SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
これは既定路線です。
(最初からこうするつもりだったんです!)
俺は何をみているんだ。
POHが消えた?
ちがう、死んだんだ。
どうして、なぜだ、おかしい、
なにかが、これはいったい……
そうだ、このオトコが!
この男がPOHを!
「おい、ヒースクリフ……なぜだ、なぜ殺した!」
その男は極めて冷淡な目で俺を見下ろした。
「少し昔話をしよう……ワイルというプレイヤーがいたそうだ。彼は中層で5人ほどだが、少数ギルドのリーダーをしていた。彼のギルドは男5人でもともとは同じ学校の同級生だったらしい。それが縁でギルドを作ったそうだ。彼らは男しかいなかったから、当然女性との付き合いはほとんどなかったそうだ。
だが、リーダーのワイルだけは、実はひそかに会っていた女性がいたんだ。その女性はエイミという人で、下層でひっそりと暮らしていた。ほとんどをはじまりの街で過ごしているようなプレイヤーだった。
本当にたまたまだったそうだよ。ワイルとエイミか知り合ったのはね。たまたま、エイミが一層のフィールドに出た時に、軍の下士官にちょっかいをかけられたそうだ。そのとき、ヒーローが現れて彼女を助けたそうだ。わかるだろう?それがワイルだった。運命的な出会いだろう。
それから、彼らは暇を見つけては共に食事をとったりしていたそうだ。
しまいには、ワイルはギルドのメンバーにバレてしまったが、普段のリーダーとしての信頼が高かったからだろう、おとがめはなかったそうだ」
ヒースクリフは淡々と物語を続けた。
「そして、二人は愛を積み重ねていった。そして、半年ほど前の満月の夜だったそうだ。ワイルはエイミにプロポーズをした。システム上の結婚でも、彼らの愛は本物となったのだろう。
エイミはプロポーズの言葉を聞いて涙を流した。嬉しかったのだろう。はじまりの街で一人孤独に生きていた彼女に、希望の光を与えたヒーローがワイルなのだからね」
突然、語り手の声は低くなった。
「だが、そんな彼らが結ばれたのは一瞬だけだった。……ワイルはギルドのメンバー共々殺されてしまったんだ。中層で狩りを行っていたときに、突然襲われたらしい。……その一報を聞いて、エイミは絶望した。当然だろう、突然の死だったんだ。それも、何の罪もないのに、殺されたんだ。……その犯人こそが『ラフコフ』だった」
俺はその名前を聞いたときに頭の中に思い浮かんだ。笑顔でプレイヤーを切りつける女の姿が!
「……これは、すべて聞いた話だ。未亡人の彼女からね。突然、ギルド本部に泣きながら、入ってきた彼女は私にこう言ったよ。『私の代わりに、彼のカタキをとってください……』とね」
「けれど…それで、どうして……」
「これは一例にすぎないよ」
彼はそう言って俺のほうを見据えた。
「キミの知らない『ワイル』と『エイミ』はこの世界に信じられないほどいるんだ」
「だからって、殺す必要はないだろ!」
「では、どうやって、彼らの苦悩を救うんだね?カタキをとりたくても、とれない無力な彼らの代わりに、罰を与えるしかないだろう。それが、『力』をもつものの務めだよ」
正論だよ、そうだよ、この世界に限らず、現実でもそうなんだ。だけど、だけど……それで納得してしまっていいのか?
ヒースクリフはさらに不敵な表情を見せた。
「……しかし、不思議なものだね。私は一撃をくらわしたものの、落下しただけで、消えてしまうなんてね。きっと、それよりも前によっぽど『体力を失っていた』のだろうね」
そのとき、俺はすべての冷静さを失った。
俺があいつにダメージを与えなければ、死ななかった?
だが、もしあそこで手を抜いていたとして、俺はやつに勝てたか?
《ソウダ、オマエハ、アタリマエノコトヲシタ》
じゃあ、どうして彼女は死ななくちゃならないんだ?
《カンタンダ。コノオトコガ、カノジョヲ、オイツメタカラダ》
俺は無意識のうちに剣を抜いていた。
《ソウダ。オマエハ、コノオトコヲ、コロス、ケンリガアル!カタキヲ、トレルノハ、ダレダ?》
俺しかいない。彼女を知り、彼女と共に過ごし、彼女を追いつめ、彼女の拠り所となれたのはオレダケダ!
《サア!コノオトコ二、フクシュウヲ!》
許さない、許さない、ゆるさない
ユルサナイ……コロシテヤル!
頭の中で悪魔のささやきが響き渡った。
次の瞬間、俺はこの男に切りかかった。
「ウオオオおおおお!!!」
ヒースクリフは避けるそぶりもせずに、たたずんでいる。
キーーーン!!
金属の鈍い音がする。
俺の剣はこの男に届く前に、何者かによって邪魔をされていた。
「ダメです、アルトさん……」
「シリカ、ジャマをスルナ!!こいつは、こいつは……」
「ダメです、耐えてください……」
ウルサイ!ダマレ!!
俺はなんとか、もがきシリカの剣を跳ね除けようとした。俺は彼女の顔なんか見ずに、ただこの憎き男を睨みつけていた。
パーーン!
