率力でみんなを引っ張る彼女の姿に、私は恐れた……このままでは彼女は私を置いていってどこかに行ってしまう。あの頃の彼女は、私の妻は消えてしまうと……」
「だから、殺したのか?」
「十分すぎる動機だよ。気をつけたほうがいいよ、キミもいずれわかるだろう探偵君」
俺はなぜか言い返せなかった。大事な人が変わってしまうのを怖がったことに明確に反論できなかった
「いいえ、間違っているのはあなたよ、グリムロックさん」
俺に代わってアスナが反論をした。
彼女は毅然とした態度でもって静かに告げた。
「あなたがグリセルダさんに抱いていたのは、ただの所有欲よ」
その言葉にグリムロックは肩を震わせて地面に崩れた。その姿を見て、シュミットが口を開いた。
「この男の処遇は俺たちに任せてくれないか……殺しはしない。ただ、必ず罪は償わせる」
俺は小さく頷いた。シュミットはグリムロックの右肩を掴んで立たせると、屈強な体で彼を支えながらその場を去っていった。カインズさんとヨルコさんもそれに続いた。ヨルコさんは「ありがとうございました」と、悲しげな表情をしながら声をかけてシュミットを追った。
彼らの姿が見えなくなったとき、現場には俺とアスナ、そして《仮面》二人組が残った。すると、男が口を開いた。
「今日のところはここまでにして、また後日に会わないか?俺たちも少し疲れた」
「ああ、それがいいかもな」
仮面はうなずきながら、その場を去ろうとしたが、やや不満気なアスナの表情を読み取って声をかけた。
「副団長さん……あまり眉間にシワをよせると肌によくないですよ」
な、なんて失礼なことを!だが、それに反応したのは《仮面》の少女のほうだった。彼女はアスナの代行者のごとく、男の右足を鋭く踏みつけた。
「いたい!!!」
「アスナさん、ごめんなさい。この人本当にデリカシーがなくて……後できっちり制裁を与えておきますから……」
少女は男の首根っこを掴むと、引きずるようにしてその場を去っていった。
唖然とした表情のアスナだったが、不意に我に返ってヤレヤレと呆れ顔だった。
しばらくして、アスナは静かに語り出した。
「……ねえ、キリト君、もしきみなら、仮に誰かと結婚した後になって、相手の知らない一面を知ったときどう思う?」
俺は突然の質問に驚いたが、思った通りに素直に答えた。
「うーん、そうだなぁ……ラッキだったって思うかな」
「えっ……?」
「だって、結婚したんだったらそれまでの相手の面は好きなんだろう?それで新しい一面を知ったらもっとその人のことを好きになれて……に、二倍に好きになれる、だろ?」
アスナは口を開いて驚いた様子だったが、途端にクスッと笑みをこぼした。
「ふうん、変なの」
「へ、変か?」
「ええ……まあ、いいわ。なんだかお腹すいちゃったわ、さっきも食べ損ねちゃったし、一緒にどう?」
「それはいいな……」
そのとき、歩き出そうとしたアスナが不意に俺の肩を掴んで後ろを指差した。その方向を見ると、幻覚だろうか、凛としたたたずまいの美しい女性がグリセルダさんの墓前の前に立っていた。彼女の強い、剣士の目に俺は答えた
「あなたの意思は、俺たちが引き継ぎます」
「だから、見守っていてください。グリセルダさん……」
暗かった墓の周りにはもう新しい光が差し込んできていたのであった。
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「不思議なこともおこるもんだな」
「ええ、信じられません」
少し離れたところから彼ら二人の様子を垣間見ていた俺たちだったが、貴重な体験をしてしまった。
「でも、アルトさん、さっきの発言は容認できませんよ!」
「わ、わるかったって。いいアドバイスだと思ったんだが……」
「逆効果ですよ!……まったく」
シリカは呆れ顔のままスタスタと歩き出した。
「あのーシリカさん?俺、ちょっと小腹が空いて……」
「バカな人にあげる食事はありませんよ」
「……ご、ごめんなさい」
彼が今日の朝食にありつけたかは知るよしもない。