SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
「君たちにお願いしたいことは、ラフコフの残党を捕らえることだ」
「はあ……」
キリトの華々しい敗北によって、血盟騎士団に協力することになった俺は団長さんに指令を伝達された。
「といっても、君たちだけで見つけ出すのは酷だ。そこで私からも優秀なエージェントを要請した」
「ほう」
どこのどいつなんでしょうね。それは。
「君がよくわかっている人物だよ、では頼むよ」
「アルトさん……協力者って誰なんでしょうね?」
「さあ?でも、見当はつく」
「うんうん、オイラも仕事のしがいがあるゾ」
「いつからいたんだ……」
ケラケラ笑っているよく知った女がいた。
「しかし、アルゴでもさすがにラフコフの残党どもの情報なんて……」
「それが知ってるんだナ〜〜」
「知ってんのかよ!」
驚いた。いつのまに集めたのだろう。
「うーーん、情報源が結構アレだからナ〜。まあ信ぴょう性はあるから安心シロ」
そうですかい、そりゃ結構なことだ。
翌日、満を持して黒の剣士くんが血盟騎士団に入団することとなった。
「なんじゃこりゃ!!」
「ぷぷぷ……」
キリトが今身につけているのは黒の剣士らしからぬ真っ白すぎる制服だ。へえ、これからは白の剣士でいいんじゃないのか?
「こら!アルト君も笑わないの。大丈夫よ、キリトくん似合っているわ」
「そ、そうか……アスナがいうなら……」
「あははは〜〜」
「ア、アルトさん、し、失礼ですよ!たしかに今までのキリトさんの格好と比べれば…………くすっ」
シリカちゃん、君のほうが失礼を通り越して残酷だよ。みろ、キリトがへこんでいるじゃないか。
「笑われた……しかも、女の子に……」
「キリトくん……」
まあ、仕方ないだろ。それはそうとして
「キリトはたしか明日から訓練らしいな」
「ああ、なんでも実践に向けた訓練だとかで……しかも、アスナはいないし」
「ごめんね。私も行くって言ったのに、パーティリーダーさんに押し切られちゃって」
「ほう、そりゃまた大変だね〜」
「アルト君たちも、明日はどこかに行くんでしょう」
「ああ、特別任務だ」
「……たしか他のメンバーも同行するのを拒否したらしいわね。あなたたちなら大丈夫だと思うけど、危険な真似だけはしたらダメよ」
安心してくれ、俺もそこまでのヘマはしない予定だ。周到に計画は練っているからな。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「アルトさん……ここちょっと暗すぎませんか……い、いや別に怖いわけではありませんよ!」
ここは俺は前に訪れたことのある洞窟だが、シリカははじめてだ。
「もしかして、ビビってる?」
「ビ、ビビってないもん!」
おいおい素がでてるぞ。
「アルトさんは平気なんですか?」
俺はクスリと笑みを浮かべて指をかざして言った。
「さあ、どうだかね?」
「も、もう!とぼけないでくださいよ」
正直言って、この洞窟にはいい思い出はない。そう、あのとき俺があいつに敗れた洞窟、俺が逃げ出したところなのだから。だが、ここで弱気を見せてはシリカにしめしがつかない。なにより、おびえる少女を少しでも安心させるのが紳士のなすべきことだ。
「ははは……まあ、しばらく歩けば明るいところにでるからな、ほれ」
俺は彼女に腕をさしのばした。彼女は一瞬ためらったようだが、それでも俺のすそが少しつかまれる。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
彼女の歩調に合わせて少しゆっくり歩くが、警戒は怠らなかった。
「アルゴの情報では、ラフコフの残党がこの洞窟に集団で潜伏しているそうだからな、油断は大敵だ」
以前の討伐戦でかなりのメンバーが拘束・投獄されたものの、逃してしまったものも多い。戦場ではよくある話だ。たとえば、かの有名な関ヶ原の戦いでは勝負が1日でついたものの、多くの西軍の兵が敗走し、なかには地元の住民の落ち武者狩りにあうこともあったそうだ。だが、ことラフコフの落ち武者となると、厄介だ。
「たしか……15人でしたね、でも今までの中では少ないほうですね」
ああ、普通ではありえない思考だが、俺たちはこれまでに何度となく犯罪者集団を襲撃してきた。おそらく、これが最後の仕事になるのだろう。ただ一つ違うのは俺たちはもう『仮面』ではないということだ。
「ふむ、あの明かりはそうだろうな」
「はい」
シリカが俺のそでから離れて、臨戦態勢にはいる。俺もゆっくりと剣を引き抜いた。
「いくぞ!」
「お任せください!」
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俺はゴドフリーを班長として、いまいましいクラディールと三人で訓練として迷宮区に向かっていた。50層の乾いた荒野は、風景や気候からもなんとなく、喉が乾いていくようなところだった。迷宮区の前に到着して俺たちは休息に入った。ちなみに実戦を意識するだとか、集団行動がウンタラカンタラとかでアイテムをゴドフリーに預けていたので、俺は彼から食料を受け取って、岩肌に腰かけた。受け取った固いパンを眺めながら、本当だったらアスナの手作りサンドイッチが食べられたのにと、愚痴を心のなかでつぶやきながら、瓶の中の液体を口の中に入れた。
ふと、離れた岩の上に腰かけていたクラディールの姿を眺めると、奴だけはなぜだろう、食料に一切手をつけていなかった。奴の陰気な視線がこちらを向いている。
……まさか!
