SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
「……そうか、アルゴが」
「はい」
慌てた様子で帰ってきたシリカを落ち着かせて、その日にあったことを聞いたわけだが、やはりヤツが絡んでいた。
「あの女はそれ以上何か言ってなかったか」
「いいえ、今話した通りです」
「んーー、わからんな」
つかみどころがない。その一点だった。
女性ばかりが最初の標的だったはずだったが、気づけば男性も襲われたし、おまけに最強ギルドの面々も襲われるにいたった。そして、ここにきてアルゴまでも襲われることになった。あの女の狙いはなんだ?あえて名のあるプレイヤーを襲うことで何か意味があるとでもいうのだろうか。
攻略組への宣戦布告?それなら、どうして最初に中級プレイヤーを襲ったんだ?それに、なぜここにきてアルゴを襲ったんだ。しかも、今まで隠していた素性をわざと顔を知るアルゴとシリカにさらしたということ。これがわけがわからない。
単なるイタズラか?それにしてはリスクがありすぎる。ヤツならもっとうまく立ち回るはずだ。ええい、頭がこんがらがってきた。
「アルトさん、大丈夫ですか?」
シリカが心配そうに俺の様子をうかがっている。
「ああ…どうにもこうにもわからないことだらけでな……あの女のやることがここまでわからないなんてな、自分にムカつくよ」
シリカはそんな俺を見てクスリと笑った。えっ?今、笑う要素ありましたか?
「すみません…でも、アルゴさんもそうでした。あなたたち3人って、何か特別なんですね」
特別?冗談はよせ。あの女はなおさらのことだが、アルゴだって腐れ縁でつながっているだけだぞ。
シリカは首をふった。
「たしかに、今はそうなのかもしれません。アルトさんはラフコフを追っている、アルゴさんも情報屋として生きていて、あの女性も今は犯罪者ギルドの親玉……でも、それでもつながりはどこかであるんです。たとえ、敵となっていても、許されない行為をしていても、だってそうだったんでしょう?みなさん、昔のこと話すときどこか寂しそうで、それってやっぱり今でも何か通じるものがあるからだと思うんです……」
俺は黙って聞くしかなかった。
すると、シリカは慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。あたしなんか全然知らないのに、知ったような顔しちゃって……御機嫌を損ねちゃいましたか?」
いや、間違ってないよシリカ。
それは知らないからわかる、第三者だからこそ理解できることなんだ。
「よ、よかった〜〜。あ、あたしお茶でも入れますね!」
そうだな、ここはひとつ落ち着かせたほうがいいかもしれない。
「アルゴさんと一緒に行ったお店でもらったお茶があるんですよ!とっても美味しいので、ぜひ!」
「ありがとう、いただくよ」
シリカがせっせと準備をして、カップが二人分用意されて、注ぎ終えて、さあ飲もうという時だった。
バタン!!
急な音にピナが警戒の声をあげた。
「キュルーーー!」
「だ、大丈夫だよ、ピナ」
ドアの先には、知っている顔が立っていた。その顔には焦りが感じられた。
「アルト……シリカちゃん……悪い知らせだ」
「何だ……」
息をなんとか整えて飛び出したその言葉に俺は耳を疑った。
「攻略組の精鋭がラフィンコフィン討伐に向かった」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ちょうど遅めの昼飯を食べて外に出た時だった。人通りの多い広場で俺は
いきなり、周りを囲まれた。
「なんだ、お前ら?」
「黒の剣士、緊急招集だ」
「ここから先は余計な行動は制限させてもらう」
はあ?お前ら攻略組のくせに何をしたいんだ。
「いいからはやく着いてこい。ヒースクリフ団長がお呼びなんだ」
「あの団長が?アスナはどうしたんだ」
「いいから、ついてこい!」
乱暴だなぁ。仕方なくしぶしぶと俺はそいつらについていった。そこは先日訪れたばかりの血盟騎士団本部だった。その中の大広間に通された。何やら物々しい雰囲気だった。
「黒の剣士を連れてきた」
「よし、入れ」
入り口の監視が俺を確認して中に導いた。
中には知っている顔が多くてホッとした。クラインにエギル、聖竜連合の幹部に、血盟騎士団の精鋭がいた。もちろん、アスナもいるし、例の団長様も奥の席に座っていた。
「全員集まったようだね」
俺はいてもたってもいられなかった。
