SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
鍛治職人リズベット
彼女は多くのトッププレイヤーから厚い信頼を寄せる鍛治の腕を持つ。彼女が店主を兼ねる武道具店には毎日さらなる高性能の剣を求めて、名のあるプレイヤーが募る。
我々取材班は今回、初めて彼女への1日密着取材が許された。
彼女の職人としての顔、そして1人の少女としての素顔に迫る!!
〜〜ープロフェッショ○ル〜〜〜
ジョブの流儀
夜明け前、まだ日が昇る前から彼女は動き出す。リンダースにある、リズベット武道具店。中から金属が打ち付けられる音が鳴り響く。
ーおはようございます。
「あら、おはよう!今日はよろしくね」
ーいつもこんなに早くから?
「えぇ、朝一番から来客があるから」
そう話しながらも、職人は右手にもったハンマーを振りかざす。
ー火はたいていませんね?
「全部、強度補強の依頼よ」
ずらりと並べられた多種多様な剣、スタッフも数え切れないほどだった。
彼女の朝はいつも、プレイヤーたちが慣れ親しんでいる剣を打ち、もう一度戦闘で生まれ変わるために、丹精を込めて打ち直す。これは番組が調べたことだが、彼女が打った剣は、他のものよりも強度が長持ちするという評判だ。システム的には解明されていないが、職人の腕によって差が生まれる。彼女はその中でも秀でているのだ。
「よし!とりあえず今日はここまで」
一つ一つの作業を丁寧に行うため、1本の剣を打ち直すのにも時間がかかる。
ーまだかなり残ってますね。
「うん、でもお客さんの形見を預かっているんだから、手は抜けないわ」
そう言う彼女の真剣な顔には、まさに職人としての心構えが読み取れる。
作業場から店の方へ移動すると、店主はすぐさま陳列されている商品をチェックしていた。
「ちゃんと準備してお客さんを迎えるのよ」
店内を見た彼女は時計の針を見る。
そろそろ開店の時間だ。
店主は店の外にでた。外はすっかり明るい。新鮮な空気を吸い込む。
「うん!今日もがんばろう」
こうしてリズベット武道具店の1日は始まっていくのだった。
今日最初の客が来店した。
「いらっしゃいませ……あら、クラインじゃないの」
「オーース、預かってもらった俺の刀をもらいに来たぜー」
「はいはい、出来てるわよ、ちょっと待って…………はい!」
「うーす、ありがとさん……」
そう言うと、彼は店を去った……
「ってオイオイ、せっかくだから俺も写してくれよ!フッフッフッ、攻略組先鋭部隊、風林火山のリーダーとはこの俺クラ……」
(番組の都合によりCMに入ります)
午前中も続々とやってくるプレイヤーたちにたいして、店主は笑顔を絶やさずに接客を行う。
「ありがとうございました!」
ようやく峠を過ぎて、一時的に客がいなくなった。だが、彼女は休む間も無く、すぐさま工場に戻り、火を焚くと、新しい鉄を取りだしてハンマーを用意した。
「こういう時間に新しい剣を作らないとね。日々の鍛錬は怠らないわ」
彼女は鉄を火の中に入れジッと火を見つめる。熱せられて高温になり、真っ赤に火花を散らした鉄を絶妙なタイミングで取り出すと、すぐさまハンマーで打ち付けた。リズベットは鋼を打つときに一つの信念をもっている。
「なんだろうね、別にどんな打ち方してもシステム的にどうこうあるってわけじゃないのよ。でも、だからこそ、あたしは、一つ一つにちゃんと気持ちこめてやりたいの」
数回の金属音を後に、鋼は光を放ちながら変形していき、今また新しい剣が生まれた。刃の鋼は洗練された光を放ちスタッフも思わず見とれてしまった。
ー出来はどうですか?
「……まだまだだわ、もっとできるはずだから」
どうやら職人は出来に不満足なようだ。
チャラン
店の戸が開く音がする。
「さあ、行かなくちゃ!」
そう言って、急いで片付けをし始めた。
ー店番をNPCに任せたりはしないのですか?
「時々はしょうがないけど、ちゃんもお客さんと向き合ってやりたいの」
店の方に戻ると待っていたのはあのアインクラッドトップクラスの美女であり、攻略組筆頭こと閃光のアスナであった。
スタッフはサインをいただきたい衝動を必死にこらえて、取材を続けた。
「リズ、コレを打ち直して欲しいんだけど……あら?珍しいお客さんね」
「今日だけ密着なのよ、ってこの前直したばかりじゃない。はりきるのはいいけど、無理しちゃダメよ」
アスナからリズベットへレイピアが渡された。耐久度は過酷な戦闘により、下がっているのが目に見えた。
「すぐ必要?」
「うん、明日がボス攻略なんだ、お願いできる?」
「まかせてよ!親友の頼みだもの」
「ありがとう、リズ」
リズベットが作業をしている間にスタッフはアスナに質問をさせてもらった。
ーリズベットさんとは親交が深いみたいですね。
「そうね、親友と思っているわ」
ー彼女の一番の長所とは?
