SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
俺は剣を引き抜いて、彼女の方へ歩んでいく。ちょうど円の端に来た俺はヤツに静かに語りかけた。
「POH、投降するつもりはあるか?」
彼女はニヤリと笑う。
「投降?そんなつまらないこと、私がすると思う?」
つまらない、か。面白くなければ、こいつは興味を持たないからな。
「思わない」
率直に言った。この女はそうゆうやつではない。きっとここで俺を倒しても、逆に負けたとしても、こいつにとってはそれが面白いのだ。
「……どうして、PKをはじめた」
「その答えはキミがよく分かってるはずだよ〜」
わかっている?
そうさ、わかってるよ、面白いからだろう?だけどなぁ……それで納得できるほど、俺もバカじゃないんだ。
「……もしも、そんなのが理由だとしたら、認められるとでも思ったのか?」
「認められる……か、少なくともキミは認めないとわかっていたよ……」
あたりまえだ。馬鹿野郎。
けれど、と彼女は言った。
「……もしも、神様がいるとしたら、私に『罰』を与えるんだろうね」
「罰か……」
おそらくだが、この世界でおこした犯罪行為は、現実では罰せられないだろう。簡単だ。法がないからだ。ただでさえ、俺たちは全員、マッドサイエンティストによって閉じ込められた身だ。法的には茅場こそが罰せられるのだろう。広義の監禁罪と殺人罪といったところだろう。それに比べると、ここでのPKの立件は困難だろう。本当にPKによって現実世界での身体がが死ぬなのかの確証がない。彼ら犯罪者はせいぜい生還しても、一定の監視がつくだけで、すぐに自由の身になるっていうのが筋だろう。
だとすれば、罰するべき罪は存在しないことになるのだ。
「ふふふ……キミもあいかわらずの問答好きだな〜」
「お互い様だよ……そんな簡単に変われるもんか」
下から聞こえる喧騒が徐々に収まってきている。邪魔が入る前に早く終わらせるほうがよさそうだ。
俺は改めて剣を構えなおす。ヤツもクルクルと剣を回している、それが戦いの前の儀式のようなものなのだ。
「いくぞ」
「イッツショウターイム♫」
同時に飛び出した2人の鋼が激しくぶつかり合う。まさに、戦いの火ぶたが落とされた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
さすがに、散々プレイヤーを相手にPKをしてきただけあり、相手もなかなか隙を見せない。
金属音が無秩序に響く。双方ともに決定打がでない。
それでも、あたしは冷静に攻め続けた。
『剣だけ見ていては、敵そのものは見えない。相手の全体を捉えて冷静に探るんだ』
アルトさんからの教えは頭にある。今はそれを実践するだけ。
敵は攻めあぐねている。もう少し、あと少しで……
ちょうどそのとき、相手が息を整えようとして、若干身体がこわばった。
見えた!!ここが、隙だ!
そのまま剣をねじこむと、敵は慌てて受けようとするが、既に遅い。一度崩れたらこっちのものだ。あたしは、自分の精一杯の打撃を入れていく。
「くっ……このガキが!!」
反撃しようとした相手の剣があたしの額に当たる。仮面がそれを防いでくれたが耐久度がそれで切れてしまった。パリーンと音を立てて、真っ二つに割れた破片が青いポリゴンとなる。
「終わりです!」
あたしは最後の一撃を敵の懐に打ち込んだ。
「……つえーな、嬢ちゃん……」
「あたりまえです」
その場に敵は倒れこんだ。
アルトさん、あたしやりましたよ。
本当は見ていてほしかったんですが、
仕方ないですよね。
あたしは攻略組の人に後を任せて、急いで階段を上っていった。その途中で黒の剣士がちょうど道化師にトドメを刺した現場に遭遇した。道化師は白旗を上げた。それを確認して、キリトさんがあたしのほうに気づく。
「キミは……!!」
「お久しぶりです、と言った方がいいのでしょうか?とにかくそれは後にしましょう」