俺はとっさに、瓶を投げ捨て、口の中の液体を吐き出そうとした。
けれど、遅かった。突然、全身の力が不自然なくらい抜けてしまい、両足で立っていられなくなった。その場に崩れ落ちた俺は自分のHPカーソルを眺めた。
グリーンの点滅。まちがいなく、俺は今麻痺状態に陥っている。
ゴドフリーも同様に地面に倒れ込んでいた。
「くっくっくっ……」
クラディールが甲高い声で自分の体を両手で抱えながら笑っていた。
「くっくっくっ……ヒャハハハハハ!」
「ど、どういうことだ……この水を用意したのは、クラディール、貴様!」
「ゴドフリー!早く、回復結晶を!」
だが、遅かった。クラディールはゴドフリーの体を蹴り上げながら、身動きを封じた。
「ゴドフリーさんよぉ、あんたも筋金入りのバカだね」
クラディールが不快な高い声で笑いながらゴドフリーを見下ろす。
「クラディール……おまえ、何を……」
「ゴドフリーさん、あんたにも言いたいことはあるが……まあいい、死んでくれ」
すると、クラディールは自分の剣でもって無抵抗に転がる男を突き刺した。
「ぐああああ!!」
「ヒャハハハハハ!!いいか?俺たちのパーティは」
ドスっ!
「荒野で犯罪者集団に襲われぇ」
グスっ!
「勇戦虚しく、俺以外のメンバーは死亡!見事犯罪者を撃退した俺一人が無事帰還しましたぁ〜」
さらに一撃が食らわされ、ゴドフリーは青い結晶と化した。クラディールのカーソルはオレンジに変わっていた。
奴が俺の方に向かってくる。
「てめえみたいなガキのために、無関係な奴も殺しちまったよぉ〜」
「クラディール……おまえ」
「ククク、そう怖い顔すんなよ〜〜」
そう言って奴は腕をめくった。
そこに刻まれていたのは見覚えのあるギルドのエンブレムだった。
「ラフコフ……そうか、お前が残党の一人だったのか」
「へへへ、あの時以来、どれだけお前を殺せる日が来るか、来る日も来る日もあのときの屈辱が脳裏に焼きついていた」
奴は俺の脇腹に勢いよく剣を刺した。
「クッ……」
痛みはない、だが、確実にダメージは減っている。
「だいだいよぉ〜ソロの分際で俺様にはむかったのがおめぇの運のツキなんだよ」
さらに一撃がきた。徐々に体力が減少してきている。
「おまえみたいな奴がどうしてKOBなんかに……」
「ククク……そんなの、あの女に決まってるダロォ?」
俺は瞬時にアスナのことが思い浮かんだ。
「きさま……」
「おやおや??もしかして、今死ぬかもしれないって怖くなったのか?……へへへつまんねえなぁ」
クラディールは狂ったように笑いながら俺の体力を確実に削った。もう、命の灯火はほとんど消えかかっている、
「残念だなぁ……あの女には伝えてやるよ……元彼氏は美しく散ったってな!」
最後のトドメが俺に食らわされようとした。が、まさにそのとき、風をきるような速さで赤と白の斬撃がクラディールの剣を止めるように入った。
「んな!」
狂気の殺人者は空高く跳ね飛ばされた。
俺は目の前に現れた人影をみつめた、声も出てこなかった。
「……間に合った……間に合ったよ……神様……間に合った……」
美しい天使の声が響いた。アスナがその場に崩れ落ちながら、唇をふるわせて、俺の方をみた。
「生きてる……生きてるよねキリトくん」
「……ああ……生きてる、生きてるよ」
アスナが大きく頷き、ポケットから結晶を取り出し、俺の胸に当てた。
「ヒール!」
俺の体力はその言葉でフル回復する。
「待っててね、すぐ終わらせるから……」
アスナは立ち上がり、ようやく体を起こしたクラディールに向かって、歩き出した。
「アスナ様……どうして、ここに」
とぼけようとしたのだろうか、だが、すぐに奴は諦めたように、正体を現した。
「……いや、アスナ!!おまえもバカな女だなぁ」
クラディールは再び甲高い声で笑った。
「こんなこともあろうかと!ラフィンコフィンの生き残りの精鋭を呼び出していたんだ!きゃっははは!!!」
なんだと!ラフコフの生き残りがまだここに?
