SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜 作:トアール凡人
「攻略組に復帰する!?」
「ああ」
まだ新婚生活は2週間しか経っていないのにどうして急に……
「キリトさん、やっぱりユイちゃんなんですか?」
「まあ……そんなところかな……俺は一刻も早く元の世界に戻って、それでユイを……」
キリトは急に辛そうな顔をする。そりゃそうだ、あんなに自分の娘みたいに、いや、娘として愛情を注いだ子がまさかね……
「それと、これから75層のボス攻略がはじまるってこともあるしな。クオーターポイントだけあって、実は先遣隊は全滅してしまったんだ」
「全滅!?そいつはまた……」
「まあ、なんとかするよ、ユイのためにも、そしてアスナのためにも俺は攻略を進める、それだけだ」
なんというか、やっぱりこいつは主人公なんだな。きっと、こいつがいればなんとかなりそう、そんな気がする。
翌日、俺はいつものようにシリカと朝の鍛錬を行って、それが終わった頃だった。
「……そういや、今日は攻略の日だったな」
無理言って攻略には加わらないことを認めてもらってるが、今回ばかりは心配だ。とんでもないボスなのはわかっているがそれ以上に気になってることがあった。昨日のキリトの様子、どこか変だった。あの口ぶり、今回の攻略が関ヶ原だって言いたげじゃないか。いくら、難しい戦いが予想されるといっても、残り25層残っているのに、あの様子は違和感を感じざるを得ない。
そんな考え事をしていると、早朝にもかかわらずメールが届いた音がした。差出人はアルゴだった。
『すぐにオイラの拠点に来てくれ。シリカちゃんと一緒に』
はて、何の用だ?アルゴまでいつもと違う様子じゃないか。まあでも、急ぎなら仕方がない。
「シリカ、出かけるぞ」
「え?」
シリカはちょうど朝食を作ろうととりかかるところだった。俺は作業を中断させて急いで家を出た。
この時はまさか思ってもいなかったね。今日という日が俺たちの運命の日だってことなんて。だけど、人間の運命なんてものは予想できないもんだ。ただ、よくよく記憶を探ってみれば兆候とやらはあったんだけど、それだけでわかるほど、俺の脳細胞はまだ活発化していなかった。
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アルゴのホームの前に着き、俺は玄関の扉をノックした。……だが、なぜか返事はなかった。おかしいな、あいつが呼んだんだから不在ってことはないだろ。俺はダメもとでドアのノブに手をかけた。
ガチャリ
「あ、開きましたね…」
「キュー……」
久しぶりについてきたピナもなにやら警戒音を発していた。
「アルゴ、入らしてもらうぞ……」
中は明かりが灯っていた。俺はいつものようにリビングのほうに向かった。その先には人影があった。フードを身につけていたので俺は当初は家主だと思ったのだが、次の瞬間、俺は自分の目を疑うことになった。
「ぷ、POH!?」
「やあやあ、よく来たね〜」
間違いない。黒いフードに特徴的な笑みを浮かべている少女がリビングの椅子に座っていた。
「どうして、ここに……」
「うふふ〜それはね〜」
その時、部屋の奥からもう一つの人影が出てきた。
「それはオイラが説明するヨ」
「アルゴさん!」
アルゴ、居たのか……いったいどいゆうこだ?と思った矢先だった。アルゴは勢いよく頭を90度俺のほうに向けて下げた。
「ごめん!アルト、シリカちゃん……君たちに嘘ついてたんダ」
アルゴは悲痛そうな声で続けた。
「あの日、ハーちゃんが行方不明って君たちに言ったとき、そのときからこの子は既にオイラと一緒だったんだ……」
アルゴがしどろもどろに話を続けた。俺は唖然としながら、それを聞いていた。しかし、一つの疑問が生じた。
「でも、どうしてそれを秘密にする必要があったんだ?」
「それは、私がお願いしたの」
「お前がか?」
「ええ、でもね、今日ようやく話す決心がついたの、いえ、今日話さなければいけないの」
POHは……ハニーは意を決してその言葉を口に出した。
「私を消そうとした男、ヒースクリフの正体は……『茅場』よ」
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「私がこのことを知ったのは、そうね、たまたま血盟騎士団に忍び込んだときだったの。突然発生したプレイヤーの気配があったの。それがアイツだった。でもそのときは違和感だけだったわ。だからその後いろいろ考えたの。それで思いついた仮説がヒースクリフ=茅場っていう荒唐無稽な方程式なわけ。
この証明は難しいわ。だって私にはそれを直接裏付ける証拠がないんだもの。それで思いついたことがあるの」
「思いついたこと?」
「ズバリ、私が起こした無差別襲撃。アレには実はあの男に向けたメッセージがあるの……そう、こうやって被害者のイニシャルをつなげればいいだけなんだけどね」
