SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜   作:トアール凡人

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Fifth section⑥〜デジャブ〜

75層攻略戦は熾烈なものだった。一時間の激闘の果てに、俺とアスナ、エギル、クライン親しいものはなんとか生き残った。だが、当初32人いたプレイヤーは18人に減っていた。

 

「……14人死んだ」

 

「嘘だろ……」

 

本来ならボス攻略後は晴れ晴れしい気分になるものだ。だが、今回の場合、勝利の代償はあまりにも大きすぎた。クオーターポイントを突破したという安心感あるいは達成感よりも、これからの残り25層という頭上に待ち受けている未知なる壁に対して、俺たちは自信と希望を失いかけていた。

だが、その中でも一人だけは明らかに違っていた。ヒースクリフ、血盟騎士団の団長はこの絶望の空間から一歩抜けて、はるか高くから俺たちを眺めているような、そんなたたずまいだった。

俺は一つの疑念を抱き、彼の体力ゲージを眺める。やはりこの最強プレイヤーはイエロー表示にもなっていない。

俺は、一つの賭けに出ることにした。二刀流のうちの右手の剣を構えて、あの男の元へと引き寄せられるように足を運ぶ。これはバクチだ。もし俺の憶測が外れれば、俺のプレイヤーカーソルはたちまちオレンジ色に変色し、少なくともこの世界で生きていくのは困難になるだろう。もしかすると、あの少年が俺を捕まえにくるかもしれない。だが、それでも俺は何かにとりつかれたように、実験をした。

 

「キリト君……?」

 

アスナが俺の奇行に気付いた時、俺は一気に地面を蹴って、あの男に勢いよく斬りかかっていた。もちろん、残り半分以上ある体力がゼロにならないように加減をしながらも、けれども確実に体力が半分以下になって、イエロー表示が出るように。

ヒースクリフは俺の動きに対して瞬時に盾を構えた。だが、それはこの前のデュエルで学習済みだ。俺はわずかに盾をかすめる形で胸に鋭く一撃をいれた。

 

【Inmortal Object】ー不死存在ー

 

「システム的不死……?これは、いったい……団長どういうことですか」

 

アスナが信じられないようなものを見る目でヒースクリフに尋ねた。

俺たちプレイヤーは当然有限の体力しかもちえない、それ以外に不死といえば、NPC、あるいはユイのような存在、そして……

 

「……この世界には管理者はいない。だとすれば、可能性はひとつ」

 

「思えば単純な真理だ。他人がやっているゲームを見ていることほどつまらないことはない。逆に言えば、自分もゲームのプレイヤーとなればいい。……そうだろう?茅場晶彦!!」

 

その男はいささか驚いた様子であったが、それでも冷静さを失ってはいない。

 

「一つ聞きたい。どうして気付いたのかな?」

 

「デュエルだよ。あの時、俺は確実にお前よりも紙一重早く一撃を入れて、それで勝負がついたと確信した。だが、結果は俺のほうが圧倒的に速度で劣り敗北した。でも、不自然だろ?俺はこう体感した。神の手で俺の動きが封じられたみたいだって。……それで今回試してみることにしたんだ」

 

「お見事だよ、キリト君。……私は100層で最後のボスとして君臨する予定だった。そしてこのことは95層攻略後に明かすつもりだったが、まさか4分の3の時点で秘密が明かされるなんてね。まあそれ以前にも実はいたが……今となってはなかったも同然……」

 

「趣味が悪いな、こんな奴がラスボスだなんて」

 

茅場は不敵に笑みを浮かべる。

 

「思えば君はこの世界で最大の不確定因子のひとつだった。……10しか存在しないユニークスキルのうちのひとつを私を、《二刀流》を君が持つことになった。もう一人の異常分子と並んで、君の瞬発力、洞察力には私も敬服するよ。今になると、魔王として君と最終決戦をできなくなったことが悔やまれるね。だが、これもまたこのゲームの醍醐味ともいえる……」

 

その時、突然血盟騎士団のメンバーが叫びながら茅場に向かって襲いかかった。

 

「貴様が……俺たちの忠誠を……きぼうを!!」

 

だが、茅場は眉ひとつ動かさなかった。おもむろに左手を上げると、襲撃者は瞬時にその場に崩れ落ちた。地面に倒れこんだ彼は身動きがうまくとれなくなっていた。これは、麻痺毒か?