キリトさんはあたしの素顔を見て驚いていた。それはそうだろう。
「そ、そうだな、今はあの2人の後を追おう」
「仮面とアスナさんですか?」
「ああ、行こう……ええと」
「シリカでいいですよ」
「わかった、行くぞシリカ」
先に続く階段はさっきよりもまして段数が多いが、あたしたちは二段飛ばしで駆け上がっていった。
「はあはあ……」
「大丈夫か?」
「いえ…結構長いのに…キリトさん…平気そうですね」
「まぁ、毎度毎度攻略のたびに経験しているからな……」
あたしは攻略に関わったことがないからわからないけど、この人も結構タフなんだなぁ。と、思っているとようやく階段が終わり、目の前にひらけた光景がみえた。
「……!!」
アルトさんと、あの女の人が激しい攻防を繰り広げていた。あたしはこの人たちの戦闘を見るのは二度目だ。1度目はただ呆然としてしまったが、今回もまたすごい。アルトさんは重い一撃を繰り出すが、それをヒョロヒョロと交わす女。女は曲芸師のように、華麗に少し短めの剣をハイスピードで突き出すが、その一つ一つをアルトさんが丁寧にさばく。
「んふふ〜〜♫観客が増えたから、ちょっと頑張っちゃうぞ〜」
そんな軽口を叩くと、女は高く飛び上がった。ちょうどアルトさんが剣を突き出したところに、驚くことに、剣のみねの部分に着地した。まさに大道芸だ。
「おまえ、サーカスに行けばどうだ?」
「見世物になるのはイヤだな〜」
女が剣の上から、アルトさんに切りかかるが、彼はその場で剣をパッと離して、不安定な剣から下りた女をすかさず再び手にした剣で切りかかる。
なんなの、これは……
「あ、あれは……アスナ!!」
キリトさんが何か指をさした。その方向にはうつ伏せに倒れている美少女がいた。
「すまん、彼女のこと、たのむ!」
アルトさんが、激戦の中、あたしのほうに叫んだ。あたしは、すぐに彼女に駆け寄り、戦闘に巻き込まれない場所に避難させた。
「アスナ、アスナ!しっかりしろ!」
キリトさんは激しく動揺している。あたしもとても心配だが、おそらく殺されていない以上は大丈夫なはずだ。
すると、予想通り、アスナさんが意識を取り戻した。
「う……ここ、は?」
「アスナさん!」
「シリカちゃん?あなた、どうしてここに……」
「話は後だ!アスナ、あれを……」
あたしも、すかさず戦闘に目を向けた。
いったい、どのくらい続いているのだろう。まったく、戦いの消耗がみえない。
「ちっ……らちがあかない」
「そうだね〜〜ふふふ……」
突然、女は大きく後方に飛び跳ねた。
すると、大げさなそぶりで一旦剣を収めた。
「久しぶりに、この決着でいこうよ……」
あたしはその瞬間背筋に悪寒を感じた。はじめてだ。この女が不敵な笑みを浮かべていないのは。その表情は、何か黒い大きなもので周囲の全てを覆い尽くして、闇の中に葬り去るような、少しでも油断したら一瞬で殺されてしまう、そんな予感がした。
あたし含めて、傍観者のアスナさんとキリトさんも、同じものを感じているようにみえた。だが、アルトさんだけは違っていた。
「おもしろい……たしか、俺の方が一回負けていたからな……」
アルトさんも少し引き下がり静かにさやに剣をしまった。
その場で空気が凍った感じがした。ここ以外の世界が一時停止したようだ。
あたしは、おもわずつばを飲み込んだ。
その瞬間、同時に両者が動き出した。
西部劇で見たことのあるようなピストルとは違うが、剣と剣との勝負は一瞬でついた。
「…………!!」
パリーーーン!!
アルトさんの仮面が真っ二つに割れた。
「アルトさん!!」
あたしは思いがけず名前を呼んではいけないのを忘れて彼の名前を叫んだ。
「いや……みろ!」
キリトさんが冷静な声でつぶやいた。
仮面が床に落ちて音を立てると同時に、
女もまたその場に崩れ落ちた。
彼女の剣は根元から折れて地面に突き刺さっていた。
「完敗だよ……」
勝負はついた。あたしのお師匠様は
ついに、宿敵を打ち破ったのだ!