SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜   作:トアール凡人

40 / 58
Fourth section②〜標的〜

 

「クラインが襲われただと!!」

 

「ああ、そうダヨ」

 

アルゴからその一報を聞いた俺は疑問が生じた。犯人は女性を狙っていたんじゃないか、と。

 

「キー坊、ひとまず本人に話を聞いた方がはやいとおもうゾ」

 

「……ああ、そうだな」

 

俺たちはすぐに風林火山(クラインのギルド)のホームに向かった。

 

「クライン、どういう状況だったのか教えてくれるか」

 

「……キリト。俺もギルドのリーダーのはしくれとして無様なさまをさらしちまったんだ」

 

たしかに、風林火山のリーダーとしての立場からも話しにくいことなのかもしれない。でも、俺は知りたかった。攻略組にいるような男を襲うような犯人のことを。

すると、アルゴが急にニヤニヤしだした。

 

「あーそんなに、話しにくいならもう一人の被害者に話を聞いた方がはやいかもしれないナ〜」

 

クラインはその言葉にギクっとした。が、アルゴは待っていましたとばかりに、外に出ると、例の被害者を中に導き入れた。最初から待たせていたのだろう。準備がはやい。

そのもう一人の女性はサラという人であった。

 

「私が夜道を歩いていると、急に不審なプレイヤーが現れたんです」

 

ここまでは今までの事件の例と同じだった。

 

「私、思わず悲鳴を上げたんです。そうしたら、突然、クラインさんが駆けつけてくれたんです」

 

おお、つまりクラインは女性の悲鳴に反応して助けに向かったのか。カッコイイじゃないか。

 

「でもそうしたら、犯人がこう言ったんです。『手間が省けた』って。かなり低い声だったので、性別の判明がつきませんでした。クラインさんは果敢にも立ち向かったのですが……」

 

結局、打ちのめされたのだということか。うん、なるほど、これはクラインも話したがらないわけだ。

 

「でもおかげで私は助かりました。本当に有難うございました」

 

彼女はあらかたの話を終えて、その場を去った。

クラインはイマイチ居心地が悪そうだった。だが、アルゴはそんな様子を見てケラケラ笑いながら言った。

 

「あははは〜〜、立ち向かったのに、返り討ちにあうなんて、いい味だしてるナ〜。あの女の人、結構美人だったのに、惜しかったな〜クライン」

 

アルゴ……それ以上言わないでやってくれ。クラインのHPはもう真っ赤だ!!

クラインは「今日はもう一人にしてくれ……」と言って、自分の部屋に戻ってしまった。なんというか、哀愁を漂わせていた。

 

「キー坊も、ヒーローみたいなことするのはいいけど、ああなっちゃダメだゾ〜」

 

俺も肝に銘じておこう。

ヒーローは勝ってこそヒーローなのだということを。

 

「ふふふ〜〜まぁ後は頼んだゾ」

 

「何か用事でもあるのか?」

 

アルゴはチッチッチと人差し指をかざした。

 

「オイラだってプレイベートがあるんだヨ」

 

俺のプレイベート散々荒らされているがな。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

俺は次の日に、クラインの件を一応アスナに報告することになった。

 

「ここがKoB本部だったな」

 

俺は冷たく、そびえ立つ鉄の塔に圧倒されながらも、副団長様の元に向かった。

ギルド本部内はなにやら慌ただしそうな様子だった。

 

「いつもは、厳かな感じなのに、おかしいな」

 

俺は、衛兵に副団長に会いたいと頼んだ。

 

「黒の剣士か……ったく、この忙しいのに」

 

しぶしぶながらも、俺を案内してくれた。すみませんね……ほんとうに……

副団長の部屋に通された俺は重厚な扉をノックした。

 

「はい、どうぞ」

 

中から聞き覚えのある声がして、ホッとした俺はドアを開けて中に入った。

アスナはなにやら疲れた様子だった。

 

「どうしたんだ?今日はここの様子がおかしいな」

 

アスナは厳しい表情のまま、俺に座るように促した。

お茶の用意をすると立ち上がろうとしたが、俺はすぐに帰るからと、断った。

 

「ごめんなさいね……」

 

「いや、とんでもない。それで何があったんだ?」

 

アスナはためらいながらも言った。

 

「昨日の晩に…KoB所属のメンバーが4人襲われたの……手口は例の事件と同じよ。みんなひっくりかえってるわ。『最強ギルド』のメンツが大つぶれって、無様ね……」

 

「このギルドは精鋭の精鋭だろ?……そういえば、クラインも襲われたんだ」

 

アスナはこくりとうなずいた。なら、話ははやい。

 

「そちらで襲われたのは誰だ」

 

「古参のアランさんにヤスコさんと、アベルさん、それと、ベネットさんよ」

 

「ベネットといえば、このギルドで団長、キミに次いでの実力があるじゃないか!どうして彼まで……」

 

「フィールドにいたところを急に襲われたらしいの。幸い誰も殺されなかったから、よかった、けど……」

 

そうだ、これでこの事件の共通点はすべて崩れたことになる。

 

「女性だけが、犯人のねらいじゃないってこと?……やっぱり、実力者を狙っているのかしら」

 

「これを受けて、団長様はどうしてるんだ?」

 

「しばらくの待機命令が出されたの。だから、私もここから出られないわ。キリトくん、犯人は相当の手練れよ。だとすると、やっぱり……」

 

俺の頭によぎったのはあの殺人ギルドの名前だっ。でも、どうも整合性が合わない。やつらがただ襲って殺さないのは、今までの手口と合わない。かといって、攻略組のプレイヤーをしとめるほどの腕となると、奴らぐらいしか考えつかない。

 