何かが、弾け飛んでいったような心地がした。その瞬間、俺の中にとりついていた黒いモノがスルスルと遠くに逃げていくような気がした。
そして、徐々に右ほほがジンジンと熱を帯び始めてきたのが感じ取れた。
俺は思わず、彼女の方を見てしまった。
その少女は目に水滴を浮かべて、それを必死で下に流しまいと、こらえていた。
「いいかげんにしてください!!あなたがこの男に攻撃したら、あなたはこの世界で生きていけなくなるんですよ?わからないんですか?すべての攻略組を敵に回すんですよ、そんなことも理解できないんですか?……あなたまで……あなたまで、犯罪者なんかに……あたしの前から消えてほしくないんです……だから…お願いです……」
「シリカ…………」
俺は剣を落としてしまった。カランコロンと無造作に転がっていく。その場に膝をついた俺を、その少女は優しくその小さな腕で包んだ。
「俺は……俺は…………」
なぜだ?どうして、こんなときに涙が流れるんだ。やめろよ、こんな姿をさらしてたまるかよ。
シリカは黙って、俺を抱きしめてくれた。ちょうど、俺の泣き顔が隠れるように。だから、安心してしまってもっと、涙が出てきた。情けないのに、でも泣いてしまった。声が漏れそうなのを必死にこらえていたが、彼女には筒抜けだったはずだ。だが、それでも俺は涙を止められなかった。
「……私は、残党の処理に向かう。アスナ君」
「……はい」
俺はそれに耳を傾ける余裕などなかった。
「……シリカ……俺は少し、調べたいことがある……だから、彼のことを……」
「……大丈夫です」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「すまない、シリカ、あんなに取り乱しちまって」
「いいえ、アルトさんの気持ちは正直ですから」
一夜明けて、俺たちはホームに戻った。
アルゴは俺の顔を見て、驚いていて、ウズウズしていたが、何でも急な依頼が入ったということで、ひとまず去っていった。
……というか、アレだな。
は、恥ずかしーーーー!!!!!
バカじゃないの、バカだろ!?
どうして、女の子の前で泣いちゃってんの?
カッコ悪すぎだろ!!
もうだめだ、俺生きていけないわ。
コレが年上のオネイサンならまだしも、俺よりも年下の女の子に慰められてるって、なんだこれ!?
ダサいだろ!ださいよ!のび太君もびっくりのだめだめっぷりだよ!
「アルトさん?」
やばい、シリカが可愛く首をかしげている。おちつけ、おちつけ、ここはアレだな。クールになればいい。そ、そうだ!ここで、コーヒーを淹れてなんとか平静さを取り繕えば!
「シリカ、コ、こーふぃーを淹れて……」
何で噛んじゃってんの???
こーふぃーってなんだよ?
発音いいな、外人かよ!!
「クスっ」
シリカが思わず笑いをこぼした。
「アルトさんが、こんなに慌ててるの初めてですね、なんですか?こーふぃーって?とっても不思議な響きですね」
俺はそのときいったいどんな絶望の表情をしていたのだろう。鏡があったら確かめてみたいものだ。
「いつも、あたしをからかった罰ですよ♫」
勘弁してくれよ……
というか、雰囲気ぶち壊しすぎだろ。
さっきまでのシリアスな空気どうしてくれるんだよ。
「ああ……ええい!頭の整理がつかない」
「アルトさん!」
「なんだ?」
「アルゴさんからメールが来ていますよ」
こんなときに、いったいなんなんだよ。
…………こ、これは?
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
アルゴの招集場所は第51層の中堅クラスの宿屋の一室だった。指定された部屋の前でノックをする。
「はいってクレ」
「お邪魔する……」
「お邪魔しまーす」
中に入ると、ううー気まずい。
あの二人も既にいた。
「やぁ、アルトとシリカ」
「改めてはじめましてって言ったほうがいいのかしら?アルトさんに、シリカちゃん」
なぜかキリトの顔はサッパリしていて、対照的にアスナは複雑そうな顔をしていた。
すると、仲介役に打って出たのはアルゴだった。
「そうだナ〜アルトとシリカちゃんは、今一度自己紹介をしたほうがいいダロ。一応、キー坊とアーちゃんには事情を話しておいたヨ」
さすが、仕事ができるやつだな。
「えー、あー、そのだな……アルトというものだ。その、……この前は迷惑かけた……すまない」
「アルトさん?それじゃあ、足りませんよ!まったく……ええと、隠していてゴメンなさい。あたしがもう一人の仮面のシリカです。特に、アスナさんには本当に心苦しいです……」
よくできた子だな。俺には真似できん。
「そうか!だからあのときに、シリカはガラガラのレストランにいたのか!」
「ええ、そうなりますね」
納得が早くてよろしい。
「……私は、アルトさんにいったい、何回失礼なことを言われたことになるのかしら」
「ご、ごめんなさい…………あと、さんはいいです。はい、どうぞ、呼び捨てで呼んでください。アスナさん!」
「ビビリすぎダロ……」
俺は、この女性には一生逆らわないようにしよう。そう決めた。
さて、本題はここからだ。
咳払いをして、俺はアルゴに問いかけた。
「それで、アルゴ、重要な話とはなんだ?」
すると、キリトとアルゴが目を合わせると、ニヤリとした。
「アルト、聞いて喜ぶといいヨ……あの子は生きてるよ」
「……えっ?」
「ふふふ〜、POHは死んでなんかなかったんダ。生きてるよ、確かにね!」
はい、彼女は生きていました。
種明かしは次回にまわすとしましょう。
(たぶん、薄々気付いているとは思いますが……)
ほんと、なんだったんでしょうね。
前半のくだりは!!!
(私は前回から書いていて少し虚しかった……)
次回、赤面のアルトと、同じく赤面のシリカをお楽しみに