 

「キ……キリト君……」

 

見るとアスナも、いや俺以外のプレイヤーが全員同様の状態に陥っていた。

 

「このまま全員を消して隠蔽工作か?」

 

「それはあまりにも野暮だろう」

 

男は首を振りながら言った。

 

「予定を変更し、私は100層の紅鉄宮に向かい君たちを待つことにしよう。本来ならもう少し君たちを鍛え上げたかったが残念だ。だが、君たちなら自力で上がってこれるだろう。

……しかし、キリト君、君には私の正体を見破った報酬をあげよう。私は不死設定を解除してこの身一つで戦う。だから君もその剣で私を倒してみたまえ。もし私を打ち破ったら、このゲームはクリア、君たちは生還を果たす。だが、もちろん君が負けたら、君はこの世界からもリアルからも永久退場となるが……どうするかね?」

 

「キリト君、ダメ!これを機に君を排除するつもりなのよ!今は耐えて……」

 

「耐える?……アスナ、それはできないよ」

 

エギルとクラインも俺を止めるために声を振り絞った。だけどな、俺はここでやらないといけないんだ。これ以上の悲劇を生まないためにも、ここで勝負に出ることに意味があるんだ。

 

「ああ、受けよう……」

 

「……ふふふ、それでこそだね。」

 

俺と茅場の間の緊張が高まる。俺は改めて二本の相棒の焦点を目の前の男に合わせる。緊張の糸が限界まで張り詰めた。

 

「いくぞ!」

 

俺は床を蹴り、忌まわしき敵に向けて右手から一撃を入れる。だが、奴は難なくそれを盾で防ぎ、間髪を入れずに俺に反撃する。かろうじてそれを剣で受け止めて、間合いを取り、一気に剣を突き出す。

 

「うおおお!!!」

 

たが、それもかわされてしまう。その後も幾度となく激しい火花を散らしながら、一進一退の攻防が続く。いや、俺のほうが徐々に押されているのか。

俺は焦っていた。二刀流の奥義である27連撃をかます構えに入った。だが、それを待っていましたとばかりに敵は口元を緩めていた。それは勝利の確信だ。俺は連続攻撃の初歩で誤り、敵に剣を弾かれてしまった。宙を舞った剣は、遠く離れた地面に突き刺さる。

万事休す。ここまでなのか……ごめん、アスナ……

 

「さらばだ、キリト君……」

 

無情な長剣が俺の頭上に振りかざされた。そして一気に振り下ろされた。俺はとっさに目をつむる。

…………だが、俺の体は切られることはなかった。俺は恐る恐る目を開く。そこには二つの剣、いや、二人がかりで茅場の長剣は受け止められていた。

 

「……ダメだよ〜〜主人公たるもの、最後まで勝負をしなきゃ〜〜」

 

「あきらめたらそこで試合終了だよ……なんて言う名言もあるからな」

 

それは見覚えのある光景だった。軽口をたたき合う男女のペア。第3層でみたあの二人がまた乱入してきたのだ。

 

「……離して!シリカちゃん!……キリト君が……あの二人が!!」

 

「ダメですよ、アスナさん……もう誰も失っちゃいけないんです……」

 

後方では不思議なことに麻痺から解放されたアスナが泣き顔でなんとか動こうとするも、小さな少女に必死で止められていた。……ありがとう、シリカ、アスナを止めてくれて……

 

「ピナ!キリトさんの体力を!」

 

「キュルーー!!」

 

使い魔が俺のほうにとんできた。竜のヒールで俺の体力はわずかながらも回復していった。

 

「……まさか、ここで邪魔をされるとはね」

 

茅場は一旦後方に引きながら、不機嫌そうにつぶやいた。

不敵な笑みを浮かべた少女は剣を回しながら戯言を言った。

 

「当たり前じゃない、今まで余裕をかましていて、私を散々追いつめた憎たらしい奴のやることを邪魔して困らせるなんて……」

 

俺はなんとなくだがその後のセリフは予想できた。きっとアルトもそうなんだろうな。だってあいつも「また、それかよ……」って呆れているぜ。少女はある意味晴れ晴れした満面の明るい笑顔、他方では、白々しいほど特殊加工されたような不気味な笑顔で……

 

「最高に愉快だわ♫」

 

 

 




アスナが麻痺から『なぜか』回復し、身をなげうってキリトを助けるという展開は都合により変更されました。
期待された方
申し訳ありません。

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