「……キリトくん、実はギルド内ではラフコフの犯行を疑う人も出てきているの。しかも、同志が襲われたとなって、みんな冷静さを失っているわ。かといって、ラフコフの所在はつかめていないから、こうした憤りのやり場もない。

不愉快よ、ほんとうに……」

 

俺もどうしようもなかった。

せめて、犯人の正体が判明すればいいのだが……

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

あたしは、夕方の街をアルゴさんとら歩いていた。アルゴさんは愉快そうに笑みを浮かべていた。

 

「いやぁ、いい息抜きになったよ、シリカちゃん」

 

「ふふふ、アルゴさんも女の子なんですね。あんなにケーキを食べるなんて」

 

「花も恥じらう乙女だゾ〜〜」

 

あたしはアルゴさんに誘われて、55層にあるスイーツのお店を訪れた。

鉄の塊ばかりで、味気ない街だけど

そこだけは、リアルだったら女子で行列ができるくらい、オシャレで色々なお菓子が食べれるお店だった。あたしも、よくばってショートケーキ、モンブラン、フルーツタルトといただいていたが、アルゴさんはさらにビターチョコレート、シュークリーム、アップルパイを平らげて、さらにもう一周していた。

 

「そういえばアルゴさん……」

 

突然、アルゴさんがあたしを制止した。

辺りは人通りがなく、世界が止まっているかのような不気味な沈黙が続いた。

アルゴさんは辺りをうかがいながら

調子を変えずにどこかに向かって話した。

 

「うーーん、多分一人なんだろうナ〜。さっきから付けているみたいだけど。誰かな〜〜」

 

「付けられている?」

 

「オイラも職業柄、恨まれることも多くてね、鼻が効くんダこういうことには」

 

あたしも辺りを警戒する。すると、路地の建物の上から何かが飛び降りてきた。

それは黒いフードをかぶっていて、おもむろに顔を上げた。

見覚えのある顔だった。忘れたくても忘れられないような、この不敵な笑み……

アルゴさんも驚愕の表情だった。

 

「な……」

 

「ハロー、子猫ちゃん、それに久しぶりねアルゴ」

 

久しぶり?アルゴさんと知り合いとでもいいたげな口ぶりだった。

 

「ハーちゃ…………キミだったのか。例の怪事件の犯人は……」

 

アルゴさんは威嚇するように、その女性に語りかけた。

 

「その通りだよ〜〜」

 

あいもかわらず、チャラけた口ぶりである。

 

「おかしいダロ!どうしてオレンジプレイヤーが街に入れるんダ」

 

「それは、神様のイタズラってとこだよ」

 

黒フードはおもむろに剣を引き抜いた。

 

「圏内ではダメージがないけど、私だけは特別」

 

すると、彼女は自分の腕に剣を突き刺した。ダメージがあることを自分で示したのだ。

 

「クッやっかいだナ。それでオイラが今回の標的ってところカ?」

 

「アルゴには恨みはないよ。だけど、ゴメンね、コレをやればきっとあいつも動くから」

 

言い終わるやいなや、アルゴさんに向かって襲いかかった。

でも、それはさせなかった。

あたしは瞬時に剣を抜いて、アルゴさんに切りかかる剣をさばいた。

乾いた金属音が暗がりの路地に響いた。

その音に、鳥が反応してバサバサと逃げていくかのように群をなして飛んで行った。

 

「子猫ちゃんは関係ないじゃないの〜。いいから下がってなよ〜」

 

「ふざけないでください。アルゴさんはあたしの友人です!!手出しは許しません」

 

「強がりだなぁ〜〜最初に会った時とは大違い」

 

「あの頃のあたしとは違います。あたしは、大切な人を危険に犯すような相手は迷わずに切ります」

 

「おお〜こわいね〜〜、おねえさんビックリだ!」

 

「……シリカちゃん、危険だ。そいつはアルト並の腕だ。いくらなんでも、無茶だよ」

 

「まぁ、そういうこと〜〜」

 

すると、相手は剣を収めて後ろに引き下がった。

 

「ま、いいか!目的は果たしたしね。ちゃーんと、みんなに知らせてよ〜『情報屋のアルゴが襲われた』ってね。その情報が伝われば万事オッケーだからね〜」

 

「……意味がわからないナ」

 

「ヒントはちゃーんとあげたよ。それに気づいてくれたらありがたいけど、まあ〜彼なら気づきそうだけどね〜」

 

『彼』?いったいなんのことを言っているのだろう。

……もしかして、アルトさんのことを

 

「それではここいらで退散させてもらうよ〜。近いうちに、また会えそうだね、子猫ちゃん、アデュー♫」

 

そう言い残して、彼女はまたもやつかみどころのないまま去っていった。

 

「アルゴさん……いったい、あの人は」

 

「……ほんとうに変わらないよ、あの子は」

 

アルゴさんは、遠くを見つめながらつぶやいた。

 

「やっぱり、アルゴさんとも関係があったんですね」

 

「まあね……彼女もオイラの『友人』だったころもあったんダ。それが今ではこのていたらく……皮肉なもんだヨ」

 

アルトさんと、アルゴさん、そして黒フードの彼女。3人の過去をあたしはまだ全然知らない。断片的にアルトさんから聞いてはいるけれど……

 

「キュルキュルーーー」

 

「ピナっ……」

 

久しぶりに、お出かけをしたのになんだか大変なことに巻き込んでしまった。

 

「キュル……」

 

悲し気に響く鳴き声が空に広がっていく。

さっきまで日差しが入っていて、かろうじて明るかった路地は、もうすっかり光を失っていた。闇に包まれていく、路地裏にあたしはアルゴさんの顔もよく見えなかった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。