「剣にかける真剣さ、かしら。リズの一番いいところはいつでも笑顔なところよ、普段はあまり見せないけど、やっぱり女の子だもの。私もいつも元気をもらってるわ」
リズベットについて語るアスナの表情は普段の攻略におけるイメージとは異なり、柔らかい優しいものであった。リズベットとの深い絆が我々に伝わってきた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
午後になり、鍛治職人の姿は鉱山にあった。このエリアは良質な素材をドロップできる岩型モンスターが出現する。
「さあ、今日こそレア素材を手に入れるわよ!」
リズベットは今日1番の笑顔で探索に乗り出した。
「おい、ちょっと待ってくれ」
「何よ、キリト。水差すんじゃないわよ」
「いや、どうして俺が付き合わされてるんだよ!」
先ほどから、叫んでいる男は、攻略組のトッププレイヤーの中で唯一ソロ活動をしている黒の剣士ことキリトだ。
「アスナから言われたのよ、『キリト君はおサボりが好きみたいだから遠慮なくこき使って』ってね」
「アスナ〜〜この前のこと根に持っていたのか……」
用心棒とともにリズベットは鉱山の奥に進む。その道中でモンスターも現れる。
「キリト!こいつよ、レア素材を落とすのは。さぁやって頂戴」
「丸投げかよ!少しは援護くらい……っうおおおーーー!!」
突然トリケラトプスのようなゴツいモンスターが炎のブレスを吐いた。間一髪でキリトはかわした。チッ……
「スタッフさん!どうして今舌打ちしたのって、うわっ危なっ!!」
そうだモンスターよ、そのままこの好色男を焼き払ってしまえ、こんのリア充野郎が!
「それ絶対、私的な感情で言ってるよな!」
「何やってんのよキリト、シャキっとしなさい」
「俺への風当たり強くね!?」
そう言いながらも、キリトは敵を倒してしまった。
「あー落とさなかったわね……」
「まぁ、まだ一体だろ、何度もやればドロップするだろ」
「そうね!じゃあ次も頼むわよ」
「……」
(3時間後)
「うおおおおおーーー」
「とりゃ!!」
通算で127体目のトリケラトプスを倒すと、ようやく職人の求めた素材がドロップした。
「やったーーー!!」
「俺の苦労が報われたーー!」
二人はハイタッチをして喜びあう。
ーすごい長丁場でしたね
「ええ、でも手に入ってよかったわ、
キリト」
リズベットはキリトの名前を呼ぶと、トコトコと彼の顔の前に立った。
「ありがとう♪」
「バタンっ」
ディレクターが後ろで卒倒した音がした。我々スタッフも一瞬天に昇るほどの
乙女の笑顔がそこにあった。
「ああ、どういたしまして、結構楽しかったぜ」
そんな中で一人だけ平然としているこの男はいったいどんな神経をしているのだろうか。すると、リズベットは突然もじもじとしだした。
「キリト……その、もしよかったら、また一緒に……狩りに付き合ってくれる?」
「ああ、もちろんだ」
「本当に!……フッフッフッ、今度は火山に行きたいのよね」
「また大変そうなところだな」
「難所を乗り越えてこそ、最高のものは生まれるのよ」
「ははは…………ん?あーーしまった」
キリトは時計の針が5時を過ぎたのを見て焦り始めた。
「す、すまんリズ、今から人と会うんだ」
「へええ、じゃあ急いだ方がいいんじゃないの?」
「ああ、『アスナ』は時間に厳しいからな」
その時、リズベットの顔が一瞬だけ凍りついた。それでもすぐに元の顔に戻った。
「……そ、そう。ダメじゃないの!女の子を待たせるなんて!ほらっ、サッサと行った行った」
「でも、帰り道は大丈夫なのか?」
「平気よ、これでも安全マージンはとってるしね」
「そうか、じゃあなリズ」
「じゃあね……」
さわやかに別れを告げたキリトは焦りながら走り去っていった。
1人ポツンと立つ職人。
スタッフはその様子をみて思わず、聞いてしまいそうになった。
ーリズベットさん……もしかして……
「さっ!あたしたちも帰りましょうか。夜の仕事もまだ残ってるし、レア素材も手に入ったから、腕がなるわ!」
そうキビキビと言い放ち、ズンズンと帰路につく彼女の後を、スタッフは黙って追うことしかできなかった。
彼女は乙女であるとともに、鍛治職人である。きっとその意識が彼女が自分を見失わずに、突き進む、笑顔の原動力なのであろう。
1日の取材が終わり、スタッフが現場を離れてからも、夜遅くまで水車のある作業場からは、金属音が鳴り響いていた。
鍛治職人リズベット。
彼女はトッププレイヤーの信頼を得て、多様な人々から信望を寄せられる理由はあきらかだろう。そして、彼女の乙女としての生き方も我々は短い取材期間の中で垣間見得ることができた。
最後に我々は1つの質問をさせてもらった。
ーリズベットさんにとってプロフェッショナルとは?
「それは、『あたし』かな。あたしがあたしであること、それが答えかしら」
最後まで我々は頭が上がらなかった。
ーーーーーーーーーー了ーーーーー
「すごいですね!リズさん、カッコよかったです」
「そ、そうかしら、照れるわね」
「でもあれだな、やっぱり映像でみると綺麗になるんだな」
「ア、アルトさん……」
「え?」
「つまり、普段のあたしは綺麗じゃないと?」
「いやそんな風に言ったわけでは!!」
「問答無用!!!」
「ギャアーーーーー!!」
「はぁ、相変わらずですねアルトさんも……そういえば、暴れるリズさんは写ってなかったですね」
「おい…スタッフ……こいつの本性…」
「うりゃぁ!」
ごきっ!!
「ふーーーっ!さてと、今日も張り切っていくわよ!」
リズ成分を出し切った!!
さて、次回からは真面目にやりましょう。
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