SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
石橋を叩いて渡る
なんていうことわざがある。昔の人はいいことを言うものだ似た意味のことわざに「備えあれば憂いなし」しかし、どんな人であれ安全確認のためにわざわざ石を素手で叩こうとは思わないだろうせめて何か道具を使わないと石なんて叩く気にはなれない。ましてや岩なんて……
「はぁ……」
彼は約3日間、そんな途方もくれないことをしているのだ
「あと何回やれば割れるんだよ…」
彼の目の前にあるのは高さは彼と同じくらいで幅は手を広げたくらいの大岩である。
「しゃあない…ハアーーーーー‼︎」
彼はこの3日間の疲労をものともしない
勢いで岩を殴りつける
バリっ
「ちっ…ヒビが入っただけか…ならもう一回」
会心の一撃!大岩に大ダメージ!
バリーーーーン!!
「やっと割れた……」
どさっと倒れこむこの数日間寝食を忘れて挑み続けた疲労がどっとでてきたのだろう。さて、どうして彼はこんな事態になったのか?それは6日前に遡る
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「付き合ってくれないカ‼︎」
「何にだ?」
「ん〜〜そこはもっと慌てるべきだと思うけどナーお姉さん残念ダ」
付き合ってくれのセリフで動揺するのは二次元の世界だけだろ。たとえば、ヒッキーがその1人に当たるだろう。マジきもーーい。対してワンサマー君は明らかに好意のありそうな和風美少女に言われても「(ショッピングに)付き合ってくれ」と誤解するやつだからな。あーうらやましい(一部作者の感情が含まれています)
「どうしたんダ?」
アルゴがキョトンとした表情をみせる普段の言動では到底思えないが頬のペイントを除けば、幼げさを残したあどけない少女なんだからもう少し、喋りと商売を
なんとかすればよいのに
「まあいいサ。君にオネエサンからプレゼントを挙げるゾ!」
「あまり金はもってないんだが」
「やだなープレゼントだからタダにきまってるダロ」
タダほどこわいものがあるだろうかいわんや、こいつはアインクラッド1のボッタクリ屋だからなおさらだ。
「実は第二層にはエクストラスキルを身につけられるって言ったらどうダ?」
「……興味深い」
なんとなく長門のようなセリフだったのはお気になさらず。
「だけど…何かあるんだろ?」
「勘が鋭いナ〜。キー坊と違って」
「やっぱりな……」
毎回思うがキー坊さんドンマイ。
「まあ〜やってみればわかるゾ。どうダ?やってみるカ??」
相方のお嬢さまはお忍びで外出中だし
当分は帰ってきそうにないな……
「やろうじゃないか」
この時はまだ気づいていなかったさすがのアルゴであってもせいぜい1日を費やすくらいでクエストを完了できると思っていた。だが、人生は舐めた途端にハバネロになるものなのだとこの時の彼はまだ気づいていなかった。
150時間後…現在ようやく大岩を素手で割ることを完遂した彼は……
「…………」
静かに、その生涯を閉じようとしていた
享年じゅう……
「やったナ!オイラも君に教えた甲斐があったゾ」
「………」
返事がないしかばねのようだだが、それで済むわけがないアルゴは彼の両脇に腕をねじ込み万物の復活祭をおこなった!
くすぐっているだけだが
「コショコショコショコショ…」
アルゴは悪ガキの目をしながら
続ける
「コショコショコショコショ……」
だが、ここで根を上げるような男ではない……男では……
「コショコショコショ……」
「やめろ」
「あっ、起きたナ♪」
一発殴るのが筋なのだろうか?
