SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
晴れてカップルが誕生した翌日のことだ。俺とシリカは昨日のことを報告しなけりゃならなかった。俺たちが現場に間に合う以前に彼女が現れ、クラディール含む残りのラフコフの残党を投獄したという情報を知った俺はさっそくキリトに聞きたいと思った。
「でも、今訪ねるのは野暮だしなあ」
あの後、キリトはアスナの家に行ったらしい。昨日の夜にいったい、ナニがあったのかはわからない。いや、大体想像はつくが、ここで語るにはいささか難が生じるし、そもそも俺自身がそうゆう体験をしたことがあるかというと、そうともいえないという情けない事実があるわけで……つまりだ、かの有名な国民的テレビゲームで、ドラゴンから姫を奪還した勇者がそのまま彼女と宿屋に泊まるとその翌日に宿の店主から『昨日はお楽しみでしたね』と言われるのと同じことが、はからずもあったのかもしれないということだ。回りくどい言い方になってしまった。話を戻そう。
それでも、ラフコフの残党殲滅が完了(一人を除く)したことには違いない。俺は翌日血盟騎士団本部を訪れて、団長さんに報告を一応することにした。
「……というわけだ。ああ、それと今回の件で俺たちは血盟騎士団に協力したということにして、協力関係を破棄するがいいよな?」
「……」
ヒースクリフはしばらくの間黙り込んでいた。何か考えているのだろう。こいつの思考回路とやらを覗き見ることができれば俺としてもやりやすくなるが……
「……いいだろう。ご苦労だった。ただ、残念だね。アスナ君たちがいなくなった今、我々の戦力は大幅に削られてしまってね」
ほお、やっぱりあの二人はそうしたのか。まあ、血盟騎士団がそれで困ったとしても、俺としては関係ないしむしろ、この男がそれで憂鬱になるなら、見応えがあるではないか。
「それは大変だね」
俺は表面上とりつくろった言葉でごまかしながら、その場を後にした。だが、ドアに手をかけたとき、ヒースクリフはボソボソとつぶやいた。
「……キリト君たちも……君たちもいずれ戻ってくるだろう」
それから数日してからだった。俺はホームで紅茶をすすりながらプレイヤーについての情報をかたっぱしから調べていた。だが、目的の彼女についてのことはまったく掴めなかった。
「やれやれ」
俺は溜息をつきながら、ずっと作業を続けて疲労がたまっている目頭を抑えた。
「その様子だと、収穫はないようですね」
シリカがお茶を入れなおしながら言った。
「ここ数日ずっとやってるのになぁ。……おおサンキュー」
再度暖かい飲み物で喉をうるおす。うん、うまい。
「どうですか?」
「美味だね。シリカが淹れると香りが増して気分も爽快になるよ」
「またそんなことを……何も出ませんよ」
素直にほめたんだけどなあ。シリカに笑い流されてしまった。そういえば、ここ最近ずっとシリカも俺につきっきりでいりけれど退屈じゃないのだろうか。
……そういえばあいつらはたしかこの近くに住んでるんだったな。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
夢を見た。この世界のことが本当はなくて、俺はいつものように当たり前の日常を過ごしている。そんな夢だ。前にアスナも同じような夢を見たと言って泣いていた。本当はこんな世界なんて消失して、もとの世界に戻りたい。でも、俺はこの世界での出来事は決して忘却などできない。俺が暴走して、それで彼女が動揺してしまって、ヒースクリフの陰謀にもまんまとはまったわけだが、結局こうしてアスナーー俺の一番大切な守るべき存在ーーとともにこうして穏やかな日常を過ごせている。俺は目を開ける。隣のベッドをながめる。彼女はもうお目覚めのようだった。
「おはよう、アスナ」
「キリト君、おはよう」
アスナの作る朝ごはんを食べ終わって時刻は9時過ぎだった。俺は情報屋の発行する新聞に目を通す。これといって突出するような記事もない。
「キリト君、今日はなにして遊ぼうか?」
「おいおい、昨日もおとといも外出したじゃないか」
「だって……やっとキリト君と一緒になれて……それで……」
うっ、上目遣いは反則だろ!その表情を見せられてマトモでいられる男がいるだろうか。
「う、うーーん。それでもどうしようかな」
ピクニックもショッピングもしたし、後残っているとしたら……ちなみにピクニックのときにアスナを肩車して彼女を憤慨させてしまった……
そう思っていた矢先に玄関でチャイムが鳴る音がした。
「あら、誰かしら?」
アスナが立ち上がって入り口に向かった。俺も気になって彼女の後ろをついていった。このログハウスに引っ越したことはほとんどのやつには秘密にしているから、おおよそ予想はついたが……
「やあやあ、新婚生活はどうだい?」
「ア、アスナさん……結婚おめでとうございます」
愉快なペアの登場だった……
彼らを家に通すとアスナがお茶を淹れると立ち上がった、するとシリカも手伝いをしたいと言ってキッチンに向かった。
アルトは一人用のソファに座るとテーブルの上の新聞に目をつけた。
「最近はめっきり事件もなくなったようだな」
「まあ、お前らがラフコフ討伐して以来他の犯罪者ギルドの活動も下火になったらしいからな、ギルドの中でもラフコフ討伐を受けて内部分裂が進んでいるらしい。そりゃ仮面に目をつけられたら逃げられないことがこれで証明されたからな」
アルトは大げさに手を広げて笑いながら話す。
「そりゃいいな。既に消えた仮面に怯える犯罪者なんて、滑稽じゃないか」
彼はそうゆうとキッチンの彼女らには聞こえないような小声で笑みを浮かべながらささやいた。
「そういえば、アスナとはどうなんだ?こんな田舎のログハウスに若い男女が2人で同棲してるんだ。お楽しみですか?」
「お、お楽しみって……まあ、ソコソコは……」
「えっマジで」
アルトが椅子からひっくり返りそうになった。おい、なんだその反応は!