「どういうことだ?招集にしてはいささか乱暴じゃないか」
「すまないね。しかし、これから話すことは極秘活動についてだ。理解してほしい」
アスナのほうを見ると、こちらに気づいたが首を小さく振っていた。彼女も事態がつかめていないようだ。
「諸君、我々はついにラフィンコフィンの拠点を突き止めた!」
その言葉に全員が震撼した。
団長様はそのまま続けた。
「ひいては、ただちにラフコフ討伐に移りたいと思う。ここにいる攻略組精鋭部隊でラフコフの根城に奇襲をかけたい」
「待ってください」
最初に声を上げたのはアスナだった。
「どうして急に彼らの拠点の場所がわかったんですか?今まで見つからなかったのに」
「優秀な情報提供者からだ」
「危険です!それが罠かもしれません」
「ならば、逆にワナにかかればいい。そうしなければ、絶好の機会をのがすだろう」
メンバーの中からも「そうだ」という声が漏れた。俺も食ってかかった。
「それでも、いきなりすぎるだろ。もっと作戦を練るべきだ」
すると、ヒースクリフは俺の反論に反応した。
「君は知らないのかね?さきほど、情報屋のアルゴが襲われたそうだよ、例の犯人にね。ついに、正体がわかったそうだ、犯人はラフコフの首領だ」
さらにざわめきが起こった。
すると、血盟騎士団の中から声が上がった。
「俺たちの同志が襲われたんだ。ここで黙って見過ごせるか!」
「そうだ、これ以上の犠牲者が出ないためにも」
都合がいいもんだな。つい最近まで乗り気じゃなかったくせに。自分たちに関係があるとすぐにこうなる。
「我々も賛同する」
第二派閥の聖竜連合のトップまでも首を縦にふった。
「それでは、決議を取ろうじゃないか」
結果は一目瞭然だった。
最大派閥の血盟騎士団はアスナを除いて賛成、第二派閥のギルドも賛成した。エギル、クラインのギルドは俺たちと同調して反対に回ったが、数の力には及ばなかった。
さすがの俺もこれには従わざるを得ないが、それでもアスナは最後の抵抗をした。
「待ってください。奇襲作戦に彼らを、《仮面》を加えてください。彼らはこれまでに一番ラフコフ討伐に、力を注いでいた人たちです」
すると、驚くことにヒースクリフが首を横に振った。
「アスナくん、君の要請には答えられない」
「どうしてですか!彼らは協力者です。ラフコフと匹敵する戦力なんですよ」
「《仮面》は正体不明だ。それに、一部ではラフコフとつながっているという情報も……」
「そんなことでまかせです。根拠がありません」
ここまで、強情なのには何か理由があるのか?仕方ない、俺からあいつらに連絡を……
「キリトくん、君も余計な真似は慎みたまえ」
複数のプレイヤーに俺は制止させられた。くそッ、そこまでして知られたくないのか。
「そこから、ラフコフに情報が漏れたら元も子もないからね」
ヒースクリフは不敵に笑みを浮かべた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
数十分後、準備を完了した俺たちはラフコフ討伐に向けて出発をした。まさに奇襲にはうってつけの闇夜の中、ひっそりと一陣がギルド本部を出た。俺はその道中でなんとかこのことを《仮面》に伝えようとしたが、見事に見張りを付けられてままならなかった。
(おい、キリト!このままじゃやべえんじゃねえか)
(クライン!なんとかなったら俺もそうするけど、どうしようもない)
だがその時、それはまさに神様がイタズラをしてくれたのだろう。転移門広場でバッタリとアルゴと居合わせたのだ。
あいつ、襲われたんじゃなかったのか?いずれにせよこの機会を逃すわけにはいけない。
(アルゴ、頼む!!)
彼女は物も言わずにわかってくれた。
「なぁ、ヒースクリフさん、こんなに攻略組をこしらえて、どこに行くんダ?」
「鼠か……無事のようだな」
「頼もしいボディガードの戦士が一緒だったんダ。そこまでは、知らなかったのカ?」
「残念だが教えられないな」
「ふーん、みんな殺気立っているけどなぁ」
アルゴは攻略組の面々を見渡した。すると、ふふん、と鼻を鳴らして、悪戯めいた声で言った。
「もしかしてラフコフのところにでも攻めに行くのカ?」
ビンゴ!アルゴのカマかけがあたった。ヒースクリフはピクリとも表情を変えなかったが、メンバーの一人がギクリとした。
「チッ、そういうことカ……性格が悪い団長様だナ」
アルゴは悟った様子で焦って、転移門からどこかに向かった。おそらく、彼らのところだろう。
「頼んだ、アルゴ」
ラフコフ討伐戦開始まで1時間を切っていた。