「そんな怖い顔すんなっテ」
そんなかんなで、エクストラスキル獲得を祝ってアルゴと彼は第二層主街地のレストランで労いをしている。
「そういえば、キミのあだ名は決まってないナ」
「そうだな」
「んーー〜〜あっ!そうだ」
珍しくアルゴはいつもの胡散臭い喋り方でなく、普通の女の子のように(というか女の子なのだが)人差し指を立てて笑みを浮かべた。諸君第5話にして、ようやく主人公の呼び名が決定したそうだ
「『レット』なんてどうだ?」
ほう、まあいいんじゃないだろうか
しかし、こいつには人の名前を本名で呼ぶ習慣がないのだろうか。
「じゃあ、お前は『アルちゃん』なんてどうだ」
「レットとハーちゃんは朝昼晩寝食をともにしていることを次の攻略本に載せていいのならいいゾ」
いやなら正直に言えばいいものをたまには、鼠から猫に変身して顔のペイントをとって猫耳でもつけて、「アルちゃんです♪」みたいな感じで商売すれば、寄ってたかって客が集まって、餌代がつり上がって大儲けできるはずだぞ。まったく想像がつかんがな。アルゴも十分それだけの容姿をもっているのにいささか残念に思うがな。
「ところで…」
柄にもなく、アルゴが真剣な表情をしているなんだ、そんなに嫌だったのだろうか。アルちゃん。
「二層攻略がキミの修業中に行われたんダ」
正しくは、拘束されていただけだが。アルゴの話をまとめると、なんでも鍛冶屋による強化詐欺があり、そこそこの被害が出ていたらしい。攻略組の一部も被害にあっていたのだが、ネズハというやからが、キー坊とアーちゃん?らによって
犯人だとわかったらしい。誰だよアーちゃんって。問題はネズハが所属するレジェンドなんとかのメンバーが詐欺で得た武器を換金して、自らの武装を強化したということ。
そこからなんやかんやあって二層ボス攻略でネズハ君が大活躍!なんとかボスを倒したらしいが、その場で正直者のネズハは詐欺のことを告白してしまった。だが、それがもとで攻略組のメンバーの一部がネズハを総リンチ
「一時はネズハを処刑しようなんて奴も出てきたんダ」
「しかし、それをもしもやってしまったら……」
「SAO初のPKが起こったかもしれない。」
PKすなわちプレイヤーキルプレイヤーがプレイヤーを殺すということだ。オンラインゲームではそれが設定的にありうるものであるが、この世界の場合……
「仮にその場面でネズハが処刑されたとしたら、この世界で殺人が正当化されてしまうというところか」
「うん。さすがレットは勘がいいナ
結局レジェンドブレイブズの全員が詐欺を認めたおかげで、なんとかその場は収まったのが幸いだったよ…」
「そうなのか。まあなんだかんだよかったじゃないか、死人が出なかっただけ。」
そんなことはない。いつどこでPKが起こってもおかしくないのだこの世界にいるプレイヤーは必ずしも正常とは言えないデスゲームの中に閉じこめられて頭がおかしくなっちまう奴が現れて、そいつらがとんでもないことをやらかす可能性だってなきにしもあらずなのだ。
「いや、オイラもはじめはそう思ってたんだけどナ。後から聞いたことだが一連の強化詐欺の実行犯は外部の人間に詐欺の方法を吹き込まれたらしいんダ」
「……」
「コレはキー坊が推測だがな、レジェンドブレイブズに知恵を入れた『奴』は
今回の一連の事件を利用して
《プレイヤーによるプレイヤー殺し》の、既成事実を作ろうとした。それで、
この世界における殺人のハードルを下げて…」
殺人のハードルを下げる?そんなことしたら
「もちろん、攻略に大きな支障を及ぼすだろうな。モンスター以外に人間にはにも怯えることになるんダ」
この世界でHPが0になるとは現実で死ぬことと同義。
「『奴』がこの一件で動きを止めるはずもない。もしかした今後もこんなことが起きるかもしれない……ゆくゆくは本当にPKが……」
「そんなバカな話があるか‼︎」
彼はおもいがけず勢いよく立ち上がった。椅子が音を立てて倒れる
「……!!!」
ディナーを楽しんでいた周りにいた客もこちらのほうを見ている。俺は観衆の目線が自分の皮膚を通り抜けることもなく、刺さった感じに耐えきれなくなり、
「すまない……」
彼は倒れた椅子を直して座り直した。周りの聴衆もおのおのがまた食事と会話を再開して喧騒が元に戻ってきた。だが、どうもそんな雰囲気に合わずに、俺と彼女のテーブルだけがお通夜状態になってしまい、周りの騒がしさとのギャップもあいまって、ますます居心地が悪くなってしまった。しばらく、二人とも何も言わないままが続く。静かであることは別に嫌いではないが、この空気の重さは……苦手だ。
「……以上が、キミのいない間に起こったことだヨ。……ソロソロ情報を仕入れに行く時間ダ。じゃあなレット。」
そう言ってアルゴは「今日はオネエサンのおごりだゾ♪」なんて、いつもの調子を取り戻して言いながら、店を出て行く。でも、出て行く瞬間の彼女の顔はチラッとだが、深刻そうな顔をしていて、俺は画びょうの先で胸がチクリと刺された思いがした。
彼はしばらくの間、動けなかった。
ただ、呆然とすっかり冷めきったハーブティーの水面を見つめていた。
だが、冷めきったハーブティーを一気に飲み干して、もう一度ちゅうもんしたお茶で喉を温めてから、冷静な普段の思考を取り戻したのか、はたまた、現実の先ほどの状況からの逃避行動なのかはわからないが、ある重要なことに気づいた。
「アーちゃんって誰なんだ?……」
今度、アルゴに謝る際のよい話のタネができた気がして、少し胸の痛みがとれたようであった。
〜ある日常の一コマ〜
アルゴ「アーちゃんはかわいい子なんダ!」
レット「ほう」
アルゴ「この前、アーちゃんの風呂上がりの姿をみて
なかなかのナイスバデーだったゾ」
レット「アルゴ‼︎」
アルゴ「なんだ?」
レット「アーちゃんって女の子なんだな……」
「…………」