アスナも警戒から剣をぐっと構えなおした。
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俺は、目を疑った。落ち武者たちの拠点にはたしかに残党がいた。だが、その数はあきらかに足りなかった。俺は最後に捕らえた元ラフコフの幹部の首根っこをつかんで問いただす。
「おい……他の奴らはどこだ!」
「へっ……てめえなんかに吐くかよ」
ちっ、俺は死なない程度の強さで男の胸に短刀を突き刺した。
「ひいっ!」
男の体力はあと一撃でゼロになるだろう。俺はためらわずに、剣を振りかざした。
「ま、まて、まってくれ!は、はなすから命だけは!!!」
「どこだ!あと6人はどこに行きやがった!」
「それは……」
俺はその男の言葉を信じられなかった。
だとしたら、キリトが……アスナが危ない。
男を牢獄送りにして、俺はシリカに向かって叫んだ。
「まずい……元メンバーの精鋭がよりによって……いそぐぞ!」
「は、はい!」
お願いだ、間に合ってくれ!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「さあ!出てこい!!最高のショウタイムのはじまりだ!」
クラディールが両手をあげて天を仰ぎながら叫んだ。
俺は立ち上がってアスナをかばうように、前に立った。
「アスナ……逃げてくれ」
「ダメよ!もう、キリト君から離れたくないの!」
「くっ……」
だが、クラディールの叫びは虚しく荒野にこだまするだけだった。肝心の他のメンバーとやらは音沙汰もない。
「な、なぜた!おい!!出てこいっていうのが聞こえないのか!」
「聞こえていても、声が出せないんじゃないの〜〜?」
絶壁の岩肌の上から、ソプラノの声が代わりに返事をした。
と、そのとき、バタバタバタと岩肌から何か重いものが落ちてきた。それは4人、いや5人の男たちだった。全員が満身創痍で、さっきの俺同様、麻痺で身動きを封じられていた。
「だ、だれだ!」
「元上司の声もまともに覚えていられないの〜〜?キミはよっぽど頭のネジが抜けているみたいだね〜〜」
すると、スタッと上から人影が、今度はきれいに着地をした。その声の主は黒のフードを被り、笑みを浮かびながらも、その目は見るものをゾッとさせる不気味さを醸し出していた。
「ま、まさか……ラフコフの首領……POH!」
思わず俺の口から声が漏れた。
「その通り〜お久しぶりだね、クロの剣士くん、それと閃光のオネイサン♫」
「あなた、行方不明だったはずなのに……どうして……」
「さあね?どっかの優しい子がかくまっていた、とか?」
あいもかわらずふざけたような受け答えをする彼女だったが、呆然としているクラディールを一瞥するとその声色は豹変した。
「さて……クラディール……キミにはちゃーんと落としまえをつけてもらおうかな」
「な、なんだと……お、おまえだってラフコフの首領として、散々好き勝手をしていたじゃないか」
クラディールは口ではつよがっているも、その目はおびえたウサギのようであった。
「……その通り、私は今まで自分の意志でPKをしてきた……それは否定することもない私のれっきとした罪よ」
POHはフードで自分の顔を隠しながら、小さな声でつぶやく。
「でもね……」
彼女は俺たちのほうを見上げた。
「だったら、せめて……私の手で全てを終わらせたいの……PKも、ラフコフも、残党たちも、そして……この世界も」
彼女の顔は照れくさそうな、でもまっすぐな目で俺たちを見据えた。
「ふ、ふざけるなよ!元リーダー……いや裏切り者がぁ!」