「……血盟騎士団のトップは茅場」
「そうよ、私はあえてあなたたち多くの人にはこのメッセージが伝わらないようにいろいろカモフラージュを立てたわ、まんまとはまってくれてありがとうね♫」
「……バカにしてるのか?」
「ぜーんぜん♫」
「あーはいはい、いいから続けろ」
「もう、ノリが悪いな〜。まあいいわ、それで結果は分かるわね。あの男は動いたわ。ラフコフの拠点をいち早くつきとめて、その後は知っての通り、私はコテンパンにやられたの」
「……あのときは本当に血の気がひいた」
「うふふ、私もよ。とっさに思いついた見せかけ自殺でなんとか脱出したわけ。それで、私は方針転換することに決めたの。ヒースクリフ=茅場という説はほぼ確定。でも、このことを他の人に積極的に教えるべきなのかは時期尚早だと思ったの。
あの男はバカじゃないわ、むしろ気持ち悪いほど頭が回るわ。……たぶん、私を殺そうとしたのも、一見軽はずみのようで裏があると思うの。それもそうよ、あれ以来あの男は動きを見せていないもの」
「そこまでは理解した。だけど、どうしてアルゴのところに上がったんだ?」
「そんなの簡単な話よ……アルゴだったら絶対に私のことを秘密にしてくれる。だってこの子はこの世界一の情報屋なのよ!」
「ハーちゃんに褒められてもナー」
「わかってもらった?これが私の秘密」
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はあ、なんてこった。本来なら驚くべきなんだが、あまりにも話が大きすぎて逆に意気消沈しちまったよ。アルゴが再び俺にあやまろうとしたので、俺はそれを止めた。
「アルゴ、お前は当たり前のことをしただけだ……たぶんな、それは間違っちゃいない」
「悪かったナ、アルト……」
「もう、2人とも辛気臭いよ!せっかく、久しぶりに集まったのに〜〜」
「「おまえが言うな!!」」
「ありゃりゃ〜〜」
こいつの常識力のなさは筋金入りだからな。こいつに普通を求めた俺が悪かったのだろう。
「あ、あの……」
シリカが恐る恐る手を挙げた。
「お〜〜子猫ちゃん、どうしたの?おねえさんなんでも答えちゃうよ!どうぞ!」
「は、はい……POHさんは……」
「ハニーって呼んでいいよ♫」
お前なあ、シリカは俺とアルゴと違ってお前に耐性がないんだぞ。お前、昔この子に何したか覚えていないのか?……そう思ったのだが、案外シリカも図太い神経をお持ちのようだった。
「いえ、あたしにはそう呼ぶ資格はありませんから……それと、あたしは子猫じゃありません」
「ええ〜でもかわいいと思うよ〜〜」
「か、かわいいって……」
シリカ、意外にまんざらでもないみたいだな。子猫ねえ、まあ確かに懐っこいところとかは猫そっくりだな。
「も、もう!……それでPOHさん、どうして今日になってあたしたちに秘密を明かしたんですか?」
ハニーは驚いたような残念なような表情をしながら質問に答えた。
「あー、それはね、たぶん、今回の攻略で黒の剣士くんがやらかすからだよ」
は?何を言っとるのだね君は。
「この前のデュエルあったでしょ?」
「ああ、お前とまんまと出くわしたがな」
「あのときね、ヒースクリフは決定的な証拠を示してくれたんだ。……明らかなシステム的アシスト、つまり、チートよ」
はて、そんなことあったのか?
「君はよく見てなかったからね。でも私はわずかに見えたの。黒の剣士くんの攻撃が入ろうとした時に、不自然なヒースクリフの動きがあったの、それでようやく私の方程式は帰納的に示された」
「待て待て、話がつかめんぞ」
「あの時に、私が気づいたのよ?部外者の人間が違和感を感じた……それで、当事者が気づかないことってあると思う?」
そりゃ、きづくだろうな……ってまさか
「私でさえ、確信を得るまでに2回実験をしたのよ?たしか、今回の攻略はすごくやばいらしいわね。ヒースクリフはいったいどんな戦いをするんでしょうね。さぞかし、今までと同じように、体力ゲージが黄色になることはないんでしょうね……」
「おい、まさか……」
「あの少年が2度目の検証で確信を得るとしたら、多分今回でしょうね〜あっ!もしかしたら、その場でどどんとみんなに発表するかもね、あの少年ならやるかもね〜あははは〜〜」
「あははは〜〜……じゃねえだろ!どうするんだよ!もうあいつら出発して、今頃戦闘ははじまってるぞ!」
「そ、そうですよ!なんでそんなに笑っているんですよ」
あきれた。何にあきれたかって?それは一つにこいつの論理を無視した予想がまんまと当たっていること、それと、今のこの女のこの顔がどこか懐かしいものであることに俺が感じていることだ。
「なあハニー……今、お前ものすごく」
彼女は久しぶりの満面の笑みを浮かべながらあの脳裏に焼きついているセリフを言った。
「面白いことが起きるよ!!」
だろうね、そうじゃなきゃ、お前はただじゃ起きないからな。
それに対して俺はただ一言、つぶやくしかなかった。
「バカなことだ……」