「いや〜そうかそうか、若い時から盛んなのは健康でよろしい!」
「いったい、昼間から何の話してるんだよ!後、田舎で男女2人で同棲してるのはお前らも同じだろう!」
すると、アルトは驚愕したような顔をした。と同時にすごくバツが悪そうになった。
「……あーうん、キリト、この話はなかったことにしよう」
都合がいいな!
「あらあら、楽しそうね」
「アルトさん、あたしたちはお邪魔してるんですから、行儀良くしなきゃダメですよ」
母親のようなシリカの言葉にアルトは空返事をした。そんな様子をアスナは微笑ましく眺めていた。
アスナとシリカが運んできたハーブティーと簡単なお菓子をつまみながら、俺たちは世間話に花を咲かせた。
「……そういえば、アルト君はあれからPOHさんには会えたの?」
「いや、それがサッパリでね。やつの足取りは調べてもダメだったんだ。まあ今日はその息抜きついでに来たようなもんだよ」
「息抜きって……」
「アルトさん!」
あいかわらずの失言というか、調子のいい言動に俺も笑うしかなかった。
「そういえば、アルトたちもこの近くをホームにしてるんだろ?俺たち、この前湖に行ったんだけど、ここはやっぱり綺麗なところで、落ち着くな」
俺たちよりもずっと長く22層に住んでいるらしい彼らにさりげなく話したのだが、アルトはなぜか困った顔をしていた。
「えっ?……ああ、そうなのか……うん、そうだな、ここは自然が豊かだからなあ」
アスナがジト目でアルトを見る。
「まさか、あなた、せっかくここに住んでいるのに、探索もしていないの?」
するとシリカが苦笑いをしながら言った。
「えへへ……そういえば、あたしもあんまり知らないですね…」
なっ!なんという引きこもり!
「あははは、灯台下暗しとはこのことを言うんだな」
それ絶対使い方間違ってるだろ。ふと、アスナはのほうを見るとなにやらシリカに耳打ちをしている。シリカは聞き終わると「ええ!」という顔をしていた。
既にお昼を回ったところだった。アルトはおもむろにそろそろ退散するとか言ったので、俺は引き止めた。
「せっかくの夫婦生活にいつまでも水をさすのも悪いからな。それに、来ようと思えばすぐに来れるし」
まあそういうことで、突然の訪問者たちは帰っていった。帰り際にアルトがなにやら小包を俺の懐に押し込んだ。彼はニヤニヤしながら
「ほどほどにな♫」
と怪しげに言った。中に何が入っていたのかは正直言っていえない。ヒント?……おバカな5歳児が風船ガムと間違えるようなシロモノだ。
まったく、一発あの男を殴りたい。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
帰り道であたしはさっきの会話を思い返していたあの時アスナさんに言われたのは
『シリカちゃん!この際彼を誘って森でデートしなさい!そうすれば……』
こ、これはハードですね。どうやって誘えばいいんだろう……うーーこの前はその場の勢いで手をつないだけど、誘い文句は思いつかないよ〜
「シリカ?」
「は、はい!」
「今日はなんだか家に帰るのには早すぎるな」
たしかにまだ正午を回ったところだった。
「実はなあ〜さっきアスナにたまたま余ったとかいうことで、これをもらったんだ」
アルトさんが取り出したのはよくあるようなランチボックスで中にはサンドイッチが色とりどり並べられていた。余り物にしては多すぎるくらい……
「そ、それはありがたいですね。せっかく、いただいたんですから美味しく食べないと……」
アルトさんは淡々とセリフを言った。まるで小学生の文化発表会の劇みたいに。
「そうだな〜こいゆうのは太陽の下で食べたいもんだな」
あたしはようやくわかった。なんだ、アルトさんも同じことを考えていたんですね。あたしは元気よく彼に提案をした。
「それじゃあ、お昼は湖の近くでいただきましょうか?そ、その後でちょっとお散歩をすれば、ちょうどいい時間になりますし……」
「あ、ああ……それは名案だな……」
そうとなれば話は早い。あたしは思い切ってアルトさんの左手を手に取った。
「それじゃあ!行きましょうよ、アルトさん♫」
突然走り出したあたしに、彼は慌てながらも手を握りなおして一緒に走ってくれた。
「……こうゆうのはだな、エスコートするのは普通紳士のほうなんだぞ」
そんな文句を言いながらも、彼の顔は少し赤かった。もちろん、あたしの顔はもっと真っ赤だったけど。きっと太陽の光のせいだろう。
さて、物語も刻一刻と終幕に向かっています。
残りの投稿はわずかですが
どうぞ最後までお付き合い願いたいと思います。
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