クラディールは狂ったようにPOHに斬りかかった。だが、彼女は顔色一つ変えずにその攻撃をさばき、一瞬でその剣を振り落とし、同時に何か針のようなものを突き刺した。
「くっ……これは!」
「勘違いしている愚かなクラディール、この毒はね……私が見つけたものなの……バカに使われるんじゃ、毒がかわいそうだわ」
彼女はそう言いながら、懐から6つの結晶石を取り出して、倒れた落ち武者たちの胸に一つずつ押し付けた。
「じゃあね、ラフコフの元同志たち……さきに牢獄に行っててね」
その言葉で、あたりが青い光に包まれた。あっという間に、元ラフコフのメンバーたちは姿を消した。
「私はこれで退散させてもらうよ、多分彼も来ちゃうだろうしね……」
俺は慌てて彼女を止めようとしたが、時すでに遅く、彼女は転移結晶で消えてしまった。
短い間に死と人々の感情が渦巻いた荒野には俺と少女だけが立っていた。
すべての緊張の糸が切れたとき、アスナはヨロヨロと数歩進むと、俺の傍に膝をついた。
「……ごめんね、キリトくん……わたしのせいで、大変なことになっちゃった…」
彼女の顔は悲痛な表情で、震えるながら声を絞っていた。
「アスナ……」
思えば、迷宮区で俺が暴走して、団長と決闘して、今日もこうして命からがら助かって……いったいどれだけこの子に辛い思いをさせてきたであろうか。
彼女は目にいっぱいの涙を浮かべている。
「ごめんね……わたし……も…もう……キリト君には……あ……会わな……」
俺はその言葉が言い終わる前に彼女を抱き寄せ、そのまま彼女の口を自分のそれでふさいだ。
「……!!」
アスナはからだを硬くして、瞬間的に俺から抗うように両手を押しのけた。でも、俺は彼女を包み込む力を緩めず、いや、もっと強く彼女の柔らかく、壊れそうくらい細いからだを抱きしめた。
「俺の命は君のものだ、アスナ。だから君のために使う。最後の瞬間まで、いっしょにいる」
アスナは震える吐息をもらし、俺の言葉に答える。
「わたしも。わたしも、絶対に君を守る。これから永遠に守り続ける、だから……」
そのさきの言葉は必要などなかった。俺と彼女は再び互いに抱き合った。時の流れなんてものは今の俺たちにはない。ただこの瞬間だけは永遠に続く、そんな感情が湧き上がってきた……
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
あれから急いでキリトたちを追ってきたわけだが、ついたときにはまさかの、エンダーーー!!!状態だった。
「……ヤレヤレなんてこった」
「……ふふふ、あの人たち、あたしたちが見ているのに、気づいてませんね」
いつぞやのときもこうやってこの二人を眺めていたこともあったが、今回ばかりはあまりにも居心地が悪い。こんな幸せ空間にいられるほど、俺の精神は強くはない。
「でも、ステキです……」
ああそうだな、美しいという言葉はこうゆうときのためにあるんだな。
「シリカ、ここはそっとしておくべき……なんだろうな?」
「はい……さすがのアルトさんも今回ばかりは賢明な判断だと思います」
「そうですかい……」
「さっ、アルトさん……」
シリカが立ち上がると、俺の方に手を差し伸べた。俺は黙ってその手をとった。そのまま、手をつないだまま、俺とシリカはひとまずさきに帰路につくことにする。
「シリカ……」
「なんですか?」
気付いてないのだろうか?それともわざとなのか?
「どうして、俺とお前は手をつないで歩いているんだ?」
シリカはふふふと可愛らしく声を漏らすと片方の指を自分の口元にやった。
「さあ、なんででしょうね?」
ゴールイン!
やっとここまでこぎつけた……
次回は新婚さんの生活を少し覗いてみましょう。
おそらく、ユイの話はカットします……